表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/536

第八章 黄昏の森へ(2)

 短いですが、楽しんでいただけたら幸いです。

 坂を下り切った俺は診療所へと続く村道を歩いていく。その間も前後左右から向けられる好奇の視線に気恥ずかしさを覚えながら、俺は体を縮こまらせて少女たちが蠢く村道を駆け抜けていく。


 あれか。俺の出立に合わせて皆一様に起きて出てきたというわけか。それにしたってわざわざ村人総出で身に来るほどの一大行事でもなかろうに・・・・・・。


 そう言えば昔では遠征とかの見送りは村人の義務というか、一種の娯楽であると聞いたことがある。二本だって第二次世界大戦以前は兵士とかの見送りに、大勢の人が駅や港に詰めかけていたと本に書いてあるのを思い出す。


 にしても何だか不吉すぎる・・・・・・。これじゃあまるで俺が戦地に赴くみたいじゃないか。


 そりゃま、見送ってくれるのは正直言って嬉しいよ。シカトされるよりは全然いい。いいのだが・・・・・・・、何だか嬉しさと戸惑いの感情が入り混じったような複雑な表情を浮かべて、俺は自室に置いた荷物を取りに向かう。


 あと数mほどで診療所へと到着するといった所で、


「あっ、アラタ。ちょうど良かった」


 T字路の右側から俺の帰りを待っていたかのように、抜群のタイミングでアンリとナタリアが顔を覗かせて俺を呼び止める。


 俺は彼女たちの存在に気づくと、昨晩の非礼を詫びることにする。酒に酔っていたとはいえ彼女たちの睡眠の時間を邪魔したのは事実だしな。


「あ~、その昨晩は悪かったな。軽率だったよ。そっちの都合も考えなきゃいけなかったのに」


「いいよ、別に。それにあたしたちもアンタの事を昏倒させちゃったし。これでお相子という事で」


「アンリたちがそれでいいなら、俺も助かるよ。それで何で呼び止めたんだ? 俺そろそろ出なきゃいけないから急ぐんだけど」


「分かってる。なるべく時間を取らせないから。あたしたちが言いたいのは昨日渡した薬瓶のことよ」


 と、言われて俺はようやく合点がいった。


 そう言えば俺も彼女たちにその薬瓶の事を聞こうと思っていたのでちょうど良かった。しかし、時間がないかもしれないからと、この際アンリたちに聞くのはいいかと半ばあきらめていたのだ。


 だが向こうから声をかけてくれたので正直に言ってラッキーであった。わざわざ訪ねる手間が減ったし。


 それに何の効果も分からないのに薬を使う勇気もないので、ここはぜひ彼女たちに聞いてから旅立ちたいものだ(安心して使いたいしな)。


「それで六種類くらい薬瓶が置いてあったけど、それぞれどんな効果があるんだ?」


 と、尋ねると、


「え~と、確か青色が回復薬、黄色が毒消し、赤が火傷薬、緑色が上級回復薬で・・・・・。? あれ、後の二つは何だったかしら? ねぇ、ナタリアは覚えている?」


 指折りつつそれぞれの瓶に入った薬の効能を上げていくアンリであったが、どうやら残りの二つの効能をド忘れしてしまったようで、自身の背後に隠れているナタリアへと問うてみる。


「・・・・・・紫が防刃薬で、橙色が魔法耐性薬だよアンリ」


「あぁ!! そうだったそうだった!! という事だから。はい以上!!」


「え、いや以上って・・・・・・、どういう時に使えばいいか分かんないんだけど」


「どういう時って、それは効能通りに使えばいいよ。回復薬は怪我した時に使えばいいし。あ、あと上級回復薬は瀕死以下の状態なら治せるから。ここぞという時に使うようね。どれも数回分は使用できるから、あまり大量に使い過ぎないように。それだけ気を付けてくれれば大丈夫。それにケティはその手の薬使い慣れているから、何か分からないことがあったら彼女に聞けばいいから」


「はぁ、まぁ、分かったよ。ありがとな」


 とりあえず礼を述べる。何だかやっつけ仕事のような気がしたが、それでもこうやって律儀に教えてくれたんだから文句は言うまい。


 俺の礼の言葉を聞いたアンリとナタリアは去り際に「頑張ってね」と激励してくれ、互いの手を握り合いながら俺に背を向けて明後日の方向へと駆けていく。


 彼女たちの後姿を小さくなるまで見送った俺は、今度こそ荷物を取りに行く為に診療所の戸を叩いたのであった。




「さて、これで大丈夫かな」


 俺は薄手の麻製の袖が七分丈の上着に、同じく麻製のズボンに通気性の良い皮で作られた靴というスタイルに、三日分の食料などが入った大きいサイズのカバンを背に背負い、カバンに取り付けられた金具には火を灯す際に必要なカンテラを下げていた。


