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第一章 始動(4)

 病院内って、なんでこんなに薬臭いのだろう。この匂いを嗅いでいるといい年になっても気分が落ち着かない。


俺は自動ドアをくぐって病院内へと足を踏み入れる。七倉市で一番規模のでかい病院という事もあって、受付前と待合室を兼ねたロビーだけでもだいぶん広々としており、そこかしこに人が溢れかえっている。


ここにいる人たちは入院する人や外来で掛っている人、またその付き添いやお見舞いに来ている人など様々であり、俺はその中でも後者に分類される。


俺は慣れた足取りで妹の病室へと向かう。その道中で幾人かのナースや医師と会釈する。みな忙しいからあんまり話はしないけれども、もうこの病院に勤務する人たちとはすっかり顔馴染みになってしまった。


多分、俺の事を知らない人はいないと断言できるまでに、俺はこの病院に馴染みが深い。それは別に自慢でもなく確固たる事実に他ならない。


(思えば妹が入院してからだから、9年もの付き合いになるのか。そりゃ顔を覚えられていてもしょうがないな)


 と、我ながら病院と縁が深いなんてと苦笑する。


 普通の、健康な若人だったら9年も病院と付き合いはない(それこそ生まれながらに大病を患っている人は除いてだが)。


 だからか、俺にとってある意味病院は“第二の家”と言っても過言ではなかった。


 だって一日の大半を学校と病院で過ごしているのだから、その例えは何も的外れな事を言っているわけではない。


 まぁ、俺の病院愛はここら辺にしておいて、早く妹の元へと行かないと。あんまり待たせすぎると拗ねてしまうからな。


 俺は妹の病室がある6階に向かうべく、受付カウンターの右手にあるエレベーターに乗り込む。ちょうど上から降りてきた人がいたので助かった。病院のエレベーターって入院患者のために動作が一般の物より遅めに設定されているから、一度上に行ってしまったらなかなか降りてこないから、まさにベストタイミングといったところ。


 俺は6のボタンを押し、続いて閉のボタンを押す。勿論、他に乗る人を確認してから押したからそこは安心な。病院内で新たに怪我人を出したら元も子もないからな。


 扉が閉まったエレベーターは乗っている俺ですら振動や音が気にならないほど、ゆっくりとした動作で上へと上がっていた。あの独特の浮遊感がしないあたり最近のエレベーターはすごいなぁ、と改めて科学力と技術力の発展に驚く。


というか、エレベーターだけでこんなに驚いていたら、後々困ることになるよな。何せ妹のリハビリに使用されている医療器具も最新技術を駆使して開発された代物だし、そんな高価な器具をほぼタダで使用させてもらっているのだから、おちおちこの病院がある方向に足を向けて寝ていられない。


そうこうしている間にエレベーターは目的階に到着したようだ。チーン、と軽快な音と共に扉が自動で開く。


俺はエレベーターから降りると、入院患者が自由に使える多目的ホールを通り抜ける。その道中で同じ階に入院している顔馴染みの患者から声を掛けられる。


「おや? 今日はいつもより遅いんだね。瑠璃音ちゃんが首を長くして待っているよ」


「ははは、学校が終わるのがいつもより長引いちゃって。これでも急いできたほうなんだ」


 車いすに乗った30代の男性がにこやかな笑みを浮かべながら声をかけてくる。彼の名は田中さんといい、二週間前から初期の胃癌で緊急入院した。今では手術も無事成功して一月後には経過も見つつではあるが退院する予定である。


 田中さんを合図に続々と暇を持て余した患者たちが俺の周りに集まって来て、


「いや~、遅かったな。俺たちも待っていたんだよ。瑠璃音ちゃんが、『お兄ちゃんはまだ? まだ来ないの?』ってしきりに聞いてくるから、どう返していいか困っていたところだ」


「あぁ、あの可愛い顔で、しかも少し拗ねたような表情で聞かれると戸惑ちゃってなぁ。まるで、実の娘に我儘を言われたような気がして、こう胸がムズムズしてきて堪らねぇもんなぁ」


「そうそう。瑠璃音ちゃんは、俺たち入院患者にとってアイドルみたいな存在だしな。なるべくあの娘の願いは聞いてやりたくなるよ。ホント、あんな可愛い妹がいて羨ましいよ、お兄ちゃん」


 と、右から井上さん、村内さん、渚さんの仲良し三人組が話しかけてくる。彼らはこの病院内でも5指に入るほどの重病患者でもあり、三人とも余命幾ばくもない。


 それでも希望を失わずにこう明るく振る舞っている彼らは病院の人気者であり、俺の妹―――――瑠璃音のことも本当の妹の様に接してくれる。


 ぶっちゃけた話。妹がめげずにリハビリを続けられるのは彼らの存在も大きい。死を目の前にしても明るく元気に毎日を生きている彼らに比べたら、自分の足が動かないことくらいたいしたことはないと。いつか絶対自分の足で歩いて見せる、と。


