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終曲の奏者  作者: syara
5/9

間奏曲

 サイバーライト王国辺境の街、テクノア。ライの言う通り、この街では俺たちのことは広まっておらず、隠れて休むには絶好の場所だった。

 知り合いの情報屋に会ってくるというライと一度別れ、俺たちは宿屋で休息をとっていた。


「久しぶりにベッドで寝れるわね。さすがに、一週間も野宿生活はこたえるわ・・・・・」

「嬢ちゃんが弱音とは珍しいな」

「あら、私だってか弱い女の子だもの。弱音くらい吐くわ」

「か弱い女の子ねぇ・・・・・」

「あら、何か言いたそうね。ここで旅をリタイアしたいなら、言ってもいいわよ?」

「・・・・・遠慮しておこう」


 宿の部屋に集まり、くだらない会話をしていた、その時だった。

 腰に携えた魔剣から、アーミラが久しぶりに現れた。


『盛り上がっているところ悪いけど、失礼するわね』

「こんなところで出てくるなんて意外だな。何か用か?」

『ええ。とても大切な用事よ』


 そう言ってアーミラは視線をアマネに向ける。しばらく観察するように眺めた後、ふわふわと浮きながらアマネに近づいていく。


『やっぱり、あなたが適任だわ。ねえ、アマネ。あなた、私の跡を継いでみる気は無い?』

「ふぇ!?」

「後を継ぐって、まさか魔王のか!?」

『ええ。他に私から継ぐものなんて無いでしょう?』


 確かにそうだけど・・・・・。いや、ちょっと待て。


「そもそも、この前アーサーと戦ったとき、お前は俺に魔王の黒の器とやらを与えたじゃないか。それって、魔王の力を俺に渡したってことじゃないのか?」

『黒の器は、魔王になるものが自らの力で創り出す、いわば証のようなもの。あなたに与えたのは“私の黒の器”。もしアマネに魔王になる意思があるなら、彼女の黒の器を生成する手助けをするわ』

「えっと、その・・・・・。何で、私なんですか?カムラさんやセレスちゃんの方が、そういうのは向いていると思うのですけど。私なんて、人の上に立つような自信も度胸もないですし・・・・・」

『別に、魔王になるものがカリスマ性を示さなければいけないなんて、そんな決まりは存在しないわ。それよりも、生まれながらに魔の力に愛されたあなたは、誰よりも魔王に向いているわ』


 ・・・・・確かに、人間でありながら闇魔法しか使えないというのは珍しい。アーミラももとは人間らしいし、そういう意味ではアマネは適任なのかもしれない。


『なにより、魔王の力は絶大。その力を手に入れれば、あなたはもっと強くなれる。この意味、わかるでしょう?』

「あ・・・・・」

「アーミラ、その辺にしておきなさい。こんなに優しい子が、魔王になんてなれるわけないでしょう」

「そうだぞ、アマネ。嫌なら、迷わず嫌だと言っていいんだぞ」

「・・・・・いえ、やります」

「「え?」」

「私、やります!アーミラさん、私に、黒の器の創り方を教えてください!」


 え、嘘だろ?あの引っ込み思案なアマネが、こんなあっさり魔王になることを決めるなんて。


『いいわよ。ただし、簡単にはいかないわよ。厳しい訓練が必要だけど、覚悟はある?』

「あります!私は、皆さんのお役に立てるのなら、どんな訓練でも耐えてみせます!」

『よし。・・・・・それと、ジークだったかしら?』

「ん、俺か?」

『自覚していると思うけど、今のあなたではカムラ達にとって足手まといでしかないわ』

「っ・・・・・」

「おい、アーミラ。そんな言い方はないだろう。俺たちの身の回りのサポートもしてくれるし、悩みがあったら相談に乗ってくれる。機転も効くし、頼れる仲間じゃないか」

『・・・・・わかっていると思うけど、この先に待っているのは闘いの日々よ。あなたのかつての仲間や、各国の将と呼ばれる者たち。そして、あのアーサー。それを乗り越えて、私たちはアヴァロンに辿り着かなければならない。そんな戦いの中で、ジーク。このままではあなたは、真っ先に死ぬわ』


