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第九章 誘い(5)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 一体何が目の前で起きているか全く理解できなかった。


 それはあまりにも突然の事で・・・・・・、今思えば理解したくなかったのかもしれない。


 だって、あのケティがあんなに呆気なく敵にやられてしまうなんて想像も出来なかったから。


 しかし、このまま呆然とケティがやられているのをただ黙って見ているだけだなんて、そんな薄情な真似は出来ないしやりたくない。


 ここは自分が負傷してもいい覚悟で、俺は未だにケティの腹に剣をぶっ刺している人形へと、恐怖心も忘れて怒りの赴くままに殴り倒した。すると呆気なく人形は地面に仰向けに倒れこみ、手にしていた剣をあっさりと手放した。


 俺は腹から剣の剣先が飛び出し、多量の血を流してぐったりとしているケティを担ぎあげると、人形が起き上がってくる前にその場から一目散に逃げだした。


 時間にして数分ほど森の中を爆走した俺は、あの人形がついてきていないのを振り向きざまに確認すると、どうにか身を隠せる場所――――――――ちょうど視界の隅に映った大木の幹に、人が数人ほどは入れそうな大きな空洞が開いていたのを見つけたので、そこへと身体を滑り込ませる。


 そこでしばらく息を殺して周囲の様子を窺ってみるが、どうやらあの人形から逃げ切れたようだ。


 俺は張り詰めていた緊張の糸をゆっくりと解くと、重傷を負ったケティの容体を確かめるべく、壁にもたれ掛った体勢で座らせたケティへと迅速に近づいた俺は、未だピクリとも反応しないケティへと声をかけてみることにした。


 しかし、これほどの大怪我なんだ。下手したら出血多量でショック死している可能性もある。


「ケティ、ケティ。大丈夫か? 意識はあるか?」


「・・・・・・ぁあ、どうに、かな」


 と、俺の問いかけにどうにか応じてくれたケティ。その声は息もするのもやっとという感じで、声質に覇気はなく枯れていたが、どうやら意識はハッキリとしている様子。


 しかし、このまま血を流し続けたら命の危機に関わるので、まずは剣を抜いて血止めの処置をしなければいけないと判断した俺は、激痛に顔を顰めているケティへとそう伝えると、


「ケティ、お前の受けた傷は危険なんだ。適切な処置をしないと出血多量で死んでしまう。これからこの腹に刺さった剣を抜かないといけなくて、その際に激痛が走るかもしれないが我慢できるか?」


「・・・・・・あぁ、大丈夫だ。痛いのに慣れているからな、私は」


 落ち着いた様子で答えるケティ。彼女の発言の一部も気になったが、今は彼女の怪我の処置をする方が先決だ、と俺は気を引き締めて処置をする際の準備に取りかかることにしたのだが、全くの素人であった俺はどうすればいいのか全然分からなかった。

 

 何をどうすればいいのか、何を準備したらいいのか。医学が発達している現代人にとって、自分自身で処置するということがほぼ皆無に近いため、こういった状況に直面した際にはどのような行動をとればいいのか全く持って見当がつかなかった。


 それに最悪な事に俺の荷物は行方不明であり、今頃それがあれば彼女の傷も簡単に治せたのに、と悔しさと申し訳なさで胸がいっぱいになる。


 しかし、こうモタモタしている間にもケティの容体はますます悪化するばかりだ。


 どうすればいいんだ、と混乱と焦りでパニックになっている俺へと、思わぬ助け舟が。


 その助け舟を渡してくれたのは、重傷を負って息も絶え絶えのケティその人であった。


「――――――――アラタ、私の荷物の中に、お前が持ってきた薬が何本か入っているはずだ」


 念のために分けて入れていたんだ、とケティ。


 俺は彼女の言葉の途中ではあったが、ケティの背負っていた荷物の中を乱雑に漁ると、荷物の底に会いたくて止まなかった”薬瓶”が数本ほど転がっていたのを発見する。


 俺は手当たり次第にその瓶を手に取ると、ケティの眼前へと突き出す。そうしたのは彼女の方が詳しいと判断したからであった。村から出立する前に説明は聞いたけど、なんかドタバタしていたのもあってよく覚えていなかったし、もし薬の種類を間違えて使用してケティの身に危険があったら元も子もないからだ。