 こんだけ装備があれば黄昏の森だろうが恐れるに足りず。山とかじゃないし遭難の心配もないだろう。なにクリスは少しばかり大袈裟に言っただけの事だ。そんな生物も住めない森なんて聞いた事が無い。


 森なんて放っておいても勝手に生きものが住みつくものだし、いざとなれば森に暮らす動物を狩って生きていくさ。


 大体三日間なんて短すぎる。せめて一週間くらいはないとジャンヌ・ダルクと接触できるかも怪しい。72時間でどう行動すればいいのだ。そんなの森をうろつくだけで終わってしまう。


 村を出る際にルーシアに交渉してもいいかもしれないなと思いつつ、もうじき約束していた刻限が迫っていたのに気付いた俺は名残惜しいと感じつつ、愛着も沸いて来た自室を出るのであった。


 診療所の外に出てみると、俺はそこに居並ぶ面々の顔を見て驚きに目を見開く。まぁ、俺と村を立つエマとケティは分かるのだが、ルーシアとヴァレンシアはまぁ分かるのだが、まだ起き上がれるほどの体力が回復していないアリスや子供たちも並んでいたのに、正直ビックリしたのだ。


 まさかわざわざ俺を見送る為に痛む体に鞭打って出てきてくれたのか・・・・・・・。俺は彼女たちの心遣いに感激し、思わず感動のあまり涙ぐんでしまうが、それをおくびにも出さずに極力平然さを装って話しかける。


「待たせたな。ケティにエマは準備できたか?」


「もちろん!!!! あたしはしっかり者だからね!!」


「私もだ。だが・・・・・・、アラタは些か装備が心許ない気がするな」


「そうか?」


 と、俺は自身の装いを確認してみるが、別に不備はないと思う。


 しかし、ケティは納得がいかないようで、


「しょうがないな。なら、私の剣を一つお前にやろう。いざという時、自身の身は自分で守る様にしないと」


 腰に挿した一振りの中振りの剣を俺に投げて寄越すのを慌てて受け止める。両腕にズシリとした重さが伝わり、俺は初めてこの手で人を殺める武器の重さをリアルに感じた瞬間であった。


 俺はケティから譲り受けたその剣を腰紐に差すと、ずり落ちないように紐をきつく締める。しかし昔の人はこんな重い物を腰に提げながら、悪路や山路をあんなに素早く動けたもんだと感心する。


 俺ならば百メートル全力疾走しただけですぐに息切れしそうだ、と苦々しく笑いながら、それでもケティの厚意を有難く受け取った。


 それに俺に寄越した剣の他に、まだ五本ほどの多種多様の剣や弓矢を装備していて、ケロッとした表情のケティを横目で見やった俺は男のプライドにかけて、剣の一振りで音を上げていると思われたくなかったのもあり、余裕綽々の態度と笑みをもってしてお礼の言葉を口にする。


「ありがとう。剣なんて初めて握ったけど、案外軽いもんなんだな」


 見栄を張って言うもんじゃないと、後になって後悔する羽目になるが、今の俺にはそんな先のことなど考える余裕はない。


 俺の見栄を真に受けたケティは「ほぅ」と何故か感心した表情を浮かべ、


「その剣を軽いと言い張る者は久しぶりに見た。お前は中々の芸達者なのだな。ならば旅の途中で手合わせでもお願いしよう」


「えっ、いや、ちょ、まっ」


「では、ルーシア様にヴァレンシア様。私たちはそろそろ行きますので。ほら、エマも」


「はい!! では、みんな行ってくるね」


 と、俺の言葉を無視して勝手に事を進めるケティ。エマもそれに続き皆に別れの挨拶を交わす。彼女は完全にお出かけ気分だ。まぁそれもそうだよな。エマは森の入り口でルーシアが村へ連れて帰るのだから。気分はお気軽なハイキングといったところか。


 ケティとエマは村に住む少女たち全員の歓声が飛び交う村道を手を振って村の入り口まで歩いていく。先ほどのケティの発言に衝撃を受けて体が金縛りにかかったように動かない俺に、漸く気づいたルーシアたちが怪訝そうに眉を顰めて、


「あれ? 何でまだアラタがいるの? ねぇ、早く行かないとケティたちに置いて行かれちゃうわよ」


「!? わ、分かってるよ!!!!!!」


 放心中の俺はその声に弾かれるようにして、慌ててケティたちの背中を追いかけて村道を駆け抜けていくのであった。動揺の大きさのお陰もあって声援も少女たちの存在も気にならなくなったのがせめてもの救いであったが、そんなことよりも俺はこの後に控えるケティとの手合わせを、どうやって逃れようかと考えることに躍起になるのであった。







 ――――――――――――黄昏の森まであと6K。 

 ようやく黄昏の森へ向かいます。

 その道中には何が待ち構えているのか? そして無事に目的地まで辿り着けるのか?

 その過程も想像しながら楽しんで書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

 では、次回に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