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終曲の奏者  作者: syara
7/9

小夜曲

「話は終わったのかい?」

「ああ。悪いな、グレン。そういうわけだから、俺たちは関所と強行突破する。翠華とは別行動になるけど・・・・・」

「何言ってんだい?アタシらも行くに決まってるだろ」

「え、でも運に任せて生きるんだろう?それに反することになるぞ?」

「細かい男だね、アンタも。・・・・・じゃあ、もう一度賭けようか」


 再びトランプのデックを取り出すグレン。ジョーカー1枚を抜き、シャッフルしてこちらに渡してくる。


「ほら、早く引きな」

「・・・・俺が引くのか?」

「もちろん。今回賭けるのは、アンタの価値だ」

「えっ・・・・・」

「もしジョーカーが出たら、アンタにはついて行く価値がある。それ以外なら無い。お前のお仲間があそこまで言うんだ。本当にお前にその価値があるのなら、出るはずさ」


 1/53・・・・・。強運というグレンですら、望んで引けなかった一枚。

 それを、俺が引けるのか?


「早く引きなさいよ、カムラ」

「セレス・・・・・」

「大丈夫、絶対に出る。安心して引きなさい」

「・・・・・ああ」


 デックの中の一枚を適当に引き抜く。

 これがジョーカーでないのなら、俺にただ運がなかっただけのこと。そう、ただそれだけのことだ。

 引いたカードをグレンに見せつける。それを見たグレンの表情は、鳩が豆鉄砲を食ったようだった。


「まさか、本当にジョーカーを引くとは・・・・」

「ほらね、出たでしょ」

「えっと、それじゃあ・・・・・」

「ああ、約束だからね。アンタらが関所を攻める時、アタシら翠華も手を貸そう」

「じゃあ、この話はおしまい。・・・・・ローザ=グレンケア。あなたに話がある。少し時間をもらえるかしら」

「・・・・・別に構わねぇよ。嬢ちゃんがさっきからアタシを睨んでたのと関係あるんだろ?」

「ええ」


 俺が言葉をかける間もなく、二人は森の暗闇に消えていく。

 セレス、いったいどうしたのだろうか。


「それにしても、よく翠華と手を組めましたね」

「俺も、あいつらと手を組むことになるとは思ってもみなかったよ。これも全部、クラネのお陰だな」

「・・・・・・・・え?」


 俺の言葉を聞いた直後、アマネの表情が変わった。驚いているのだろうか。


「カムラさん、今なんて・・・・・?」

「え?いや、翠華と手を組めるだなんて思ってもみなかったって・・・・・」

「その後です!」

「えっと、これも全部クラネのお陰だって・・・・・」

「クラネが、いたんですか!?」


 血相を変えて問い詰めてくるアマネ。こんなに感情的になっているのは初めて見た。


「知り合い、なのか?」

「クラネは、私の弟です!」

「何だって!?じゃあ、クラネが探している姉って・・・・・」

「クラネの居場所を教えてください!早く!」

「わ、わかったから落ち着けって!」







 興奮冷めやらぬアマネを連れて、あの服屋にやってきた。そこには、ちょうど閉店準備をしているクラネの姿があった。


「本当に・・・・・生きて・・・」


 それを見ただけで、涙を流すアマネ。じゃあ、やっぱりクラネはアマネの弟で間違いないのか。


「クラネ!」

「え、ちょ!?どうされたんですか!?」

「・・・・・私のことが、わからないの?」

「す、すみません。数年前に記憶を失ってしまって・・・・・」

「そん、な・・・・・」


 ・・・・・そうだった。クラネは姉の名前も容姿も思い出せないと言っていた。アマネは一目でわかっても、クラネからすれば、アマネは初めて見る女性でしかない。


「ごめんなさい、思い出せなくて。・・・・・でも、不思議です。あなたからは、とても懐かしい感じがする。もしかしてあなたは・・・・・」

「・・・・・私は、アマネ。あなたを守れなかった、駄目な姉よ」

「やはりそうですか。・・・・・ずっと、探していました。名前も、姿も忘れてしまったのに、失くしてしまった記憶の跡に、確かにあなたを感じていました。会えて、よかった・・・・・」


