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11.引き当てましたっ♪






「……もう動けねぇ」




 地面に仰向けになり、息も絶え絶えにそう吐き捨てる彼の顔に黒い影が覆いかぶさる。




「旦那様。どうやらシスさんが何か言いたい事があるらしいですっ」


「ん……ああ、持って来てくれ」


「そういうと思って持ってきましたっ♪」




 笑顔でそう答えるエリンの手には、L字に折り曲げられているPCが大事そうに持たれていた。それを床に置いてもらい覗き込むと、画面にはこれもまた昨日見た、あのメールボックスの様なものが映し出されていた。




『どうやらCランクのモンスターを召喚石(小)で手に入れた事でのボーナス特典が届いたらしいです』


「ボーナス特典? 中身が何か分かるか?」


『……申し訳ありません。閲覧出来ない様になっています』


「開けてからのお楽しみって訳か。シス、開けてくれ」


『かしこまりました。

……これは、一回限定のガチャの様ですね』




 PCに表示される、

”召喚石(小)で手に入る最上級Cランクモンスター初獲得特典!! 限定ガチャ券をプレゼント!! 受け取りますか?───はい”

の文面に、蒼汰は持ち上げた首を再び床に下ろした。




「何だよ……外れガチャかよ……」


「旦那様、外れガチャとは?」


「こういう強制的にガチャを引かせる時ってのはな、大抵は中途半端な性能のヤツか基本的なヤツかのどっちかしか手に入らねーんだよ。大当たりを引けないガチャだから、”外れガチャ”って世間では呼ばれてるんだ」


「なるほど、旦那様の元居た世界のお話ですねっ」




 嬉々として彼の話に耳を傾けるエリン。だが蒼汰としてはそれよりもPCの前にしれっと出現しているガチャガチャに目がいってしまっていた。




「あーエリン。何ならガチャ引いてみるか?」


「えっ、宜しいのですかっ!?」


「ああ、これから引く機会も増えるだろうし、経験だと思ってやっとけ」


「はいっ♪」




 欲しい物を貰った子供の様にその場で飛び跳ねるエリン。揺れる揺れる、彼の視界では脂肪の塊がパジャマ越しに高速で単振動を行っていた。まさに乱れ狂う暴力。彼からすれば、アレで殴られるのはご褒美と同義。




「……お兄さんって、時々エッチですよね」


「っ!!?」




 一人眼福になっていた蒼汰だったが、異様に冷酷な声が頭上から降り注ぎ思わず身体が縮み上がってしまう。壊れかけのロボットの様に首を回転させると、そこには人を見る目をしていない、確実に何人かは殺めた顔付きの少女が彼の事を見下ろしていた。いや、見下していた。




「やっぱりそうですよね。お兄さんもおっぱいの大きい人が好きなんですよね?」


「い、いや待て、待つんだ!?」


「ふふっ、一体何を待てと言うんでしょう、ねぇ、ピーちゃん?」


「…………」




 殺人的な笑みでフードの中に居る水色モフモフ・ピーちゃんに話しかけるクラリス。だがピーちゃんはピクリとも動かなかった。 




「……ってピーちゃん失神してんじゃね!?」


「そんな訳無いじゃないですか。お兄さんが構ってくれないから拗ねちゃってるだけですよ?

……そんな事より、どうなんですか?

おっぱい、好きなんですか?」


「えっと……その……」




 スマイル殺人鬼並のオーラを放つ少女に迫られ、上手く声が出せないでいる彼は、少女から裁きを下される。




「もぎましょう」


「……何を!? いえ、何でもありません申し訳あ───」


「当たりました~!!!!」




 蒼汰が少女の圧に負けて土下座に移行するその寸前、完全に場違いなテンションでエリンが喜びの声を上げた。




「旦那様っ、見て下さい!!

シスさんが言うには最高級のアイテムが当たりましたっ♪」


「……はぁっ!?」




 彼女が手にしている者は、古びた一枚の羊皮紙。それがどれだけの価値を持つのか彼には理解出来なかったが、シスのお墨付きとなれば話がガラリと変わって来る。




『……マスター。私は化け物を生み出してしまったのかも知れません』


「し、シス!?

一体、何があったんだ!?」


『このデータを見て下さい……』




 PCに示された点滅する項目に目を通していくと、彼の思考では追いつかない事がそこには書き連ねられていた。





細剣の乱舞(レイピア・スパイル)のスクロール,

説明:オリジナルスキル《細剣の乱舞》を習得出来るMRアイテム。使いこなすには多大な時間と才が必要とされるが、使いこなせれば一方的な剣撃を相手に見舞う事が出来る。剣の出現本数や消費魔力等を自在に調節できる為、自由度の高いスキルである。





「……マジで?」




 ディスプレイに表示されたのは、余りにもぶっ壊れ性能のスキルを習得出来るレア度最高級のスクロール。それを一回の無料ガチャで引き当ててしまう幸運さも異常だが、何よりその能力は身体が魔力で構成されている彼女に余りにもマッチしすぎている。彼女の為のスクロールだと言っても過言では無いだろう。






