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第十二章 脱出(5)

 楽しんでいただけたら幸いです。

「ジャンヌ・ダルクを殺す手伝いをしろだと? 何を勝手な。私は騙されないぞ」


 ズイッと今まで静観していたケティが、クラリスの発言に我慢できないという風に警戒心を隠そうともせずに、あまりの衝撃で固まっている俺を押しのけて前へ出る。


 クラリスはケティを一瞥すると、フッと嘲笑。


「お前の意見は聞いていないわ。ヴァレンシアの犬の分際のくせに、この私と対等に口が利けるとでも思っているの?」


「!? 貴様ぁ!! ヴァレンシア様を愚弄するか!!」


 激高したケティは怒りのままに剣の柄へと手を伸ばし、抜きざまにクラリスへと斬りかかろうとする。そんなケティをクラリスは子供をいなすように一蹴すると、


「そうやってすぐキレる所は昔と同じね。いい? 人の話は最後まで聞きなさい」


「くっ!! クラリス、貴様!! どこまで人をコケにしたら気が済むんだ!!」


 ケティは忌々しそうに吐き捨てると、今まさに斬りかかろうと振り上げた剣を持つ手を下ろし、苛立ちが治まらないのか乱雑に抜き身の剣を鞘に戻す。怒ってはいるもののクラリスの話を最後まで聞く気にはなったようだ。


 彼女もどこか思うところがあったのようで・・・・・・・、お互いジャンヌ・ダルクにはほとほと手を焼いているからこそ、今回の対談は成り立っていると言って等しい。


「・・・・・・話を聞く気にはなったのね。それはとても賢明な判断よ」


「うるさい。さっさっと目的を言え」


 アラタはこの通りだから、私がお前の作戦とやらを聞いてやる、とケティ。こちらに向ける瞳はギラギラと血走っていた。


 まぁ、この際ケティでも構わないか、とクラリスは仰々しく咳を一つ。


「目的、ね。改めて言うけど、今回私が敵である貴方たちに単身で接触したのは、共闘の意志があるからよ」


「共闘? ハン、信じられないな。お前たち”過激派”の言う事を信じる間抜けはどこにもいない」


「それもそうね。けれど、今回ばかりは私を信用してもらうしかないのよ」


 いつになく真面目な表情で呟くクラリスに、ケティは「あれ? 案外この女も余裕がないのか?」とも思い始める。ならば、この女の企みに乗るのも一考かと考えを改め始める。


「・・・・・・いつになく殊勝じゃないか。唯我独尊が服を着て歩いているお前には珍しい。何かあったのか?」


「えぇ、大有りよ。私もこのような事態は想定していなかったわ」


 疲れ切った表情を浮かべると、前髪を掻き揚げて一息吐く。女から見ても色っぽい仕草に思わずときめいたのは内緒だ。


「ジャンヌは私ですら制御できないまでに堕ちてしまったの。恐らくアラタを殺すまで自我を取り戻すことは困難でしょうね」


 ざっくばらんと述べるクラリス。しかし、その端正な顔は不安からか陰りを帯び始めていた。


 一方、衝撃的事実を聞いて知ったケティは、真横で混乱中のアラタと同様に目を見開けて固まっていた。


「どうしてそんなことになったんだ。ジャンヌはアラタを兄と慕っていたはずだ。現に処刑すると言っていた私をこのアラタの一言で即座に撤回するほどに従順だった。なのに、それがどうして急にアラタを殺すまでに!!」


 と、そこまで一息に吐き出した後。ある可能性に辿り着いた。


 それは――――――――――――――、


「まさかクラリス。お前のせいなのか? お前がジャンヌを”壊した”のか?」


「!? 相変わらず察しがいいわね。えぇ、その通りよ。私が、あの女を壊したの」


 やっぱり。


 ケティはクラリスの切迫した表情や、自分と一向に視線を合わせない挙動不審な態度から、ジャンヌ・ダルクの変貌はこの女が絡んでいると踏んでおり、その上での発言でもあった。


 まぁ、この女のやりそうなことだ。


 相手の精神を徹底的に痛めつけて、魂を激しく揺さぶる。そして、魂が耐えきれなくなった頃を見計らって、彼女の十八番中の十八番である精神作用の魔法をかける。


 魔法の暗示にかかった相手を、己が駒として使役する、というのがこの女の戦術だ。


 極力自分の手を汚さずに、というのがこのクラリスのポリシーなのだ。


 それゆえに特化した、精神作用の魔法。この魔法に置いてクラリスの右に出る魔女はいない。


 だからこそ、ケティは信じられなかった。


 精神作用の魔法をクラリスが失敗するなんて、それこそ天地がひっくり返るほどにありえないことだ。


 それはこのクラリスも同様であろう。自分の魔法が失敗するなんて、プライドの高い彼女には到底受け入れらることではない。


 だから、自分の失敗を消すためにジャンヌを殺すというのか?


 まぁ、この女ならやりかねないが・・・・・・・、どうやらそうではない様子。


 クラリスは悔しそうに下唇を噛むと、


「・・・・・・仕方ない、仕方ないのよ。彼を殺すわけには。ヴァネロペ様の為にも、そして、―――――――の為にも」


「? 最後の方なんて言ったんだ?」


 最期らへんの方は小声で何て言っているのか聞こえなかったため、ケティはもう一度クラリスに言ってもらう様に聞き直した。


 だが、クラリスは顔を真っ赤にして、


「!! なんでもないわ!! ともかく! 魔女派の為にも、引いてはヴァネロペ様のためにも!! これ以上ジャンヌを放っておくわけにもいかないのよ。もし、ジャンヌ・ダルクの処刑に手を貸してくるならば、今回は大人しく引き下がってもいいわ」


 思わぬ好条件にケティの決心は揺らぎそうになる。


 だが、本当にコイツを信用してもいいものか?


 それにだ。私たちは、ジャンヌの調略を命じられている。


 こいつの後始末のために、調略相手を殺してもいいものか。


 葛藤するケティのすぐ傍に音もなくクラリスは近寄ると、その耳元に唇を寄せて甘言を投げかける。


「・・・・・・アラタとジャンヌ、どちらを天秤にかけるか。それは勿論アラタよ。大丈夫、きっと貴女の大好きなご主人様は褒めてくれるわ」


「―――――――――そうであろうか」


「えぇ、きっと。さぁ、一緒にジャンヌ・ダルクを始末しましょう」


 ケティは知らず知らずのうちにクラリスの話術に嵌ってしまっていた。


 正常な判断が出来ないまでに、ケティは追い詰められ――――――――――――、彼女は迷いが籠った視線をしばし虚空に向けると、やがて考えがまとまったのかコクリと頷く、と。


 真っ直ぐにクラリスの瞳を見据えると、自身が決断した答えを彼女に告げるべく口を開くのであった。

 

 主人公の出番が今回まんでなかったですね(笑)。次回は活躍するはず。

 本当にクラリスはいい性格してますよね。ある意味一番魔女っぽいかも。

 では、次回に。

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