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第十二章 脱出(4)

 短いですが楽しんでいただけたら幸いです。

 ジャンヌの村から出立すること数十分。


 俺とケティは今のところ何事もなく順調に森の中を進めていた。


 少しばかり拍子抜けというかなんというか。てっきりジャンヌの手下どもが俺たちの邪魔をするものばかりと思っていたのだが・・・・・・、道中ジャンヌの手下どころか蜘蛛の子一匹すら見かけなかった。


 戦闘態勢をとっていたケティも、何だか肩透かしといった様子で構えていた剣を鞘に戻しつつ、


「本当にジャンヌは私たちの動向に気づいていないのか? まさか道半ばまで何事もなく来れるとは」


「ほら、やっぱり取り越し苦労だったんだよ。無事にここから脱出できるなら万々歳じゃないか」


「それはそうだが。どうにも釈然としない。というか、逆に何の邪魔が入らないのは不審と思わないか?ここはジャンヌの家の近くだ。とすればあの人形が巡回していてもよさそうなのに」


「人形って、あの?」


 俺はケティのフリをして襲ってきたあのヤバい人形の事を思い出す。出来る事ならもう二度と会いたくない。それゆえか俺の記憶から綺麗さっぱり消えていたのに、ケティの余計な一言でせっかく記憶から消え失せていた人形の事を思い出してしまった。


「そうだ。なのにその人形にも遭遇しないとは・・・・・・。こうなんか裏があると思わないか?」


「全く思わない。ただ単に巡回ルートがここじゃないんじゃないか。人形が何体いるのか知らないけど、少なくともこの広い範囲を数体で巡回しているならば、早々遭遇することなんて稀じゃないのか?」


「確かにお前の言う通りだとも思うが。それでも警戒するに越したことはないであろう。私はあの人形の相手をするのは好かない。斬っても斬っても手応えというのが感じられないからな。どれだけ斬れば倒せるのか、と気にしながら相手をするのはすごく疲れるのだ」


 あの人形を相手にするのならば、そこいらへんの魔物と戦った方がマシだ、とうんざりした表情で呟くケティ。よほどあの人形にいい思い出がないようだ。


 まぁ、そりゃそうだろうな。


 なにせケティは俺を庇ってあの人形の凶刃の餌食になったんだものな。いや、死んでいないから餌食というのはおかしいか。


 兎にも角にもあの人形と鉢合わせしたら逃げるに限るという事だ。


「気を張り過ぎるのも疲れるぜ。森を出てからもまだまだルーシアの村には着かないんだからな」


 道中に魔物や凶暴な野生動物が出現するかもしれないのに、と付け足す俺。


 ケティこそが俺の頼みの綱なのだ。彼女が衰弱しきって戦える体力すら残っていなかったことを想像しただけで・・・・・・、あぁ、無理無理。とてもじゃないが恐ろしすぎて想像する事すら憚られる。