 この三人は妹にとって“希望の星”なのだ。だから、いつまでも元気でいてほしい。


 妹の希望の星が一つ、また一つと無くなっていけば、彼女のやる気が途絶えるだろうから。“二度と歩けない”という絶望に再び心体が蝕まれるかもしれないから。


 だから、いつまでも彼らに生きてほしい。本当に、他力本願な自分の考えに腹が立つけど、これ以外に自分が出来る事は何一つとしてない。精々、こうやって妹の看病と怪我の完治を神に祈るのみだ。


 人間、いざとなったら出来る事は本当にない。特に一介の高校生に出来る事は、もっと少ない。


特に、親なしの、金なしの。


 だけど、ここで俺が悲観に暮れるわけにはいかない。俺が妹を支えないで誰が支えるというのだ。俺はあいつの兄貴なのだ。妹を勇気づけるのが仕事なのだ。ここで腐っていても始まらない。


 俺は口の中で「うしっ」と呟いて気合をチャージさせると、田中さんたちとほどほどに談笑すると軽く会釈して別れ、早く妹に会いに行くべく早歩きを心掛けながら通路を進む。


 妹の病室は下半身不随ということもあってか、一番トイレに近い病室をあてがわれている。なるほど、これなら車椅子をちょっとしか動かさなくてもいいし、看護婦さんも妹が失敗した便の始末もすぐに行えると双方にとって利便性がある。


 勿論、俺もトイレが近くて看病に来る際はとても助かっている。妹から眼を離すのも少しの時間で済むし、冬の病院とかは寒くてよくトイレに行くから便利なのだ。


 と、トイレで盛り上がっている間に妹の病室にたどり着いたようだ。


『609』と書かれた部屋番号の下に『()()瑠璃音(るりね)』と、女の子らしい丸文字で書かれたネームプレートがドアに張り付けられている。


 扉のあちこちに年季がいた可愛らしいシールが数枚ほど貼られており、その何枚かは茶色く変色して端っこの方が少し破れていた。それでも剥そうと思わないのは妹がこのシールをいたく気に入っているからに他ならない。


 それを知っているからか看護婦たちも何も言わずに放置してくれている。まぁ、この病室は妹の自室みたいなものだから好きにさせてくれているんだろうな、と俺は考えていた。


 何せ妹はあの事故以来この病院から出たことがないのだから。思春期のほとんどをこの病院の中で過ごした妹の事を、俺は内心とても可哀想だと思っている。


 白一色の病院内で過ごした9年は、妹の“外への憧れ”をことごとく奪い去っていく。入院した当初は通っていた幼稚園の友達がお見舞いに来てくれたが、それも小学校に入学してからは無くなってしまった。


 彼らを通して外の世界を見ていた妹は、彼らの来訪が途絶えたと同時に急に色褪せてしまったのだ。最早、妹にとって外の世界はモノクロ同然になってしまった。


 俺は妹の友達に怒りを覚え、そいつらに直談判することも考えた。


 しかし、妹は妙に優しい笑みを浮かべて、


『いいよ、お兄ちゃん。あたしにはお兄ちゃんがいれば、それでいいの。友達なんて、最初からいなかったの』


 と、ただそれだけを口にした。


 その表情には悲しみも、後悔も、怒りすら浮かんでなかった。


 そこにあるのは“最初から友達などいなかった”と、自分なりに解釈する大人びた表情を浮かべる妹の姿があるだけ。


 俺は妹の言葉を聞いて、彼女の心の内を悟り――――――、涙した。


 俺は妹の優しい性格に免じて、そいつらを責めるのは止める事にした。


 それでも、もし“妹”の事を聞いてきたらどうなるかは分からないけどな。俺にとって妹以外の人間はどうでもいい存在なのだ。


 妹を危険にさらす奴は、容赦しない。


 妹――――――、瑠璃音への愛情を確認した俺はスゥーと大きく息を吐き、胸の中に渦巻く陰鬱とした気持ちを外へと吐き出し、“良きお兄ちゃん”としての表情を意識しながら病室と通路を隔てるドアを開ける。


