第九章 誘い(7)
楽しんでいただけたら幸いです。
俺はケティの体力を回復させるため、失礼だとは思いつつもケティの荷物を引っ掻き回しながら探ていると、荷物の底の方に何やら食べ物らしき物を発見することに成功した。
一体何だろうと、食べ物らしきものを詳しく確認するためにそれを取り出してみることにする。体力の弱ったケティにも食べやすいものがいいんだけど・・・・・・、まぁ、食べれるだけでも有難いか。この際傷んでなければそれでいいかな。
俺は荷物の中から取り出してみた食べ物を目の前まで持ち上げると、自分の望み通りの結果にホッと胸を撫で下ろす。
その食べ物とは――――――――――、
「あぁ、良かった。干しブドウが入ったパンか。あとは、ヤギのチーズに干し肉か。これならお湯を沸かしてふやかしたら食べれるかな。まぁ、味はこの際二の次という事で・・・・・・」
と、俺はケティの荷物の中から鉄製のポットを取り出すと、その中に水を注ぐべく水筒の蓋を開けようとしたその時。
寝落ちしていたはずのケティが、俺の行動に待ったをかけたのだ。
「アラタ、湯など沸かさなくてもいい」
「なんでだよ。ふやかした方が食べやすいだろ」
「水は大事だ。特にこういう場合はな。水源が確保されてない以上、無駄遣いは出来ない」
掠れた声で呟くケティ。その表情は必死さすら感じるほどだ。
確かにケティの言う事にも一理どころか五里くらいあるのだが・・・・・・、それでも俺はケティの体の事を思っての発言なのだから、そう易々と撤回するわけにはいかない。
俺はケティの気が変わるまで粘り強く言い聞かせようとするも、残念ながらケティの気が変わることはなかった。この乾燥しまくった干し肉をそのままに食うとの一点張りで埒が明かななかったため、俺は渋々といった風に干し肉一枚をケティに手渡す。
譲歩として一口食べることに水を飲むことを約束させると、ケティもそのくらいならと反対もせずに素直に従ってくれた。
乾燥して嚙み千切りにくくなった肉を手慣れた感じで食べていくケティ。どうやら涎で肉を湿らせて噛み千切りやすくしているようだ。俺もそんな彼女の食べ方を見習って同じように干し肉をしゃぶる。
干し肉なんてあまり食った事が無い。酒も飲まないし、そういう酒のつまみ的なものは食べないのは当たり前か。それに妹の見舞いに行くのに口臭がきつかったら申し訳ないという気持ちもあった。
しかし、この干し肉ってのを食べるとすごく喉が渇くな。涎をごっそりと持っていかれる。でも水は有限ではないし、水源が確保されるまでは大切に飲んでいかないと、と今になってケティの言う事が身に染みて分かり、あの時俺はなんて馬鹿な事を宣ったのであろうと己の馬鹿さ加減を恥じた。
長い時間をかけて干し肉一枚を食べ終わった俺とケティは、しばし無言のまま各自に割り当てられた残りの食料を口に運び続け、パンにチーズという質素な食事が終わった後、口直しにとケティは水を一口飲むと、
「――――――――目下の悩みどころは”水源の確保”だな。食料はまだ持つが、水ばかりは多めに見積もっても一日分しかない。水がなければ人間は生きていけないからな」
「そうだけど、この森にそんな場所はあるのか? 見たところ川や泉も見当たらなかったけど」
「ジャンヌ・ダルクが居住している数K圏内には小さな湖くらいは存在しているはずだ。明日はその湖を見つけ出し水源を確保しよう。そうすれば心の余裕もできるであろうからな」
「まぁ、な。人間は水分を取らなければ一日も生きていけないし、明日はその方針で行こうか。でも・・・・・・、ケティはどうなんだ? 腹串刺しにされて明日動けるのかよ?」
「案ずるな。お前が思っているより、私はヤワではないぞ。それにあの薬のお陰で通常より傷の治りが早いのでな。明日には普段と変わりなく動けるようになっている」
どこからくるその自信は・・・・・・。でも、本人が大丈夫と言っているのだから、これ以上俺が心配するのも野暮というものか。俺はケティの言葉を信じることにして、夜が明けるのを待つことにした。正直言って景観も変わらないから日が暮れたのかも分からないが、何というか気分的な問題だ。
