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第九章 誘い(6)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 俺はケティの意識が回復するまでの間、彼女の体が冷えないようにと焚火の準備をしていた。俺が持ち運んでいた薪束は吹っ飛んで無くなってしまったけど、幸いケティの分がまだ残っていたので有難くそれを使わせてもらうことにした。


 それと何故かこの”ライター”だけは奇跡的に残っていたので、火をつけるには困らなかったのが唯一の救いであった。


 焚き木に火を点した俺はパチパチと火が弾ける音を聞きながら、火を絶やさないように一本ずつ枯れ木を加えつつ、ケティの意識が回復するのを今か今かと待ち続ける。


 どのくらい時間が経過したのであろうか? もしかしたらもうタイムオーバーで、徐々に酸素が無くなっているのかもしれない。この森は広大だから酸素が無くなるまでに時間はかかるであろうから、すぐに酸素が無くなって呼吸が出来なくなることはないであろう。


 その間にどうにかケティが目を覚ましてくれればいいのだが・・・・・・・、こればかりは神に祈るしか他がなかった。


 俺は少々手持ち無沙汰になって枯れ枝を手に取ると、ガリガリと枝の先で地面を削って絵を描きつつ時間を潰す。


 幼少時、両親が交通事故で死んで親戚中をたらい回しにされたころ。その家族や引っ越し先の学校での同級生と折り合いの悪かった俺は、よくこうやって一人遊びをして時間を潰していたのを覚えていた。


 別にそれが寂しいとか思わなかったし、俺としては妹が入院している近郊の親戚に預けられただけで十分であって、別に親戚に対しての思い入れとかは特になかった。


 所詮あいつらとは他人同然だし、俺が預けられた親戚連中を事故後まで見かけたこともなかった。恐らく俺を引き取ってくれると言ったのは保険金が目的か、親が死んで可哀想な子を引き取ってあげたという良い人を演じたかっただけなのだろうから(中学生に進学した際に実家に戻ったが)。


 現に保険金を全て妹の入院費に充てると言った時から、俺の態度が急変したのだから多分そうであろうと確信している。それからあの親戚連中とは一切連絡を取っていない。


 そんな寄生虫みたいな奴らとは早々に縁を切りたかったのでちょうど良かった。


 本当は父方の祖父母が俺を引き取ってくれると言ってくれたのだが、俺は妹の見舞いに近い親戚連中を選んだ。まだ年賀状のやり取りと年に数回の電話だけはしているが、ここ十年近く会っていない。この件が片付いたら一度行ってみるのもいいかもしれないな。


 と、どうやら寝落ちしていたみたいだ。首がガクンと落ちた衝撃で俺は意識を取り戻し、慌てて消えかけていた焚火へと薪をくべる。すると消えかけていた火種が息を吹き返したようだ。


 その様子を見ながらフゥと肺に溜まった息を吐き、何気なくケティの方へと視線を向けると、


「ケティ? 意識が戻ったのか?」


 薄ボンヤリと目を見開けてこちらを見つめているケティの姿があった。俺は完全にケティの意識が戻っているか確認の意味を込めて、何度も何度も彼女に呼び掛けてみる。


 すると、ケティは煩わしそうに眉根を寄せながら、


「・・・・・・何度も言わなくても、聞こえているよ」


「ケティ!! 良かった!! 無事だったんだな!!」


 ケティの無事を知ると、俺は彼女の体に差し障りのない程度にケティの体を抱きしめる。抱きしめた際に彼女の体の暖かさを密着した体を通じで直に感じ、その暖かさに俺は思わず涙腺が刺激され眦に涙の粒が滲んだ。


 俺に抱き付かれたケティはまだ体が動かないのか、棘を含んだ声で俺にどく様に指示した。


「―――――――いい加減に放してくれないか。まだ傷が痛むのでね」


「え? あぁ!! 悪かった!! 今すぐ離れるから」


「悪いな。お前の心配してくれた気持ちは十分に通じている。まだ本調子ではなくてな。完全に癒えるまでは半日ほどかかるであろう」


「そうなのか。でも、一つだけ解決してないことが・・・・・・」


「? あぁ、その点は大丈夫だ。ここはもう”呼吸可能区域”だからな」


 と、断言するケティ。


 俺はその確信ぶりはどこからくるのであろうと、ケティに問うてみることにした。


「何でそうはっきり言えるんだ? 言っちゃ悪いが、俺たちはあのデカブツに吹っ飛ばされたうえに、あの人形のせいで滅茶苦茶に走りまわされたんだぜ?」


「だからだ。あのデカブツの正体は分からないが、あの人形の正体が何なのかは嫌というほど分かっているからな」


 良くない記憶が蘇ってきたのか、ケティは端正な顔を苦々しく歪ませる。俺は彼女の発言の意味がイマイチ理解できなくて・・・・・・。彼女には悪いが詳しく問いただすことにした。