 確かに、この先にはギルやアーサーが立ち塞がるだろう。アーサーは化け物だし、ギルだって俺に負けず劣らず強力な戦士だ。

 ろくに魔法も使えず、力で勝負するジークは、確かに奴らと戦い抜くのは厳しいかもしれない。


『でも、悲観しなくていいわよ』

「え?」

『あなたが村から持ってきたあの石。あれには、膨大な魔力が込められている。あれを使えば、もしかしたら化けるかもしれないわよ、あなた』

「本当、なのか?」


 ポケットからあの石を取り出して、それを見つめるジーク。しばらくして、石をグッと握りしめる。


「頼む。この石の使い方を教えてくれ!」

『ええ、いいわよ。それじゃあ、私は一度宿り主を変えようかしら』


 魔剣からわずかに吸い出されていた魔力の供給が消える。それはすなわち、魔剣からアーミラが出ていったということ。

 次に光ったのはアマネの杖。そして、アマネの横にアーミラは現れた。


『さあ、行くわよ二人とも。あまり訓練に使える時間は残されていない。とにかく、時間の許す限りあなたたちに私に知るすべてを叩き込むわ』

「は、はい!」

「そういうわけだ。俺たちは訓練してくるから、お前らはゆっくり休んでおけよ」


 そう言って二人(三人)は外へ出ていった。

 当然、部屋には俺とセレスだけが残されるわけだが・・・・・。


「カムラ、この後何かすることある?」

「いや、別にないけど」

「じゃあ、ついてきて。したいことがあるの」








「ねえ、これどう?似合う?」

「・・・・・ああ、うん。いいんじゃね?」

「適当ねぇ・・・・・。そんなんじゃモテないわよ?」

「余計なお世話だ」


 セレスに連れられてきた場所。そこは服屋だった。ジークから少し金をもらったらしく、新しい服を買いたいからついて来いという。いや、もっと他に買うものあるだろ。


「あなただって、少しは身なりを変えたらどうなの?あのミサって女には、もう見られているのだから」

「ミサなら大丈夫だろ。あの様子なら、次会うときもきっと味方だって」

「まあ、ずいぶんあなたに執着していたみたいだしね。ただ、足元をすくわれないように気をつけなさいね」

「どういうことだ?」

「この先戦う奴らのほとんどは、あなたの味方だった人たち。くだらない情に流されて、私との約束を破ったら承知しないわよ?」


 死ぬつもりなんて毛頭ない。・・・・・たとえかつての仲間でも、躊躇していては前へ進めない。

 セレスと、仲間と共に神を殺す。ただ、それだけを見据えて進むんだ。


「まあ、今は堅苦しいことを考えるのはやめましょうか」

「言い出したのお前だろ」

「それはそれ。で、どうなの?この白のワンピース、似合ってる?」


 引き下がる気がなさそうなので、仕方なく見てやる。

 正直なところ、白って色自体がセレスのイメージと合っていない気もする。でも、改めて見てみると思いのほか似合っている。セレスという人間の性格を考慮しなければ、似合っていると言えるだろう。


