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第九章 誘い(4)

 楽しんでいただけたら幸いです。

「これ・・・・・・、人形か?」


 ケティだと思っていた人間が、実は彼女に似せた人形であったことが、倒れた際に顕わになったのっぺらぼうな素顔を見たことで判明した。


 それにしても何でこんなところに人形が置いてあるんだ? 素朴な疑問を思い浮かべるも、その答えはいくら考えても思いつかなかったのもあり、これ以上は気にしないことにした。


 だいたいここはジャンヌ・ダルクの”庭”なんだから、人形の一体や二体あっても何ら不思議ではない。まぁ、なんで外見をケティに似せてあるのとか、こんな場所にまるで狙ったかのように置いてあったのか次々と疑問は浮かんでは来るけども・・・・・・、俺が見つけたのは人形であるという事実に安堵したのも事実だ。


 となれば、ここからは一刻も早く離れた方がいいな。人形と二人きりというのも不気味だし、それに時間も押してきていることだしな。


 それにこの様子だとケティは無事のようだし、もしかしたら俺の事を探しているのかもしれない。となれば早くケティと合流して呼吸可能域まで速やかに移動しないと。


「えぇ~と、時間は・・・・・・、って。そういや時計とか持ってなかったな。どうやって時間を計測するんだ? なんかサバイバル特集番組でその方法を言っていたような・・・・・・」


 俺は一先ずこの人形の存在を忘れることにして、どうにかして残された時間を知る術はないか、と記憶をザッと順に追っていくことにした。よほど興味がなかったのか。いくら記憶を辿ってみてもその方法を覚えている気配もなかった。


 まぁ、普通に生きていたらそんな情報など必要もないので、片手間で得た知識があまりの興味の無さに、聞こえた瞬間すぐさま耳から耳へ抜け出たのかもしれない。


 それならば記憶にないのも納得がいくかな。


 でも、これからどうするかな。コンパスもないし・・・・・・、うん? そういや先ほどからやけに体が軽いと思ったら――――――――――。


 不幸な出来事というのは続くものだ。


 俺の嫌な予感が当たり、なんと吹っ飛ばされる直前まで背負っていたカバンを、あのデカブツに襲撃された際に無くしてしまった様だ。


「くそっ!! あれには当面の食料や薬なんかが入っていたのに!! これも何かの陰謀か!!」


 ダンッ!! と俺はこみ上げる怒りのままに、丁度俺が立っていたすぐ右隣に植わっていた大木の幹を握り拳で思いっきり叩き付ける。


 するとその衝撃で大量の枯葉が俺の頭上から滝のように降って来て、瞬く間に俺の姿は枯葉の山に埋まってしまう。このままでは酸欠になると慌てて枯葉の山から抜け出すも、身体の彼方此方に枯葉を張り付けた実に滑稽極まりない格好になってしまった。


 ―――――――――――もう、本当に泣いてしまいたい。


 やる前から不利な状況に陥ってしまい、俺は年甲斐もなく大声を上げて泣き出したい衝動に駆られてしまう。食料もなければ薬もない。頼りなるケティもいない。唯一残ったのは五体満足な己の体と、ケティがくれた中振りの剣一振りだけ。


 まだ武器があるだけマシだと思いたいが、俺にとったらこの武器も”豚に真珠”状態であった。まだ松明などの方が百倍役に立つであろう。腕が立たない人間が持っていても宝の持ち腐れだ。


 しかし、これは俺とケティを繋ぐ唯一の証だ。それに持っていれば何らかしらの役に立つかもしれない。


 一瞬捨ててしまおうかと考えた自分を恥じ、俺は振り上げた手を下ろすと、今まさに捨てようとした剣を再び腰布に差し、これだけは手放すまいと腰布をきつくきつく締めあげた。


(いざとなれば、この剣で―――――――――)


 そういう状況にならないよう祈るばかりであるが、そればかりは神様でもない俺には分かるはずもない。所詮この世はなる様にしかならないのだから。


 俺は気落ちしていた気持ちに喝を入れると、再びケティ捜索に精を出すべくこの場を後にしようとするも、不意に背後から何やら俺以外の何者かが動く気配を感じ、まるで金縛りにあったかのように体が動かなくなった。


 もうこの場で自分以外に動くものとなったら、”あれ”しかいないじゃないか。


 しかし、人形が独りでに動くのであろうか。操り人形でもないのにそんなことが可能なのだろうか?

だがここは魔女が支配する森なのだ。ならば何の不思議はない。


 逃げなければ、と必死に動かなくなった足に命令するが、俺の意志に反して両足はピクリとも動かない。緊張や怯え、恐怖心で体がブルブルと激しく震えはじめる。その震えを少しでも緩和させようと何か楽しい事を思い浮かべようと試みるが、この状況で楽しい事を思い浮かべる余裕も度胸もなく。


 というか、ますます恐怖心を増長させてしまう結果になってしまう。考えれば考えるほどよくない考えが次々に浮かんでは消えを繰り返し、俺のメンタルは崩壊寸前まで陥ってしまう。


 意外に繊細だったんだな、って今はそんなことどうでもいいんだよ!! 自分の意外な一面を知ることが出来たことに自分でツッコミを入れる。だが、こうやってツッコミを入れれるならば、まだ”終わっていない”ということであって――――――――――――!!


 俺は微かな望みに掛けることにし、先ほど捨てようとした剣の柄へと手を伸ばし、攻撃するタイミングを見計らう。浅い呼吸と深い呼吸を交互に繰り返し、人形の足音と己の呼吸が一体化する時を今か今かと待ち構え・・・・・・・・、今だ!!!!