 しかし、ケティは俺の不安とは裏腹に、実にあっけらかんとした様子で。


「それならば心配はない。森を出た時点でヴァレンシア様の魔法で、私たちを村まで転移してもらう手はずになっているからな」


 なんと。


 あのヴァレンシアは転移魔法を使えるのか。


 これには驚きを隠せない。


 だって転移魔法とか、究極魔法とも称されるほどの高位魔法で、ゲームとかでも中盤~終盤に差し掛からないと覚えれない魔法なのに。


 しかもケティの口ぶりだと誰にでも扱える魔法でもないようだし。


 本当にチート級な存在だな、と今頃優雅に紅茶を飲んでいるであろうヴァレンシアを思い浮かべる。


 だが、それが本当ならばこんなにありがたいことはない。


 でも一つだけ懸念が残る。


 それは――――――――――――、


「でもさ、いつヴァレンシアと連絡とったんだ? ケティさ、ここに入ると気に言ったよな? 黄昏の森では外との連絡は一切出来ないって」


「それは、そうだが。だがヴァレンシア様は別なんだ」


 どこか歯切れ悪そうに呟くケティ。


 いつにないケティの様子に俺は訝しむ。明朗快活とまでは言わないが、何事もハッキリと答えるケティにしては珍しい。


 まるで、何か俺に隠し事をしているような・・・・・・。


「なにが別なんだ? 俺に何か隠しているんじゃ?」


「違う!! そんな、ことはない。お前に隠し事なんて、私は―――――――――」


 俺が言い終わる前に、ケティは血相を変えて叫ぶ。その声はどこか悲鳴のようにも聞こえた。


 別に悪い事をしているわけでもないのに、なんだかすごく居た堪れない気分になった。


 俺はなにもケティを責めているつもりではなかったのに、と何だろうこの雰囲気は。


 胸がジクジクと痛み、ムカムカと気分が悪いわけでもないのにこみ上げてくる吐き気。


 俺ってばこんなにナーバスだったのか? いや、ナーバスというか、ヘタレと言った方が的確か。


 両者の間に漂う気まずい雰囲気。


 その雰囲気に誘われるように、今ものすごく会いたくない女が俺たちの前に姿を現した。


 その女とは―――――――――――、



「あらあら。もしかして”仲間割れ”かしら?」


 

 俺たちの真上にまで伸びる木の枝に腰掛け、不気味な笑みを張り付けた端正な顔で見下ろしているクラリスであった。


 彼女はひょいと何の躊躇いもなく枝の上から飛び降りるも、そのまま重力に引かれるまま墜落することはなく、滞空の魔法をかけていたのかフワフワと浮かびながら地面へと降りてきた。


 そして優雅に地面へと着地したクラリスはスカートの裾を翻しながら、俺とケティへと優しく微笑みかける。だがその瞳は少しも笑っていなかった。


 俺はクラリスの笑みによくない感情を抱き、警戒心を隠そうともせずに突如として俺たちの前に姿を見せた彼女へと問いかける。


「・・・・・・一体何の真似なんだ」


「何の真似とは?」


「はぐらかすな。敵の前にこうも無防備に。しかも、ジャンヌたちも引き連れてないじゃないか」


「良い観察眼を持っているわね。そういう男は好きよ」


「ッ!! お前なぁ!!」


 人をおちょくるようなクラリスの態度に堪忍袋の緒が切れそうになり、ついつい声を張り上げてしまう。そんな俺の怒気を一身に浴びてもクラリスは表情を変えることはなかった。


 それどころかその怒気に酔いしれるかのような甘美な表情を見せると、


「ふふふ、ゾクゾクしちゃう。けれど、貴方と遊んでいる暇はないのよ」


「? それはどういう意味だ?」


「別に、深い意味はないわ。ただ、そうね。貴方たちに頼みごとがあって来たのよ」


 頼み事? ますますきな臭いな。


 俺はケティへと視線を向けるも、ケティも何が何だが分からないという風に首を振る。


 罠かもしれないし、けれど・・・・・・、罠だと一蹴するのは少しばかり早計な気もする。


 ならばクラリスの言葉を聞いてから判断しても遅くはないはず。


 俺はクラリスの頼みを受ける風を装って、彼女の言葉に大人しく耳を傾けることにした。


「それで? 頼み事ってのは?」


「ふふふ、何もそう難しい事ではないわ。そう、頼み事というのは――――――――」


 ゴクリ、と緊張のあまり喉が勝手に唾を飲み込む。


 だが、その頼みごとの内容を聞いた俺は、驚きのあまり目を見開け唖然とするのであった。


 その内容とは――――――――――、



「貴方たちに、ジャンヌ・ダルクを殺す際の手伝いをしてくれれば、と思っているの」



 どう? 手伝ってくれるわよね?


 

 思わず耳を疑うようなクラリスの頼みごとに、俺は中々返事を返せなかった。



 

 ――――――――――――願わくば、クラリスの言葉が冗談であるようにと。


 

 主人公たちはクラリスの頼みを引き受けるのか?

 親しい人を殺すのを手伝え、と頼まれたら、果たして大人しく引き受けるのか。

 要は友を取るか、金をとるか、の二択なんですよね。

 では、次回に。

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