 お互いに涙を流しながら抱きしめあう二人。

 ・・・・・感動の再開を邪魔しちゃ悪いよな。俺は先に宿に戻るとするか。








同刻 森の奥地


「さて、お嬢ちゃん。そろそろ要件を聞かせてくれないかい?」

「ええ、そうするわ」


 暗い森の中で、セレスの強い視線がグレンに向けられる。そこに込められている感情は、不安。


「あなた、グレンケア家の長女なのよね。つまり、父親はあのジル=グレンケア、よね?」

「ああ、そうだぜ。それがどうかしたのか?」

「あの話を聞いた後にする質問じゃないのかもしれないのだけれど・・・・・。あなたは、父親のことが好き?それとも嫌い?」

「・・・・・それを聞くために、わざわざこんな森の奥まで連れてきたのかい?」

「いいから、答えて」

「そうだねぇ・・・・・。自分の身の保身のために、アタシの人生を散々縛ってくれたわけだしねぇ・・・・・。まあ、人としては嫌いだな」


 それを聞いたセレスが抱いた感情は、安堵だった。

 しかし、グレンの続けた言葉によって、その感情は反転する。


「でも、やっぱアイツがいなかったら、アタシは産まれてこなかったわけだしな。母さんと結婚して、アタシに人生を与えてくれたって意味では、感謝してるさ」

「っ!・・・・・そう、よね。父親、なのだものね・・・・・」

「ん、どうした嬢ちゃん?顔色悪いぞ」


 グレンの本心を聞き、セレスの心は不安に染まる。

 グレンには、まだ伝えなければならないことがあるのだ。でも、セレスはそれを言うことを恐れる。


「・・・・・本当に大丈夫か?震えてるみてぇだが、寒いか?」

「・・・・・私にも、父親がいた。貴族として育ち、娼館でお母さんと出会って、私を産んだ。でも、娼婦であるお母さんとの間に子を作ったなんて知られれば、あいつの経歴に傷がつく。それを恐れたあいつは、お母さんを殺した」

「・・・・・」

「・・・・・・・・私の父親の名前は」

「ジル=グレンケア、だろ?」

「・・・・・ええ」


 気楽な表情を崩さないグレンも、今ばかりは真剣な表情をする。グレン自身、セレスの話を聞き始めてからそうではないかと察していた。


「なるほどなぁ。つまり、アタシとアンタは異母姉妹ってわけだ。・・・・・まさかアタシに妹がいたとはねぇ。さすがにびっくりだよ」

「私は、ローザという娘があの男にいることだけは知っていた。でも、それが世間に名を轟かす盗賊団の団長だとは思いもしなかったわ」

「あんたは、あの父親が嫌いかい?」

「・・・・・ええ」


 セレスは、最後まで言うべきか悩んだ。これを言ったら、どうなるのか。それを考えることは、15歳の少女にはあまりに苦しい。

 でも、セレスは決断した。事実から逃げないことを。


「嫌いよ、あんな男。・・・・・この手で、殺してしまうほどにね」

「・・・・・おいおい、嬢ちゃん。冗談きついぜ?」

「これは冗談でも嘘でもない。私は、あの男を殺した」


 本心では父親のことを嫌いではないというグレンに、この事実を告げることがどういうことなのか。それを理解しているセレスは、罪悪感に駆られる。

 父親を殺したことを、後悔はしていない。でも、その事実を知ることで傷つく人間を目の当たりにして、今まで押し殺していた不安が爆発する。


「ごめん、なさい・・・・・。私は、あなたの大切な家族を奪ってしまった。許されることじゃないのはわかってる。だから・・・・・っ!?」


 震え、涙を零して謝るセレス。しかし、彼女が言葉を言い切る前に、グレンはセレスを抱きしめていた。


「セレス、だっけ?辛かっただろ?復讐のためだとしても、アンタみたいな子供が人を殺して平気なわけがねぇ」

「・・・・・私は、決して許されないことをした。肉親を奪われる苦しみを、私は知っていたはずなのに」

「アタシの父親は、アンタに殺されて当然のことをした。自業自得ってやつさ。そのことでアンタを恨んだりしねぇし、責め立てる気もねぇよ。そんな辛い人生だったのに、今日までよく頑張ったな。セレス、アンタは立派な強い女だよ」

