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第三十八話 ナイデン宰相の最期



 三日ほどゲラアリウスの城で過ごした。

 王国騎士団とゲラアリウス辺境連隊は、この一ヵ月近く行動を共にした事で大変仲良くなった。結局、戦ったのはゼットブ様とジュリアだけで、その為、戦死者は出ていない。なによりの事だ。

 

 王都で今回の事件の後始末が残っている。

 アレックの計画を魔王様に承知してもらわねば。

 ナイデン宰相の処分もある。

 

 チート列車には王国騎士団がすでに乗っている。

 僕とアレック、ダレナと姉ちゃ、そしてパパンとで王都に戻る。

 家族に別れの挨拶をする。

 

 チート列車を引いて王都へ。

 

 

−−−−



「そうか、戦争を止めてくれたか! 皆よくやった!」

 

 僕らは魔王様に褒められている。しかし魔王様の様子は暗い。

 

「魔王様。これからの事について相談したい事がございます」


 パパンが切り出す。

 アレックがこれからの計画を話す。

 僕とゼットブ様も魔王様を説得する。

 

 

−−−−



 ナイデン宰相の部屋から出てきた魔王様は少し涙ぐんでいた。

 

 部屋の前で僕とアレックは待っていた。

 

「伝えた。今から奥方と話し合うと言っている」



−−−−



 ナイデン宰相の奥さんが部屋から出てきた。

 魔王様がそっと肩に手を置く。

 奥さんは無言のまま去った。多分二度と会うことは無いだろう。

 魔王様も立ち去る。

 

 

−−−−



 僕とアレックはナイデン宰相の部屋へ入る。

 

「ナイデン宰相。お覚悟を」


「ああ覚悟は出来ている。それにしても其方達はすごいな。私の全ての計画を止めたのだから。帝国との戦争だけは何としても成し遂げたかったが。その為に前魔王様御夫婦まで手に掛けたのにな」


「ナイデン宰相、最後に何か言い残すことがあれば……」


「レイナの事を頼む。レイナは私が奴隷として帝国に潜入していた時に、ライナという奴隷との間に出来た子だ。レイナが三歳の時にライナはちょっとした事で主人の折檻を受けて死んだそうだ。私はその主人を殺し、レイナを連れて王国へ戻った。レイナがマナを操る特殊な能力を持つ事を知り、帝国の奴隷制への復讐の役に立つと思っていた。せっかく『王国帝国戦争』が始まったのに、前魔王様は少し勝った所で平和協定を結ばれてしまわれた。だからレイナを道具として暗殺させて頂いた。レイナは道具だ。意思は無い。だから……頼む」


「解かっています。レイナの事は任せて下さい」


 レイナは裁かない。ナイデン宰相も事故死となる。

 

「我はチートリウス・ゲラアリウス。王国の勇者である。我が主、魔王ゾロアリウス・シンアリウス様の代理として、其方、ナイデンに裁きを申し渡す。其方は前魔王様御夫婦を暗殺した。其方は奴隷商人を使って王国の民を殺害した。其方は竜達を動かし、帝国を蹂躙しようとした。そなたは無断で帝国との戦争を始めようとした。この罪、死以外に償うすべは無い。ナイデン。其方に死罪を申し付ける。其方は仮にも王国の宰相である。執行はこの勇者が勤める」

 

 僕は肩から両手で双剣を抜く。

 

「ハッ!!」


 ナイデン宰相の双剣を二本、心臓に刺す。

 骨を傷つけないように刺す。

 ナイデン宰相は絶命した。

 

「ҐՓҡʞҭ ɸՓҏՈՔʐՖҔՈҥ」


 アレックが部屋に火を放つ。

 

 僕らはナイデン宰相の部屋を出る。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 ナイデン宰相の死から三ヶ月以上が過ぎた。

 

 ナイデン宰相の死は火災事故として扱われた。

 死罪であった事を知る者は、ゲラアリウス領の面々とゼットブ様、魔王様家族、そして当のナイデン宰相の家族のみである。

 

 僕達は大学生活に戻った。

 以前の生活だ。

 年末にはゲラアリウス領で運動会に出場した。僕の全種目優勝は今年も続いた。魔王様家族は観覧されなかった。

 

 大学には大きな講堂が建った。講堂は今までの物の数倍の大きさだ。僕らの計画に必要な物だ。アレックが指揮を執って建設したのだ。 

 新たな講堂で、王都大学の入学式、卒業式を行うのだ。表向きはブリア様御夫婦やジュリア達王族が揃って卒業するので王国の貴族や大商人を集めて大々的に執り行なう為と言う事になっている。

 

 入学式まで二週間と迫った週末に僕はチート列車を引いてゲラアリウスの城に帰った。

 

 

−−−−



 僕の家族とブレッド連隊長、タルタリムト導師、ベタンコート卿の、計画を知る者だけで食堂にいる。勿論、他の者には人払いを命じている。

 

