30.名推理、ですっ♪
ギース達の方で片が付いた頃、王宮の中庭ではロイの登場によりその場に居た者の殆どが驚愕の二文字に陥っていた。
しかしその”殆ど”に属さない彼だけは別の反応を見せた。
「さて、役者も全員揃った所で話の続きと行こうではないか!!」
蒼汰のその掛け声に反応したアリシアとバシクスは視線を彼の方へ向ける。それにつられ残りの二人の視線(冷酷な目線含む)も彼に集った所で、それを待っていた蒼汰が口を開いた。
「ではここでスペシャルゲストのロイさんに話を伺ってみましょう~!!
ロイさん、まずはお名前とご職業をお願いします!!」
「え、えっとロイ・ラーリュサス、職業は衛兵をしています。
……というか、貴方誰なんですかっ。人間は王国内に立ち入り禁止の筈」
「ありがとうございましたっ!!
では続いて、今の状況を見て率直な意見をどうぞ!!」
「は、はぁっ……?
……え、えっと、何から言えばいいのか分かりません……
ってだから貴方は一体」
「ありがとうございましたっ!!
では最後に~~~っ」
自分の言葉を耳に入れない様、利き手を使いエアマイクを向けて大声で騒ぎ立てる蒼汰に振り回されるロイは、”最後”の言葉を口にした途端急激な表情差を生み出した彼を見て、全身を唐突な寒気に襲われた。そして、その直後悪寒が告げた嫌な予感は的中する。
「────お前、どっちの味方なんだ?」
「っ……!?」
「おっ、いいねぇ~、ここに来て初めて人間らしい表情が見れたよ~」
「あ、貴方は一体何を言っているんですか……?」
一般人からすれば本人の前で聞かれた、ただの悪意ある質問であり、恐怖政治を行った過去をもつ、選ばなければ恐ろしい事になりそうな国王を選べば済む話。だが、ロイにはそれが出来なかった。そして、目の前の人間がそれを分かった上で聞いているのではないかという予測が、立ち眩むほどの恐怖心を植え付けていた。
「あっれ~? こんな簡単な質問にも答えられないの~?
どうしてだろうなぁ? おかしいなぁ~?」
「ぐっ……」
「あ~仕方ない。ならどうして答えられないかこの俺が丁寧に説明してあげようっ!!」
「なっ、そ、それは……っ」
「もし国王様の味方だって言ってしまえば、秘密裏に私兵をしているアリシアを裏切る事となり~、逆にアリシアの味方をすれば、それはアリシアと裏で繋がっている事をわざわざ明言している様なものだから、だもんなぁ~?」
「…………」
蒼汰のその説明に、ロイは何も言い返さなかった。だがそれは肯定を意味する沈黙ではなく、逆に安堵を意味する物だった。このまま黙っていれば勘違いしたまま、何も悟られないままでいれる、そう考えていた。
しかし、目の前の青年がそれに気付いていない筈が無い、という所までは頭が回らなかったようだ。
「ん~、ちょっと違うか。だってそれだったら国王様の味方のフリをしておいて、後でアリシアに説明をすればいいだけだしな?」
「っ……」
「んんっ? って事はアリシアの味方をするとマズい何かが別にあるって事だよなぁ?
