23.世界樹を見て回る、その一ですっ♪
「今日は折角だし世界樹を探索でもしてみようか」
LDKルームに集まり、いつもの様に食卓を囲んで朝食を取る四人。そんな中発せられた蒼汰の言葉は、他の三人の手を止めさせた。
「しかしアオタ殿。昨日『セルスト国の件の犯人が分かった!!』と騒いでいたではないか。それを確かめに行かなくて良いのか?」
カチューシャを揺らしてそう告げるのはギース。もうすっかりメイドコスに慣れてしまい、今では四六時中それを着て生活をしている程である。
「まぁそう慌てるなって。
よく言うだろ? メインディッシュは後に取っておくもんだって」
「そ、そう言うものなのか……?」
「というより、実際全部カタをつけるには後三日待たないといけないんだよ。だからその日までの暇潰しみたいなもんだと思ってくれ」
「旦那様、いいですか?」
蒼汰の説明に声を上げたのはエリン。ここ数日着ているパジャマが気に入ったらしく、最近はずっと薄い水色のそれを着ている。きっちりと首元付近までチャックを上げられているにしても、その抑えの効いていない双丘は男女共に羨望の目を向けられる事は間違い無いだろう。
「ん? どうした?」
「世界樹の周辺を探索するのはいいのですが、本当に何も無いですよ?」
「別に無くても長距離の散歩だと思えばいいし、それにこの人数で行けばもしかしたら何か発見できるかもしれないだろ?」
「確かにそうですね。分かりましたっ♪」
すんなりと彼の言葉を受け入れる美少女。ここまで来ると新たな宗教でも開いてしまいそうな勢いである。
「それに、ちょっと試したい事とかあるからさ」
「「「?」」」
「ま、取り敢えず食べたら外出するからそのつもりでいてくれ。
……それとエリン」
「はいっ何でしょう?」
「昼ご飯外で食べる事になるだろうから、弁当とか用意出来る?」
「弁当ですね、任せて下さいっ♪」
「エリンさんの弁当ですか、楽しみですっ!」
「そうだな、これは期待しておくとしよう」
「はいっ、期待していて下さいっ♪」
「じゃ、朝飯食べ終わったら各自動きやすい服装で、玄関の外に集合って事で」
「はいっ♪」「はいっ」「了解した」
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ルームの外、世界樹と呼ばれるその一帯は本日も文句なしの快晴だった。大木を囲むようにして風に靡く草原は、日の光を浴びて生き生きとした様子を見せる。
「はぁ~っ、やっぱこういう自然は気持ちいいよなぁ~」
両腕を上に伸ばし大きく毛伸びする蒼汰。動きやすい様に紺色の布製短パンと無地の白Tシャツ、そして灰色の長袖パーカーを身に纏い、爛々とした景色に目を向けている彼の背後から草を掻き分ける音が聞こえて来る。
「ん? お、フォウル達か」
「ォオーン」
「クゥア~」
蒼汰が振り返ると、世界樹の裏側から藍色の大狼と黒鳥、そして二対の巨大蝶が姿を覗かせていた。
この三種の召喚魔はそれぞれ寝床が違う為にいがみ合う事が無く、基本的には友好的な中を築いている。そのためこうして群れで行動する機会が多いらしく、蒼汰も度々そういう光景を目の当たりにしていた。
と、目に余るほどの巨大な四体を眺めていると世界樹に不自然に建て付けられている扉が開いた。
「旦那様っ、お待たせしましたっ♪」
「お兄さん、遅くなってすいません」
「待たせてしまったな、アオタ殿」
中から順にエリン、クラリス、ギースが出て来る。エリンは結局パジャマ姿のまま、クラリスは黒のインナーにU字のプリントTシャツ、そしてグレーのショートパンツに黒タイツを、足元にはピンクのラインの入ったスニーカーが履かれていた。
どうやら初めて着る類の服に戸惑っているらしく、クラリスはおずおずと言った様子で蒼汰に声を掛けた。
「その、似合ってるでしょうか……」
「うん、似合ってるぞ?
……しかし、こっちの世界の服をクラリスが着るとやっぱ雰囲気変わるもんだな」
「そうですか?」
「ああ。……ってか、ギースはそれでいいのか?」
名指しされたギースも結局の所き慣れてしまったメイドコスで来てしまっていた。それに加え革製のブーツを履いている為、見た目は少し違和感を覚えるものとなってしまっていた。
「ああ。何だかんだ言ってこの格好は動きやすいからな。そこまで激しい運動を強要されない限りは、見られたくないものも見えないだろうし」
「そっか、なら別にいいけど」
「それで旦那様っ、どのようにして探索するつもりなのですか?」
「んー、フォウルとかヤタガラスに乗せて貰って、ってのはムリか?」
「クーちゃん、どうですか?」
「クゥア~、クゥア~」
「……なるほど。何でも『乗せるのはいいけど振り落とされるかもしれない』らしいです」
「はぁ。相変わらず便利だな、喋れるってのは」
八咫烏を召喚し、鳥獣系の召喚に二度以上成功した事で少女が手に入れた称号・『鳥に気に入られし者』は自分の召喚した鳥獣系召喚魔と意思疎通が図りやすくなる効果が付属している。その事を本人から聞かされていた蒼汰だったが、それでもやはり言葉の通じない相手との意思疎通を見せられると驚嘆せざるを得なかった。
「っと、驚いてる場合じゃないか。振り落とされなければ乗せて貰えるんだな?