 俺はジャストタイミングを見切ると、振り向きざまに抜いた剣を、俺の背後に迫りつつあった人形へと無我夢中で振り下ろす。そこには何の技もなく、素人同然の太刀筋でしかないが、それでもただの人形には避けれないはずだ。俺の脳裏には俺の攻撃を食らった人形が切り伏せられる光景が浮かび、俺は己の勝利を確信したのだが・・・・・・。


 まさかの事態が発生したのだ。


 俺の振り下ろした剣を、なんと人形は片手でいとも簡単に受け止めていたのだ。まさかの真剣白羽取りをも上回る腕前に、俺はあまりのショックに顔色が蒼白を通り越して真っ白になった。


 というか何気にピンチなのでは? 俺は慌てて人形の手から逃れるべく、手にした剣の柄を強く握りしめて何回も押したり引いたりを繰り返す。だがものすごい握力で掴まれているからか、剣は一mたりとも動かなかった。


 こうなったら剣は捨てて逃げるしかない。武器を捨てるのも気が引けるが、なりふり構ってはいられない。自分の身の安全を確保するのが最優先だ。何、訳を話せばケティも許してくれるはずだ。


 そうと決まれば、と俺は先ほどまで大事にしようと決意していた剣をあっさり手放すと、この暗殺マシーンさながらの人形から逃れるべく背を向けて一目散に逃げ出した。


 こんなのに関わっていたら命がいくつあっても足りない。


 これは”敵前逃亡”じゃなく、”戦略的撤退”であって、そう!! 決して怖いから逃げてるんじゃなく、考えがあってこそ一度引いて態勢を整えようと――――――――、うぼっ!!


 と、俺は森の中を必死に逃げまどいながら、誰に言い訳しているのか分からない言い訳を口にしていた最中に、不意にチラリと視界に見たくもない物が映りこみ、思わず鼻水と涎を両噴射してしまった。


 そう、あの殺戮人形が俺の走る真横を仲よく並んで追走していたのだ。


 おい!! 追いかけっこしているカップルじゃねぇんだぞ!!


 少なくともこんなのっぺらぼうで暗殺者顔負けの腕前を持つ人形の彼女は嫌だ。しかも、外見はケティというのが妙にシュールだし・・・・・・、というかこいつ俺を襲いたいのか遊びたいのかどっちなの!?


 そもそもこいつは敵なのか? もしかしたら魔法で人形に姿を変えられた人間なのかも? そんな考えが頭をよぎる。


 確かそういう設定のアニメが昔あったような・・・・・・・、ということはこの人形は味方なのか? などと淡い期待を抱いて俺は人形へと好意的な笑みを向けるが、それに応じることなく人形はさっき俺が手放した剣を手に掲げると、こちらへと何の躊躇いもなく振り下ろしてきた。


「うぉ!! あっぶな!!!!」


 無言からの攻撃を間一髪のところで避ける。しかし、これで確信した。こいつは俺の敵であると。


 そうと決まればこの人形から逃げる事だけに集中しないと。武器はあいつに盗られたから、こちらには反撃する手段もないし。けれど、あの俊足から逃げれるのであろうか? 俺と違って何だかスタミナが無限にありそうな気がする。


 俺の体力が切れるか、人形が俺の事を諦めるか見失うか。


 はっきり言って俺が勝つ可能性は1割以下であろうが、それでもその少ない確立に賭けるしか、俺が助かる道はない(というか反撃する手段がないので逃げるしかない)。


 と、せめてその確率を上げるために、俺はフェイントを一発かまして逃げようと画策したその時、




「――――――――タ!! ア――――――――ァタ!! ―――に―――――んだ!!」



 探し求めていた人物の声が木霊しながら近づいているのに気付いた俺は、その人物の名を人形の追撃から逃れつつその声に応じるように口を開いた。


「ここだ!! ケティ、俺はここだ!!」


ケティだ!! 生きていたんだ!! その事実に涙が止まらない。俺は今自身に迫っている危機の事などすっかり忘れて、ケティが俺を名を叫びながら探し回っているであろう方向へと駆け寄る。


 視線の先には体を汚れや怪我でボロボロにさせつつも、懸命に俺の事を探してくれているケティの姿があった。俺はそんな彼女の元へと息せき切って走り寄る。さながら気分は親を見つけた子供の心境であった。


 俺の声に反応したケティがこちらへと振り向き、どこか安心した険の取れた笑みを浮かべたのも束の間、すぐさま俺の背後に迫った人形の存在に気づくと、





「アラタ!!!!! そこから離れるんだ!!!!!」




 ケティはそう怒鳴りつけながら助走した後に大きく跳躍すると、そのままの勢いで俺の体を弾き飛ばすようにして割り込む。俺の体はケティの勢いのある手に弾き飛ばされるまま、そのまま枯葉敷き詰められた地面をゴロゴロと転がる。


 一瞬なんのことだか理解できず呆然としていたが、すぐさま沸々と怒りがこみあげてきて一言文句を言ってやろうと顔を上げると、俺は視界に映る光景にみるみる血の気を引くのを感じた。


 それは―――――――――――――、



「――――――――――――――――ケティッ!!」



 俺の代りに人形の手にした剣に腹部を貫かれたケティの姿があったからであった。

 



 ―――――――――――――――呼吸が出来なくなるまで、残り45分。 

 自己犠牲の精神は美しいですけど、

 自分の身代わりで死なれたり怪我を負ったりしたら、気が重くて後味悪いですよね。

 果たして主人公たちは無事にこの窮地を脱することが出来るのでしょうか?

 では、次回に。

 

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