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幕間 その頃のルーシアたち(2)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 ルーシアたちが診療所で茶会を開いている頃。


 アラタたちを見送り終わったアンリたちは、クリスが経営する食堂”スノー・ベリー”へと集まり、各々にテーブルに着いて酒を飲んだりご飯を食べたりして楽しんでいた。


 今日は週に一度の休日であり、仕事をしなくてもいいことになっていた。本来ならばクリスも休んでいいはずなのだが、彼女は仕事をしている方が好きなので今日も休まずに食堂を開いていた。


 働き者のクリスの店には今日も多くの少女たちが詰めかける。味の良い料理も勿論のことだが、やはり一番のお目当ては昼間から飲む酒であろう。


 この味に勝てる物はない。一度その味や快感を味わうと、その魅力から逃れる術はない。


 それは薬草医のアンリたちも例外ではないようで――――――――、食堂の隅のテーブルに腰を下ろしたアンリは、ジョッキに注がれた葡萄酒をゴキュゴキュと喉を鳴らしながら一息に飲み干していた。ナタリアは豪快に酒を飲むアンリの横にちょこんと椅子に座って、控えめにジョッキに口を付けて酒を飲んでいた。


 酒のつまみは小皿に盛られた山羊の乳で作られたチーズ盛り合わせであり、この村では酒を飲む際の定番中のおつまみとして愛される一品であった。ストレスなく飼育された山羊の乳で作られたチーズは臭みもないので葡萄酒や蜂蜜酒によく合うのだ。それに値段も手ごろなのもあって、アンリはすでに二皿ほど平らげていた。


 アンリは三杯目のジョッキを空けた後、過度のアルコール摂取によって赤く染めた頬を横で飲んでいるナタリアに向けると、


「? どうしたのナタリア? あまり酒が進んでいないようだけど」


「・・・・・・ちょっとね。あまり飲みたい気になれなくて」


 三杯ジョッキを空けたアンリとは対照的に、ナタリアは一杯目のジョッキに注がれた葡萄酒を半分しか飲んでいなかった。つまみとして提供されたチーズにも一向に手を付けていなかった。


 この店のチーズはナタリアも大好物なのに・・・・・・、何か心配事があるのだろうか? としばし首をかしげて考え込むアンリ。


 数十秒ほど考え込んだアンリは、何故ナタリアが浮かない表情を浮かべていたその理由に思い当たる。


 その理由とは―――――――――――。


「・・・・・・アラタの事でしょ?」


「うん、そう。だってさ心配じゃない。いくらケティが護衛に付いているからって、相手はあの黄昏の森の魔女なんだよ。心配してもし足りないよ」


「まぁ、そうだけど。けれど、あのルーシア様も太鼓判を押すほどなんだし。それにあたしたちの薬も持たしたんだから大丈夫よナタリア。それにここでいくら心配しても無意味だと思うわ。私たちに出来るのはここで彼らの帰りを待つ事だけ」


 クリスが持ってきた四杯目のジョッキへと口を付けながらアンリ。そんなに飲んで明日からの仕事は大丈夫なのかと心配になるが、自分たちの周りで酒を飲む皆もアンリと同様にガバガバと酒を飲んでいたので、ナタリアはあまり突っ込まないことにした。


 それに途中でクリスも客と一緒になって酒を飲んでいた。彼女は葡萄酒をジョッキに注がずに瓶に直接口を付けてがぶ飲みしていたが。


 どうやらクリスもお祭り気分のようで・・・・・・、傍から見ても浮かれているのが分かった。彼女は仕事中は決して酒をあんなにがぶ飲みはしない。客に付き合って軽く呑むことはあってもだ。


 ナタリアの視線に気づいたのか、別のテーブルに着いた客と杯を交わしていたクリスが、葡萄酒の瓶を片手にこちらのテーブルへと歩み寄ってきた(アルコールのせいかその足取りは覚束なかったが)。


「やぁやぁお二人さん。当店自慢のお酒とおつまみはいかがかな? 今日は奮発して塩キャベツと燻製ベーコンもあるよ~」


「クリス、えらくご機嫌じゃない。何かあったの?」


「うん? えへへ、内緒~」


 にへらと締まりのない笑みを浮かべてアンリの問いに答えるクリス。その間にも手にした葡萄酒の瓶を豪快に呷っていた。


 ぷはぁと酒を飲み干したクリスは、あまり酒や料理に手を付けていないナタリアに気づき、酔った勢いのままにナタリアに絡み始めた。


「あれ~、どうしたのナタリア。今日は全然食べてないじゃん。調子でも悪いの?」


「調子はすこぶるいいよクリス。その、今日はお酒を飲む気分じゃないっていうか。一杯だけで十分かなって」


「ふぅ~ん、何か気になることでもあるの? あっ、もしかしてアラタたちの事? もう、本当にナタリアは心配性なんだから。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


「その自信はどこから来るの。いくら村一番腕の立つケティが護衛に付いてるからって、相手は魔女なのよ。武芸がいくら上手でも、魔法を使う魔女には・・・・・・」


 自分たちは魔女の恐ろしさを嫌というほど理解しており、この村に暮らす少女たちはみな昔魔女派の魔女たちに虐げられていた者ばかりだ。今のルーシア様たちに拾われてすっかり恐怖心を忘れかけているけれど・・・・・・、このナタリアだけは魔女に対する恐怖心を今でも忘れていなかった。


 自分たちを救ってくれた人間派の魔女たちは別だけど・・・・・・、それでも魔女は恐怖の対象でしかなかった。


 いつ自分たちを虐げていた魔女派の魔女たちがこの村に攻めてくるかと思うと、怖くて怖くて眠れない日もあった。正直に言って此度の作戦は上手くいかないんじゃと思うが、場の雰囲気が変になることを恐れて口に出すことはなかった。


 つくづく気の弱い性格の自分に嫌気が差す。


 ナタリアはチラリと右隣に座るアンリへと視線を向ける。アンリはすっかり出来上がった様子で、クリスが運んできた塩キャベツと燻製ベーコンをつまみに、今度はジョッキ並々に注がれた蜂蜜酒を飲んでヘラヘラと絞まらない笑みを浮かべていた。


 彼女のように気楽に生きていけたらどんなに楽だろう。しかし、生まれついての性格はそう簡単に変えられない。


 そのことはもう数百年生きてきて嫌というほど理解しているナタリアは、胸中に渦巻くモヤモヤとしたのを誤魔化すようにジョッキ半分ほど残っていた葡萄酒を一息に飲み干すと、気分転換もかねてもう一人の親友である少女がいる診療所へ向かうべく席を立つ。


 席を立ったナタリアに気づいたアンリは赤ら顔で吃逆を上げつつ席を立とうとする。ナタリアはまだアンリが飲み足りないのは分かっていたので制止し、机の上に自分とアンリの分のお代を置いて一人で食堂を出ることにした。


 食堂を出て初めて、自分は結構長いこと食堂にいたんだなと察した。食堂に入った時はまだ昼前だったのに、もう西の空が赤く染まりかけていた。


 ナタリアは目当ての少女が診療所にいることを願いつつ、診療所へと続く村道を駆け足で下って行くのであった。

 

 次回から新章が始まります。

 果たして主人公はクラリスたちの魔の手から逃げられるのでしょうか?

 では、次回に。

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