「あなたは、私が憎くないの?大切な家族を殺されて、何でそんなことが言えるの?」

「決まってんだろ。アンタだって、アタシの大切な家族だからだよ。世界にただ一人だけの、大切な妹だ。そんな妹が辛くて泣いてるんだ。アタシは、そっちの方が辛いよ」


 セレスの涙を拭い取り、正面からセレスを見るグレン。その表情は盗賊団団長としての顔ではなく、一人の姉の優しい顔だった。


「アンタのことを知りもしなかったアタシが言うのも変だけどさ。心を許せる仲間を見つけたんだろう?」

「・・・・・うん」

「人を殺した罪ってのは、どうやったって償えるもんじゃねぇ。命ってのは、どう頑張っても蘇らねぇんだからな。だから、それを忘れずに、生きてる人間に命を懸けて尽くすんだ。人を殺して、自分も意味なく死ぬ。それが、一番の冒涜だからよ」

「あなたも、そうなの?」

「アタシも盗賊団なんてやってるからね。生きるために殺しちまった奴もいる。だから、アタシは絶対にこの生き方を曲げない。何も残さないまま翠華の団長であるアタシが死んだら、死んでいった奴らに申し訳が立たねぇからな」

「強いのね、あなたは」


 グレンの言葉は、セレスの心に強く響く。

 そこにいるのは、盗賊団の団長と、人殺しの少女ではなく、どこにでもいる姉と妹だった。


「いやぁ、それにしてもアタシの妹かぁ」

「何か不満でも?」

「似てねぇなって思っただけさ」

「それは私も思ったわ。貴族の娘だと聞いていたのに、いざ会ってみれば下品な盗賊団の団長だなんて」

「悪かったな。・・・・・さて、あんまり遅いとうちの部下も心配し始めるし、そろそろ帰るか」

「そうね」

「手でも繋いで帰るか?」

「嫌よ。姉だからって、調子に乗らないでくれるかしら?」

「ったく、可愛くねぇな。お姉ちゃんって呼んでもいいんだぜ?」

「お断りよ」


 互いの事も知らなかった姉妹。

 まだその距離感も、接し方も掴めない二人は、夜の森を歩く。

 手さぐりに関係を築く二人だが、これだけは確信している。この人は、大切な家族なのだ、と。








 そして、新しいスタートを切ろうとするもう一つの“姉弟”が、夜の街を歩く。


「なるほど、それで僕は傷だらけの状態でグレンさんに拾われたのですね。たぶん、グレンさんに助けられた後だったから、アマネさんが来た時に僕はもういなかった」

「あ、あのさ・・・・・。その、アマネさんって呼ぶの、やめてくれない?弟にさん付けで呼ばれるの、何か変な感じなの」

「す、すみません!でも、まだ実感が湧かなくて・・・・・」


 アマネとクラネは、二人で夜の街を散歩していた。

アマネから話を聞いた後でも、クラネが過去を思い出すことはなかった。


「私さ、あなた以外の人に、こういう砕けた話し方って、絶対に出来ないの。仲間だと言ってくれたカムラさんたちが相手でも、敬語になっちゃうの。でも、あなただけは特別。ずっと一緒に生きたあなただからこそ、私はこうやって素直になれるの」

