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第四十四話 大円団



 二年が過ぎた。

 

 僕とダレナは揃って、王都大学を卒業できた。

 去年の段階で卒業できるだけの単位は取れていたのだが、ジュリアの様に全学科の単位が欲しくて他の学科も学んでいたのだ。マナがナノマシンであると言う知識があると、不得意だった魔法の実技も学科も簡単に学べる事が出来た。不思議なものだ。

 ダレナと夫婦で競うように学ぶ事で、僕ら夫婦は全学科の単位を取る事が出来たのだ。

 卒業式の成績優秀者にはダレナがなったが、僕は大学生活に大変満足したのだった。

 

 アレックは二年の間、大学図書館の読み残した本を全て読み、世界中から本や文献を集めて知識を増やしていった。その過程で、新魔王であるブリア様の強力な後ろ盾を得て、アレックが本や文献を集めるお金、知識収集に使うお金はすべて王国の国費で賄っている。

 アムリト教会もアレックに協力している。最初は渋っていたウッドムト最高導師も、アレックと顔を合わせ何度も話をしている内に虜にされてしまったように信を置くようになった。僕が見るに洗脳に近いんじゃないかな……。

 とにかく、たった二年で王国の最高権威である魔王と最高導師をアレックは傘下に収めたようだ。マナから頭脳の核となると思われているらしいアレックなら当然かな。

 

 王都大学を卒業した僕は何をするのか。

 僕はチート列車を引く事になっている。

 アレックの計画では僕の引くチート列車を王国中に広げるのだと言う。

 そしていずれは世界中にチート列車を走らせると言う。

 それがアレックの世界征服に繋がると言う。

 王国の国民だけで二百万人。世界には何千万人かの人々が住んでいるはずである。沢山の人々の移動を僕が引くチート列車が支える事になる。なんと壮大な計画なんだろう。

 僕は二年でチート列車を引く速度が更に上がった。海の上を走る実験も難なくこなして同じ速度で走れる。海の上を走るのは結構気持ちがいい。

 アレックが言うには、マナの力の限界まで僕が引くチート列車が速度を出せれば、千両編成にしても地球一周を十刻で走れるだろうとの事。計算するとマッハ十五を越えている。まあ、今はまだ十分の一の速度を越えた位だ。

 僕は地球中を駆け回る日が来るのを心待ちにしている。まあ一歩一歩だ。まず王国の街道の整備からだね。そして王国中をチート列車で駆け回るのだ。

 

 今、僕はチート列車を引いている。横にはルールーが一緒だ。

 街道をチート列車を引いてゲラアリウスの城から王都へ向かう途中だ。

 チート列車にはバロン様家族やゲラアリウス領の面々、そして王国中から人々が乗っている。


 

−−−−



 王都に着いた。

 

 車掌のダレナが扉を開けると、全車両の扉が開く。アレックの作る魔法の機器はどんどん素晴らしい物になっていくな。マナの制御の研究の成果だ。

 

「いんや~! ここが王都でやんすか! 王宮も立派でやんすな~!」


 牛使いのモースさんの声がする。牛使いの一団を率いて王都にやって来たのだ。

 

 恐持ての一団は賭博の元締めのギーエンさんだ。

 

 ママンと話しながら降りたのはゲラフラーノ村の村長のメイデンさん。

 

 僕は知り合いの人々を沢山連れてきた。

 

 ジェームスは『神の子』レイナと手を繋いで降りてきた。王国東部教会の導師もレイナと再開して楽しそうだ。

 兄ちゃ夫婦も元気だ。

 パパンと前魔王様であるバロン様家族も降りてきた。ジュリアは優雅に扇子をユラユラさせている。まだ悪役令嬢を続けるのかな。

 女性の一団を引き連れたゼットブ様が両脇の女の人の胸をモミモミしながら、バロン様家族を出迎えていた。

 姉ちゃもママンやパパンと抱き合っている。再会した皆も抱き合っている。

 

 今日はチート列車の開業の日なのだ。

 

