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第十二章 脱出(1)

 短いですが楽しんでいただけたら幸いです。

 右足首の痛みが感じなくなるまで待つこと一時間。


 小窓から見える景色はつい一時間ほど前に見えていた景色とは一変し、周囲にはまるですべてを包み込むような闇の訪れがゆっくりと浸透するように忍び寄っていた。


 まぁ、要するに夜になったという事だ。


 にしても、と俺は一時間ほど前まで動かすのもままならないほどに痛んでいた右足が、まるであの激痛が嘘のように俺を悩ませる激痛が消え失せていた。


 念のために言っておくが湿布などの類は一切貼っていないし、勿論添え木などで固定もしていない。何の処置もしていない右足首なのに・・・・・・、あんな草汁を飲んだだけで嘘のように痛みがなくなるとは。


 ったく、本当にこの世界は色々と想定外だ。しかし、そのおかげで無事にここから脱出できるのだから、何というか実に複雑な気分であった。


 俺はしばらく思い通りに足が動くか試した後、流石に素足で林道を走るわけにはいかないとベット脇に脱ぎ散らかされていた簡易靴を履く。道端に落ちていた石や木の枝で足裏を切るわけにもいかないからだ。そこから細菌が入ったら化膿だけで済まない可能性がある。最悪足を切断なんてことも。


 足無しになるわけにはいかないので、俺は逃げている途中で靴が脱げてしまわないようにしっかりと靴ひもを縛る。少し気にしすぎな気はしたが、念には念を入れた方がいいだろう。楽観的に構えていて後々に後悔したくないし。


 俺が靴ひもを結び終えたのを見計らったように、道中の点灯様にカンテラを手に持ったケティが小屋の中へと入ってきた。使い古された感のあるカンテラにはすでに火が灯されていて、俺とケティの輪郭をぼんやりと照らす。


「中々いいカンテラがあった。これならば松明の灯りよりは目立たないであろう」


「にしても光源が心許ない気がするけどな。それでちゃんと周りを照らせるのか?」


「足元が微かに照らせれば良いんだ。それにカンテラならば火が燃え移ることはないからな」


「そういうものか。――――――――懐中電灯があればな」


 あまりの面倒くささに思わずぼっそりと愚痴ってしまう。小声で言ったつもりであったが、耳ざといケティは一言一句聞き漏らすことはなく、


「? なんだ、そのカイチュウデントウっていうのは?」


 聞こえていたのかよ、と舌打ちしながら、


「・・・・・・カンテラと似たような物だよ。ただし懐中電灯はカンテラとは違って”電気”で灯りをつけるんだ」


「デンキとはなんだ?」


 説明するのが面倒くさい質問だなこりゃ。というか電気知らないのか。そりゃそうだよな。何せケティは電気のでの字もない大昔の人間なんだもんな。

 

 そんなケティにも分かるように説明するとなると―――――――――、うん。こう言うのが無難かな。


「電気はな、分かりやすく言うと雷の力なんだ。ほら雷ってビリビリって体が痺れるだろ? それが電気なんだ。懐中電灯はその電気を使って灯りをつけるんだよ」


「そうなのか!! アラタの祖国はすごい物を発明したんだな!!」


 目から鱗が落ちるとは、まさに今のケティの為にある諺であろう。幼子のように瞳をキラキラと輝かせるケティを見てなんだが微笑ましくなる。


 だがそれはこれ、これはそれだ。


 今はそんな悠長にしている余裕はないのを思い出し、俺は掛け毛布代わりにしていた上着を羽織る。夜の森に上半身裸は自殺行為だ。その上今の俺たちは怪我を負っていたり衰弱していたりと、通常より体力が落ちているので、些細な事でも命取りになるであろうことは明白であった。


 なのでここは迅速に事を運ばねばならない。


 幸い足首の痛みが消えた俺は衰弱し体力の落ちているケティよりかは動けるので、ケティがジャンヌの家からくすねてきた、もとい拝借してきた物資をこれでもかと詰め込んだ麻袋を背に背負う。ズシリとした重さが上半身にのしかかるが、この重みは俺たちの命を助けるためだと思えば何ら苦でもなかった。


 俺は最終確認の意味を込めて、カンテラを持つケティへと問いかける。


「・・・・・・ケティ、準備はいいか?」


「あぁ、問題ない。そういうアラタこそ大丈夫なのか?」


「もちろん。足の痛みもなくなった今の俺に恐れるものは何もない!!」


「そうか。ならよかった・・・・・・、あっ!! そう言えば言い忘れていたことがあった」


「? なに? 勿体ぶらずに言えよ、ほら」


 何やら言いにくそうに口ごもるケティを急かす俺。そんな俺を一瞥したケティは「ふぅ」と溜め息を一つ吐くと、


「・・・・・なら言うが。アラタの足の痛みは今からちょうど二時間ほど経ったら元に戻るから。そのつもりでいろよ」


 一息でそう言い放つと、ケティは振り向くこともなくさっさっと小屋から出ていく。


 一方、ケティの口から衝撃的事実を聞かされた俺はというと。カンテラの仄かな灯りが消えた薄暗い部屋の中であまりのショックに固まっていたが、すぐさま我を取り戻すと俺を放って、一人で小屋を出たケティの後を慌てて追いかけるのであった。

 

 新章が始まりました。

 果たしてアラタたちは無事に魔女の魔の手から逃げ切れるのでしょうか?

 では、次回に。

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