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第四十三話 全ての答え



 僕が引くチート列車がゲラアリウスの城に到着した。

 

 バロア様家族が列車から降りる。バロア様家族は少数に絞った従者達を連れて来ている。

 いつもジュリアに付いている執事や従者も一緒だが、バロア様家族に花びらを撒く事は無い。魔王様では無くなったんだと、しみじみ思う。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 新居も決まってバロア様家族も漸くゲラアリウスに落ち着いたようだ。ゲラアリウスの城の一角にバロア様家族の住むフロアを広く取ったのだ。とりあえずは、この状態で住むことになる。

 

 僕ら夫婦やアレック、姉ちゃ、ゼットブ様一行はバロア様家族の定住の為の手伝いをしていたのだが、そろそろ王都に戻って大学生活を続ける事になった。

 

 僕はアレックに呼び出されたので城門に居る。ルールーも付いて来た。

 

 ジュリアもやって来た。

 

「まあ、いずれは他のみんなにも聞いてもらうつもりだけど、まずは、君達二人に聞いて欲しい」


 アレックは何を言うのだろう。

 

「三千の竜をジュリアが撃退する前に俺が言っただろう。この件が終わったらゆっくり説明する事があるってね。チート、大森林の奥深くまで連れて行ってくれ」



−−−−



 大森林の奥深くまで来ている。ここまで来るとマナはかなり薄いな。

 

 アレックは持って来た木材を組んで火をつけた。寒いわけでも無いのになんだろう。

 

「ジュリアは前世にあったという武器を作ろうとしていたね。爆発を起して鉛の玉を発射する武器だ」


「ええ、そうよ。この世界にもある物を混ぜて爆発を起す性質のある物質を作ろうとしたけど、出来なかったわ」


 火薬の事だろう。ジュリアは銃を作ろうとした事があるのだ。しかし、火薬を作る事が出来なかった。

 

「なぜ出来なかったと思う。ジュリアの前世は研究者だったのだろう。色々試行錯誤したのだろう?」


「そうね、爆発する物質を作るのは簡単だと思っていたわ。でも、前世の知識が不十分だったのか、それとも何か他の原因があったのか……色々考えたけど、とにかく、上手くいかなかったのよ。爆発するという事自体がこの世界では無いと結論づけたわ」


「つまり、基本的な現象の挙動が、ジュリアの前世と、この世界では違うと思った訳だ」


「そうよ。何と言ってもこの世界には魔法があるし……マナもあるし」


 う~ん。物理学的な基本事項が違うと言う事かな。

 

「そうか……」


 アレックは何を話したいのだろう。前世の事と関係ありそうだな。僕とジュリアだけにまず話したいなら、そうだよね。

 

「チート。チートが雷に打たれた後、僕に言った言葉を覚えているかい?」


 んっ、何だっけ。……そうだ。

 

「ここは地球かなって言ったよね」


「ああ、そうだ。そして今なら答えて上げられる。ここは地球だよ」


「何言ってんだいアレック。ここは地球だって解かってるよ」


「違う。チートの前世の……ジュリアの前世の……地球だって事だよ」


「えっと……この世界が僕の前世の世界と同じってこと?」


「そうだ。チート達の前世から見たら遠い未来の世界って事だ」


 この世界が前世の世界の未来だって……確かに前世の世界と地形は同じだけど。

 

「でもアレック。この世界には前世の世界の遺跡とかまったくないじゃない。それにこの世界にはマナがあるよ。竜なんかも前世の世界にはいなかったよ」


「ああそうだな。全部説明するから、まずジュリアと二人で、この辺のマナを全部使い切ってくれ」


「えっと、ここは大森林の奥深くだから僕らに纏われているマナと、付いて来たマナしかないよ。マナを使い切ったら帰るのに何日も掛るけど……」


「大丈夫だ。マナを使い切ってくれ」


 アレックが言うんだから。僕はジュリアと共に頷いた。ルールーにも気持ちを伝える。

 

 僕とルールーが全速力で走る。ターンしてジュリアに向かって走る。

 

 ボフッ!!!!! ボフッ!!!!!