 ギギギィと、油が切れて金属と木片が擦る、酷く耳につくような音を発しながら開くドアに、俺は後でドアの修繕を病院に頼むことを決意する。


 そしてドアを完全に開いた先には、ベッドの上で上半身を起こして横になる最愛の妹の姿が視界を埋め尽くす。


 開かれた窓からそよぐ風が、妹の腰まで伸びた美しく癖のない黒髪を揺らす。その合間から覗く端正な横顔は淋しそうに曇っていた。


「……瑠璃音、ただいま」


 そんな妹を喜ばそうと、俺はソッと囁くように声をかける。


 すると、今まで淋しそうに背を丸めて窓から外を覗いていた妹が一転。嬉しいという感情を全開にして喜色満面。


 可愛いい美少女顔を興奮で赤く染めて目を細めながらこちらを向く。


「お兄ちゃん!! アタシ、今日はお兄ちゃん来ないかと思っていたよ!!」


「まさか、俺がお前の所に来ない日なんて一日でもあったか?」


「ううん、ないけどさ。なんとなくそう思っただけ」


 テヘッと可愛らしく舌をチョコンと出し、いたずらっ子が悪戯を咎められた様に笑う様に、俺もヤレヤレと苦笑しつつベッド横の丸椅子に腰かける。


「でも正直な話。どうして今日はこんなに遅かったの? お兄ちゃん昨日来たとき『明日はたいして用事もないから遅くならない』って言っていたよね?」


「あ~、まぁ、うん。何というか色々あってさ。ほら、昔から言うだろ? “予定は未定”ってさ。急に用が入る時はあるもんだ」


「ふ~ん。その用事ってどんな用事? お兄ちゃん、何か部活とか委員会とかに所属していた?」


 まさかここまで追及されるとは思わなかった。


 どうしようか。変に濁すとますます疑われるし、年頃の娘に『合コンに誘われて遅くなった』と馬鹿正直に言えないし……。


 ふむ、ここは適当にでっち上げるか。ある程度真実味を持たせた内容にしないとな。

さて、何がいいか。


「お兄ちゃん? どうしたの、急に黙り込んで?」


「うぉ!! あぁ、悪いな。そうだな、今日遅れた理由は、ちょっと担任に呼ばれて雑用をしていたから」


「雑用?」


「おう。まぁ、そんな大それた用事じゃなくて、授業で使用した教材を資料室に片づけるように頼まれたんだ」


「え、でもそういうのって普通クラス委員がやるんじゃないの? お兄ちゃんクラス委員だったっけ?」


「いや、その日はクラス委員の鈴木が休みでさ。ほら、俺って帰宅部だから、暇だろうってことで」

「そうなんだ。じゃあ、しょうがないね。先生からの頼み事断ったら内心に響きそうだし」


 俺の遅刻の理由(嘘ではあるが)に納得して頷いて見せる瑠璃音。


 ふぅ、良かった。瑠璃音は良くも悪くも真面目な性格なので、こういった理由を述べると文句は言えないはず。それを見越したうえ口にしたのだが、どうやら正解のようだ。


「まぁ、な。高校出た後、大学に行くか就職するかはまだ決めてないけど、でもまぁ、普通に考えて就職かな。大学に行くと後々金が要る羽目になるし、それに今の世の中大学出たからって何の得にもなんねぇし」


「え、でもお兄ちゃんは大学に行った方がいいと思うよ。お兄ちゃん頭良いし、どっちかっていうとお兄ちゃんは教師のほうがむいていると思うな」


 だから大学に行って教員免許を取った方がいいよ、と瑠璃音は屈託ある笑顔で言う。


 確かに瑠璃音の言う通り、公務員という肩書は捨てがたい。不況にも影響されず安定した収入が得られ、よほどの事をしでかさない限りクビにもならない、が。


 市役所勤めならいざ知らず、学校の先生などになれば時間に余裕が持てなくなり、部活などの受け持ちにでもなれば休日出勤というのもありうる話だ。


 ならば、俺は高校を卒業したら市役所の採用試験を受けた方が百倍良い。


「……そうだな、公務員っていうのはいいかも。けど、俺は教師にはならないよ。俺にはむかねぇよ。そんな真面目な職業は」


「え~、残念だなぁ。でも、お兄ちゃんの将来にあたしが口を挟むのも図々しいし、これ以上は言わないようにするよ。ゴメンね、お兄ちゃん」


「いや、いいよ。瑠璃音は優しいな」


 済まなさそうに謝る瑠璃音に、俺は何だか悪い事をしたことがないのに居た堪れない気持ちになって、妹から視線をずらす。


すると、瑠璃音が横たわるベッドの左脇に設置されているサイドテーブルに見慣れない本が置いてあるのに気付き、それを手に取って確認すると、どうやら絵本のようだ。


絵本といっても幼児が読むような物ではなく、文字やページ数も大目な大人が読む絵本といった風体の物であった。


こんな本を買った記憶にない俺は瑠璃音にこの本の入手先を尋ねる事にした。


「なぁ、この本どうしたんだ?」


「ん? あぁ、その本ね。最近若い女の子の間で流行っているらしいの。担当の若い看護婦さんが『暇つぶしにどう?』って薦めてくれたの」


「へぇ、そうなのか」


 俺は相槌を打ちつつ、パラパラと本を捲ってみる。


 軽く流し読んだだけでも面白そうな内容だということが分かる。それにしても女の子は良い本を見つけるのが上手いというかなんというか。感受性が強いのも要因の一つなのかな。


