0.囚われの姫と美青年?ですっ
新年一発目の投稿はプロローグから、どうぞ(*^^*)
静まり返った城下街を見下ろすは高く聳え立つ王城。その上に王冠を表すかの如く建造された三本の塔は中央が時計塔、二番目に高い塔が武器庫塔、そして残る一つ。
「……あぁ、あの方にまた会えたなら」
窓からの月明かり、星明かりが天の導きみたく一筋差し込む三つ目の塔の最上階のその部屋は、その神々しさを全て打ち消す程に殺風景であった。木製の家具が本来の性能を寸分違わず発揮出来る様配置され動かない様に金属で固定されている。そこで暮らす者の顔を悟らせない為になのか、余分な物が何一つ置かれていないその部屋からは殺伐とした雰囲気が滲み出ていた。
その部屋の、窓から差す光が丁度顔に来る位置に設置されたベッドの上で、薄く下着が透けてしまいそうな白いレースのネグリジェ姿をした、茶色いボブカットの女性がぼそりと、近くの者でも聞き取り難い程の音量で嘆いていた。頭の上には愛玩動物を思わせる三角の耳が二つ。これらは決して遊び道具を付けている訳では無く、彼女の種族特有の物である。
そんな彼女の耳が、突如として小刻みに振動する。何かを聞き取ったのか、彼女の目は窓の向こうを見ていた。
「……何かが、来る。この優しい魔力の感じ、まさか……」
ゆっくりながらも身体をベッドの上に上げ、窓の方へと這い寄っていく彼女は窓の縁に両手を掛ける。誰の意見が採用されたのか、この窓は外側に鍵が掛かっている為に彼女が開く事はもちろん、施された強力な防護魔法によって壊す事すら出来ない。
しかし、それしきの事彼女にはどうでもよかった。今まさに自分が恋焦がれ、再び会いたいと願った相手の魔力が、気配が近くにある。それだけで彼女の心は溢れる程に満たされていた。
「あ、あぁ……やはり貴方様でしたのね……」
隔たりを作る一枚の薄いそれの奥に顔を覗かせた彼女は、その瞬間少女の顔になる。まるで逢瀬を心待ちにしていた、ただの一人の女子の様に。
恍惚とした表情を浮かべる彼女の前では、不思議な事に窓が独りでに外へ向かって開け放たれる。しかし彼女にそんな事に驚いている余裕は無い、何故なら─────
「─────迎えに来ましたよ。お姫様」
─────彼が、愛しい青年が自分を迎えに来たから。
「あぁっ……ずっと、ずっと待っておりましたっ……!!」
彼女の前に現われたのは、白いスーツ姿の紺髪の青年。書物庫にある伝記で目にする様な巨大な黒い鳥の背の上で膝立ちになる彼に、彼女は押し殺していた感情を吐露するかのように涙を零し始めた。
「さぁお姫様、何も言わずに私に攫われて下さい。
そして、ここではない何処かへと向かいましょう」
「ぐずっ……はいっ……!!」
歯が浮くような、気障なセリフを口にした彼は右手を彼女の方へ差し出す。丁度、彼女が手を伸ばせば届くぐらいの距離の所に。
彼女に、迷いは無かった。今自分がここを飛び出せば、どれだけの人に迷惑をかける事になるか。どれだけの無駄金が動くのか。どれだけの時間が無駄に浪費されるのか。
しかし、そのどれもが彼女を留めるには余りにも脆弱だった。
差し出された右手を両手で痛い位に強く握り締めると、青年は彼女を巨鳥の上まで一気に引き上げる。その反動で彼女は青年の胸に飛び込む形となるが、いとも容易く優しく包み込んでしまう。
「では、行きましょうか」
「は、はいっ貴方様っ……!!」
ニコリと微笑む青年に頬を赤らめ彼にしがみつく彼女は、一度たりとも経験した事のない、寧ろ経験するなど思いもしなかった位置から世界を俯瞰する。そして、自分の目に映る煌びやかな光景に酔いしれた彼女は、青年にしがみつくのではなく体を預けるようにし、抱き留めてくれていた彼の手に自分の手をそっと重ねる。
(あぁ……これ程の幸せを私が頂いていいのでしょうか……)
「お姫様。ここから目的地までは時間が掛かります。少し眠られてはどうでしょう?
次に目を開けた時には、きっと幸せが待っていますから」
「はい……貴方様の言葉のままに……」
青年の言葉に合わせ、そっと瞼を閉じる彼女。次に目を開けた先に広がる幸せを想像しながら……
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また、今年も何卒作者ことFALSEをよろしくお願い致しますm(_ _)m