「えっと、ね、姉さんは、ずっとカムラさんたちと旅をしてきたんですか?」

「ううん、カムラさんと出会ったのはつい最近。数年間、ずっと一人で逃げていたわ」

「そう、でしたか。・・・・・えっと、あの・・・・・ごめんなさい!」

「何で謝るの?」

「姉さんが大変な思いをしていたっていうのに、僕だけ全部忘れて、この街で服屋なんてしてのうのうと生きていて・・・・・」

「何言ってるのよ。あなたが生きていてくれたことが、私にとって何より嬉しいことよ。謝るべきなのは、むしろ私の方よ。姉なのに、あの時あなたを守れなかったのだから」


 互いに、相手への負い目を感じている二人。

 しばらく、言葉を発さずに夜の街を歩く。

 長い沈黙を破ったのは、姉であるアマネだった。


「ねえ、クラネ。あなたから見て、私はどう見える?」

「どうって・・・・・。優しい方だと、思います。記憶を失う前も、きっと姉さんは今のように優しくしてくれたのだと、そんな気がします」

「そっか。・・・・・ちょっと来て」


 クラネの手を引き、アマネは近くの路地に入る。

 周囲に人がいないことを確認し、アマネはクラネに告げる。


「今の私は、本当の私じゃないの。これは、カムラさん達にも、まだ見せていない。これを見たら、あなたは私を恐れてしまうかもしれない。でも、見てほしいの」


 胸に手を当て、全身に魔力を纏う。黒い光がアマネを覆うと同時に、一瞬でその姿が変容する。

 背中には黒い羽、頭には角。鋭い八重歯が光り、目は真っ赤に妖しく光る。


「なっ!?」

「これが、今の私の本当の姿。魔王である、私の姿」

「魔王・・・・・?」

「私は、カムラさん達を支えるために、魔王になる力を手に入れたの。この旅が終わったら、ヘル王国を統治することになる、らしい」


 突然のことに言葉を詰まらせるクラネ。それを見てアマネは自嘲気味に微笑む。


「こんな姿をいきなり見せたら、驚くわよね。いいのよ、化け物だって罵ってくれて」

「い、いえ。そのようなことは思っていないのですが。・・・・・その、何て言ったらいいのかわからなくて」

「何も言わなくていいのよ。私が、あなたに見てほしかっただけだから」

「そう、ですか・・・・・」

「ただ、これだけは伝えておきたいの。私たちには、今まで居場所がなかった。でも、今の私たちには居場所がある。私の居場所が仲間たちのところで、あなたの居場所がこの街なようにね。でも、それは私たち姉弟の居場所じゃない。私たちの居場所は、今も見つからないまま。・・・・・この旅が終わったら、私はヘル王国で過ごすことになる。そこは今まで追われ続けた私にとって、唯一の安住の地と言ってもいい。あなたがよければ、私は二人揃ってそこで過ごしたいと思っている」

「ヘル、王国・・・・・」

「あなたにとって、そこが魔族の巣窟でしかないことはわかってる。そんな場所に住みたくないのは、当然理解しているわ。だから、私が魔王になって、あなたが来てもいいと思えるような場所にしてみせる」

「姉さん・・・・・」

「家族のためなら・・・・・いや、あなたのためなら、私は何だってしてみせるわ。だから、それが実現する日まで、待っていてくれないかしら?」

「・・・・・僕は、それでいいのでしょうか。今までだって姉さんだけが苦しい思いをしてきたのに、ただ待っているだけなんて」

「あなたは私の弟なんだから、いつでも私に甘えなさい。もう、あなたを失いたくないから。ここで、待っていて」

「・・・・・ありがとう、ございます。姉さんの旅の無事を、ずっとお祈りいたします」

「ありがとうクラネ。大好きよ」


 姿を元に戻し、クラネを抱きしめるアマネ。困惑しつつも、クラネもそれに応え抱きしめ返す。

 記憶を失っても、この二人の姉弟の絆が消えることはないだろう。

 たとえ、死が二人を分かつとも。








同刻 宿屋


「まったく、君はもう少し楽をしようとか思わないのかい?あんな口約束、守る必要はない。今からでも、別の抜け道を探すべきだと僕は思うけどね」

「でも、ジョーカー出たぞ?」

「あんなの確率で言えば約2%。決してあり得ない確率じゃないよ。偶然で片付けられるさ」

「じゃあ、ライは別の道から行くか?」

「何でそうなるんだい・・・・・。僕は、どうせ敵が関所に集まるのなら別の道を使って安全に行こうと言っているだけじゃないか」


 宿屋に帰ってすぐ、ライはそう提案してきた。

 確かに、ギルの安直な性格なら間違いなく関所に兵を構えてくる。それを避けて抜けるのは、むしろ以前にも増して簡単だろう。


「だからって、一度言ったことを曲げるなんて、俺には出来ないよ。よく言うだろ、男に二言はないって」

「僕たちだけなら平気かもしれないけど、翠華に協力を仰いでいることを忘れないでくれよ?ここで向こうに甚大な被害が出れば、今後協力を得られないことだって考えられるんだから」