 ぞくぞくと王国中の貴族や大商人達もチート列車から降りてくる。

 王国中を周ってチート列車に乗せて来たのだ。

 

 王宮前は、街道が伸ばされ、前世の駅の終点の様な様相となっている。

 

 チート車から降りたバロン様家族が王宮の門まで来ると、チート列車の到着を見に来ていた王国の民が歓声を上げる。

 バロン様は王都所払いでこの二年、王都に来ることが出来なかった。バロン様が手を振る。ソフィア様やジュリアも手を振る。

 拍手が起こっている。

 

 門の前には、ブリア様や重臣達がバロン様家族を出迎えていた。

 ブリア様とバロン様は抱き合う。マリー様とソフィア様も、そしてジュリアも混ざって二年ぶりに王族は抱き合う。

 王国の民は、王族が抱き合う光景を見て、バロン様が許された事を知る。

 大きな拍手が起こっている。

 仕組まれた対立だった事を知らない王国の民は、この和解を涙を流して喜んでいる。

 

「王国の者達よ! ここにチート列車の開業を宣言する! 主要都市を繋ぐ列車として、王国の発展に貢献してくれる事だろう!」


 魔王であるブリア様の立派な挨拶だ。魔王様としての貫禄が出てきたな。



−−−−



 チート列車開業を祝して、王宮では大宴会が催されている。

 

 王族の席の側には政治の中心となる者達が連なっている。僕らもこの席だ。

 

「……帝国への布教の計画は素晴らしいですな。奴隷達の中に希望を送り込む……。まさに教会の教えの本質です。ただ力でねじ伏せるだけが布教では無いと言う事ですな~」


 すでに王国では宰相の代わりのようなアレックに、心酔してしまったウッドムト最高導師が目を爛々とさせて帝国への布教計画を話している。やっぱりアレックに洗脳されてるな。……んっ、ひょっとして僕もそうなのか? まあいいか、相手は神様みたいなもんだし……。

 

「いや~。たった二年で王国も様がわりじゃのう~。ジョージよ、儂らはもう年寄りじゃの」


「ハッハッ! 何を言っておられますかな。バロア様。儂は家督をジョウに継がせて、このチートの列車事業を手伝うつもりですぞ! 世界中にチートを走らせてやるつもりですぞ! どうですかなバロア様も一緒に世界を巡りませぬかな?」


「ほう! おもしろいの! ……」


 パパンとバロア様も生きがいを見つたようで何よりだ。

 


−−−−



 大宴会も終わって、近しい者達がアレックの部屋に集まっている。

 アレックがマナが求める頭脳の核となる事を知る者。つまりアレックを神様候補だと思っている者達だ。

 

「ねえ、チート叔父さん。僕も列車事業を手伝わせてくれない? 世界中を見て回りたいんだ」


 この所さらに利発さを増したジェームスが言う。

 

「う~ん。ジェームスはまだ小さいからな~。大学を卒業したら手伝ってもいいよ」


 僕はかなり難しい課題を与えた。

 

「本当! よ~し、すぐに大学に入るぞ! 父上もアレック叔父さんもアリア叔母さんもダレナ叔母さんも成績優秀者で卒業したからね! 僕も成績優秀者で卒業してみせるよ!」


 う~ん、立派な心がけだね。叔父さんは嬉しいよ。んっ、僕だけ成績優秀者じゃ無いんだ……。

 

 バロア様はルールーを撫でてまた頭を咥えられて喜んでいる。この所チート列車の開業準備で忙しく、ゲラアリウスの城には戻っていなかったからな。

 

「チート、私は旅の一座を作るつもりよ。世界各地で公演するのよ! すごいでしょ!」


 ジュリアが突拍子も無い事を言い出す。

 

