21.ガチャの闇は深い、ですっ♪
・超光粒子砲,
説明:一度使用するとクールタイムに30日を要するというデメリットはあるものの、対象物を何でも一つ確実に破壊するURアイテム。生物への使用は不可。ダンジョンマスター専用。
「「「「…………」」」」
PCに表示された説明に、四人は固まる事しか出来なかった。
八咫烏によって出された銀色のカプセルを拾い上げたクラリスの手の中で生成されたのは、有り体に言えばバズーカ砲と呼ばれるものだった。キャベツ一つ分程の直径を持ち、少年少女が片手で持つには少々難のある白の胴体部、そして発射をアシストするために取り付けられているのだろう補助手部分にトリガー部分。そのどれを取って見ても子供の玩具の様にしか見えない。
「……なぁ、これ本当にこんな性能あるのか?
玩具みたいな見た目してるし、込める弾も手に入ってないし……」
『はい。間違いなく表示通りの性能がございます。
何でしたら試し打ちしてみるのはいかがですか?』
「やだよ!? こんな得体の知れない凶器を試し打ちするバカがどこにいるんだよ!?」
「でも旦那様っ? これ、もしかしたらセルスト国を潰すのに使えませんか?」
「ん? ……待てよ?
確かに、物だけを破壊出来るんなら使い所によったらメチャクチャ便利か!!」
「いやいや、まさかだとは思うがセルスト国でこんな危険な物を使うつもりなのか!?」
何万もの人が生活している大国でたった今手にした破壊兵器を使おうと提案し、それに応じようとする夫婦(仮)に声を荒げてしまうギース。憎き者のいる国だとは言え、家族や親しい者が未だに住んでいる場所で危険な行為は避けたい、というのが彼女の言い分である。
「え? 当然使うけど?
てか次ガチャ回すのギースの番だぞ?」
そんな彼女を前に、さも当たり前であるかのように言い返した蒼汰は、彼女の危惧する内容など興味無さげに顎でガチャの方を指した。
「まぁ、アオタ殿の事だから人を傷つけるような事は無いとは思うが……。
それにこの箱だが、要は運があればいいんだろ?
運とは日頃の行いがモノを言う、つまり日頃の行いの良い私ならば良い物を得られるに決まっている」
主の態度に不満を憶えつつも信頼を寄せたギースは、グダグダと運について語りながら、黒鳥を連れて歩くクラリスと入れ替わる様にして赤い箱の前に立つ。そして少女がしていた様にレバーに片手を乗せ、そのまま一気に押し込む。
「……青色か」
「「ぷっ」」
「な、何だ二人して……」
「いや、だってお前あんだけ自分の事を『日頃の行いが良い』とか自慢げに言っておきながら、その結果は無いだろっ」
「そうですよっ。自滅するなんてギースちゃん可愛いですっ♪」
「うっ、ま、まだ後二回残っているっ!!」
引っ付き合っている二人にからかわれ顔を赤らめたギースは、床に転がる青いカプセルに触れる事無く立て続けにレバーを下ろす。しかし、箱の取り出し口から出て来た二つのカプセルの色は───
「なっ、あ、青だとっ!?」
共に、鮮やかな青色をしていた。
「あーっはっはっ!!!!」
「わ、笑うなっ!?」
「ふふっ、ギースちゃんそれはっ、あははっ♪」
「や、やめてくれぇっ!?」
横長の耳の先端まで真っ赤に染まる彼女は二人の爆笑から逃げるように青色のカプセルを三つ全て拾い上げる。そうすれば当然彼女の手の中でそれらはアイテムへと変貌していく。
R:耐水のローブ
R:増速薬
R:気合いのハチマキ
「……ん? おいまてギース、お前の手の中にある赤色っぽいハチマキこっちに寄越せ」
「こ、これか?」
「そうそう……おいシス、このアイテムの説明」
『かしこまりました』
・気合いのハチマキ,
説明:レア度Rのネタアイテム。もちろん、誰かに持たせたからってHP1で耐える事など無い。
「……どこのポ〇モンのアイテムだよっ!?」
「わぁっ!? 旦那様急に叫ばれるとビックリしますっ!!」
「ご、ゴメン……」
シスに提示された情報に、背後にエリンが引っ付いている事を忘れ思わず大声でツッコミを入れてしまう蒼汰。ほんの僅かに身体を離してしまった美少女に平謝りすると、彼はそのタイミングで重い腰を漸く上げた。
「さ。最後は俺とエリンの番だな」
「はいっ♪ 良いのを引き当てましょう、旦那様っ♪」
「…………ちょっと待ってくれ」
箱の前に移動しようとする二人を止めたのは、未だ紅潮した面持ちのギースだった。
「何だよ。日頃の行いの悪い奴は下がってろって。な?」
「くっ……」
「そうですよっ。次は私と旦那様の番なんですからっ」
「わ、分かっている。分かっているが…………
恥を忍んで頼みたい事があるのだ、アオタ殿っ!!
