第七章 出立(1)
短いですが楽しんでいただけたら幸いです。
さて、ルーシアたちと相談した結果、なるべく早くの出立がいいとのことで、明日の早朝に村を出ることになった。
森までの案内役にはエマがかって出てくれ、俺とエマの護衛には村一番の武芸者である少女―――――名はケティという――――――がついてくれる運びとなった。
なるべく少人数での行動が目立たなくても済むとのことで、ルーシアは他の子たちの意見を一蹴した。相手は一応稀代の騎士として有名なジャンヌ・ダルクということもあり、あまり大勢で森の中へ入るのは危険が伴うという事らしい。
魔女に身を窶したといっても、腐っても騎士。昔の経験らはそう簡単に無くせるものじゃないとのことで。今でもジャンヌ・ダルクが魔法を使う場面を見た事が無いらしく、もっぱら魔法で錬成させた剣を使った近接戦を得意としているらしい。
なので彼女と互角にやり合える猛者が護衛に付いていた方がいいとのことで、このケティという美少女が選ばれたのだ。彼女はここに来る前に男と偽って傭兵隊に属していたことがあるらしく、その剣の腕前はジャンヌとも引けを取らないほど。
腰まで伸ばした金髪を黒のリボンで軽くポニーテールで結わえ、右目には過去の戦争で負傷したらしく黒色の眼帯を付けていた。左目の碧眼には一切の感情を浮かばせず、俺の方を無機質な瞳で見下ろしていた。
黒色のノースリーブの上衣に膝上ほどの白色のスカートを履き、その下には動きやすいようにスパッツらしき物を身に着けており、彼女の細く白い足を包む靴は灰色の太ももまであるうす底のブーツであった。
中々に洒落た服装だなと思う俺を他所に、ケティは腰に提げた剣の柄へと手をやり、
「・・・・・・お前が噂の、アラタという男か?」
「そうだけど。今回はアンタが俺の護衛を務めてくれるんだっけ?」
「あぁ、そうだ。ルーシア様直々の命令を断る頭は私にはない。それに、私も件の魔女とやらに会ってみたいというのもある」
「ジャンヌにか?」
「そうだ。私はジャンヌに憧れて兵士になったようなものだ。女の身でありながら国に奉仕できる。それはとても素晴らしい事。まぁ、彼女も私も望みとは違う末路を迎えたが・・・・・・」
と、一切の感情を浮かばせなかった碧眼に、一瞬ではあるが怒りというか悲しみというか、複雑な感情が混ざったのが浮かびだされる。
しかし、それは本当に一瞬のもので、すぐさま元の無機質な瞳に戻ったため、誰にも悟られることはなかったようで・・・・・・。ケティは剣の柄から手を放すと、皮の袋にどんどんと物を詰め込んでいる俺に背を向けて去って行く。
俺は遠ざかる足音を聞きながら、ルーシアたちが支給してくれた物資を、袋の中に詰めれるだけ詰めるのであった。
支給された物資は多岐に渡り、数日分の食料(干し肉や黒パン。乾燥果物に木の実。葡萄酒や水が入った瓶)に、火をつけるための火打石に明かりを灯すためのランタン。野宿用の寝袋に雨露を防ぐ際の簡易テント一式らであった。
武器の類はケティが用意するらしいので、本当に必要最低限の物を準備するだけでいいとのことらしい。
食料が数日分なのは、黄昏の森がそんなに遠くないことと、森での滞在期間が四日間ほどということ。長期の滞在は危険を伴うとのことらしいので、まぁその辺りが妥当とのこと。
ちなみに森の入り口でエマは村に帰る運びとなっており、ルーシアが無事に村まで連れて帰ることになっている。
一応少女たちの名は聞いているため、名前を呼んだら来るらしいとのこと。警戒されたらアリスの名前を出せば多分大丈夫だと念を押された(納得はしていないが)。
まぁ、これで準備は一通り終わったので、出立する前にクリスの食堂で何か食うとするか。そう思ったらもう腹の虫が催促してきて辛抱たまらなかったのもあり、俺は意気揚々と先ほどミリアから渡された羽織るタイプの上着を身に着けると、自身に宛がわれた診療所二階の自室を出るのであった。
