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4.新たな目標の為の一歩は……ですっ♪






 ガチャのショックから立ち直ったエリンは、空気を変える為にシスに話しかけた。




「そう言えばシスさん、月初めの討伐数ボーナスの話ってまだしていませんでしたよねっ?」


『はい。ですので今からその報告を』


「ああ、頼むわ」




 ちゃぶ台の上に置かれたシスを挟み、ソファに腰掛けている四人はそれに耳を傾ける。




『先月の討伐数はゴブリンが1,439体、それに25を掛けました35,795CPがボーナスとして支払われます』




 蒼汰の運営している(全てシス任せだが)ダンジョンは現在一階層と二階層の二段構えとなっており、一階層にゴブリン十体を配置し、二階層にはダンジョンの入り口に転移する魔法陣の組み込まれた床や壁で構成された小部屋が一つあるのみ、と言った形である。

 この形式のダンジョンで、ゴブリンが千体以上も狩られた。因みに一番多く狩られた日はアリシアの訪れた日だったようだ。




「おぉ……でもやっぱ思ってたより貰える額は少ない、か」


『実質一階層のみにしかモンスターが配置されていませんし、それもゴブリンだけですので。

寧ろこの数討伐されれば駆け出しとしては上々かと』


「確かに、言ってもまだ一月しか経ってないもんな。ダンジョンの方でも稼げるようにもう少し手を加えた方が良いのかな」


『でしたら二階層も同じくゴブリンを十体自動POPさせ、三階層に転移部屋を作るのはいかがでしょうか』


「あー、まぁそれもアリか。因みに幾らかかる?」


『一階層と二階層の間に三階層、詰まるところの新たな二階層を増設するのに50,000CP、そしてそれを一階層と同様に改築するのに250,000CPの、合計300,000CPが必要となります』


「うっわ……思ってた以上に取られるな」




 提示された額の大きさに苦笑を見せる蒼汰だったが、「先行投資だから仕方ないか」と割り切り、シスにダンジョンの増築を指示すると三人を見渡した。




「思ったよりCPがピンチだから、今月はあんまり贅沢させてやれないかもしれないわ」


「いえいえ、寧ろ今まで十分過ぎるぐらいに贅沢してましたから、お兄さんがそこまで思い悩む必要はありませんよ。何なら一日一食でもいいんですから」


「そうだぞアオタ殿。ここまで良い待遇をして貰っているんだ、多少貧相な生活を強いられても別段困りはしないさ」


「何でそこまで自分を追い込みたいんだよ……

でも駄目だ、特にクラリスなんてまだ成長期だろ? そんな栄養の必要な時期に美味しい物を一日三食食べないなんて、俺が絶対に許さん!!」


「お、お兄さん……っ」




 蒼汰の力説に目を潤ませるクラリス。聞こえはいいが実際の所は蒼汰自身が美味しい物を食べたいという私欲に塗れた発言だったのだが、どうやらその場に居た全員、蒼汰が思いやりのある事を言ったと思い込んでしまったらしい。




「自分の事よりもクラリスちゃんの事を優先して考えるなんて、やっぱり旦那様は素敵ですっ!!」


「あぁ、流石は我が主だな。感動で目頭が熱くなりそうだよ」


『意外でした。マスターでもちゃんとした事を言うんですね』


「えっと、あ、ありがとう?

……って最後の一人余計な一言混じってるんだけど!?」


『通常運転です』


「そうだけども!?」




 唯一変わらないその受け答えにこちらもまた変わり映えの無いツッコミを入れた蒼汰は、話題を再びCPの少なさに戻す。




「とは言っても、早いうちにCPを増やす手段を見つけないとな。年末に罰ゲームなんて絶対に食らいたくないし……」


「……あっ。でしたら旦那様、奴隷を買いに行かれてはどうでしょう?」


「奴隷?」




 エリンにそう提案された蒼汰は、そこで以前ギースに貯金を引き出してくるように伝えていた事を思い出した。それを使って外部から奴隷を買い供給者にすれば毎日のCP供給量は格段に増える、というのが彼女の言い分である。




「確かに、供給者を増やすってのがCPを稼ぐ中で最も確実で最速な方法だけど」


「何か、問題があるんですか?」


「いやまぁ、まずどこに買いに行くかってのもあるし、それに、何だ。奴隷を自分が買うってなるとやっぱちょっと、な……」




 彼の元居た世界、もとい日本では奴隷制度など当然無く、スクールカーストや会社の上下関係等の間接的な奴隷的扱いはあれど金で人を買うなど法律で重く禁じられていた。その為、蒼汰はその様な行為を自分がするという事に抵抗を感じていたのだ。

 そんな彼に対して発言したのは、ギースだった。




「アオタ殿、前も言った通り何も気負う必要は無いんだぞ?