どうか、どうかもう一度ガチャを引かせてくれないかっ!!」
この時、この場で彼女が頭を下げるなど誰が想像できただろう。
上を向いている筈のカチューシャの先を向けられた蒼汰は一度は目を丸くしたが、彼女の想いを感じたのか、ため息と共に言葉を吐き出した。
「……分かったよ。俺の二回分くれてやるよ」
「ほ、本当かっ!?」
「今回だけだぞ? ったく、ギースも廃人確定かよ……」
「ありがとう、ありがとうッ!!」
騎士の誇りなど忘れ、腰を折ってガチャ権を獲得したギースは顔を上げると、満面の笑みで彼に感謝を述べた。そして再び箱の前に立つと、二連続でレバーを押し込んだ。そして出て来たカプセルの色は青、そして赤銅色。
「おっ、SRか。……ってギース?」
「…………た」
「ん?」
「やった! やったぞアオタ殿ォッ!!」
「お、おぅ……」
初めて青色以外の色を目にしたのが嬉しかったのだろう、権利を譲渡してくれた彼に向けて高らかに拳を突き上げたギース。そんな彼女の興奮っぷりに反応に困る蒼汰は、背後でもう一度抱き着こうかと悩んでいたエリンを連れ、彼女の下に近寄っていく。
「ったく、お前こそ子供みたいにはしゃいでんじゃねーか。
ほら、早く中身を確認しようぜ?」
「あ、ああそうだなっ」
蒼汰に催促され元のテンションに戻るギースは、くるりと身を翻し腰を曲げてその二つを拾い上げようとする。
さて、ここで考えて欲しいのだが、際どいメイドコスをした高身長の女性が腰を折って床の物を拾い上げようとすればどうなるだろうか。アニメ補正がかかってギリギリスカートがその中身を隠すだろうか。
答えはもちろんそうではない。
「……おいギース」
「何だ? もうすぐアイテムが何か分かるっていう時に……」
「お前、自分が今メイドコスだって事忘れてないか?」
「え? ……あっ、ああっ!?」
彼の問いかけによって、自分がとんだ大失態をしでかした事に気が付いたギースは、左手で揺れ動くお尻部分のスカートを強めに抑え、漸く元に戻ろうとしていた顔を再び真っ赤に染め上げてしまう。
「み、見た……か?」
「…………見てないぞ?」
「み、見ただろうその間はっ!?」
「セクシーな黒のレースパンツですっ♪」
「い、一々言うなぁぁぁぁっ!!?!!」
「ったくいい大人がパンツ食い込ませてるんじゃねーよ。殆どケツじゃねーか」
「あっ、あれは偶々……って貴様やはり見ているではないかッ!!!!」
「ギースちゃんダメですよっ? 旦那様をあんな下品な格好で誘惑しては。めっ、ですっ!」
「ち、違うっ!!? 違うんだあぁぁぁっ!!?!!」
「……クーちゃん、あんな大人達にはなりたくないですね……」
「クゥア~」
散々からかいを受け涙目になるエルフメイドや大人げなくそれを楽しむ青年と美少女妖精に肩を落とすクラリスだったが、メイドの持つ輝く二つのアイテムに目を奪われた。
「ギースさん。そのアイテムは何なんでしょう?」
「ひえっ……さ、さぁ何なのだろうか」
「シス」
『かしこまりました。これがギース様の手にしたアイテムのデータとなります』
分からない事は全てPCに聞けばいい、まるでそう主張するかの如き早さでシスの名を呼ぶ蒼汰は、予定通りに表示される情報に目を通していく。
・叡者の王杯,
説明:とある王国の聡明なる国王が配下の者に作らせたという、黄金に輝く聖杯。一度液体を注ぐと延々と湧き続けるという伝承を残しており、盃の中央の窪みに水滴を垂らすと、延々水を生成し続ける魔法道具。ただし水しか生成できない為、レア度はSRである。
・金の延べ棒
説明:何の変哲もない、ただの金の延べ棒。売ればそこそこ纏まった金が手に入るが、それ以上の価値は無い。レア度はR。
「……これは」
「うーん、はっきり言って使えないですね……」
「なぁっ!? そ、そんな……」
容赦ないエリンの一言にバッサリ切り捨てられたギースは、プライドも膝もいとも容易くへし折れてしまう。
がっくり項垂れる彼女を慰めるべく少女と黒鳥が近寄りその悲哀に満ちた背中を擦っている間に、蒼汰とエリンは箱をもって少し離れた場所に移動していた。
「さ、残す所はエリンだけだな。良いのを引き当ててくれる事を期待してるぞ」
「……やっぱダメですっ!」
「へっ、な、何が?」
「だって旦那様一人だけが引けないなんて可哀想ですっ!