例えば─────国王様の下でアリシアを監視するスパイをしている、とか」
「っ!? な、何を────」
「おっ、やたらと食いついて来るって事はそういう事なんだよな?」
「そ、それはっ……」
失敗した。ロイの中でそんな言葉がグルグルと渦を巻いていた。
何をどう言って弁明するべきか、いやいっその事黙秘を決め込んでしまうべきか、そんな事で脳が埋め尽くされていくそんな彼を裏切るかのように、蒼汰の声は別の所へ飛んで行った。
「さて……ここまでの話を聞いてアリシア、お前は誰の言葉を信じる?」
「わ、私は……」
悪戯な笑みを浮かべる青年に唐突に声を掛けられたアリシアは、正直な所迷っていた。今までの話は全て辻褄の合う内容だった。だがそれを認めてしまうのは、王妃としての立場上最も愚考だという事も分かっていた。
フルで回り続ける脳が発する熱でどうにかなってしまいそうな頭を抱え、悩みに悩んでいる彼女に、意外な事にバシクスが声を掛けた。
「……アリシア、お前はこんな謎だらけの男の言葉を信じると言うのか」
「バシクス……」
威圧的な鋭い目で力の権化に睨まれたアリシアは、それで漸く決心がついた。いや、答えはとうの昔に出ていたのだ。
「……そうね。迷う必要なんてなかった、最初からこうするべきだったのよね」
「アリシア─────」
「ロイ。王妃の名の下に厳命するわ。
貴方が隠している事を包み隠さず全て話しなさい」
「アリシアッ!! 貴様本気で言っておるのかッ!!」
「お、王妃様しかし……」
「何? 私の命令が聞けないの?」
「……分かりました」
「待つのだッ!! 王の名の下に厳命───」
「させないわっ。"完全沈黙"っ!!」
「~~~~~~ッ!!?!」
対象の発言を封じる沈黙系の最上位魔法を容赦無く国王に発動したアリシアは、必死に声を出そうともがく王には目もくれず、ロイを睨みつける様に視線を向け、発言を促した。
「……確かに、私は国王様の命で王妃様の監視を承っておりました。何か王国を揺るがす様な動きをしそうであれば即座に伝達せよ、そう命じられていました」
「~~~~~ッ!!」
「……そう、それだけで十分に良く分かったわ」
重々しく口を開いた衛兵隊長の覚悟を汲み、それ以上聞く事をしなかったアリシアは視線を蒼汰に戻した。それを待っていたかのように彼は間髪入れずに声を出す。
「さ、これで国王様がアリシアの事を深く知る事が出来た、という事は証明出来ただろ?
─────話を事件に戻そう」
おちゃらけた態度はどこへやら、真剣な顔つきでそう口にした蒼汰は目線の先を彼女に固定したまま、事件の更に深い部分へと触れていく。
「さて、と。今までの情報で十分にクラリスを誘拐し、ギースを貴族の私兵に襲わせるように仕向けた犯人は特定出来るんだけど、ここは順に追っていこうか」
「なっ……!? そ、それは本当なの!?」
「まぁまぁ落ち着けって。
……今回の件は、恐らくだが順当に考えても答えは出ない。
まずクラリスの誘拐だが、”どうして”を考えるのではなく”誰なら犯行が可能か”を考えてみろ」
「……っ。私の身の回り、私兵ぐらいしか可能ではない……?」
「おっ、正解だ。そもそもクラリスを誘拐しようとなれば、クラリスが奴隷商館に匿われている事を知っていないといけない。それを知るのはアリシアの出産に立ち会った者、もしくはそれを聞かされた者ぐらいだろ」
「確かに、それで言うなら奴隷商館の主も知ってはいるけど、彼は絶対に違うわ。契約で結んでいる以上、それを裏切る行為をすればどんな目に逢うか、分かっている筈だもの」
「なら候補はアリシアの私兵全員だな。
次に、ギースを貴族の私兵に襲わせた件だが、まずは事実確認から。
俺の聞いている情報ではクラリスを国外に逃がしたギースは何者かによって気絶させられ、そして自由を奪われた上で貴族の私兵達に襲われた、それで合ってるか?」
「え、ええ……寧ろ、そこまで事細かには分からないわ。どうして貴方はそこまで詳細に知っているの?」
「そりゃあ、本人から聞いたからな」
「本人って……まさかっ!? ギースは生きているのっ!?」
「っ……!?」
ギースが生きている。その事実を前にアリシアは無条件的に喚いてしまっていた。彼女と同じくロイも目を丸くしていたが、再び蒼汰は異様なまでに優れた観察力を発揮する。
「……ロイ、お前今”焦った”だろ?」
「なっ、そ、そんな事」
「だったらどうしてそんなに強く手を握り締めている?」
「っ、そ、それは」
「そりゃあ当然だよな?
だって───確実に仕留めた筈の相手が生きていたんだからな」
「っ!!」
「ま、待ってそれどういう事なの!?」
責め立てられる様な蒼汰の言葉に、ロイは自分の顔からどんどん血の気が引いて行くのがわかった。
───やめろ、頼むからそれ以上口を開かないでくれ。
そんな彼の嘆きは、無情にも蒼汰には届かなかった。
「そんなの決まっているだろ?
───こいつが、クラリスとギースの件の首謀者なんだよ」
その瞬間、ロイは自分の中で組み立てていたパズルが全て崩れ去ってしまった。
面白いと思ったらブクマ、感想をお願いします




