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幕間 過去の自分と現在の私

楽しんでいただけたら幸いです。

 かつての私は自他ともに認める信心深い少女であり、平然と「主の為ならば命を落とすのも躊躇わない」と言い放つような子供であった。


 それは少女から大人の女へと成長しても変わらず――――――――、いや信心深さは子供の頃より酷くなっていたように思える。


 歳を重ねることに信心深さは増していき、その勢いはとどまることはなかった。


 今思えば私は妄信的な子供であったのだろう。


 ”神の声が聞こえる”


 そんなこと実際にあるはずもないのに、幼い私は日常的にその事を声に出して言っていた。両親や兄が困るのもお構いなしに隣近所に自慢して回った。


 声高に”私はお前たちとは違う。神に選ばれた特別な存在なのだ”と、面食らう村人たちに言いまわるのが気持ち良かったのであろう。


 しがない農民風情にはなりたくなかった。


 一日中畑を耕し、日が暮れては家に帰って寝るだけの毎日。人はそれを平和と口にするが、私にとっては退屈でしかなった。同じ毎日を送るなんて面白くないし、人が決めたレールに沿って生きていくのはつまらないと思っていた。


 恐らく女の私はこのまま親の言いつけに従って、どこぞの知らぬ男と結婚させられ、子供を産んでそのまま家で飼い殺しにされてしまうであろう。そんなのは御免被りたかった。


 私は自分の人生は自分の思う通りに生きてみたかった。


 昔は女には人権などない。女は男の道具といっても過言ではない。


 そんな時代で女の私が自由に生きようと思うのなら、多少破天荒な事をしなければいけない。私は幼い子供ながらに悟っていたのであろう。


 我ながら聡い子供であったのであろう。その聡さが別に向けば、私はもっと別の人生を送れていたのであろうか? しかし、今その事を嘆いても状況は変わらない。


 神ではないのだから、過去は変えられないのだ。


『神を信じたって何になるというんだ。あんな役に立たないものを信じたって、お前はきっと幸せになんてならないぞ』


 今はもう名前も思い出せない兄の言葉が不意に脳裏に思い出され、私は数百年経っても色褪せない兄の声に懐かしさを抱き、私は飲んでいた酒の酔いも手伝って涙ぐんでしまう。


 本当に兄の言う通りだ。


 私は、生前は幸せになんてならなかった。


 幸せな人生を送らなかったから、私は数百年経った今もこうやって未練がましく生きている。


 兄の言う通りにしていれば、私は”普通の少女”として幸せな人生を送れていたのであろうか? 平凡で変わり映えのない毎日であろうが、それでも今の暮らしよりはずっといいであろう。


 素敵な男性と結婚して、子供を産んで、そして子供の成長を見守りながら、最後は自分が産んだ子供の孫を抱いて、何の悔いもなく老いて死ぬ。


 生前の私の生き方では到底あり得なかった生き方であろう。


 だからであろうか。


 今の私はその平凡な生き方にすごく憧れていると同時に、どうして私はあのような馬鹿な生き方しかできなかったのであろうかという自責の念が、数百年経った今でも私の胸に残っているのだ。




「―――――――――――――こくこく。はぁ、本当にままならないわね」


 と、私は渦中の少年を捕らえた後、魔法で操った人間の少女たちに任せると早々に自宅へと戻ると、愛用のロッキングチェアへと腰掛け、自家製の葡萄で作ったワインをグラスに注ぎ、そのワインを何杯も豪快に煽っていた。


 落ち着かない。非常に落ち着かない。


 こんなにも落ち着かないのは随分と久しぶりだった。


 案外うまく少年を捕まえることに成功したから? 否。


 なら何故こんなにも気が逸るのであろう。


 いや、悩むこともない。答えは明確だ。その答えはとうに見当がついている。


 だから、こんなにも落ち着かないのであって・・・・・・。


 私は飲みすぎな気がするが、それでもワインを飲む手を止めない。心なしかワインを注ぐ手がふらつき、折角のワインがグラスからずれて床の上に大量に零れてしまう。


 ここではワインは貴重なのに・・・・・・。まぁ、いいわ。


 僅かにグラスの底に残ったワインをグイッと煽ると、その酔いに身を委ねつつ、私は椅子の背もたれに体を預けながら瞼を閉じる。


 閉じた瞼の裏には、今はもう亡き兄の顔が朧げに浮かんできて、それが今回捕まえてきた少年の顔とそっくり重なってしまう。


 私はその瞬間、酔いも忘れて慌てて跳ね起きると、バクバクと激しく脈動する心臓を抑えつつ、自身の複雑な心境を吐露する。



「・・・・・・あぁ、なんで、なんでの。何で今になって兄さんが」



 あの少年は兄ではない。兄は数百年前に死んでいる。それに記憶の中の兄とは髪色も瞳の色も肌の色も違う。


 けれど、雰囲気や顔立ちは兄そのもので・・・・・・。


 私は今になって忘れかけていた家族への愛情を思い出し、葛藤や戸惑いをその胸に抱きつつ、あのクラリスの指示に従うかどうかを決めかねていた。


 あの女に彼を渡せば、再び平穏な日々が戻って来る。それは私が望んでいたものだ。


 しかし、それと同時に兄にそっくりな彼を失い、再び思い出していた愛情という、数百年ぶりに抱いたかけがえのない感情を手放してしまうことになる。


 今の私には即決できる案件ではない。


 だから、私は決めた。


 まずは、あの少年に会って、話してみよう、と。


 そう決めた私は重たい腰を上げて、捕らえられているであろう少年に会いに行くために、引きこもっていた自室から出るのであった。


 


 ジャンヌの心境を書いてみました。

 彼女に兄がいたのかは分かりませんが、その方が話が書きやすいので、このまま話をすすめますので、 どうか読者の皆様にはご理解のほどよろしくお願いします(調べた際に詳細が判明次第編集します)。

 では、次回に。

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