……フォウル、お前もか?」
「ォオーン」
「た、多分そうなんだよな……?」
少女と違って動物と意思疎通の出来ない蒼汰は当然の如く自分の召喚魔が肯定したのか否定したのかすら分からない。だが恐らく肯定なのだろうと信じる事にした。
そんな苦笑を浮かべる彼に、エリンが今しがた思い出したかのように話し掛ける。
「あっ、旦那様っ、シスさんを返しますねっ」
「ああ、そう言えばエリンに渡していたんだっけ?」
そう言って折り畳まれたPCを受け取る蒼汰。その時、どうやってこれを持って大狼に乗ろうかという問題にぶつかってしまう。ただ、無い知恵を振り絞った蒼汰はある事を思い出し、おもむろにPCを開き、シスに問いかけた。
「シス。無限収納ポーチを用意してくれ」
『かしこまりました』
問答の直後、彼の頭上に現れた光の中から薄茶色のチャックが一つのみのベルトポーチが落ちてくる。それを器用に片手でつかみ取り、器用に腰に巻くと視線を再びPCへと戻す。
「とりあえずシスをこの中に居れて持ち運びしようと思うんだけど、問題ないか?」
『はい、問題ありません』
「旦那様? そんな小さい鞄に入るんですか?」
「ああ、一応そういう効果が付いているんだ。
……そうだな、自分達でも分かるように言うとしたら、魔法の鞄って知らないか?」
「あ、それなら分かりますっ。確か魔法陣を通常の鞄に組み込んで、容量を大幅に増やした物ですよねっ?」
「そうそう、それと同じだと思ってくれたらいいよ。
それで、だけど……どうやって振り落とされないように乗り続けるか、だよな……」
『マスター。どんな生物、物体であろうと”乗る”という行為を行うためには、基本的に騎乗スキルが必要とされます』
「騎乗スキル?」
『はい。それのレベルに応じて平衡感覚の維持、そして騎乗時における身体強化という二つの補正がかかり、振り落とされなくなるのです』
「って事は要するに、平衡感覚の維持と身体強化さえ出来たらそのスキル要らないって事だよな?」
『はい、そうなります』
「なら、平衡感覚の維持は気合いでやるとして。
身体強化か。……この中で身体強化の魔法を使える人」
蒼汰の質問に手を挙げたのは、三人と四体だった。
「…………ん?」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「…………いやいや、待って!?
エリンとかギースとか使えるのはまぁ分かるとしよう、クラリスも百歩譲って”優秀だ”で終わるから良しとしよう。
でも、何で召喚魔のお前ら全員使えるの!?」
『マスター。モンスターとは戦闘時において危機的状況に陥った際、本能的に身体強化を使うものなのです。ですので、彼らは身体強化を使えて当然です』
「……マジか。いや、でも納得は出来るか……」
ゲームなどの中ボスや大ボスの多くは、体力メーターを一定値以上削ると特殊な行動を起こす者達ばかり。その事を思い出した蒼汰はシスの説明に府が落ち、それと同時に自分で自分に”能無し”のレッテルを張ってしまった。
「って事は何?
身体強化を使えない俺、まさかのお留守番……?」
『大変言い辛いですが、そうなりますね』
「ぐっ……」
『更に言ってしまえば、クラリス様程の子供ですら使えるというのに、成人されている旦那様が使えないという惨めさまで付いてきます』
「ガハッ……い、いやしかし」
『因みに人間だと十二歳の子が憶えていて普通です』
「ノ、ノオオォォォォォォォォンッ!!?!?!」
「だ、旦那様!?」
シスのストレートな物言いに彼の自尊心は見事に打ち砕かれ、蒼汰はそっとPCを地面に置くと、頭を抱えて悲痛な叫び声を上げてしまう。これに関して言えば彼が責められる言われは無いのだが、彼の人柄がどうにもそうさせてしまうらしい。
こんな非希望的状況で、彼に手を差し伸べるのはやはり彼女だった。
「旦那様っ!! 私が身体強化の魔法をかけますからそんなに落ち込まないで下さいっ!!」
「ォォォ……え、ま、マジで?」
「はいっ!! ですから安心して下さいっ♪」
「あ、やっべ。今凄い安心感を感じたわ……」
両手でガッツポーズを作り力説するエリンを見て、身体の内から力が抜けていくのを感じた蒼汰。
そんな二人の甘いやり取りを見て少しげんなりするギースとクラリスの内、代表してギースが声を掛けた。
「それでアオタ殿。私達はどう動けばいいのだ?」
「とりあえず二人ペアに分かれて、それでどっちがフォウルかヤタガラスに乗るかはじゃんけんで決めよう」
「そうだな、その方が平等だろう。
して、どうやってペアに分かれるんだ?」
「う~ん、そうだなぁ……
シス。今すぐにくじ引きって用意出来るか?」
『ご用意出来ます。先端に赤を塗った割り箸を二本、青を塗った割り箸を二本の、計四本を空き缶に入れて出現させます』
「ほんと助かるわ。じゃ、頼む」
『かしこまりました』
また例の如く頭上に現われた空き缶を両手でキャッチした彼は、その中身が見えない様に手で上部分を抑え、そうして他の三人の丁度真ん中あたりの位置にそれを差し出した。
「さ、皆どれでも好きな一本を選んで摘まんでくれ」
「ふむ……では私はこれだな」
「じゃあ私はこれです」
「私はこれですっ♪ 旦那様と一緒な気がしたのでっ♪」
「と、とりあえず全員摘まんだな?」
自分含む四人の手が割りばしに伸びている事を確認した蒼汰は、宴会のようなノリで掛け声を発した。
「じゃあいくぞ? せーのっ!!」
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