「何だよ? あの人形の事を知っているのなら教えてくれよ」


「・・・・・・あの人形は”キル・ドール”と言ってな。魔女が己の身辺を警護させる為に生み出した物だ。あいつらの活動範囲は創造主である魔女が生活する場所から数キロ以内と決められている。つまり、私たちはもうジャンヌ・ダルクの生活圏内に到達しているというわけだ」


「ということは・・・・・・、もう呼吸の心配はしなくてもいいってことか?」


「そうだ。それと、もうこれ以上は動かない方が得策であろうな。私も満足には動けないし、もうじき日も暮れる。この森では昼夜の区別はつかないが、大体そんな時間であろう」


 確かにケティの言う事には一理ある。下手に動き回ってあの人形と鉢合わせたら、今度こそ確実に殺されるであろうことは明白だ。ならばここはケティの回復に専念し、ちょうど身を隠せるここで一夜を明かす方が得策であると判断する。


「そうだな。じゃあ、今日ははここで終わりにしよう。まだあと二日あるんだ。それまでにジャンヌ・ダルクを見つけ出したらいいしな」


「・・・・・・あぁ、そうだな。まぁ、そんなに上手くいくかは分からないけどな」


「? それはどう意味だ?」


 俺はケティが放った言葉の不穏さに一抹の不安を覚えて、そう尋ね返すも。ケティは曖昧に言葉を濁してその言葉の真意を決して口に出すことはなかった。


 はっきりしないケティに苛立ちを覚えるも、怪我人の彼女にこれ以上無理をさせるわけにもいかず、この話はここで終わることにした。


 まずは体力を回復するために何か栄養のある物を食べさせた方がいいだろう、と俺はケティの荷物を再び漁り始める。その後姿を横になったケティは唯一動く顔をこちらに向け、いろんな感情がごちゃまぜになった表情を浮かべて、自分の為に必死に食料を探してくれる少年の一挙一動を眼に焼き付けるかのように見続けるのであった。



 ――――――――――――――黄昏の森滞在期日まで、残り48時間。




 さて場所は変わり、アラタとケティが一応? 身に迫っていた窮地を脱したちょうどその時。


 自身の作り出した人形から繋がっているパスを介して状況の把握をしていたのは、この”黄昏の森”の主のジャンヌ・ダルクではない他の魔女――――――――クラリスであった。


 彼女は自身の人形を使って、アラタたちを黄昏の森の中心地まで誘導したのであった。どうせあの”人間嫌い&男嫌い”のジャンヌの事だ。自分の指示に素直に従うはずがない。出来る事ならば最初の罠で排除しようと企むはずだ。


 だからこそ、クラリスは己の魔法で作った”土人形”に二人を襲わせ、そして人形を使って上手く黄昏の森の中心地まで誘導させたというわけだ。自身の人形をのあのケティとかいう女に似せるのには苦労したが、その苦労の甲斐はあったというわけで。


 クラリスは己の邸宅の私室に置かれた豪奢な作りの椅子に腰かけ、その結果に満足げな笑みを浮かべると、


「―――――――――さて、この私が”お膳立て”をしてあげたんだから、うまく立ち回ってもらわないとね。ジャンヌにも、勿論あの二人にもね」


 

 クラリスはグラスに入れられたワインを一口飲むと、再び気を引き締めてこの楽しい楽しい”遊戯”の行く末を見守るべく人形へとパスをつなぎ直したのであった。


 そんな主の様子をつまらなそうに見つめていたのは、使い魔の白猫であった。白猫はベットの上に寝ころびつつ、主の行き過ぎた行動に非難の視線を送るものの、当の本人は一向に気にした様子もなく。


 白猫はそんな主人を見限るかのように、薄ら笑いを浮かべて気味の悪い”遊び”に熱中している主人から背を向けてベランダの窓から外へと飛び出した。


 出る瞬間、自身の存在を主張するかのように短く「ニャ~」と鳴くものの、主人の反応がないのを両の瞳で確認すると白猫は名残惜しそうに、最愛の主人の元から音もなく姿を消したのであった。


 クラリスは使い魔がいなくなったことも気づかずに、自身の気が済むまでずっと人形から享受される映像に夢中になるのであった。


 一応一難は去りましたが、次なる問題も生じてきました。

 そして敵はどうやらジャンヌだけではない様子で・・・・・・?

 アラタたちの奮闘はまだまだ始まったばかりですので、気長にお付き合い下さったら幸いです。

 では、次回に。

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