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幕間 その頃のルーシアたち(4)

楽しんでいただけたら幸いです。

「―――――――――――ミリアったら遅いわね」


 ルーシアは部屋の西壁に掛けた時計を見ながら、少し苛立った口調で呟く。その理由はお茶を入れてくるように頼んだミリアが待てど暮らせどもやって来る気配がないからだ。


 自分たちが診療所へと向かう前に『お茶の準備をする』と言って診療所へと向かったはずなのに、いくら待ってもあの少女がお茶を運んでくる事もなく・・・・・・。


 ルーシアは両の瞼を閉じ腕を組んで身動き一つないヴァレンシアの顔色を窺うべく、ソォ~と視線を向けたことを悟られないようにして盗み見る、が。


「・・・・・・そのような不躾な真似は感心しないわね」


 と、片目を開けたヴァレンシアに自身の行いを咎められる。


 どうしてバレたのか分からないが、とりあえず謝った方がいいと判断したルーシア。


「も、申し訳ありません!! その・・・・・・、中々お茶が出ないことに怒っていらっしゃるのかと思って」


「あのね、貴女が思い描く私っていったいどんな我儘娘なのよ。そんなお茶が出ないくらいで癇癪を起すほど、私は器量狭くないわよ」


「そ、そうですよね!! 失礼しました!!」


 ジト目で睨みつけられる。それだけで寿命が数年ほど縮んだ気がした。


 本当に言葉と行動は選ばないといけないなぁ、と自身の取った行為について猛省する。


 しかし、それにしたって時間がかかり過ぎなのも事実である。


 身内目線ではあるが、ミリアは何をやるにしても素早い方だ。効率が良いというか容量が良いというか。何をやらせてもテキパキとこなす優秀な娘であった。


 そんな彼女がたかが雑事にこうも手間取るなんて・・・・・・・、通常では考えられないことだ。


 最初は腹がたったものの、時間が経つにつれて何かあったんじゃないかと心配になる。ヴァレンシアもそんなルーシアの心情を鋭敏に察してか。


「そんなに不安なら一度様子を見に行ったらどうかしら? 何かあったのかもしれないわよ」


「そ、そうですね。では、お言葉に甘えて」


 失礼しますと断りを入れて、ルーシアはミリアの様子を窺いに行くため応接間を後にしようと扉に手をかけたその時。


 玄関先で悲鳴に似た声と食器類が音を立てて割れる音が同時に響き、その音を耳にしたルーシアは半ば条件反射の如く応接間から飛び出す。


 部屋から飛び出たルーシアの目に映った光景は・・・・・・・、全く想像だにしていないものであった。


 視線の先にはお盆に載せたティーカップを床に落とし、床一面に紅茶を溢して呆然と立ち尽くしているミリア。その彼女の頭部には本来人間には備わっていないモノが生えており、それは彼女の心情に合わせるようにピクピクと動いていた。


 そして、そんなミリアの視線の先には間の悪いことに、薬草医でもありミリアの友人であるナタリアが玄関で立っていた。これまたミリアと同様に驚きと困惑が入り交じった複雑な表情を浮かべて。


