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20.久々に回すんですっ♪







 人生の中で、一度は動物と話したいと思った事は無いだろうか。自分の買っているペットが騒いでいる時、朝起きた時に雀の鳴き声が聞こえて来た時、野良猫が夜鳴いていた時。そんな時にもし動物の話している言葉が分かれば、もっと日常が色鮮やかなモノになるのに、そう考えた事は無いだろうか。




「クーちゃんは何を食べるんですか?」


「クゥア~」


「……なるほど! 果物ですか、意外と甘党さんなんですね?」


「クゥア~」


「ええっ!? 虫食べるの嫌いなんですかっ!?」


「クゥア~」




 少女と巨鳥の会話という、トレーニングルームで見られるにしては余りにもファンタジー過ぎる光景がそこでは広がっていた。幾ら”言語理解”のスキルを習得しようとも、モンスターの言葉を聞き取る事は出来ない為、蒼汰とエリンでさえも二者のやり取りは理解出来ない。




「……なぁエリンよ。俺は夢でも見ているのだろうか?」


「ふふっ、初めてあった時みたいに頬を抓ってあげましょうかっ?」


「いやいいよ……そこは嘘でも『夢ですよっ』とか言って欲しかったんだけどなぁ……」




 現実で起きる非現実に頭を悩ませる蒼汰はエリンに助けを求めようとするも、まるでそれが運命(さだめ)であるかの様ににイチャつこうとする。彼女にそれを求めるのを諦めた蒼汰は、今度はギースに求めようとする。




「なぁギース、お前はどう思うよ?」


「あぁ、まさかこんな事になるとは思ってもいなかったよ」


「っ!! 良かった、ギースはちゃんと気付いたんだな!!」


「当然だろう! しかしこんな運命的な事ってあるのだな……っ!」


「……ん? ギースお前何の話してるんだ?」


「ん? もちろん”国墜とし”の話だろう? アオタ殿こそ一体何の話をしているのだ?」


「違ぇよ何だよ”国墜とし”って!?

クラリスがあんな巨大な鳥と会話しているのに違和感感じねーのかよっ!?」


「いやいや、今となっては敵だが才に溢れるアリシア様の娘なのだ、クラリス様ならモンスターと会話するぐらい訳無いだろう」


「何でだよ!? 何なんだよお前のそのクラリスに対する絶対的な信頼感は!?」




 ……残念、求める相手が悪かったようだ。立て続けに自分の常識が通じない事に半ば諦めモードの蒼汰は、現実を逃避するように、床に置かれていたシスに近寄っていった。




「はぁ……シス、さっきSランクモンスターがどうのこうのって言ってたよな?

悪いけど説明頼むわ」


『了解いたしました。

クラリス様が召喚したモンスターは正式名称を”ヤタガラス”と言い、先程も申し上げた様に召喚石(中)で召喚できるモンスターの中では最高ランクのSランクモンスターです』


「……まて、ヤタガラス? ヤタガラスって、あの八咫烏か?」




 シスのその言葉に蒼汰は目を丸くした。八咫烏、それは蒼汰の元居た地球の、それも日本の伝記上に存在する名なのである。曰く道中の案内役として、又曰く神の使いとして名を残すそれは、今やソシャゲや小説、漫画などでも度々目にする程に著名になりつつある。

 彼がこよなく愛していたあのテレビゲームでさえ登場していたため、馴染みのある名前に詰め先程度だが感動を覚える蒼汰。そんな彼に続けてシスの説明がなされる。




『マスターの住んでいた大陸に伝わる八咫烏と名は同じですが、実際は少し異なります。偶々命名主が同じ神だったというだけだと思われます』


「って事はアレか? 日本の神様がこのモンスターに命名したって言うのか?」


『はい。この世界は様々な世界、星々の神が知恵を出し合って作られた、言い換えれば神の娯楽として作られた世界だと論じている伝記が残されています。恐らくですが、今現在の時点ではこれは有力な説だと思われます』


「はぁ。何ともスケールの大きい話だな。

要は日本の神様が命名してる物もあるって事だろ?」


『ざっくり言ってしまえばそうなります』


「けっこうこっちの世界観って緩いんだな……」




 未だに名称すら知らされていない、自分の経営するダンジョンが降り立つ世界の曖昧さに口元を歪める蒼汰に、彼の頭上から人一人分の影が差し込んで来る。




「だ~んなさまっ♪」


「うおっ!? エリン、驚かすなよ……」




 耳元から聞こえて来る陽気な声ですぐにエリンだと分かるも、やはり肩をビクつかせてしまう蒼汰。だが以前の様に飛び退く事は無く、されるがまま彼女に抱き着かせていた。出会って未だ一週間ほどしか経過していないというのに、慣れと言うものは本当に恐ろしいものである。