「・・・・・ああ、なるほど。グレンが心配なのか」

「誰もそんなことは言ってないよ。彼女の生命力は人並み外れているから、最悪の場合に役立つ囮としか思ってないよ」


 嘘だな。

 気まぐれな性格だけど、ライは義理人情に篤い一面がある。グレンに対しても、きっと負い目を感じている。だからこそ、こうして関所以外の道を勧めてくるのだろう。


「だったら、俺じゃなくてグレンに言えばいいじゃないか」

「ローザに頼んで了承を得る見込みがないから君に頼んでいるんじゃないか・・・・・」

「じゃあ、はっきり言うぞ。俺に言っても無理だから諦めろ」

「ライ、俺たちはカムラについて行くと決めた身だろ?だったら、こいつの意志を尊重してやろうぜ」

「ジークまで・・・・・。はぁ、わかったよ。二日以内に、国境周辺の敵勢力を探っておく」

「悪いな」


 何だかんだで、ライはいつも協力してくれる。

 そういえば、グレンに脱走を提案したのはこいつなんだよな。いったい、何故貴族でありながらその身分を捨てようなどと思ったのだろうか。


「それより、そっちの嬢ちゃんはどうするんだ?」

「・・・・・ミサ」


 ベッドで眠るミサに視線を移す。あの戦いの後、ミサが未だに目を覚ますことはなかった。アマネが言うには、ミサに掛けられた術は解除したから大丈夫らしいが。


「精神支配の魔法と言っていたね。いわゆる洗脳状態。そんな魔法は聞いたことがないけど・・・・・」

「操っているのはギルに見えた。でも、ギルはそれほど魔法に秀でていない。そんな魔法が使えるとは思えない。可能性があるとすれば・・・・・」

「俺と同じ、魔晶石って呼んでたこの石か」


 それ以外、考えられない。

 あの魔晶石について疑問は残るが、今それを考えても仕方がない。


「ミサが起きたら色々聞いてみる。二人とも、今日はもう休んだらどうだ?」

「俺はそうさせてもらう。結構疲れるんだ、この石使うの」

「時間が惜しい。僕は夜が明ける前に、隣町へ向かうよ」


 そう言って、二人とも部屋を出ていく。


「・・・・・アマネとクラネ、ライとグレンは数年ぶりの再会か。それだけ年月が開いても、あいつら仲良かったな」


 椅子に腰かけ、眠っているミサの方に語りかける。


「それなのに、ちょっと前まで一緒に旅してた俺たちは、何でこんなにバラバラ何だろうな・・・・・」


 ミサはもちろん、ギルとだって旅の中では上手くやれていた。あいつのことは信頼していたし、今だって敵対したくないと思っている。

 でも、そう思っているのは俺だけなんだろうな。


「三日後、俺たちは戦うことになるだろう。ミサ、お前はどうするべきだと思う?戦う以外に、何かないのかな・・・・・」


 眠っているミサに話しかけたところで、返答があるはずがない。でも、もしその問いの答えを出せるのだとすれば、それはきっと共に旅をしたミサだけだと思う。


「俺も疲れたし、寝るかな」


 睡魔に身を任せ、そのまま机に頭を置いて眠る。背後で動いた人の気配に気づくことなく・・・・・。







「申し訳ございません、カムラ様。私には、時間がありません。次はもう、戻ってこれない。だから・・・・・」


 静かに扉を開けた少女は、眠る少年に視線を向ける。


「私は、最後にあなたのために出来ることをしてきます。きっともう、あなたとは会えない。それでも、あなたがこの世界を否定するのなら、私もその意思に従います」


 思い人の顔を脳裏に焼き付け、二度と再会が叶わないことを理解してなお、少女は部屋を出る。


「さようなら」


 残ったのは、部屋の入口に落ちた少女の跡だけだった。


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