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第五章 人間派と魔女派(5)

 短いですが楽しんでいただけたら幸いです。

 会議といってもそんな大層なものではなく、ただ単に魔女たちの愚痴の場として何となく開催されており、ここに集まる魔女は一応”魔女派”の中でも権威がある者なので何かと苦労が絶えないのだ。


 その為、月に一回ほど会議と称して、こうやって集まって愚痴を言い合ってストレスを解消するのだが・・・・・・。


「今回ばかりはキチンと話し合いをしましょう」とクラリスが言ったのを機に、一度ばかりは会議をしてみようと集まったのであった。


 だが、今更何を話せばいいのやら皆目見当がつかなかった。人間派など取るに足らない勢力であるのは変わりはない。いくら人間派の魔女が優れているといっても量で当たれば問題はない。


 なので全く脅威を感じてはいないのだが・・・・・・、魔女派を統べるヴァネロペと二番目に権力があるクラリスは今回の騒動を経て本格的に”人間派”を殲滅する方向へと移行したようで。


 早々の殲滅を講じるため、火急に集められたわけなのだが――――――――、正直に言って自分も含めてあまり乗り気ではない様子だ。やる気満々なのはクラリスただ一人だけで、あとの魔女たちはみな困惑した面持ちで互いの顔を見合わせる。


 そりゃ確かに自分たちを裏切ったルーシアやヴァレンシアが憎いのは事実ではあるが、かと言って本格的に始末するほど憎いのかと聞かれると返答に困る。先ほどはヴァネロペが倒れたことに我を失って思わず怒りのままに怨嗟の言葉を吐き捨てたが、今になって冷静に考えてみると何であんなことを言ったのであろうかと後悔したのも事実。


 リラたちにしてみれば、今の関係性が心地よいというか。いわば喧嘩友達的な関係が双方にとっても丁度いいのだとも思う。


 それはここにいる魔女全員が感じている事であろう。


 しかし、魔女派の中には過激な考えの魔女がいるのも事実であり、彼女たちの言い分では脅威になる前に根絶やしにすべきだと。この過激派を取り仕切るのはクラリスであり、彼女は過激派連中の中でも最過激派としても名が通っていた。


 そんな彼女がこの場にいるという事は、過激派の主張がヴァネロペにも認められたというわけで。


(・・・・・・そんなにも、あの人間の男に執着しているの? ヴァネロペ様)


 前までのヴァネロペは過激派の主張は悉く退け、人間派の魔女をどうにかこちらへと連れ戻すように説得してきた温厚なお方だったのに―――――――、あの日を境にヴァネロペは豹変してしまった。


 今から数えて約十年ほど前の事だったと思う。もしあの男が彼女の契約者なのだとしたら、あの変わりようも納得がいく。しかし、それだけであそこまで豹変するのだろうか? 


 それに、あの男を捕らえるという命を受けた際や、彼を初めて目にした際に呟いていた”アータ”という名前にも謎が残る。だって本人に聞いてみたら「そんな名前知らない」って言っていたのを、自分を含めて数人ほどが聞いている。


 問題が山積みで頭が痛くなるのを感じるリラを他所に、進行役を担ったハインリッヒはどうにかみなにやる気を出してもらおうと奮闘していた。


「皆さん、これはヴァネロペ様の命でもあるわけですし、ここは一つお願いします。私たちがやる気を見せなければ下の者にも示しがつきません!!」


「そうは言っても、私たちがいくら束になってかかってもあの二人には適わないよ。質より量って言うけど、あんなのは嘘よ。そもそも魔女としての次元が違うもの」


「そうだよね。だってヴァレンシアは姫様と一緒にこの世界を創った一人だし。あのルーシアだって姫様の親友だった人だもん。それにあの二人は”生粋の魔女”だしね。生まれが違うのよ私たちとは」


 と、ここで初めて発言したのは双子の魔女であるアリノアとアリスティアであった。アリノアは低身長貧乳、アリスティアは高身長巨乳という正反対のプロポーションを持つが、顔の造りは瓜二つであったため初対面の者でも辛うじて双子と分かる。

 

 髪と瞳の色はこの世界では珍しい黒髪銀眼であり、サイドテールがアリノア、おさげにしているのがアリスティアであった。


 比較的新参者の魔女であるが、魔女としての才能は折り紙付きであったため、魔女派幹部の一員になれた実力者でもあった双子の姉妹である。


 弱気な発言をした双子にハインリッヒは、


「そんな弱気でどうするんですか!? 私たちは仮にも”魔女派”の幹部でもあるのですよ!! そんな私たちが弱気だと知れば下の者たちが何というか!!」


 と、いつも理知的な光を宿した瞳に烈火のような怒りの炎を宿しつつ、ヘタレ発言をした双子に説教する。そんなハインリッヒの怒気に怖気ついたのか、互いの体を抱き合って縮こまるアリノアとアリスティア。