「旅の一座って? 芝居って事? どんな芝居を世界の人達に見せるつもりなの?」


「もちろん私の代表作よ! 『勇者と魔王の戦い』に決まってるでしょ! 時々はチートも演じてね。チート役だから覚えてるでしょ。お父様にもお願いするつもりよ!」


「チート、これも世界征服の一環だよ。王国の価値観を世界に広げるのに、勇者と魔王の出来事は良い題材だ。ジュリアも乗り気だしね」


 アレックがそう言うなら……。でも自分役を演じるのは照れるだろうな。僕はあの二年前の卒業式を思いだす。すごく昔の出来事に感じる。

 

「それにしても子供達は立派になった物ね。ジョウちゃんはゲラアリウスの主となるし、アリちゃんは大学の教授。アレちゃんは大学の教授かと思っていたら王国の重鎮にはなるし、いつの間にか神様を目指すですって……。チートちゃんは勇者だし立派な列車になったし。(わたくし)は本当に嬉しいわ。ねえジョージ」


「ああ、みんな本当に立派になったな。もう王国の事は若いみんなに任せられるな。のう皆の者も引退せぬか?」


「いやいや、私は引退できませんぞ。引退してアレック様に全てを任そうと思っていたのですが、アレック様は神様になるそうなので、ゲラアリウスの仕事をジョウ様だけに押し付ける訳にも行きませんぞ。私は老骨に鞭打って死ぬまでゲラアリウスの為に働きますぞ」


 ベタンコート卿が、パパンの言葉に答える。

 

「某も引退できませんな。実はリディアが身ごもりましてな。もう子供は出来んと思っておったから実に嬉しゅうしてな。子供がジョウ様達の様に立派に成人するまでは引退など出来ませんぞ」


 何とブレッド連隊長は父親になるのか……いったい何歳なんだ。パパンとそれほど変わらないはずだが。

 

「私も若い妻達が次々身ごもりまして……まあ、もとより導師に引退はありませんがな」


 う~ん。タルタリムト導師まで。この世界の年寄りって若いよな。

 

「そうか、引退せぬか……まあバロア様がいらっしゃるし、ソフィア様もサリアもいるから寂しくはないかな。世界中を巡れば楽しいであろう」


「なあジョージ殿。俺も連れて行ってくれないか。俺も世界中を巡りたい。戦争の起きない世界をアレックは作るみたいだし、王国騎士団も下の者に任せればよさそうだ。この所、チートもアレックも忙しくて俺の所に剣の稽古に来ない。バロア様やジョージ殿と居れば剣の稽古も出来そうだ。三人で剣の奥義を極めてチートやアレックより強くなるのも一興」


「おいゼットブ。儂らと共に世界中を巡ると申すが、ゼットブ一人でいいのか?」


「何を言いますかバロア様。もちろん、お姉ちゃん達は連れて行きますよ。モミモミしないと剣の奥義には到達できませんからな」


 さすがゼットブ様だ。いつも剣の奥義への到達を心に掛けている。きっと僕やアレックより先に剣の奥義に到達する事だろう。いやいや僕も負けられないな。チート列車を引く合間には剣を稽古しよう。

 

「ねえアレック。世界征服が終わったらどうするの?」


 ジュリアが聞く。


「世界の隅々まで調査してマナの全てを調べる。それから宇宙に出る方法を見つける。マナを統べる方法も見つける。この世界の神だけでなく、この宇宙の神となる」


 う~ん。壮大だ。

 

 皆は立ち上がって拍手をする。

 魔王であるブリア様も妻のマリー様も拍手している。魔王様より偉くなるとアレックは宣言しているのだが……。まあいいのか。みんな笑っているし。

 

「しかし何事も一歩ずつだ。神だとしても一歩、一歩進むさ」


 僕は朗らかな気持ちになってダレナの肩を抱き寄せる。

 いつの間にかルールーも僕の側に寄ってきている。ナデナデ。

 

「そうだね。一歩一歩だね。僕達の戦いはこれからだ!!」


「いやチート、それを言ったら終わっちゃう……物語の終わりの台詞よ……」


 またジュリア得意の物語か。

 何を言ってるんだジュリア。

 

 僕達は世界を征服して宇宙へ行くんだよ。

 

 物語は今始まったのさ。




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