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第七章 出立(2)

 短いですが楽しんでいただけたら幸いです。

 ――――――――ゴクリと喉を鳴らして葡萄酒を喉の奥に流し込む。確かワインのアルコール度数は15~16くらいと聞いていたから、初めて酒を飲んだ身としては少々きついんじゃないかと思ったのだが。


 飲んだ瞬間、意外にも舌に感じたのは甘くない葡萄ジュースの味であった。しかも、すごく水で薄めた感じの。日が経った炭酸飲料を飲んだ感じにも似ていて・・・・・・、案外拍子抜けであった。


 もっとこう、ガツンと葡萄味があるというか、いかにもポリフェーノル詰まっています!!みたいな味の濃さと渋み、葡萄の果実独特の芳醇な香りを想像していたのだが・・・・・・。


 まぁ、これなら飲んでも平気だろう。現にジョッキ一杯の葡萄酒を飲み干してもアルコール特有の高揚感などは感じられない。顔を触ってみても熱くもないし・・・・・・、うん。これならもう一杯くらいは飲んでも大丈夫であろう。


 ということで、初めての飲酒にすっかり気を良くした俺は、


「初めて飲んだけど案外美味いな。もう一杯頼めるか?」


「あれ? 案外いける口だね。次は蜂蜜酒にしたら? 同じの飲んでも味気ないでしょ? 蜂蜜酒の他に麦酒もあるけど・・・・・・」


「いや、葡萄酒でいいよ。麦酒は苦そうだし、蜂蜜酒は変に甘そうだしな」


「そう? まぁ、無理には勧めないけど・・・・・・。けれど、どれも美味しいから機会があったら飲んでみてほしいな」


「分かった。けど、今回は葡萄酒で頼むよ」


「かしこまりました。では、食事の方を準備させてもらうね」


 と、クリスは俺の追加注文を承ると、恭しく一礼して厨房へと引っ込んだ。


 俺はそんなクリスの背中をぼんやりと見送りつつ、まだ微かにジョッキの底に残った葡萄酒を飲み干した。


 そりゃ本音を言えば、俺だって興味はあるよ。麦酒って向こうの世界で言うとビールだろ。蜂蜜酒っていうのもそう日本で飲めなそうな代物だし、それにこの世界だったら堂々と飲酒できる上に法を犯す心配もない。


 けれど、明日にはこの村を出なきゃいけないので、あまり酒を飲んで二日酔いで出発できなくなったら本末転倒だ。ここは控えめに飲んでおく方が正解であろう。


 クリスの勧めを断ったのは悪い気がするが・・・・・・、まぁ、それは無事に村に戻ってこれたらということで。


 しかし、酒だけというのは少々寂しいものがあるな。酒を飲む際に酒の肴を欲する酔っ払いの気持ちが分かる気がした。普段鴨肉など食べはしないが、この葡萄酒にはピッタリの肴であることは確かであった。


 けれど、ふとした疑問も抱く。


 ここは魔女が創り出した異界だ。なのに普通に動物や植物などが存在しているのはおかしくはないのか? まぁ、奇跡と称する御業である魔法を操る魔女が創り出した世界なのだから、なんでもありなんだろうけど・・・・・・、気にしだしたらどこまでも追求しなきゃいけない性分なんだよな。そんな性分だとは思うけど。多分あれだな。自分に理解できないものを理解できないままでいるのがいやなんだろうな。


 そうこう考えている間に、クリスが両手に料理が盛られた皿を持って戻って来た。それを俺の目の前に置くと、いい匂いが鼻腔から脳へと送り出され、そこから分泌された成分が俺の空腹のお腹を否応なしに刺激する。


 皿の上に綺麗に盛られた料理を見下ろしつつ、俺は口内中にあふれ出た涎を飲み込みつつ、早速食べようとナイフやフォークを探すも・・・・・・、どこにも見当たらない。


 クリスが持ってくるのを忘れてきたのかと思ったが、周りを見渡すも誰もそんなものを使っていない。というかみな手づかみで食っている。


 あれか。エマたちはただ単に腹が減っているから手づかみで食っているのかと思ったが、ここでは手づかみが普通なのか。というか食器類は存在しないのか? けれど匙とかはあったし・・・・・・。あぁ、駄目だ。思考が追い付かない。


