第五章 人間派と魔女派(1)
短いですが楽しんでいただけたら幸いです。
”魔女派”とは魔女こそが崇高なる存在だと声高に叫ぶ魔女たちの集まりであり、”人間派”とは魔女も普通の人間であり、魔女たちに虐げられる人間を庇護するために結成された少数の魔女たちによる集団である。
ほんの数百年ほど前までは魔女はみな仲が良かったが、ある日にヴァネロペの実姉であるヴァレンシアが妹に反旗を翻し、彼女たちのやり方に異を唱えていた少数の魔女たちを引き連れた出来事を境に、魔女たちの間に亀裂が生じてしまったことが原因で二つの派閥が自然と確立されてしまった。
それが両派閥の事の起こりという訳である。
しかし、未だユートピアを牛耳るのは圧倒的に魔女の数が多い”魔女派”であり、ヴァレンシア率いる”人間派”はユートピア中央都市から遠く離れた山林などを切り開いて、魔女派の魔女たちから救い出した人間の少女と共に村を創建してひっそりと暮らしているのが現状である。
人間派の魔女が出来る事と言えば少なく、主に魔女派の魔女たちから人間の少女が襲われないように庇護することであり、今人間派の魔女は3人ほどであり、それぞれ小さな集落を形成しつつ、魔女3人が人数を分散して約200人ほどの人間の少女を保護している。
ともあれ人間派の人数が極端に少ないため、どうにかして味方を増やしたいと思っていた所に、よい人材が来てくれたものだとヴァレンシアはほくそ笑んだ。
まだ闇に染まっていない魔女なら取り込めばいいと思っていたところ、なんと今度の来訪者は人間の、しかもあのヴァネロペの”契約者”である男がここに来るとは、なんて運がいいんだと。
その為にヴァレンシアはわざわざ顔を見せに行き、愚妹に喧嘩を吹っ掛けたのだ。ヴァレンシアの読み通りヴァネロペは喧嘩を買い、此度の勝負は我ら人間派が勝利を収めた。
とりあえず魔女派の牽制にはなるであろう。どうやらヴァネロペはあの少年の前では”いい子”でいたいようだから。人間の少年には事が片付くまでいてもらわなければ。
ともかく自身の作戦通りに事が運んだヴァレンシアは張り詰めていた緊張の糸をゆっくりと解き、構えていたレイピアを魔力の粒子に変えて空中に雲散させる。
ヴァレンシアが戦闘態勢を解除したのを見計らって、ルーシアは慌てて彼女の足元に跪き、
「―――――――ヴァレンシア様。ありがとうございます。貴女様が来て下さらなかったら、私はもう少しで・・・・・・」
「いいのよ。お前も辛かったでしょう。親友であったヴァネロペを裏切る様に仕向けたのだから」
「・・・・・・確かに私とヴァネロペはかつては親友でありました。しかし、もう親友ではありません。私は”私の意志”であの子と袂を別ったのですから」
「そう、もういいわ。顔を上げなさい」
ルーシアの独白を聞いたヴァレンシアは一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべるが、すぐにいつもの仏頂面に戻り、未だに膝をつくルーシアにそう命令した。
ヴァレンシアの指示を聞いたルーシアは短く返事すると、膝についた土を手で払いながらゆっくりとした動作で立ち上がる。いつもは完璧な着こなしであるルーシアのドレスは先ほどの戦闘で激しく乱れており、所どころ汚れや破れなどが見受けられた。
むしろ怪我がないだけマシだったと思う。あの精鋭で服が破れただけで済んだのだからほぼ奇跡といっていいであろう。彼女が大怪我を負えばこの村で暮らしている少女たちがどんな酷い目に遭うか。想像するだけでも恐ろしい。
魔女派の魔女たちはこの世界に来たときから、自分たちとは違う”化け物”に成り下がってしまったのだから。
かつては同じテーブルで食事した仲間の事を思い浮かべるが、ヴァレンシアはそんな思い出は自分には不要とばかりに頭を振り強引に脳裏から消し去る。
こんな感情は自分に入らない。
私は、あんな”馴れ合い”は必要ない。
こんな地獄を変えるには同志が必要であり、同志と同類は違う。
