幕間 その頃のルーシアたち(1)
短いですが楽しんでいただけたら幸いです。
アラタたちが”黄昏の森”へ出立するのを見届けたルーシアたちは、彼らの姿が徐々に遠ざかりやがて見えなくなるのを確認すると、誰が合図したわけでもないのに各々の時間を過ごすべく散り散りになった。
ルーシアとヴァレンシアは互いに顔を見合わせると、ようやく事が進んだという実感に打ち震えていた。数百年待ちに待ったこの時が訪れたことに年端もなく浮かれていた。
実はというとジャンヌ・ダルクの事はずっと気にはかかっていた。誰にも与することなく、ただただ無意味な時間を浪費しているだけの彼女に何度かコネクトは取ろうとしたのだが、どれも実現することはなく失敗に終わったという、彼女たちにとって苦い経験がある。
あれほどの強大な力を有するジャンヌを野放しにしておくのも問題ではあるし、もし仮に”魔女派”の連中に唆されて向こうに与する可能性だってある。それだけは避けたかったルーシアとヴァレンシアは、この様な強硬手段をとったわけで。
正直な話。
アラタたちが成功するとはとても思えない。思えないのだが・・・・・・、ここはアラタの可能性にかけてみようと思うのだ。そこに明確な確信はないが、どうしてだろう。何故かアラタの事は知り合ってまだ間もないのだが、無条件で信頼してしまうような絶対的な信頼感や安心感を感じてしまうのだ。
それはここにいる――――――自分も含めて――――――全員がそう感じている事であろう。
そこまで熟考したルーシアは一旦考えるのを止めると間横に立つミリアへ、
「・・・・・・さて、ここでこうしているのも時間がもったいないし。少し休憩にするとしましょうか。ミリア、先に診療所へと帰ってお茶の準備をしてもらえるかしら?」
「分かりました。少々時間がかかるかもしれませんが、よろしいですか?」
「えぇ、気にはしなくとも時間はまだたっぷりあるわ」
「では、準備いたします。それではヴァレンシア様失礼いたします」
と、優雅に一礼したミリアは、ルーシアたちに背を向けて一礼した時と同じような、優雅さ感じる所作でもって診療所へと向かう。
その後姿を見やりながら、所在なさげに己の髪を弄っていたヴァレンシアは、
「――――――――――あの子は例の”魔狼”の少女ね。まさかお前が面倒見ていたなんて驚きだわ」
「ヴァレンシア様はミリアの事を知っていたのですか?」
ヴァレンシアの発言に、少々表情を硬くしたルーシア。どこか探りを入れるように尋ねる。ヴァレンシアはルーシアの意図を知ってか知らずか、淡々とした表情と声でルーシアの問いに応える。
「いいえ。詳しくは知らないわ。ただ、あの子が”実験”の際に生まれたということは把握しているつもり。しばらく行方が分からなくなっていたけれど・・・・・・。そう、今はミリアというのね」
「あの子は普通の生き方をしてほしかった。だから私はミリアを連れて逃げたんです。もう少しで彼女の心は完全に壊れてしまう。正に風前の灯火でしたから」
「それが貴女が”魔女派”を抜けることになった理由?」
そうですね、と相槌するルーシア。
しかし、ルーシアは自身の決めた決断に後悔はしていない様子。
今はその事を知れただけでヴァレンシアは満足であった。経緯はどうであろうとも、ルーシアは今は立派に私たちの仲間なのだから。仲間を疑うなんて、そんなのは本当の仲間なんかじゃない。
「そう。詳しい事は聞かないでおくわ。貴女が自ら進んで話してくれるようになるまで気長に待つことにするから」
「ありがとうございます」
「さて、そろそろいい頃合いなんじゃないかしら。お茶を飲みながら、今後の事を話し合いましょう」
ヴァレンシアは早々に話を打ち切ると、ルーシアを連れたって診療所の方へと向かおうとする。この気まずい雰囲気を払拭するには、美味しいお茶を飲んで落ち着くのが一番であると考えたからだ。
ルーシアもヴァレンシアの提案には賛成のようで、
「そうですね。さぁ、私が先導いたしますので。どうぞ、こちらへ」
気を取り直した様子で、率先して診療所までの道の案内を買って出てくれるルーシア。ヴァレンシアはその背中を見やりつつ、吹き抜ける風に髪とフリルをあしらったワンピースの裾を靡かせながら、その後を追うようにして歩き出す。
時折、ヴァレンシアはアラタたちが消えた方角へと振り向きざまに視線をやりながら、これからの彼の活躍を期待しつつ、診療所へと足早に向かう。
――――――――しかし、その小さな胸中に一抹の不安も抱えながら、それに気づかぬフリをするヴァレンシアでもあった。
ルーシアたちの視点はちょくちょく幕間という形で挟んでいきたいと思います。
次回の更新は次章になります。
しばらく戦闘回はお預けになると思います。
では、次回に。