 取りあえずこの食堂代表であるクリスへと聞くのが早いであろうと、俺は今度は葡萄酒入りのジョッキを運んできたクリスへと尋ねてみることにした。


「なぁ、フォークとかナイフとかはないのか?」


「? そんなのはお貴族様が使うものであって、アタシたちは基本手掴みだよ。ほら、手でつかんでも大丈夫なようにテーブルクロスが引いてあるの。汚れたらこれで手を拭き口を拭いてね」


「え? それはちょっと勘弁したいんだけど。ほら、こう手拭きとかないのか?」


「手拭き? ウチにはそんな物ないよ。というか、いちいち人数分の布なんて用意できないよ」


「あっ、そう」


 これ以上言っても無駄なようなので、俺は早々に諦めて改めて料理へと向き直る。手掴みで食うか。なんかキチンと食器類を使って飯を食っていた身としては抵抗感が半端ないな。郷に入ったら郷に従えとは言うけど、これはいきなり飛ばし過ぎじゃないだろうか? 手で食うにしても布巾とかで汚れを拭ってから食いたい。


 けれど、そんなサービスはないらしく・・・・・・。その上、汚れたらこのテーブルクロスで拭えてなにそのハードプレイ。あぁ、無理だ。いかに美味そうな料理であっても食欲が減退していってしまう。


 けれど、折角俺のために用意してくれたのだから、彼女の厚意を無碍にするわけにはいかないよな。俺は意を決して手掴みで料理を食すことに決め、まずは鴨のソテーから頂くことにした。

 

 鴨の程よい油が指にまとわりつき、木苺の真っ赤なソースがまるで鴨肉から流れ出した血の色に見えた。しばし逡巡した後、俺は豪快に大口を開けて肉へと齧り付く。


 厚みのある鴨肉であったがたいして力も入れずに程よく解れ、甘みのある肉汁が口内にジュワと広がる。そしてその鴨肉によいアクセントを咥えるのは、サッパリとした味わいの木苺のソースだ。酸っぱくもあるソースが脂っこい鴨肉によく合っていた。


 しかし、鴨肉って初めて食ったけど臭みとかあまりないんだな。このソースのお陰かもしれないが、そう言えば血抜きを上手く行っていると肉から臭みが無くなるというのを聞いたことがある。


 よほど腕の良い狩人がいるのだろうと、俺はその卓越した腕前に賞賛の意を送った。


 あっという間に食べ終わり、俺はクリスが運んできた二品の料理の中で一番の気になる料理―――――――ドングリと茸の香草蒸しへと触手を伸ばす。


 茸は特段珍しくはないが・・・・・・、ドングリって。ドングリって食えるのかな? 食用のドングリがあることは知っているが、少なくとも日本で食っている人間を見たこともなければ聞いたこともない。


 あっさりとした木の実的な味わいなのか、それとも渋味が凄すぎて食えたものじゃないとか? いや、それならここの少女たちが平気な顔して食えるはずもない。


 俺はそんな一縷の望みを託して、ここは男らしくドングリ一粒を摘まみ、それを口の中に放り込む。ハーブ特有の香りがフワァと鼻から抜けると、次に感じるはナッツの香ばしい甘み。カリコリとしたほどよい食感もよいアクセントになって、俺は率直にドングリは美味いと感じた。


 昔の人は美味しいものをちゃんと知っているんだな、と現代人の驕りを反省しつつ、香草蒸しもペロリと美味しく平らげる。それを肴にして飲む葡萄酒は最高だ。ついついもう一杯もう一杯とおかわりを欲してしまう。


 しかし、もういい時間だろうと、俺はジョッキ底に残った葡萄酒を一滴も残さず飲み干すと、酔いが回って来たのか。少々ふらつく足取りでもってして立ち上がるのであった。



 


 

 お酒って飲みたいときは無性に飲みたくなりますよね。

 でもすぐに酔ってしまうのであまり飲めませんが。酒に強い人が羨ましい限りです。

 では、また次回に。

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