 まぁ、彼女の気持ちも分からないではない。


 まさか友人であるミリアが”人間”ではなかっただなんて、誰が想像できようか。少なくともよほどの審美眼の持ち主でもなければ不可能であろうが。


 それでもミリアの唯一の友人を失わせるわけにはいかない。


 その為には友人に自分の正体がバレたことで、冷静な判断も出来ず気が動転しているミリアのフォローをしなければ、とルーシアは偶然を装って彼女たちの間に入って見せた。


「あ、あぁ!! ミリア、そこにいたの。駄目じゃない、まだ魔法が解けていないのにうろついちゃ」


「・・・・・・ルーシア様?」


 怯えた瞳でルーシアを見上げるミリア。頭上の狼耳もへにゃと力なく垂れ下がっていた。そんな彼女を守る様に自身の背後に隠すようにして間に入る。


 突如として乱入してきたルーシアにナタリアは目を丸くさせたが、礼儀正しい彼女はすぐに自身の不躾な行いを恥じ、一礼でもってして来訪の旨をルーシアに伝える。


「お邪魔しております、ルーシア様。それで・・・・・・、さきほど口にしていた魔法というのは一体。ミリアは大丈夫なんですか?」


 チッ、中々耳聡いわねこの子。


 だけど、これで一先ずミリアの正体については誤魔化しが効きそうね。


「あぁ、私の魔法がどうも変な風に作動してしまってね。運悪くミリアにかかってしまったというわけなの。それで犬耳が生えてしまって・・・・・・・」


「そうなのですか。それにしてもルーシア様ほどの魔女でも魔法を失敗することがあるのですね」


 ルーシアの”嘘”を聞いて、ホッと胸を撫で下ろすナタリア。そんな彼女とは対照的に不安で体を小刻みに揺らすミリア。これ以上”本性”を現さないように耐えることで精一杯なのであろう。少しでも気を抜くとその瞬間にミリアは人の姿を保てなくなってしまうだろう。


 そうなっては流石の私でも庇いきれない(魔法では完全獣化できないため)。かと言って彼女を見捨てる気は毛頭ないが。いざとなれば魔法で記憶を消し去ればいい事。ミリアをこれ以上悲しい目に遭わせたくない。それは彼女を引き取り養う時から決めていた。


 だが、今はミリアを信じよう。


 彼女だってやっと手に入れることが出来た平和な日常を壊したくないであろう。


 それに、初めてできた人間の友人を失いたくもないだろうから。


 だから、必死に自身の本能に耐えるミリアを信じて待とう。


 でもこの状態じゃ暫く落ち着くことは出来ないか、と判断したルーシアは、心配そうにミリアの様子を窺うナタリアへとこう告げた。


「来て早々悪いけど、ミリアは少々体調が悪いようなの。だから、今日はお引き取り願えないかしら?」


「私は全然かまわないです!! ミリア、お大事にね」


 ぺこりと会釈しつつナタリアは診療所の扉を開けて退所する。最後まで彼女はミリアを心配していた。それは背後で蹲るミリアにも届いたと思う。


 ルーシアはナタリアの足音が遠ざかっていくのを確かめた後、自分の背後で頭部に生えた耳を押さえながら、不安と怯えからかブルブルと震えて蹲るミリアの体を振り向きざまに優しく抱きすくめた。


 腕の中にいるのはいつもの冷静沈着で自分に毒舌を吐くミリアではなく、自分の体の変化に怯え戸惑う一人の幼い女の子であるミリアであった。


 彼女の獣化は進んでいて、もう顔は完全に狼のソレに変わってしまっていた。よく見ると腕も狼の前足に変わりつつある。どうやら抑えきれなかったようだ。


 これはナタリアに帰ってもらって正解だったかもしれない、と自身の咄嗟の判断をほめたい気分になった。


 だが、今はまず荒ぶっているミリアの気持ちを落ち着かせる方が先決だ。ルーシアはミリアの背中を幼子をあやす様に撫でさする。しばらく撫でていると荒かったミリアの呼吸も段々落ち着いてきたようで・・・・・・、狼に変貌しつつあったミリアの容姿は徐々に人間に戻りつつあった。もう残すは狼の耳だけになり、数分ほどで元の人間の姿に戻るであろう。


 とりあえずは一安心ね、とルーシアは深い溜息を吐く。


 ミリアはルーシアの腕の中で身動ぎすると、彼女の首に齧り付くようにして抱き付いた。ぎゅうと強く強く抱きしめる力は強くなっていく。


 そして、震える声で感謝の言葉を口にする。


「るーしあさま、ありがとう、ございます」


 拙いながらも、彼女の気持ちは十分に伝わった。


 ルーシアは獣化で疲れているであろうミリアの体を抱き返し、


「・・・・・・いいのよ。貴女を守るのは、私の義務だもの」


 貴女は、気にしなくていいのよ。


 ルーシアとミリアは互いに身動き一つとらないまま、しばし抱きしめた体勢でお互いの温もりを確かめるのであった。


 その様子を扉の陰から見守っていたヴァレンシアは、フッと柔らかい微笑を浮かべると何事もなかったように扉を閉めたのであった。


 しばらくの間、二人きりにしてあげようというヴァレンシアなりの配慮でもあった。



 幕間回でした。

 ケモ耳娘は大好物です、って、前も言いましたかね?

 つまりそれほど好きという事です(力説)!!

 次章からは新章が始まりますので、よろしくお願いします。

 では、次回に。

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