「ふふっ、ごめんなさいっ。

で、何をしていたんですか?」


「ん? ああ、シスにあの巨大な鳥について確認をな」


「そうだったんですね。何か分かりましたか?」


「それがな……あれ、最高ランクのSランクモンスターなんだってさ……」


「ええっ!? す、すごいですクラリスちゃんっ!!」


「えっ、何ですか?」




 突然大声で自分の名を叫ばれ、ふいに反応を見せるクラリス。その後蒼汰とエリンがPCの前に集っている事を視認した少女は、黒鳥を随伴し二人の元へと近寄っていく。そうなれば当然、ヤタガラスに見惚れていたギースも二人の元へと駆け寄って来る。




「クラリスちゃんっ。その子、どうやら最高ランクのSランクモンスターらしいんですっ♪」


「そ、そうなんですか?」


「ああ。やっぱりクラリスに任せて良かったよ」


「そ、そうですか。クーちゃんって凄かったんですね」


「クゥア~」




 クラリスが尊敬の眼差しを向けると、八咫烏は胸を大きく仰け反らせ両羽を左右に開く。正面から見れば国旗やシンボルマークに使われそうなシルエットに、これには言葉の通じない蒼汰にでも「コイツ威張ってるな」というのが良く分かった。




『マスター。お楽しみの所申し訳ありませんが宜しいでしょうか?』


「……別にお楽しみなんてしてないけどどうした?」


『はい。クラリス様が最高ランクのSランクモンスターを召喚した事によってボーナス特典が届いたようです』


「あー、そう言えば前もそんな事あったような……」


『今回も中身を確認する事は出来ませんが、どう致しますか?』


「別に害も無いだろうから、取り敢えず開けてみてくれ」




 PCに向かってそう指示する蒼汰によって、ディスプレイ上には

”召喚石(中)で手に入る最上級Sランクモンスター初獲得特典!! UR以上一つ確定無料十連ガチャ券をプレゼント!! 受け取りますか?───はい”

という、彼からすればもう何度目にもなる文章が表示されていた。

 しれっとPCの隣に出現していた例の赤い箱に目を向ける蒼汰は、しかめっ面で小言を呟いた。





「確定十連ガチャか、うーん……」


「旦那様っ? 何か問題でもありましたか?」


「ほら、ここにいるのって四人だろ?

取り敢えずガチャが初めてのクラリスとギースは多くするとして、どう分配しようかなって」


「あー……確かに困りましたね……」




 小学生でもわかる計算、十は四では割り切れないという事実に頭を悩ませる彼に、身を寄せ続けているエリンも共感を示す。




「取り敢えずクラリス三回、ギース三回で俺とエリンがそれぞれ二回ずつ、ってのが一番妥当なのかな」


「別に私は回さなくても大丈夫ですよ? 旦那様っ」


「いやいや、折角なんだしエリンも回しとけよ」


「あ、ありがとうございますっ♪」




 目線はガチャガチャのままそう呟く彼の言葉に、抱き着く美少女は口元を綻ばせる。一度ガチャを回した際にそれを回す悦びを憶えてしまった彼女は、表には出していなかったがレバーを押すあの感覚をもう一度味わいたいと思っていた。

 身体に巻き付く腕の圧が強くなるのを感じつつ、蒼汰は首を動かさずクラリスとギースにガチャの事を話し始める。




「クラリスとギースはガチャ初めてだよな?」


「あ、はい」


「ああ。ガチャというのはそこにいきなり現れた赤い箱の事で良いのか?」


「まぁ、そう思ってくれればいいよ。

さ、習うより慣れろ。取り敢えずやってみようぜ?