 

 ジュリアがマナを集めて僕とルールーにぶつけた。たったの一回で全てのマナが相殺されてしまった。

 

 相殺されて、この辺にあるマナはまったく無くなる。

 

「これでいい」


 アレックが何か黒い粉を一掴み地面に置いた。

 先ほど火を付けた木材を一つ手に取る。

 それを地面に置いた黒い粉に近づける。

 

 ボッ!!

 

 黒い粉が爆発して黒い煙が上がる。

 

「何て事! 作れたの! ……火の薬を!」


 ジュリアが驚いている。アレックは火薬を作ったのか。

 

「ああ作れた。物質の配合はジュリアが最初に試した物と同じだよ」


「どう言う事なの。それならどうして私が……火の薬を作った時は爆発しなかったのかしら……」


「それはこういうことだよ」


 アレックがまた黒い粉を一掴み地面に置き、火が付いた材木を近づける。

 ……が、爆発しない。

 どこから湧き出したのだろうか、マナが集まっている。

 付近のマナが一挙に濃くなっているのだ。

 ありえない……。一度無くなってしまったマナは戻るのに数日掛るはずなのだ。

 

「マナが邪魔している。火の薬が爆発するのをマナが邪魔してるんだ」


「どう言う事なの?」


「マナが意思を持っていると言う事さ。火の薬の爆発を感知してマナが急激に集まって来た訳さ。火の薬が爆発するのを防ぐ為にね」


 マナに意思がある……。何て事だろう。

 

「大学の図書館にある本を大量に読み。その知識をつなげ合わせて解かった事だ。マナには意思があり、チートやジュリアの転生と言うのは、過去に生きた人の記憶をマナが転写した物だろうとね……」


 アレックの説明は続く……

 

 王国を設立した魔王は女性であったと言うのだ。これは古文書も大量に読んでの分析だ。そして勇者は初代ゲラアリウス公。僕と同じような体躯の持ち主。

 アレックが言うには初代魔王はジュリアの前世と同じ記憶を、初代ゲラアリウス公は僕の前世と同じ記憶を持っていたのだろうと推測したそうだ。推測と言うより確信しているそうだ。

 

 マナは目的を持ってこの世界を今ある形にしていると言う。竜の世界の竜達は、僕の前世の世界の過去に存在した恐竜を蘇らせたのだろうとの事。

 マナは、この世界での技術の発展を阻害している。僕の前世には在った、蒸気機関もエンジンも火薬も、上手く働かないように阻害するのだ。だから銃や大砲も無く、内燃機関も存在しない。

 

 そうかマナが阻害して銃器や内燃機関が存在しないので、どうも前世に比べて技術がアンバランスだと思えたんだな。上下水道や、お湯まで使える設備があるのに鍬は牛さんに引かせたりする……。


「アレック、マナって言うのは何なんだい。意思があるって……何か目的があるんだろうか」


「俺が聞いたチートやジュリアの前世の話。この世界で得た知識。全てを総合して演繹的に導き出した事を言おう」


 どうもアレックは全ての答えが解かっているようだ。

 

「チートの前世の仕事は何だと言った?」


「うん、僕は結構大きな組織で、小さな小さな機械を作ろうとしていたんだよ」


 僕は大きな自動車会社の研究所で、ナノマシンの会社を立ち上げるべく働いていたのが最後の前世の記憶だ。

 

「ジュリアの前世は研究者だったよね。どんな研究だった?」


「ええ、人工的な知能の研究よ」


「ジュリア、研究ではどの位の位置にいた?」


「言ったでしょ。トップよ。学会でも天才なんて呼ばれていたわ。アレック、あなたを見て天才が本当はどういう者なのか良く解かったけれどね」


「チートが作っていた、小さな小さな機械。それにジュリアが研究していた人工的な知能。合わさった物がここにあるよ」


 アレックが周りを促す。

 