 ケティは霞む視線で俺が突き出した薬瓶の種類を視認すると、震える手で二本の薬瓶を指差した。


「その緑色の薬と、もう一つ白色の薬を・・・・・・」


「白色? これは何の薬なんだ?」


「この薬は消毒と血止めの効果を兼ね備えている薬で、いつも遠征に行く際には必ず常備している。剣を引き抜いた後、その薬を数滴ほど傷口に垂らしてくれ。その後に緑色の薬を一滴ほど垂らしてくれたら、この程度の傷ならばすぐに塞がるだろうから」


「分かった。剣はそのまま引き抜いてもいいのか?」


「あぁ、どうやら内臓を傷つけてないようだからな。それにここには剣先を折る器具はないから、いっそのこと一思いに引き抜いてくれ」


 勿論躊躇いはあったが、ケティの許可が出たのも手伝い、俺は彼女に刺さっている剣の柄を握り締め、


「――――――――――ケティ、準備はいいか?」


「あぁ、大丈夫だ。さっきも言ったはずだ。私は”痛い”のには慣れていると」


「分かった。――――――――――――じゃあ、抜くぞ」


「あぁ。――――――――――――――――っ、ぐ、ぅう、あぁ!!」


 彼女の体をこれ以上傷つけないように、俺は真っ直ぐに引き抜くことを心掛けながら。それでも彼女の負担の事も考えて一息に抜ききった。


 ズブッという肉を掻き分ける不快な音と派手な血しぶきを噴出しながらも、どうにかケティの体に深く突き刺さっていた剣を抜くことが出来た。


 俺は血が多量に流れ出ているケティの傷口に、自身の上着の裾を乱雑に手で引きちぢったソレで強く押さえながら、ケティの指示通りに白色の薬瓶の蓋を取ると、抑えていた布を取り外して、肉が抉れて骨が見えている傷口へと数滴ほど垂らす。


 白い液体が彼女の傷口に浸透すると、あれほど多量に流れ出ていた血がまるで嘘のようにピタリと止まるのを見て、俺はこの薬の効能の凄さに呆気にとられるが、まだ完全に塞がったわけではないので、すぐさま次の薬を傷口に垂らす。


 確かこの緑色の薬は一滴ほどでいいんだよな、と細心の注意を払いながら、俺は緑色の薬をケティの傷口へと垂らす。ピチョンと水滴が垂れ落ちる音が響いたと同時に、淡い光が俺とケティがいる空間を優しく包み込む。


 その光が徐々に収束すると、なんとあれほどの大怪我であったケティの傷口が見事に塞がっていたのだ。骨が見えるほどの裂傷だったのに、俺の視界に映るのは傷どころかシミ一つない白い素肌の背中であった。


 よく見ると血液の流し過ぎで顔色が土器色に近かったケティの顔色も、だいぶ回復の兆しを覗かせており、この分なら一日ほど安静にしていたら大丈夫であろうことは素人目から見ても一目瞭然である。


 呼吸が短く荒かったのも、今は深く穏やかな呼吸に変わっていて、俺は体中の緊張や不安が多量の汗と共に流れ出ていくのを感じた。


 それと今まで感じたことのない充足感に満たされており、その理由は見当がついていた。


(・・・・・・・今度は、救えた。救えたんだ、俺)


 俺は自分の手で人の命を救ったことに、とてつもないほどの達成感と幸福感を全身に感じていた。


 その事実に気づいた瞬間、あまりの嬉しさに涙が出てきて止まらなかった。


 こんな自分でも、人を救うことが出来る。


 ただ、そのことがすごく嬉しくて、俺はしばらく歓喜に酔いしれて、ケティの無事を一人静かに祝うのであった。


 


 窮地を乗り越えた二人に、まだ最大の脅威が迫っていることなどすっかり忘れており、その脅威は刻一刻と近づいていた。




 ―――――――――――呼吸できなくなるまで、あと15分。


 

 緊急処置ってどうやるんですかね?

 中々そんな場面に遭遇することも、自分がそんな目に遭う事もないですしね。

 現実では死にそうな傷もゲームでは薬一つで治りますよね~。

 あれ本当に羨ましいです。飲んだだけで治るなんて夢の薬ですよね。

 では、また次回に。

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