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32.後日談、ですっ♪






 その日、外界では天変地異(・・・・)が観測された。




 草原、高原、沼地、湿地、砂漠、凍土、海上、氷雪地帯、火山地帯、空中都市、未踏の楽園…………

屋外に居る者は皆、セルスト国を襲う謎の光の柱を目撃した。ある学者は魔法による実験の誤発だろうと言い、ある信者は神が降臨したのだと騒ぎ、またある国の王は強大な力を持つ勇者が現れたのだと豪語した。

 皆の目に映った神秘と畏怖の混合物は数分その場に留まり続けると、じわじわとその光を拡散し、やがて消滅したという。




 そしてその日、セルスト国はその数分で壊滅状態に追いやられる事となった。





















───────────────────────







 セルスト国での一件から、数日が経過した。




『事後報告ですが、当初の予定通りセルスト国は壊滅状態に陥りました』


「ま、まぁあんなのが起きればなぁ……」




 光柱が降り注いだ直後、まるで元からそうであったかのように王宮は大音量を立てて崩れ落ちていった。修復不能な状態まで壊れる様子をヤタガラスに跨りながら見ていた蒼汰からすれば、シスのその言葉に納得せざるを得なかった。




『そして、超光粒子砲の一撃を見た別の国から使者が派遣され、セルスト国の一斉調査が行われました。その結果、現国王の悪政が露わになり、国家間で行われる評議会で審議に掛けられるようです』


「って事は……?」


『はい。恐らく近いうちに現国王は失脚させられ、他国に一時的に政権を移す事となるでしょう』


「なるほど」


『また王妃ですが、裏で私兵を掻き集め反逆を企てていた事が明らかとなり、数年は他国の牢獄に収監される事が決定しそうです』 


「……そうか」




 蒼汰の対面に座るギースは、その情報を受け何とも言えない表情になってしまう。それがどんな気持ちなのか蒼汰には分からないが、ただ、今の彼女なら大丈夫だという事は分かっていた。その為、特にこれと言った言葉を掛ける事はせず、軽く締めの言葉を口にする。




「……ま、取り敢えず今回の目的は達成出来たって感じかな」


「そう、だな。私も思いっ切り仕返し出来たからな」


「私もスッキリしました」




 今回の被害者二人から満足感ある感想を貰い、蒼汰も同じ様な思いが沸いて来る。因みにシス曰く、ギースが意識を刈り取った四人の男達は追剥に遭遇したように全裸で仲良く縛り上げられていたらしい。

 事後報告も終わり、二人の気も晴れた事を確認できた蒼汰は今日の予定について考えを巡らせる。その中、急に何故かギースがソファから立ち上がった。




「じゃあ、私はここらでクラリスと遊びに出るとしようか」


「え……あ、そうですね。行ってきますね、お兄さん」


「ん? あぁ、まぁいいけど……」




 いきなりどうして、と彼が口にするよりも早く、ギースとクラリスはリビングを後にした。




「何だったんだ? 一体……

あっ、そう言えばシス、ありがとうな。お前の情報が無かったら多分何も出来なかっただろうから」


『いえ、お役に立てたのならば幸いです』




 首を傾げつつもふと思い出した、ロイの身辺を割り出したシスに今になって感謝を述べる蒼汰。しかし毒づく事無く素直に受け入れるシスは、彼の気付いていない事を音にする。




『しかしマスター、本当にギース様とクラリス様の気遣いが分からないのですか』


「えっ? ……えっ?」


『なら分からないままでいいです。私もこの辺で黙らせて貰います』


「はっ、えっ……スリープモードに入りやがったよ……」




 意味深な事を言うだけ言って自動で仮眠状態(スリープモード)に切り替わる有能PCに溜息を吐いてしまう蒼汰。そんな彼の真横(・・)で、突然大きな声が鳴り響いた。




「旦那様っ!!!!」


「おおぅっ!?」




 耳元で叫ばれ思わず肩を跳ね上げる彼が恐る恐るその音源へと首を回すと、そこには普段以上に頬を膨らませたエリンが待ち構えていた。




「え、エリンどうしたんだ?」


「もうっ!! 私の事も褒めて下さいっ!!」


「えっ……あ、あーそういう事……」




 彼女の言葉で蒼汰は漸く今までの一連の流れを理解した。確かに、今回の事件の顛末を一番乗りで導き出したのはエリンであり、更に彼女の存在無ければ王国への侵入すら出来なかっただろう。