「まあ、変装って意味ではいいんじゃないか?」

「・・・・・それはつまり、これを素の私が着ていたらおかしいってことかしら?」


 眉間にしわを寄せるセレス。あ、やべぇ怒らせちまった。


「いや、そうじゃなくてだな。セレスはもっと大人びたイメージがあるから、そういうシンプルなデザインは意外だなって意味で・・・・・」

「あのね、私まだ15歳なのよ?」

「とても15には見えないんだよお前・・・・・」


 結局鏡を見て確認しだすセレス。・・・・・これじゃあ、いつ帰れるかわかったもんじゃない。


「でもまあ、似合ってると思うぞ。それ」

「ほんとに?」

「ああ」

「そう。・・・・・じゃあ、これにする」


 そう言ってセレスはそそくさと会計に向かう。今まで迷ってたのは何なんだよ・・・・・。


「カムラは服とか買わないの?」

「俺はいいよ。別段、今の服でも目立つことはないしな」

「うーん、そうかしら。あなたを知っている人なら、一目でバレると思うわよ。ちょっと来なさいな」

「え・・・お、おい!」


 手を引かれ、男物の服の売り場に連れていかれる。商品を一通りみたセレスは、その中から何着か持って俺の下へ戻ってきた。


「これは・・・・・違うわね。これも微妙か。うーん・・・・・・」


 俺の前に服を掲げ、一つずつ確認していくセレス。遠くにいる店員がこちらを見て微笑んでいるのがわかる。くそっ、何か恥ずかしいなこれ。


「これとかどう?ちょっと着てみてよ」

「ずいぶん長いコートだな。動きにくそうなんだが?」

「あなたは普段の格好がラフすぎるわ。少しきっちりとした服装に変えれば、結構見栄えも良くなると思うわよ」


 先ほど同様退いてくれる様子はないので、セレスが持ってきたコートを羽織る。

 軍人とまではいかないが、膝辺りまであるコートを羽織るだけで確かにお堅い雰囲気が出る。


「うん、似合ってる。いいじゃない、買ってきなさいよそれ」

「まあ、そこまで言うなら・・・・・」


 ジークとライがそれなりに金を持っていたこともあり、今のところ金には困っていない。服一着くらいなら問題ないだろう。

 コートを持ち、店員に購入を求める。先ほどこちらを見て笑っていた店員だが、会計の際に話しかけてきた。


「ずいぶん仲が良いみたいですね。妹さんですか?」

「・・・・・あれが妹に見えるか?」

「おや、違うんですか?じゃあ、恋人ですかね」

「なぜそうなる・・・・・。ただの旅の仲間だよ」

「ただの旅の仲間のために、女性はあそこまで服選びに必死になりませんよ。こういう職業だから、人の間柄には敏感なんです。お二人は、とても仲が良い」


 仲が良い、か。


「いや、違うな。俺たちの関係は、そういう類のものじゃない。同じ目標を共有する、運命共同体ってやつだな」

「平和な片田舎でのんびり暮らす僕にはわからない感覚ですね。でも、大切な存在なら、ずっとそばにいてあげてください。失ってからでは遅いのですから」

「あんた、もしかして」

「姉がいたんです。いや、いたはずなんです。ただ、僕は数年前にある人に拾われたところから記憶が無くて・・・・・。朧気ながらに覚えているのは、自分の名前と、姉がいたことくらいでして・・・・・」

「その様子じゃ、お姉さんとは出会えていないみたいだな」

「はい。僕を拾ってくれた方も探してくれているのですけど。名前も容姿も思い出せないので、残念ながらまだ見つかっていません」


 家族と生き別れた、か。やっぱり、そう奴も多いんだな。


「僕も拾われたときはずいぶんボロボロだったそうで。命があっただけでも神に感謝ってところですかね」

「神に感謝、か・・・・・」

「長話になってしまいましたね。こちら、少し値引きしておきますね。話に付き合わせて決まったお詫びです」

「すまないな。お姉さん、見つかるよう願ってるよ」

「ありがとうございます。・・・・・僕の名前、クラネっていいます。もし旅の途中、僕を探しているような人がいたら、この街にいることを伝えてくれませんか?」

「ああ、わかった。それじゃあな」

「またのご来店を、お待ちしています」








「ふーん。家族と生き別れた、ねぇ・・・・・」


 俺とセレスは、服屋を出た後近くにあった喫茶店で食事をすることにした。セレスは甘党のようで、腹が減ってないからとケーキを食べている。

 ・・・・・太るぞとは、絶対に言わないようにしよう。


「それで店員と長話してたのね。まあ、お金が少し浮いたのならいいんじゃない?」

「まあな。さて、ここを出た後はどうするか・・・・・」

「順当に進むならストレンジアへまっすぐ向かうのが一番なのだけど、さすがに真正面から関所を通るわけにもいかないわ。ここに来るときに通った坑道みたいな、抜け道を探すしかないわね」