地域によっては子供ですら奴隷を買うのだからな」


「そ、そうなのか?」


「ああ。……と言うか、何なら私が買いに行こうか?」


「えっ、いいのか?」


「寧ろ普段からどんどん頼ってくれていいのだぞ? 何せ私はアオタ殿のメイドなのだからなっ」




 布面積の少なく肌の露出したその胸を堂々と張るギース。彼女に劣情ではなく感謝を抱いた蒼汰はもう迷うことは無く、彼女に全てを託すことにした。




「それだったら頼むわ。あぁ、昼飯食べてからでいいからな?」


「任せてくれ。それで、何か買ってくる奴隷に条件とかはあるのか?」


「そうだな……人数はギースが買えるだけ、出来るだけ気性の荒そうなのは遠慮してくれ。来て早々に揉め事を起こされても困るしな」


「確かに。それ以外は無いか? 例えば女の方が良いとか」


「いや、別に無いかな。何なら男も一人や二人いてくれる方が嬉しいかも。俺以外全員女とかだったら結構精神的にくるからな」


「分かった。それで買いに行く場所なんだが……」




 人数とその条件を決めるまでは淡々と進んだものの、それを買う場所で二人の会話は途絶えてしまう。

ダンジョンから最も近いセルスト国には、顔が割れているギースが買いに行くには厳しいだろう。次に近いツーベル国、セルスト国()国王であるバシクス王の愚策によって追い出された国民達によって建国されたそこでは奴隷商館が無いために候補から外れる。そうなると他の大陸にまで奴隷を買いに行く必要が出てしまい、行く分には問題ないのだが数多くの奴隷を連れて帰って来る手段が無いため、ギースの思考はここで手詰まりとなってしまった。寧ろあの彼女がここまで考える事が出来たのだから、上出来だと言えるだろう。

 ギースの考えと同じく候補が挙げられずに戸惑っていた蒼汰はシスに頼ろうと声を出そうとしたその時、エリンが声を上げた。




「? ギースちゃん、セルスト国に買いに行けばいいんじゃないですか?」


「え、いやいや、それは無理だろう。私は一応はあの国で名の知れた者、しかも一度死んだ者扱いをされている身だ。奴隷商館に行っても真面に取り合ってなどくれないだろう」


「それはそのまま行った場合ですよねっ?

だから、私が偽装魔法を掛ければいいじゃないですかっ♪」


「えっ? ……ええっ!?」




 エリンの言葉に何とも情けない声を出すギースだったが、それも仕方が無いだろう。誰だって、偽装魔法を使ってまで奴隷商館に買いに行くなど思い付くはずがない。現に発案者の隣では蒼汰が口をパクパクさせていた。




「えっ、そ、そんなの反則じゃ……いや、でもバレなきゃいいのか……?」


「旦那様も、そんなに気を回す必要なんてないんですよっ?

こういうのは思いっきりが大事ですっ♪」


「……もう少し倫理観とか気にした方が良い気もするんだけどなぁ。

ま、エリンの言う通り思いっきりが大事な時もあるか」


「えっ、ええっ? ほ、本当に偽装魔法を掛けて行くのか……?」




 蒼汰がどれだけ乗り気になったとしても、魔法を掛けられる側のギースからしてみればやはり不安要素もあるらしい。




「大丈夫ですよギースちゃんっ♪

そんな痛い思いをする訳じゃないんですからっ」


「わ、分かっているさ……うむ。ならばこうしよう」




 エリンの言葉に一押しされ踏ん切りをつけたらしく、ギースは蒼太に向かって一言言い放った。




「セルスト国に奴隷を買いに行ってくる、ちゃんとエリンの偽装魔法も掛けてもらう。

だからアオタ殿、その、良ければ私にご褒美を頂けないだろうか?」


「ビンタでいいか?」


「なっ、い、良い訳無いだろっ!?

……いや、でも、そういうのも一種のご褒美なのか……?」


「……お前マジか」




 蒼太としては冗談で言ったつもりだったのだか、どうやら彼の対面に腰掛ける駄メイドは真剣に考慮に入れ始めていたらしい。彼女は気付いていないだろうが、既に彼含む二名から凍獄の目を向けられていた。




「お兄さんより少し危険ですね……」


「ちょっと待てクラリス、それ酷くない?」


「酷くないです、普通です」


「そんなぁ!?」


「ビンタ、か……確か快楽に変わるとか聞いたこともあるが……」


『……はぁ、何でしょう。どこの怪しい教団の会話ですか』


「あ、アハハ……」




 気を抜くとすぐに脱線しカオスな状況を生み出す三人に、出ない溜め息をつくシス。それにはエリンも苦笑いを浮かべるしかなかった。





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