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第三十七話 悪役令嬢VS三千竜

 


 ドドドドドドッ!!!!!

 

 ジュリアに三千の竜が迫っている。

 ジュリアは魔法で防御を固めている。

 

 竜達が目前に迫った時、ユラユラと揺らしていた扇子をピタリと閉じる。

 

 ボフッ! ド~ン!

 

 ジュリアは防御壁ごと飛ばされたようだ。大小の卵と一緒に、竜達が駆け抜ける頭上に跳ね上げられた。

 

 そのまま竜達の中に落ちていく。

 

 僕が助けに走ろうとするのを、アレックが腕を掴んで止める。

 

「大丈夫だよ、チート。ジュリアは特別な人間さ」


 僕ら六千の兵に向かって来ていた竜達の動きが止まる。

 竜達の間から見えるジュリアは起き上がって一緒に跳ね飛ばされた卵達の元に近づいている。魔法の防御壁のお陰で無事のようだ。

 

 大きな卵の一つがひび割れている。この卵の割れた音で竜達は止まったのか。

 

 ピキッピキッ。

 

 卵の殻を破って竜が出てくる。赤ちゃん竜である。猫くらいの大きさだ。

 

「赤ちゃんの竜よ! さあ(わたくし)の胸に飛び込んでお出でなさい!」


 ジュリアが両手を広げて、赤ちゃん竜を迎えている。竜達はその光景を眺め、じっとしている。

 

 赤ちゃん竜は、ジュリアの胸に飛び込んでいく。

 

 ガブッ!

 赤ちゃん竜はジュリアの首に食いついた。

 

「痛いわねっ!! 何、私を食おうとしてんのよっ!!」


 ジュリアは赤ちゃん竜を掴んで目の前の竜に投げつけた。

 

 グォ~~~~!!!!

 

 竜達が一斉に鳴き声を上げる。

 竜達はジュリアに襲い掛る。

 

 今度こそ危ない。僕はジュリアの元に走った。

 

「ふざけんじゃないわよっ!! ハーッ!!」


 ボフッ!!

 

 ジュリアが右手を出して大量のマナが竜に流れた。竜が持つ、竜のマナと相殺が起きる。

 右手を見て、驚いた顔をしている。マナを放つ魔法など使った事がなかったのだ。

 ジュリアは、こんな魔法が使えたのか!

 

「ハッ!! ハッ!! ハッ!! ハッ!! ハッ!!」


 ボフッ!! ボフッ!! ボフッ!! ボフッ!! ボフッ!!

 

 両手で代わる代わる、マナを竜にぶつけるジュリア。竜のマナとの大きな相殺が起き続ける。

 

 助けに走った僕は、立ち止まってあっけに取られている。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」


 ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボフッ!!!!

 

 周りの竜達が持つ竜のマナとジュリアが投げつけるマナが相殺を起し続けている。

 

「ハハハハハハハハ…………」


 ボボボボボボボボ…………。

 

 竜のマナが薄くなっていく。

 

「ハハハハハハハハ…………」


 ボボボボボボボボ…………。

 

 竜のマナが感じなくなった。

 

 ジュリアは肩で息をしている。

 

 大きな竜が倒れている。竜のマナが無いと立つ事さえままならないのだ。

 小さな竜達は、竜のマナが無くなり、不利を悟ったのか僕らを襲ってこない。そのまま踵を返して竜の地へ帰って行くようだ。竜の卵や、孵った赤ちゃん竜も咥えている。

 

 決死の覚悟を決めていた兵達は、成り行きに呆然としている。

 

 ジュリアが一人で竜達を止めてしまった。

 

 『千竜の戦い』を知るブレッド連隊長などは泣いている。心を見ると、四十年前にジュリアが居てくれたらと思っている。そうだよ、僕のお爺様やお婆様、ブレッド連隊長の父上も、数万に及ぶゲラアリウスの住民達も……死なずに済んだかもしれない。

 

 ダレナと姉ちゃがジュリアに駆け寄る。抱き合って喜んでいる。

 ぽかんとしていたレイナも駆け寄って一緒に抱き合って喜びに加わる。

 