 そんな二人を不憫に思ったリラはどうにかハインリッヒの怒りを逸らそうと声をかけた。


「まぁまぁ、ハインリッヒ。落ち着いて。二人も悪気があって言ったんじゃないよきっと」


「悪気がないで許されたら異端審問入りませんよリラ」


「そうだけど・・・・・・、けど事実には違いないし」


「・・・・・・それは、まぁ、そうですけど。けどそれを認めてしまったらこの会議を開く意味がありません!! どうにかして人間派の―――――――、息の根を止めるのはやり過ぎですから。そうですね、どうにか人間派の活動を当面の間自粛させるように、という方針で「手ぬるいわ」えっ?」


 と、ハインリッヒの言葉に割り込むように、紅茶を飲んでいたクラリスが投じた一言に皆が反応する。反応の仕方は様々であったが、みなが抱く感情はただ一つ。


 ”驚き”の感情であった。


「クラリス、今何と――――――――?」


「聞こえなかったの? 私はお前のやり方は手ぬるいといったのよ。やるならば徹底的にやらないと調子に乗るだけよ」


「けれどですねクラリス!!」


 今回ばかりはクラリスに噛み付くハインリッヒ。貴族としての矜持故かそれとも生真面目な彼女の性格故か。数で勝る自分たちが数で劣る人間派に真正面から責めるのは”ノブレス・オブリージュ”に反すると考えているのだろう。


 彼女は魔女派の中でも最穏健派として通っており、未だ契約している人間はいないことでも有名であった。またこの世界にいる人間の少女を自身の屋敷にメイドとして雇い入れ、キチンとした給金を払い人並み以上の生活をさせてもいて、一時は人間派へと鞍替えするのでは囁かれていたほどだ。


 しかし、ヴァネロペへの恩義があるから、彼女は決して魔女派を裏切ることはなかった。しかし、魔女派の魔女たちによる横暴に辟易しているのも事実であったため、現在でもいつか魔女派を見限る最有力候補として名が挙がっている魔女の一人でもある。


 そんなハインリッヒは過激すぎる友をどうにか思い止まらせようと試みるも、クラリスはそんな彼女の心情を決して察することはなく、


「私は常々疑問に思っていたの。何故ヴァレンシアたちは私たちを裏切ったのか。理由は至極簡単。あの人間たちが悪いのよ」


「なっ!? 貴女は何を言っているのか分かっているのですか!? 彼女たちも”被害者”なのですよ!!!!」


「”被害者”? 笑わせないで。ハインリッヒ、お前も忘れたわけじゃないでしょう? 私たちがいわれもない罪で火刑に処せられている瞬間を。人間は私たちが苦しむ姿を優越そうに見下していた!! 指を指し、侮蔑の言葉を撒き散らし、あまつには唾を吐きかけ小便をひっかける奴もいたのよ!! 正直に言うわ。私はね、人間が大嫌いなのよ!! それが男であろうと女であろうと、子供であろうとも変わらないわ!!!!」


 いつになく興奮した面持ちで叫ぶクラリス。その叫びは彼女自身の悲鳴のようにも聞こえた。


「私たち”魔女”が一体何をしたというの? 普通に暮らしてきただけなのに、人間には目の敵にされ、故郷を追われ、終いには身に覚えのない罪を被せられ、拷問にかけられた末に処刑されたのよ!! 私の八つ下の妹は男に強姦された上に串刺しにされて殺されたわ。私の目の前でね!! あの日から私は人間を憎んだ!! あいつらは人の皮を被った悪魔だと!!!!!」


 ダンッと抑えきれぬ怒りのままに机を叩く。あまりの衝撃に机の上に置かれたティーカップが派手な音を立てて転がる。その拍子にカップの中に注がれていた紅茶がこぼれてしまい、クラリスの洋服に茶色いシミをつける。


 濡れた衣服が肌につく気持ち悪さも感じないのか、燃え滾らんばかりの怒りの業火を全身に纏いながら、クラリスは先ほどの余裕さもかなぐり捨てハインリッヒたちへと訴え続ける。


 その緊迫した表情を見ていたリラと双子姉妹はクラリスに同調し始めつつあった。彼女たちも少なからず人間に恨みはある。だからこそこの世界にいるわけで。勿論、自分もその一人ではあるのだが。


 それでも人間全員が悪だとは思っておらず、あの子たちには何の罪もない。それどころかあの子たちも自分たちと同じ被害者なのである。違いは魔力を有していないかだけで。


 それなのにただ”人間だから”という理由で、彼女たちを排除するという暴挙を黙って見過ごすハインリッヒではない。


 何とかクラリスの考えを変えなければ。彼女のやり方では悲しみしか生まれない。


 しかし、彼女にはもう自分の声なんか届かない気がする。そんな自分に出来る事は果たしてあるのだろうか。彼女の友として、自分がとるべき道は―――――――――――。


 ハインリッヒは変わり果てた友の横顔を見つめながら、固く閉じていた瞼をソッと開け、まとまりかけた自身の答えを述べるべく口を開いたのであった。



 



 次回でこの章は終わります。果たしてハインリッヒの出す答えとは? 

 彼女たちは繊細で、とても不器用で、大なり小なりそれぞれのトラウマを持っています。

 私の魔女としてのイメージを文章で表現すると、こういった魔女像が出来上がりました。

 そんな彼女たちを愛して下さったら嬉しく思います。これからも可愛く書けたらいいなぁと思いますのでよろしくお願いいたします。ではまた次回に。

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