『マジです。こんな事、起きるんですね……』


「oh……」


「旦那様っ♪ 私、凄いですよねっ?」


「あぁ、凄い……凄すぎて何かもうどうでもよくなってきた……」


「ええっ旦那様っ!? どうか私の目を見て下さいっ!?」




 一度彼女よりも多くの数ガチャガチャを回し、爆死している彼からすればその情報は羨望を通り越して最早無関心に近い境地まで達してしまっていた。




「ま、当たった物は仕方ない。それはエリンのものだから好きにしていいよ?」


「そうでしたら、習得しますっ」




 初めてのガチャ、そして初めて自分で手にした最高級アイテムに興奮を抑えきれないらしく、エリンは飢えた魚みたく古びたそれに食いついた。少しして彼女の手元からそれが消え去ると、何を知ったのか思い詰めた表情で蒼汰に視線を向ける。




「……旦那様。少しこのスキルの練習をしてきてもいいですか?」


「ん? あぁ、いいけど何処かに行くのか?」


「外でしようかと思います。その……恐らくここだと旦那様やクラリスちゃんに被害が出るので……」


「お、おう……なら外でやって来ていいぞ」


「ありがとうございますっ」




 申し訳なさそうに頭を下げると、エリンは二匹の蝶を連れそそくさとトレーニングルームを後にしていった。パジャマ姿のまま練習をするのだろうか、と思った蒼汰だったが彼女は魔力で衣服を用意出来る事を思い出し、一人頷いているとフォレストウルフに鼻でつつかれる。




「っと、どうした?」


「グルルルゥ」


「い、いや唸り声で分かる訳無いだろ?」


「グルルルゥ」


「……お腹空いたのか?」


「グルルルゥ……」




 フォレストウルフの瞳を見つめ、必死に考え抜いて出した答えだったがどうやらハズレだったらしく、首を垂らしてしまう。言葉が分からず困り果てる彼に救いの手を差し伸べたのは、正常に戻ったクラリスだった。




「お兄さん、この子きっとお名前が欲しいんだと思いますよ?」


「名前?」




 クラリスの話によると、召喚されたモンスターには自分が契約主だと分からせるために名を付けてあげる必要がある、との事。つまり蒼汰が二匹の巨大蝶に追いかけまわされていた時、一緒になって追いかけまわしていたのは名を貰う為だったと言う訳である。




「お前、名前が欲しかったのか」


「グルルルッ」




 蒼汰の問いかけに首を縦に振る大狼。どうやら正解だったようだ。




「名前、なぁ。ここ最近そんなのばっかりだからもうネタが無いんだよなぁ……」




 よほど名前が欲しいのだろう、期待の眼差しを向けていた大狼だったが彼のそんな呟きに打ち砕かれ、また視線が地面を向いてしまう。彼に悪気は無いのだが、本当に良い名前が思いつかないのだ。




『マスター。何でしたら私が幾つか候補をご用意致します』


「いやいや、流石にそれは可哀想だろ。

……そうだなぁ」




 何か名前の参考になるのでは、と大狼を眺める蒼汰。鋭く光る眼はしっかりと彼の動作の一つ一つを捉えんとし、犬で言う所のおすわり状態なのだがその佇まいからは厳格さが感じられる。この見た目で”ポチ”や”クロ”の様な名前は似合わないのは自明の理だろう。




「……”フォウル”、とかどうだ?」


「ヮオ────ン!!」


「あっ、凄い喜んでるみたいですね!!」




 何とかひねり出した名前を告げると、大狼ことフォウルは遠吠えの様な声を天井高く張り上げた。その様子からも喜びの程が窺い知る事が出来、蒼汰としては大変満足な結果となった。

 だがしかし、狼の英単語”wolf”を並べ替え”fowl”に変えただけの安直な発想ではそう上手くいく筈もなく、”fowl(意味:家禽類、特に鶏などの大型の鳥)”という意味がある事を彼が気付く事は無かった。





















───────────────────






 ブロック壁に掛けられた燭台の蝋燭が照らすだけの薄暗い部屋の中では、灯りによって肌の色が焼けた様に見える、真っ裸の四人の男達が一つのベッドを囲み何やら不穏な会話を交わしていた。




「───って訳だからよ、明日の朝にはそこに捨てに行くのが良いと思うんだよ」


「そんな所が出来ているなんて好都合にも程があるぜ。

……しかし、本当に勿体ない事をしたよなぁ」


「それをお前が言うかよっ。お前があんな乱暴しなければもう半日は遊べたぞ?」


「いやいやそれはムリだろ。だってコイツ、ちょっと薬入れただけで即堕ちたんだぜ?

元々素質があったんだろうよ。じゃなきゃあそこまで暴れらんねぇよ」


「一滴で虫なら殺せる毒性の媚薬を原液で体に塗り込んだんだ、息しているだけ奇跡だろ」


「まぁそうだよな。……と言うかコイツ、生きてんのか?」




 誰の発言か分からないが、四人はその声につられ一斉にベッドに目を向ける。




「……一応心臓は動いてるな」


「けっ、しぶとい野郎だ。あれだけ甚振(いたぶ)ったって言うのに」


「ま、上手い事致命傷だけは避けてるからな。

しかしコイツの泣き叫ぶ姿は本当に滑稽だった、久々にそそられた」


「お前ホントにサディストだよな。お前のせいで俺、もう一回ヤろうと思ってたのに出来なかったんだからな?」


「まぁまぁ、そういうなって。また領主様が上玉を寄越してくれるだろうからな」




 その言葉に四人が下賤な笑みを浮かべると、どこからともなく吹いて来た冷たい風に襲われる。




「ううっ寒っ……」


「そういや俺達まだ裸だったな。

……そろそろいい時間だし、ここらで解散にしておこう」


「あいよ。また明日の朝、時間通りにここで、な」




 肌白い四人の足元には、力なく垂れ下がる片腕が垣間見えていた。



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