クラリスから、その赤い箱のレバーを引っ張って見てくれ」




 身動きが取れない為に口で指示するしか出来ない彼の意図を汲んで、クラリスは赤い箱の前へと足を運ぶ。初めての物を前に少し身体を強張らせているらしく、小刻みに震える可愛らしい右手をそっと銀色の出っ張り棒に重ねると、戸惑った様子で蒼汰の方へ首を回した。




「えっと、これを下に押せばいいんですよね?」


「ああ、一回グッとやってみるといいぞ」


「わ、わかりました。では……えいっ!」




 何とも子供らしい掛け声と共にレバーが下ろされると、呼応して箱の下に青いカプセルが転がってくる。少女はそれを摘まみ上げると、その瞬間青色の球体は淡い白光となって霧散してしまう。そうして次にその光球が少女の手に戻ってくる時には虹色の石を形成していた。




「あっ、これ召喚石です!」


「みたいだな。ならそれはクラリスにあげるよ」


「ありがとうございましゅっ……あぅ」




 初めて自分の手で何かを手に入れる。個人差はあれど、誰もが一度は得る感動を今この瞬間感じ取ったクラリスは喜びの余り舌を噛んでしまう。




「はは。ほら、まだ後二回引けるんだから引いて来い」


「は、はいっ!」




 虹色に輝く石を大事そうに抱えるクラリスは、そそくさと元の赤い箱の前まで戻って来、もう一度同じ作業を行った。次に転がり落ちて来たカプセルもやはり青色で、クラリスが摘まみ上げると光の球となり爆散、そして再び集結しては何かを形作る。




「これは……」


「クラリスどうした?」


「いえ、見た事も無いアイテムだったので……」


「どれどれ…………おっ、トランプか?」


「「「とらんぷ?」」」




 蒼汰の言葉に、三人はほぼ同時に首を傾げた。彼女らの住んでいた世界にはそのプラスチック容器に入れられた、数字と絵の描かれたカードで遊ぶという風習は無いため、膨大な知識を持つエリンでさえもそれが何なのか理解出来なかった。




「まあ、あれだ。俺が元いた世界の玩具だと思ってくれたらいいよ。四人もいれば色々出来るだろうから、今度これを使って遊ぼうか」


「なるほど、遊戯系のアイテムなんですね!」


「そういう事だな。シス、これのレア度は幾らだ?」


『はい、レア度はRですね。こういう類のアイテムは基本的にはRだと思って頂ければ間違いないかと思われます』


「なるほど」


「じゃ、じゃあ最後やりますねっ」




 少々興奮気味の少女はトランプケースと召喚石(小)を足元に置くと、レバーに手を掛け短く息を吐き出す。どうやらガチャでいい物を当てたいという欲が芽生え始めて来ているらしい。その心意気は最早立派なガチャ廃人である。

 そんな少女の細い背中を、堅い何かがソフトに触れた。




「ひゃぁっ!? ……ってクーちゃん!?

驚かさないで下さいよ……どうしたんですか?」


「クゥア~」


「……えっ、クーちゃんも引いてみたいんですか?

え、えーっと。……お、お兄さん、いいですか?」


「ま、まぁ、壊さないのならいいけど……」


「だそうですよ、クーちゃん。ほら、ちゃんとお兄さんにお礼を言って下さい」


「クゥア~」




 自分なりのお礼のつもりなのだろうか、クラリスに言われ黒鳥は嘴が地面に着くギリギリまで頭を垂れた。命令に忠実な巨鳥にも驚きだが、何より怯えた様子を見せる事無く接する少女の胆力に蒼汰は唖然としてしまう。一体少女は何系キャラを目指しているのだろうか。

 蒼汰の心配を他所に、黒鳥がレバーを下ろしやすい様に場所を移動するクラリス。少女の気遣いを受け取った黒鳥は、その黄金色の嘴でレバー部分を押し下げた。そうして箱の下に転がって来たカプセルの色は、銀色(・・)だった。




「……おいおい、銀色って」


『マスター、どうやらURが出たようです』


「……マジかよぉっ!?」


「旦那様っ!? 気をしっかりして下さいっ!?」




 エリンに続き今度は人外の者にまでガチャ運で惨敗するという、散々な体験を今この瞬間にしてしまった蒼汰は圧倒的敗北を背に受け、無意識に地面に這い蹲ってしまう。そうなれば当然、抱き着いていたエリンが過剰に反応してしまうのは自然な流れとなってしまう。




「……全く、よくこの様な児戯でここまで騒げるものだ……」




 地面に這いつくばる自分の主人に、情けないと言った様子で溜息を吐くギース。しかしこの後、自分自身がドブ沼に嵌ってしまう事など、彼女に知る由はないのだった。




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