同類は魔女派、同志は人間派。
私たちと彼女たちとでは次元が違うのだ。
ヴァレンシアはギリッと歯を噛み締めながら、自分たちの理想を実現させるための要となる少年の元へと向かうべく、
「―――――――ルーシア、あの男の元へと案内しなさい」
「えっ? それはちょっと」
「? どういう意味?」
「あの少年――――――――アラタは怪我していてベットに寝かしているんですよ。その監視役にミリアをあてがっていて。だから変なんですよね。何であの時アラタが窓際に立っていたのか」
「あぁ、それは私の魔法による幻影よ」
「えぇ!? 魔法ですか?」
ざっくばらんと言ってのけるヴァレンシアにルーシアは目をまん丸にして驚く。彼女の魔法が桁違いなのは知っているが、それでも幻影を映すことはとても容易な事ではない。
しかも、あんな短時間でやってのけるなど・・・・・・、ほぼ不可能に近い。
だがそれをやってのけるのだから、やはり彼女は自分たちとは別格なんだと思い知らされた。流石あのヴァネロペと共にこのユートピアを創造した魔女なだけある。
だが・・・・・・、一つだけ疑問が残る。
それは。
「・・・・・・経緯は分かりました。けど、どうしてヴァレンシア様はアラタの外見が分かったのですか? まだアラタのことを見ていませんよね?」
そうなのだ。契約者であるヴァネロペならともかく、まだアラタと会ってもいないヴァレンシアがヴァネロペを騙せるほどの幻影を映せるはずがないのに、それを彼女は完璧に幻影で映せて見せた。
何が言いたいか? それは―――――――。
「もしかして、ヴァレンシア様はアラタの事を知って―――――――「何を言いたいのか分からないわ」ッ!?」
ルーシアの言葉に割り込むようにして言い放つヴァレンシア。どこか×の悪そうな表情を浮かべ、強引に話を終わらせようとしていた。
これは何かあると彼女の口ぶりから察したルーシアであったが、ヴァレンシアがどうしても言いたくないのならここは黙っておくのが吉であると判断し、深く追究するのは止めることにした。それに出来る事なら彼女の口から話してほしい。それまでは待つことにした。
「分かりました。言うまで待つことにします」
「――――――ルーシア」
「じゃあ、行ってみましょうか。容態次第では帰ってもらうことになりますけど」
「えぇ、それで構わないわ。流石にあの子たちもここ数週間は大人しくしているでしょうから」
「あぁ、そうですね。ヴァネロペは体が弱いですから」
かつての親友の事を思い出し、一時だけ懐かしい気持ちが湧くが、すぐに気を引き締めてヴァレンシアを診察室がある二階へと案内する。
ヴァレンシアは家の中を先導してくるルーシアの背中を眺めながら、彼女が先ほど放った言葉を思い返していた。
(『本当はアラタの事を知っているんじゃないのか?』か。そうね、あの男の事は忘れもしないわ)
あの男のせいで、妹は――――――――、そして私は――――――――。
いや引いてはここにいる全ての者は――――――――、あの男のせいでこんなにも”壊れてしまった”のよ。
ここは、この世界は。
「――――――――ユートピアなんかじゃない」
そう。
この世界は”牢獄”なのだ。妹の歪んだ感情や欲望が渦巻く”永久の監獄”。
だから、私は愛する妹に背を向けたのだ。彼女を助けるために。
その為にはどんなに憎い男であろうとも、目的の為ならば自分の感情を殺して使えるものは使い尽くす覚悟だ。
「―――――――――アラン・ターヴァング。私は、お前を決して許しはしない」
その瞳に憎しみの炎を宿しつつ、ヴァネロペはルーシアの後に続いて玄関をくぐったのであった。
少しずつ情報が出ていますが、まだまだ物語は始まったばかりです。
主人公は果たして嫌いな魔女に協力を仰ぐのか? それとも――――――。
6章からは異世界での生活などを書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
では次回に。