村唯一の食堂”スノー・ベリー”は、時間帯も相まって大盛況であった。さほど広くない店内が多くの少女達でごった返しており、店の外にまで店内に入れなかった女の子たちが溢れて、店先で適当に座り込み飲んだり食ったりしていた。
流石に彼女たちを押しのけてまで店に入店する気はないが・・・・・・、ふむ、どうしたものか。流石に飯無しで寝るのは勘弁願いたい。明日の英気を養うためにここはがっつりしたものを食いたい気分なのだが。
まぁ、店に入れないんじゃ無理かな、と諦めて診療所へと帰ろうとしたところ、
「あっ!! アラタじゃん!! 遅かったね待ってたんだよ!!」
と不意に声をかけられたので、その声に釣られるようにして振り向くと、そこにはエプロン姿のクリスが店先まで出てきて俺を手招きしていた。
クリスの声に反応した少女たちが一斉に俺の方へと向くと、
「アラタ? あぁ!! ルーシア様の使いで黄昏の森の魔女に会いに行くという」
「よくよく見るとカッコいいじゃない。それにあのジャンヌ・ダルクに会いに行くなんて、とても男らしいわ」
と、夕方とは違って好意的な態度に少し気を良くした俺は、クリスに招かれるまま店内へと足を踏み入れると、約20畳ほどの小さな店内には食事を楽しむ少女たちの姿が窺える。
その間を縫うように通り抜けると、俺は厨房近くのテーブルに案内された。そこだけ人払いがされた如く周りには誰もいなかった。
何だか特別扱いされていることに恐縮しながら、それでも俺は空腹に促されるままに席に着く。
すると、すぐさまメニュー表を持ってきたクリスが席までやって来て、俺へと丁寧な作法でメニュー表を手渡す。俺はそれを受け取るとざっとメニュー表を斜め読みするのだが、どうしよう。全然読めない。言葉が通じるから大丈夫かと思ったけど、そういうご都合主義はないのね。
俺一応フランス語を覚えたんだけど、やはり昔の言葉と今の言葉とは違うようだ。そういや日本語だって昔と今では同じ言語でも通じないってテレビで言っていたような気がする。
ふ~む、どうするもんかなとメニュー表をガン見していた俺へと、
「―――――――お客様。今夜は鴨肉のソテー木苺ソース添えと、ドングリと茸の香草蒸しがお薦めですよ」
「!? じゃ、じゃあそれで」
クリスからの救いの手のお陰でどうにか窮地を脱した様子。ホッと一息をついている俺に今度は飲み物を薦めてきた。
「飲み物はどういたしますか? 蜂蜜酒や葡萄酒がお薦めですよ」
「あ~、酒はいいや。俺未成年だし、明日も早いし。なんか水とかでいいよ」
「? 未成年ってなに?」
敬語を忘れてそう質問してくるクリス。
「未成年っていうのは大人じゃないから酒飲めない年齢って意味だよ。俺の国じゃあそう法律で決められてるの」
「ふ~ん、ちなみにアラタって何歳なの?」
「今年で17歳かな?」
「じゃあ飲めるわよ。立派な大人じゃない」
・・・・・・そうだった。中世では14歳くらいで大人扱いされるんだよな。
ここは酒を飲んだ方がいいのかな? けれど、明日朝早く村を出なきゃいけないし。
「なら一杯だけでも飲みなさいよ。男はみんな戦地に赴く際にお酒を飲んだものよ」
と、まだ飲むと言っていなのに勝手にジョッキを持ってきて、そこにお酒をドバドバと注ぎ入れる。色合いや香りからしてこれは葡萄酒か。
俺は目の前に置かれた葡萄酒入りのジョッキを見下ろしつつ、ゴクリと口内に溜まった唾液を嚥下すると、辺りに助けを求めるように視線を向ける。
しかし、皆各々に食事を楽しんでいるようでこちらに気づく気配がない。
ここは腹を括るしかないのか・・・・・・、俺は震える手でジョッキの持ち手を握ると、一息に酒を煽るのであった。
新章が始まりました。
(2)~(4)は主人公sideを、(5)~(8)は魔女派sideを書きたいと思いますので、
よろしくお願いします。
では、次回に。