「チートちゃん、いよいよね。頑張らないといけないわよ」


「うん。ママンもみんなも上手くやってね」


「チート叔父様! 僕も頑張るよ!」


 ジェームスは少し幼いかと思われたが、この頃では利発さを増して、将来のゲラアリウス辺境伯である事も兼ね合わせて今回の計画に参加している。

 

「う~む、儂は、こういうのは苦手なのじゃ。大丈夫じゃろうか」


「某もでござる。きっと魔王様も苦手だと思われますがな」


「大丈夫。それゆえに二週間も前から稽古するのです。稽古あるのみですよ」


 アレックが言うが、実は僕も心配なんだ。今回の計画は一世一代の大舞台なのだから。

 


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 チート列車にはゲラアリウス領の主だった者達を乗せている。ゲラアリウス領の貴族や代官、大商人達、結構な数だ。

 

 僕はチート列車を引いて王都へ向かう。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

  

 王都にて、魔王様に呼び出されている。

 人払いされていて、王の間にはゲラアリウス領から来た計画を知る者、王都からは魔王様家族とゼットブ様のみだ。

 

「えっと、私が計画の監督をすることになったので、皆に報告しておくわね。全体に私の知る前世の物語がベースだからね」


 ジュリアがそう言った。ジュリアは前世の記憶がある事を魔王様と家族に話したのだ。

 

「ちょっと、ジュリア。なんで前世の物語がベースになるんだい? ようは、アレックの計画通りに進めばいいんだろう。何もジュリアの好きな物語のようにしなくてもいいじゃ……」


「私がしたいからするのよ!」


 ギロリとジュリアが僕を睨む。怖い。

 

「ジュリア様の物語は素晴らしいですわ。チートも理解して!」


「そうよチート。ジュリア様の物語の奥深さは凄いのよ!」


 ジュリアの物語の虜になっているダレナと姉ちゃが言う。この所ジュリアの部屋へ出向いて物語を話してもらっているのだ。

 

「まあ、チートちゃん。ジュリア様の計画の実行案を聞いてみましょう」


 ママンが取りなす。まあいいか。

 

「じゃあ、これを読んで」


 ジュリアが薄い本を配る。

 

 それから僕らの稽古が始まった。

 

 

−−−−



「なあ、アレックよ。本当にこれでいいのかの? 別に魔王の地位が惜しい訳ではないがの」


 魔王様が問いかける。

 

「ええ。王国の中の帝国に対する怒りは募っています。ナイデン宰相の死に疑問を持つ貴族も多くいます。ナイデン宰相は帝国の征伐を主張していましたから。はっきり言うと、帝国を攻めようと言う貴族が大多数です。すでにジュリア様が竜の大群の暴走を止めたと言う噂は広がっています。いくら王国騎士団に口止めしても無理です。チートが列車を引くのを見れば、勇者のチートがどれだけの戦力なのかも王国の者は知っています。圧倒的に帝国を滅ぼす力が王国に在る事が知られているのです。いずれ戦争を求めて魔王様の元へ沢山の者が押し寄せてくるでしょう。その前に計画を実行するのです」


 アレックは答える。


「そうです叔父上。私も最初に聞いた時は驚いた計画ですが、考えてみれば全ての貴族を納得させて戦争を止めるには、この計画しかない気がします。この王国は叔父上を筆頭とした武力を基礎とした国ですから」


「そういうものか……ブリアも立派な事を言うようになったの。王国の事は託せるようじゃの」

 

「時にブリア様。頭の方の準備はどうですか?」


 兄ちゃが聞く。

 

「あ、ええ、ちょっと恥ずかしいんですが、この通り……」


 ブリア様は王子らしい帽子を取って頭を見せる。

 

 う~ん。綺麗だな~。

 

「うふふ。ブリアの準備も整っているみたいね。後は私が監督する、この計画で王国中の者達を感動させてやるわ! おーほっほっほっほっほ!!」


 ジュリアは悪役令嬢、全開だな。

 

 ソフィア様とママンは微笑んで僕らの会話を聞いていた。

 

「ねえジュリア。(わたくし)の台詞はこれだけなのかしら?」


「えっ……お母様……少なかったかしら?」


「そうねえ。それにサリア様の台詞もねえ。せっかくいらっしゃってるのに。それにブリアの妻になったマリーの台詞が無いのはいただけないわねえ」


「まあまあソフィア様。ジュリア様にも都合がございましょうし。少ない台詞でも心を込めて演じれば感動を生むものでしょう。ねえ、ジュリア様。でもマリー様の台詞は必要でしょうね~」


「ソフィア様、サリア様。私の事はお気遣い下さらなくても……ジュリア様が一生懸命に作った作品です。表情を作るとか、悲鳴なんかもありますよ。私も懸命に演じさせていただきますから」


 う~ん、ジュリアの奴、マリー様の台詞を書かなかったな。どこかに嫉妬が残っているのかな……。

 

「おーほっほっほっほっほ!! そうね、もうちょっと台本を練ろうかしらね。おーほっほっほっほっほ!!」


 今日の稽古が終わった僕らは解散した。

 まだまだ明日も、稽古を続けなければ上手い演技は出来ないだろう。




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