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第三十章 貴方に、会いたくて(29)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 集中、集中するのよ。


 呪文を唱えつつ、精神統一する一人の魔女がいた。


 彼女の名はクラリス・ヴァヴァンといい、バロンズ・ガーデンを根城にしている敵派閥に属する女であった。


 クラリスは敵であり、今は共闘関係にあるケティの頼みである魔法を発動させるべく、無心になって呪文を唱え続けていた。


 正しく発動させる為には一詠節も間違えてはならない。


 ただでさえ成功する確率が五分五分なのだ。


 少しでも確率を上げたい。


 クラリスはいつにもまして呪文の精度を上げて、体の内側で魔力を練り上げていく。


 質を上げればーーーーー、この魔法の精度も自然と上がる。


 半々だった確率も7:3くらいには上がるであろう。


「ーーーーーっと。これで完了と」


 最後の一詠節を唱え終わり、クラリスは一度も噛まずに言えた事に安堵しながら額に滲んだ汗を拭う。


 この魔法は以前に使用した探知魔法の上位版で、下位版は周辺のあらゆる変化や魔力を術者に唱える効果がある。


 この上位版はその上をいく効果を持ち、一番の特徴は呪文を詠唱し終えるのと同時に、魔法そのものが術者の目に付与される。


 そのお陰で下位版では見落としていた、ごくごく小さな痕跡も探知する事がーーーーー、可能になるというわけで。


 唯一下位版より劣ることは物凄く消耗するのだ。


 何がって? 魔力の消耗に決まっている。


「ーーーーー!! イタッ!」


 あ~、もう一つ忘れていたわ。


 付与された瞬間目が痛くなるのだ。まるでそう。ブットイ針で突き刺されたような痛みが襲うのだ。


 その痛みを誤魔化すように何度も瞬きをする。するとようやく落ち着いてきてーーーーー、私はおっかなびっくりといった様子でゆっくりと両の目を開ける。


 この魔法がちゃんと付与されると、その証しに瞳の色が黒色に変色する。


 突如として瞳の色が変わったクラリスに気づいたケティは、


「お、おい。大丈夫か? その目ーーーーー、いつもと違うぞ?」


 覗き込むようにして、呟く。


 心底驚いているのがありありと見て取れる。


 クラリスはケティの問いかけを一切聞き入れないという意思表示ーーーーー手のひらを彼女の眼前に突き出すーーーーーを示し、黒く染まった瞳で墓場内を見渡す。


 いやはや・・・・・・、どうして気づかなかったのか。


 周りにはたくさんの痕跡が点在していて、正直それ全部を調べるのかと思うとーーーーー、軽く目眩がするクラリスであった。


 そうのんびりと調べるほど時間もないし、使える魔力だって限界がある。


 こうなったらケティたちに指示して、あの逃げたカラスたちに関係のある痕跡だけ探してもらおうか。


 折角これだけの人数がいるのだ。使わない手はないだろう。


 クラリスは手短にケティに指示を伝える。黙って聞いていた彼女であったが、特に反対する事もないと判断したようで。


「ーーーーーおい!! 探しながらでいいから聞け!!」


 方々に散らばって探している少女たちへと声を張り上げるケティ。


 その声を聞いた少女たちは「何だ? 何だ?」と不思議そうな表情を浮かべてケティの方へと視線を向ける。


 自分に視線が集中したのを見計らって、ケティは今一度口を開く。


「クラリスの指示を伝える! 血が付いた羽や、黒く焦げた羽が落ちている場所を見つけたら、簡単でいい。何か分かるように目印を付けてくれ。大体の場所はこの女が教えてくれるそうだから安心して探せ!! 以上だ」


 矢継ぎ早にそう言うと、ケティも探索に加わった。


 本当に勝手なんだから、クラリスは己の道を突き進むケティへと視線を寄越しつつ、黒く染まった瞳で探知した場所を少女たちに伝える。


 クラリスの指示に従って墓場内を改めて探索するケティたち。見つかった手がかりを手に取り、クラリスにも見えるようにと大袈裟なくらいの身振り手振りで伝えようとする。


 少女たちの身振り手振りを見たクラリスは、代わりになるような物を置いて、次のポイントを探すように指示する。


 一連の動作を繰り返しーーーーー、早一時間ほどの時間が経過した。


 ケティたちが墓場内を駆けずり回って集めた手がかりーーーーー、全部で十個ほど。


 それと見つけたポイントを、地面に書き記した簡易見取り図に書き入れていく。


 見つかった手がかりと場所ーーーーー、から察するに。



「・・・・・・カラスたちはどうやらここへ向かっているようね」


 

 トンッとポイントとポイントを線で結んだその先。


 そこはここ”ネウマの墓場”の最深部であり、かつてその場所は下界にいた頃に殺した人間の躯の一部を棄てたーーーーー、我ら魔女にとっては忌み場であった。 


 この墓が廃棄されてからは誰もが不気味がって近づかなくなった、曰く付きの場所であるがーーーーー。


 コトッ、と手にした小枝を置いたクラリス。心なしか彼女の顔は青白く変色していて身体を小刻みに揺らしていた。


 それはまるで何かに怯えているように、ケティの目には写った。


「ーーーーーどうしたんだクラリス。顔色が悪いぞ?」


「別にーーーーー、大したことないわ」


「しかし・・・・・・」


「いいから!! ーーーーー場所も分かったことだし、先を進みましょう」


 ザッ、ザッと乱雑に地面に書いた地図を踏み消すと、クラリスはケティの目を見ることなくその横を通り過ぎていく。


 周りに集った少女たちに声をかけながら、彼女は墓場の奥へ奥へと足早に進んでいく。


 その足取りには迷いもなく、恐れや怯えも感じなかった。


 一体先ほどの表情は何だったのか。


 ケティはクラリスがつい先ほど見せた異変に疑問を抱くも、このままでは置いてかれそうになるのに気づくと、慌てて後を追いかけるべく駆け出す。


 色々気になることはあるがーーーーー、もうすぐ、もうすぐだ。


 今まで散々回り道をしたが、ようやくアラタを救い出せる目処が立った。


 ならば悩む暇も必要もない。


 思考も、身体も、感情もーーーーー、戦モードへ切り替えなければ。


 それ以外は全て不要なものだ。




 彼女たちは気づいていなかった。


 墓場内に渦巻く不穏な空気を。


 ただ一人だけ。


 そう。


 ただ一人だけ気づいている少女がいた。


 魔女を除き、この隊の中で唯一人ではない少女ー俗に言う人狼ーは、人にはない獣の本能で目敏く察知したものの、それをクラリスたちに伝えることはなかった。


 いつもの彼女らしくない対応であった。


 彼女もそうーーーーー、この異様な空気というか、雰囲気に充てられていたのだ。


 そして後に後悔することになる。



 あぁ、何故あの時、私は口に出さなかったのであろう、と。


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