夜と思わなければ、自分の中の時間の概念が滅茶苦茶に狂ってしまいそうで、感覚的に怖いというのもあった。ここでは外の常識が通じないのだから早めに慣れておくことに超したことはない。
俺は早々に寝息を立てて眠りこけるケティを横目で見やり、自分も疲れた体を休めようと横になる。地面に敷き詰められるように積もった枯葉の匂いが鼻につくが贅沢は言っていられない。むしろこのような経験は早々に体験できないと割り切ることにした。
横になってみると、改めて俺の体がどれだけ疲れていたのかがありありと分かり、抗い様もないほどの強烈な眠気が俺に牙を剥いて襲ってきた。俺はその睡魔に抵抗出来ぬままに身を委ねる。眠気を覚えたままに瞼を閉じるのはなんて気持ちいいのだろう。的確に言うならば長時間入浴して少しのぼせた感じであろうか? 心地よい虚脱感が俺の全身を覆うようにして包み込む。
その心地よさに俺の全てを預けながら、俺の意識は底の見えない暗闇へと沈み込んで消えてしまったのであった。
寝ているときというのは時間が経つのがあっという間に感じてしまう。
それは誰もが一度は抱く感情ではないであろうか。
実際には数時間ほど経っているのだが、体感的には数分ほどしか時間が経過していないように感じてしまい、大体はすんなり起床できないものなのだが・・・・・・。
やはり自身のベットでないからかあまり寝付けなく、俺は唸り声を上げながら頭を振って眠りから覚める。その顔や声からは不機嫌さがこれでもかというほどにじみ出ていた。
寝ていたというのにあまり疲れがとれておらず、それどころか体の節々が筋肉痛を患ったかのように痛みだす。固い地面の上で寝たからか、と俺は痛む腰を擦りながら、凝り固まった筋肉をほぐそうと大きく伸びをする。
パキポキと関節が鳴る音を聞きながら、俺はふとケティの様子が気になり、彼女が寝ていたあろう場所に視線を向けると、そこには彼女の姿が無くもぬけの殻であった。
俺は慌ててケティの姿を探しに木の幹に出来た空洞から飛び出すと、視線の先には一心不乱に素振りをしているケティの姿があった。彼女は俺に気づく気配もなく、ただただ無我夢中に己の体の具合を確かめるように剣を振るっていた。
ケティが剣を振る度に、髪が、胸が、その振動に合わせて揺れ動く。その立ち振る舞いは見ていて見惚れるほど洗練されていた。
しばし、時間を忘れて見惚れていると、素振りを終えたケティがようやく俺の存在に気づいたようで、
「―――――――あぁ、目が覚めたのか? 悪いな、起こしてしまったか?」
フゥ、と張り詰めていた空気を一呼吸で雲散させたケティは、先ほど素振りに使用していた剣を鞘に戻して申し訳なさそうに呟いた。
その言葉に我を取り戻した俺は、慌てて彼女の言葉を否定する。
「気にするなよ!! それよりもう体は大丈夫なのか?」
「あぁ、このとおり。まだ本調子とはいかないが、ある程度の雑魚相手ならば、楽勝で戦えるくらいには調子はいいぞ」
「・・・・・・それって、ようは”全快じゃない”ってことじゃねぇ~か!!」
ここの敵は全然雑魚ではない。つまり今のケティは満足に戦える体ではないということで。
「極端に言えばそうであるが、まぁ大丈夫だ。今日は極力戦闘を避けつつ、ジャンヌ・ダルクの元まで向かおう。ついでに水源も探しつつな」
さぁ、出立の準備するぞ、とケティは誤魔化すように、「ハハハハハ」と笑いながら空洞の中に引っ込むと、手早く荷物を整理し始める。
俺はそんな彼女の後姿を見つめながらため息を一つ漏らすと、
「・・・・・・分かった。俺も手伝うよ」
彼女の手伝いをするべく、ケティの元へと歩み寄るのであった。
―――――――――黄昏の森の滞在期日まで、残り41時間。
干し肉ってどんな味がするんでしょうか?
よくファンタジー世界では目にする食べ物ですよね。
味とかはビーフジャーキーに似ているんでしょうかね? 食べた事が無いので分かりませんが。
では、次回に。