「ん、まぁ……、面白そうだな。それでどういった内容なの?」


「えっとね、簡単に言うと……、一人の女の子が魔女になっていく過程と、誰にも侵されないユートピア創造の物語」


「……ユートピア?」


 あれ、どこかでその言葉を聞いたことがある気がする。


 どこだろう。俺は一体どこで、その言葉を―――――――――。


 妹が怪訝そうに顔を顰めたのも気に留めず、俺は頭の中でモヤモヤと燻り続ける疑問を解き明かそうと躍起になっていると、不意にそのモヤモヤが弾けるようにして頭の中をスパークする。



 ――――――――――さぁ、奇跡の都市で心ゆくまで遊びましょう。



 思い、出した。


 これは、偶然なのか。


 俺は背中にヒンヤリとした嫌な汗が伝うのを感じ、本を握り締めたまま勢いよく立ち上がった。借り物らしい本が俺の手の中でクシャリと折れ曲がるのを感じるが、そんなのを気に留める余裕もなかった。


 瑠璃音は兄の鬼気迫る様子に目を白黒させ、怯える。


「お、お兄ちゃん。一体どうしたの? あたし、何か気に障ること言った?」


 しかし、俺はそんな妹の様子に気づかぬまま、得も言われぬ興奮が体中を巡り回り、その感情に突き動かされるまま妹の方を力強く握りしめた。


 いきなり肩を掴まれた妹は声も出ない様子で、俺の顔を恐怖に彩られた顔で見つめてくる。大粒の黒色の瞳は動揺と悲しみに揺れていた。


 それでも俺は、瑠璃音に己の胸の内に溜まった感情を伝えたかった。ただ、己の身勝手さで妹を怯えさせていたのだ。


 しかし、もう止められない。


 否、止まらないのだ。


「おにぃ、ちゃん。じょ、冗談だよね。痛いから、早く放してよ」


「……分かったんだ、俺。ようやく……」


「分かった? 一体何が? さっきからお兄ちゃん変だよ」


「変と思ってくれていい。けど、俺はようやく分かったんだ。ようやく、お前の足を治してやれるかもしれないのだから」


「えっ? あたしの足を? そんなの無理だよ。お医者さんでも匙を投げたんだよ。医学に関しては素人のお兄ちゃんがそんなの治せるわけがないよ」


「安心しろ、瑠璃音。俺は、どんなことをしてでもお前を“自分の足”で歩かせてやる。だから、もう少しだけ待っていてくれ」


「ま、待ってよ、お兄ちゃん!! ちゃんと説明、説明して!! お兄ちゃんってばぁ!!」


 突然態度が急変した兄に戸惑いを隠せない瑠璃音であったが、とりあえず兄に正気を取り戻してもらおうと必死に呼びかけるが、そんな瑠璃音を無視して兄はさっさと背を向けて病室を後にする。


 追いすがる手を振り払い、無慈悲に閉まるドアを見つめながら、瑠璃音はギュッと血が滲むまで唇を噛み締めた。


 こんな時ほど自分の動かない両足が疎ましい事はない。大事な肉親が去って行く時に追いすがって止める事も出来ず、ただただ遠ざかっていく後姿を見つめ続けるだけ。


 そんなの物言わぬ人形でも出来る。だからこそ、瑠璃音は兄に内緒でリハビリを続けていた。兄の負担になりたくなかったから、兄ともう一度だけ肩を並べて歩きたかったから。それが一秒でもいい。誰の支えもなく、自身の歩みだけで。


 それなのに、今自分の足は悲しいほどにピクリとも動かない。大好きな肉親が去ろうとしているのに、瑠璃音はベッドの上から動けずにいた。


 もしかしたら、これが兄との今生の別れになるかもしれない。


 瑠璃音はどこにもそんな確証はないけれども、妹の勘とでもいうのだろうか。体中にぬるま湯のようにジワジワと気持ち悪い悪寒が広がり、暖房がかかっている病室の中、寒くもないのに自然と両腕で体を掻き抱く。


 自分の発言で兄の様子が急変したのは事実であり、それがいったい何なのか理由は分からないが、それでも兄は確かに変わってしまっていた。


「………あんなの、お兄ちゃんじゃない」


 いつもの優しい兄ではない。あれは“兄”の姿を模した別人だ。そう錯覚してしまう程に兄は激変していた。


 瑠璃音は去り際に兄がベッドの上に放り投げた本を手に取り、その表紙を何度も何度も擦り上げると、少し折れ曲がり皺が入った紙の感触が心許なかった。


「―――――――ユートピア、か」


 表紙を飾っている可愛らしいイラストで描かれた、互いの手を握り合う少年と少女が、瑠璃音の眼には何だか悲しそうに見えた。



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