 マナだ。

 

 マナがナノマシンで人工知能だ。

 

「さて、チートとジュリアが、きっとこのマナを作ったんだろう。そしてどうなったか。まず間違いなく人間は滅ぼされたね……」


 人間は滅ぼされてマナが地球を支配したと言うのだ。地球はマナによって作り直されただろう。そして宇宙にも進出して行ったはずだと。

 そしてマナは失敗した。宇宙のどこかで失敗した。上手く先に進めない。

 

「どうして上手くいかなかったって解かるの?」


「解かる。俺も経験したからだ。マナは人工的な知能だ。確率的な考え方をしているだろう。論理的整合性を軸に思考してるんだ。その限界がある。そして、確率的な論理整合からは、それを凌駕できる思考は生まれない。ゼットブ様の剣の教えで俺にはそれが解かった……」


 マナは宇宙の先に進みたくて、答えを人間に求めた。自分達を創った存在だ。遺伝子から人間を作り、亜流の人間も作る。そして過去の恐竜も蘇らせて、地球をマナが望む者を生み出す為の培養室としたのだ。

 

「何者を生み出そうって言うのよ?」


「中心となる者だ。マナの中心となる。マナが宇宙の隅々にまで広がって行く為の核となる中心だ」


「この世界は、その中心となる者を生み出す為にだけあるって言うのかい」


「そうだ。この世界は俺を生み出す為にだけある」


 ……。

 

「チートやジュリアの前世の記憶も、マナの生みの親である君達の事を残っている資料から調べて構築した記憶なのだろうね。そして、この世界で俺を助ける為に近くに転生させたという事だろう。チートもジュリアも特殊なマナの使い方が出来るからな」


「……アレック。まるで神様みたいに感じるけど」


「ああ、同じ事を少なくとも一度は試しているはずだよ。マナは……。かつて王国を開いた魔王と勇者。そして同時期にアリムトその人がいた。全てを知るアリムト。アリムト教の教祖。魔王、勇者と共に何百年も生きて王国の基礎を築いた。しかしアリムトはマナの核とはなれなかったのだろうね」


「おーほっほっほっほっほ!! 面白い! 面白いわ! アレックが神様になるって! そして私やチートは、それに協力するために使わされたって! 最高よ! こんなに面白い物語は無いわ! おーほっほっほっほっほ!!」


 誇大妄想……。そうかも知れない。しかしアレックを狂人だとは思えない。

 

 信じればいいのだ。

 

 アレックを信じればいいのだ。雷に打たれた後、アレックに剣を抜かれた時と同じだ。

 アレックだから……信じればいいのだ。

 

 アレックが神様になって何か問題があるのか……何も無い。

 

「アレック、僕らはどうすればいいんだい」


「日々の生活をするだけだな。まあ世界の統一はするが。世界征服とも言うな」


「えっ! 世界征服しない為に色々してきたんじゃなかったっけ」


「じっくりさ。じっくり世界征服していくんだ。あわてすぎる世界の統一は悲劇を生む。俺達はきっと何百年、もしかしたら何千年も生きるぞ。レイナが作った黒いマナが俺に何の影響も与えなかった時に思った事だ。チートやジュリアはマナの使い方が特殊だから神の子と同じで寿命は長いだろう」


「いいわ! アレックに協力する。悪役令嬢改め神の使者よ! よろしくね!」


 ジュリアは手を出した。その手をアレックが握る。

 

 僕も手を出してアレックとジュリアの握り合っている手に重ねる。

 

「仲間だよね」


「仲間よ」


「ああ仲間さ。俺はゆっくりと神様になるよ」


 僕の言葉に、ジュリアとアレックが答えた。

 

 これから、ずっと長い間、僕らは仲間なのだろう。


 ルールーが飛び掛って、僕らを舐める。

 

「おっと、ルールーも仲間さ!」


 僕らは笑い合う。




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