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第三十章 貴方に、会いたくて(28)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 墓場内をくまなく探してみることにしたのはいいのだがーーーーー、これが中々に広大で捜すのも一苦労だ。


 それに井貝と墓場内の損傷が酷く、墓石内との境界があやふやでーーーーーー。


 これは本当に見つけるのに骨が折れそうだ。


 ケティたちは地面に散らばった墓石の一部を手に取り、墓石に刻まれた名前を一つずつ根気よく照らし合わせていく。


 なるべく新しいのがそうだ。それか比較的綺麗なの。


 件の墓石はこの2つに該当するであろう。


 そうケティたちは当たりを付けていた。


「ーーーーーチッ、これも違う。ったく、めんどくさい」


 広い墓場も考えものだな、ケティは手当たり次第に手に取った墓石の欠片を捨てては拾いを繰り返す。


 廃墓になってから相当の年月が流れている。


 もしそれを見越してこの場所に入り口を作ったのならばーーーーー、マリ・ド・サンスは相当な切れ者だ。


 フゥーーーーー、と息を長く吐いて、ケティは墓場内をグルリと見渡す。墓場のあちらこちらでは、クラリスたちが自分と同じような姿勢で入り口を探している姿が確認できた。


 あいつらも中々に苦戦している様子。

 

 そりゃそうだ。


 素人にも簡単に見つかるようなヘマを冒さないであろうよ、あのマリ・ド・サンスという女は。


 そんなヘマを冒すような女ならば、我々はここまで煮え湯を飲まされていないだろう。


 クラリスも何意地を張っているのか。魔法を使えば割とすぐに見つかるであろうに。


(これからの戦いの為に温存しているのか?)


 その気持ちは分かるがーーーーー、出し惜しみしている場合ではないと思う、とケティは呟く。


 こういうケースでの最悪な結末は大体予想がつく。


(アラタを見つけられずに、彼がマリ・ド・サンスの手によって殺されてしまう、か。あぁーーーーー、本当に急がなければな)


 最もこれは最悪中の最悪のケース。


 これだけは防がなくてはいけない、と思うのだが、やはり私たち普通の人間では出来ることが限られてくる。


 ケティはポイッと手にした墓石の欠片を地面に放り、少し離れた場所で他の少女たちと入り口を探すクラリスの元へと向かう。


「おい、クラリス。ちょっといいか?」


「ーーーーー? 何よ、今忙しいんだけど」


 汗と泥にまみれた美しい顔をこちらに向けて、サラリと毒のこもった言葉を飛ばすクラリス。


 全く愛想の悪い女だ、ケティは心中で吐き捨てつつ、表面上では笑顔を崩さずにクラリスに己の考えを打ち明ける。


「このままただ闇雲に探すだけでは埒が明かないと思うんだ。なのでお前の力を借りたいんだがーーーーー」


「手を借りたい? 何よ改まって」


 気持ち悪いんだけど、と眉をひそめるクラリス。


 何やら警戒されている様子。オカシイ。だいぶ下手に出たつもりだったのだがーーーーー。


 まぁ、気にしないでおこう。今は形振り構っていられないのだから。


「そんなに警戒しなくてもいい。いや、実に簡単な頼みなんだ、コレは」


「ふ~ん、で? その頼みとは? 手短に話してよね」

 

 私今忙しいんだから、鼻を可愛く鳴らして答えるクラリスであった。


 ケティはゴホンと軽く咳払いをすると、


「ーーーーーお前に魔法を使ってもらいたいんだ。あるんだろう? そういう類いのやつが」


「・・・・・・あるにはあるけど。だけど私あれはあんまり唱えたくないのよね」


 表情を曇らせるクラリス。何か理由でもあるのだろうか。

 

 その訳を問い質すと、クラリスは渋々といった感じではあるが渋るわけを話してくれた。 


「あの魔法は使い勝手が良い反面、ものすごく魔力を消費するのよ。だから私たち魔女は時と場所を考えてその魔法を行使するのよ」


 それに当たる確率は五分五分だし、とも付け加える。


 なるほど。理由は分かった。


 だがそれでも唱えてもらわなければ困る。


 何度も言うが我々には時間がないのだから。


 渋る彼女をその気にさせるべく、ケティは普段ならば絶対に言わないであろう誉め言葉をこれでもかと並べる。


「まぁ、そう言わずに一つ頼むよ。お前の魔法が頼みの綱なんだ」


「え~、何かアンタ気持ち悪いわよ。さっきの虫が中ったんじゃないの?」


 ムカッ。


 クラリスの心ない言葉に内心ムカついたものの、ケティはそれでもメゲずに誉め殺しにかかる。


「まぁ、そう言ってくれるな。それにだ。アラタにも深く感謝されると思うぞ」


「え? アラタに? それ、本当?」


 おっ、どうやら琴線に触れた様子。


 やはりどんなに取り繕ってもクラリスも年頃の女。


 意中の異性のこととなると目の色が変わるようだ。


 ならばあとは簡単だ。


 ここを一気に攻める!!


「そう!! アラタもきっとお前に感謝する!! もしかしたら接吻の一つもお礼にしてくれるやもしれないぞ!!」


 勢いでとんでもないことを口走ってしまったがーーーーー、当のクラリスはケティの言葉を真に受けて天に登る心地で突っ立っていた。


 普通に考えてみればアラタがそんなことをしない男なのは明白であるが、まだそんなに彼の人となりを知らないクラリスにとっては別なようで。


 クラリスは期待に染まった目でケティへと向き直ると、


「ーーーーーし、しょうがないわね。アンタがそこまで言うのなら」


 勿体ぶった口調であったが、クラリスに魔法を使わせることに成功したケティは心中でガッツポーズした。


 一見するとチョロくなさそうに見えて、案外チョロかったクラリス。おだて下手な自分のおだてにまんまと乗っかった彼女に一抹の不安を感じるケティ。


 まぁ、とにもかくにもこれで先に進むことが出来る。


 認めたくはないがーーーーー、クラリスの魔法の威力はダントツだ。


 必ずやアラタの居場所を突き止めてくれる。


 ケティはブツブツと小声で呪文を詠唱するクラリスを注視しつつ、未だズキリズキリと痛む傷口からの訴えを誤魔化すべく、痛み止の効果がある丸薬をこっそりとポーチから取り出す。


 取り出した丸薬を誰にも気取られぬ様に口の中へと放り込み、ガリッと歯を立てて丸薬を噛み砕く。


 口内に苦くてマズイ味が広がり、ケティは表情を変えないように懸命に耐えるのであった。


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