 目尻を上げ一生懸命に”怒ってますっ!!”をアピールする愛らしい自称:嫁をずっと見ていたくなった彼だが、体の向きを彼女に向けると真面目に話し始めた。




「そうだな。今回一番頑張ってくれたのはエリンだもんな」


「そうですっ!! だから旦那様は私にご褒美を与えるべきですっ!!」


「ご、ご褒美?」


「はいっ、ご褒美ですっ!!」




 両手を前で握り締め力説するエリンに圧倒されながらも、蒼汰は必死にご褒美になりそうな物を考える。そうして何とか絞り出した彼はに彼女に近付き、その頭に右手を重ね、優しくゆっくりと撫でた。




「え、えっと……こんなので良いか?」


「あぅ…………」


「エリン?」


「ふふっ、ふふふっ」


「え、エリン?」


「あっ…………」




 撫でられる事に酔いしれ彼の声が全く聞こえていなかったエリン。それを不思議に思った蒼汰が手を止めると、途端に寂しそうに上目遣いで彼を見つめる。



(え、何これメチャクチャ可愛いんだけどっ!?)



 肌の白いが故に頬が朱く染まっているのが良く分かるエリンの可愛らしさに心拍が急上昇中の蒼汰。そして再び撫で始めると────




「あっ……えへへっ」




蕩ける程に表情を緩ませた。耳もピクピク振動していた。

 飼い主に可愛がられる小動物の様な彼女の姿に、隅々まで浄化されていく蒼汰の心は限界を迎えてしまった。




「ちょ、ちょっともうお終いだからっ」


「えっ、あぅ……」




 自分の頭から離れた手を恋しそうに見つめるエリンから顔を逸らした蒼汰は、無理やり喉の奥から声を出した。




「こ、これでいいだろ?」


「むぅ……まぁ、良いですっ♪

積極的な旦那様も見れましたし、照れてる旦那様も見れましたからっ♪」


「べ、別に照れてねーよっ」


「ふふっ♪ そういう事にしておきますっ♪」


「本当だって!! 照れてないからっ!!」




 蒼汰がそう何度も口にするが、顔を真っ赤に染め上げている時点で余りにも説得力に欠けていた。それが堪らなく可笑しくて愛しくて、エリンの目から一筋、涙が伝ってしまう。




「えっ、あれ……」


「あー、うんまあそうだよな」




 蒼汰は何となくだが、彼女自身も分かっていない彼女の本心が分かった。分かってしまった。



(今思えばまだエリンと知り合って一ヶ月も経ってないんだよなぁ。

良くここまで仲良く出来てるもんだよ、一か月前の俺にこの状況を聞かせても信じないだろうな……)



 密度の濃かった一日一日を思い出し、記憶に浸る蒼汰は顔をパジャマの袖で拭うエリンに向かって微笑んだ。




「まぁその、何だ。これからもよろしくな、エリン」


「っ!! はいっよろしくです旦那様っ♪」




 眩しいぐらいの笑顔を咲かせるエリンと、それにまだ少し慣れず照れ笑いする蒼汰。

 まだ完全には歯車の噛み合っていない二人だが、彼ら彼女らの物語はまだ始まったばかりである────






 一応ここで一章は終わりです(後1話だけ追加しますが)。ここまで読んで下さってありがとうございます(*^^*)


 もし面白いと思ったら作者に伝えてやってください、次章以降の執筆が大いに捗りますm(_ _)m




 次章突入は新年を迎えてからとなります、読者の皆様、早いながらのメリークリスマスっ(ノ*°▽°)ノ

そして良いお年を〜(*^^*)

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