ですから旦那様っ。私と一緒に引きましょうっ♪」
「え、エリン……」
どこのエルフメイドとは言わないが、自分からガチャの権利をせびって来るような事はせず、寧ろ献身的な態度を取る美少女妖精に、蒼汰は目を潤ませてしまう。
一歩でも歩けば頬に涙が伝ってしまいそうな彼の手を取ったエリンは、自分の手と一緒にそのままレバーの上に重ね合わせた。
「さっ、一緒に引きましょう旦那様っ♪」
「……ホント良い子だよな、エリンは」
「良い子じゃありません、良い”嫁”ですっ♪」
「おぉふ……じゃ、じゃあ引こうか」
「はいっ♪ では、せーのっ!」
屈託のない笑みを浮かべる彼女を見てはにかんでしまう蒼汰。そして照れ隠しするように催促し、彼女の掛け声に合わせてレバーを二回下ろすと、取り出し口に現われたカプセルの色は─────青、そして銀色だった。
「おおっ♪ 当たりですねっ♪」
「相変わらずなんつー幸運だよ……」
足元の球体に別々の反応を示した二人は、それぞれ近い方の物を手に取る。蒼汰の手に現われたのは見慣れた虹色の石、そしてエリンの手に現われたのは、豆粒サイズの茶色い種の様なものだった。
「……これは、何でしょう?」
「何かの種なのは分かるけど、しかしなぁ……」
『説明いたします』
「ん、どれどれ……」
・ダンジョンの種,
説明:マスタールームの床に押し付けると、翌日から一日当たりのCP供給量を永続的に倍にするURアイテム。マスタールーム以外で使用しても特に何の効果も無い。
シスによる説明文に目を通した二人は、同じ様に呆然としていた。
「はぁ、何て言ったらいいんだろうな……」
「凄い性能ですね……これでURって言うのが驚きですっ」
「何はともあれ、これでガチャ終了だな。
えっと今回の結果は……」
『UR2つ、SR1つ、R7つです』
「……うん、かなり良い具合に出てるな……」
もし蒼太が一人で十連を引いていたとすれば、こうも良い結果は残せなかっただろう。それ程までにエリンやクラリスのもたらした恩恵というのは大きかった。
自身の隣で嬉しそうに口角を上げていた美少女を感謝の念を込め見つめていた蒼太だったが、視線に気がついたのだろう、エリンも彼の事を見つめ返していた。
「良かったですね、旦那様っ♪」
「あ、あぁ。……エリンが一緒に引こうって提案してくれて無かったら、もしかしたら結果は変わってたかもしれないし、本当にエリンのお陰だよ、ありがと」
「ふふっ、だったら私の些細なお願いを聞いて下さいっ♪」
「お願い? 出来る範囲だったら何だっていいぞ?」
この時蒼太の中では「エリンが何か欲しがるなんて珍しいな」程度にしか思ってもいなかった。いや、思うことしか出来なかった。
彼から同意を告げられた美少女は裏表の無い笑顔で、何の悪意を持つ事無く、ルーム内に爆弾を投下した。
「では、私と一緒にお風呂に入りましょうっ♪」
「……は、はあぁぁぁぁぁっ!?」
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