 抜け道かぁ・・・・・。そういう道がそういくつもあるものなのだろうか。それに、また盗賊のアジトになっている可能性も・・・・・。


「それなら心配いらないよ」

「うわぁ!」


 一切の気配無く背後から聞こえた声に思わず大声で驚いてしまった。

 声の主はライだった。この気配のなさは仕事柄なのだろうか・・・・・。


「ここから西に進んだところに、国境を跨ぐカラリオ火山って山があるんだけど、半年に一回くらいのペースで活動期に入るらしいんだ。その度に封鎖されるらしいんだけど、どうやら今がその封鎖期らしくてね」

「まさか、その活動期の火山に潜り込んで通り抜けてしまおうとか考えてないよな?」

「いや、思ってるけど」

「馬鹿か!危険すぎる。却下だ却下」


 以前魔族の討伐に火山へ赴いたことがあるが、火山の噴火が起きた時はマジで死ぬかと思った。ミサの魔法で入り口を塞いだ洞窟で、二日も動けなかったのだから。


「確かに危険ではあるのだけど、そこを通るしかないんだよ」

「他に道はないのか?」

「あるにはあるんだけど・・・・・。因果は巡るってやつだね。また、“奴ら”さ」

「・・・・・もしかして、翠華?」

「その通り。坑道を追われた翠華は、流れるようにこちらに移動したようでね。火山以外は、奴らの移動経路候補なんだとさ」


 本当に俺たちの邪魔をしてくれるな、そいつら。


「でもまあ、ある意味チャンスかもしれないけど」

「チャンス?」

「ああ。翠華と手を組むチャンスさ」

「はぁ!?盗賊団と手を組むだって?無理に決まっているだろう」

「そうとも言い切れないんじゃないか?この国を抜けてストレンジアへ行きたいという点では、僕らと翠華の目的は一致している。お互い国に追われる身だ。協力することは可能だと思うけどね」


 いや、でも翠華が占拠したジークの村から、幹部もろとも追い出しちゃったしなぁ・・・・・。とてもうまくいくとは思えないんだが。


「一番いいのは、翠華とつながりのある誰かを味方につけて、その人物に交渉してもらうことなんだけど・・・・・」

「そう都合よくいるわけないだろ、そんな奴」

「そうなんだよね~。だから、やっぱり火山通るしか・・・・・」

「よし、待ってろ。翠華の知り合い探してくる」


 火山は嫌だ。絶対に嫌だ。あんな危険なところ通るくらいなら、盗賊団と組んだ方がマシだ。


「わかったよ。僕の方も、知り合いを当たってみる。また今夜、宿で落ち合おう」

「ああ、頼む」

「・・・・・カムラ。あなた、早く食べないと料理冷めるわよ?」


 あ、そうだった。食事の最中だったんだ。


「二人は上手くやっているのかしらね・・・・・・」

「アマネとジークか。あっちも大変そうな気がするけどな」

「アーミラのことだから、普通じゃない訓練をしていることは間違いないわね」







そのころ、森の中


「はぁ・・・・・はぁ・・・・・。あの、アーミラさん。これ、いつまで続ければ・・・・・」

「そうねぇ。とりあえず、日が沈むまでかしら」

「ええ!?」


 アーミラさんが始めた訓練。それは想像の斜め上をいくものだった。

 魔法で創り出した鳥を、魔法を使わずに捕まえろと言うのだ。しかも、捕まえたらまた別の鳥を出現させる。


「この訓練、いったい何の意味があるんですか?」

「いずれわかるわ。ほら、早く追わなきゃ見失うわよ」

「は、はい!」






「さて、そちらはどうかしら?」

「全然だめだ。お前の言う“声”とやらは、いつまで経っても聞こえやしないぞ?」


 この女が俺に与えた訓練。それは、この石に込められた魔力の声を聞けというわけのわからないものだった。

 胸に石をあてていれば、そのうち聞こえるとこの女は言うのだが・・・・・。


「聞こえないのは、あなたがその中に宿る魔力を理解できていないから。今は、カムラたちの役に立つとか、そういうことをすべて忘れなさい。この中に込められた、あなたに向けられた想いに向き合うのよ」

「想い・・・・・。わかった、やってみる」


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