 

−−−−



 百頭程の倒れて起き上がる事の出来ない大きな竜だけが残った。

 

 呆然としていた王国騎士団の者も、辺境連隊の兵達も、大きな竜が百頭以上も手に入って喜びが広がってきた。一財産である。狩りで得た物ならば手当ても相当な額になる事だろう。

 

 しかし……

 

「この大きな竜達を殺す事は罷り成りません! 神の意思に背く行為となります! 竜を狩りで得たのならば……もしくは竜達が襲って来たのならば……。しかし、今回は王国の者が竜の卵を盗んで、無理やりに竜達に帝国を襲撃させようとしたのです! このまま竜達に止めを刺し、その肉を食すような事があれば、竜達を操り、その肉を求めたと同じ事。つまり竜を飼育し食肉にしたのと同じく、神の禁忌に触れまする! 竜達は助けねばなりませぬぞ!」


 タルタリムト導師が強く説教する。

 

 う~ん、厳しい事を言うなあ。しかし、その通りだと僕は思った。

 王国の兵達は皆、アリムト教の信者である。タルタリムト導師の言葉に頭を垂れている。

 

「アレック、どうやって大きな竜を、竜の地に返せばいいんだろう? 僕が一頭ずつ竜の地まで運ぶのがいいのかな?」


「それでは時間がかかりすぎて、倒れている竜達の大部分が死んでしまう。レイナを使おう」



−−−−



 六千の兵から十分離れた所に、百頭以上の大きな竜を一頭ずつ僕が運んだ。

 そこにレイナを連れて来る。

 

「レイナ、纏っているマナを、さっきまで竜達が纏っていたマナに変えてくれ」


 アレックがレイナに注文を出している。

 

「は~い。マナさん変わって!」


 レイナの纏っていたマナは、竜のマナとなった。

 アレックはレイナが纏う竜のマナを自分が受け取り、それを倒れている竜に流す。魔法を唱えている。

 

 竜が起き上がり、竜の地の方向へ駆け出した。もう、怒りも無いようだ。僕らに見向きもしない。

 

 大量のマナを制御する力に目覚めたジュリアが、レイナにマナを注ぎ込む。

 

「レイナ、またマナを変えてくれ」


「は~い。マナさん変わって!」


 同じように、レイナが纏う竜のマナをアレックは竜に流す。

 竜は起き上がって竜の地へ向かう。


 

−−−−



 全ての大きな竜が、竜の地へ向かって駆けて行った。

 

 竜達が帝国を蹂躙する事は無くなった。

 帝国と王国が戦争する事も無くなった。

 

 ふ~。

 僕らは役目を果たせたようだ。戦争を止めると言う重い役目を。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 十日後。

 ゲラアリウスの城まで帰ってきた。

 久しぶりに家族みんなが集まって、ゆっくり過ごす。

 この一月以上、本当に忙しかった。

 僕はダレナと部屋の風呂に入って、心身ともにすっきりとした。

 

 城の食堂に入ると、アレックが何やら話している。

 

「……多分、メイデン宰相の協力者は出て来ないでしょう。王国の貴族達の中に居るはずですが。また、メイデン宰相の陰謀を知っていたとも思えません。前魔王様御夫婦の暗殺はもとより、俺達を暗殺する計画、ジュリアやブリア様を暗殺する計画、これらに協力していたとは考えられません。ただただ帝国との戦争で、王国を繁栄させたかったのだと思います。メイデン宰相が協力していた者を明らかにするとも思えません」


「王国には帝国との戦争を望む者。帝国の奴隷制を嫌って、帝国を滅ぼして王国に組み込んでしまえば良いと考える者は多いぞ。シイテル村の虐殺で、そう考える者は益々増えたぞ。俺は強くなった、今の力なら数千の帝国軍くらい一人で倒せる。チートもアレックも居る、ジュリア嬢ちゃんもマナをあれだけ使えた。もしかすると帝国を征服してしまった方がいいんじゃないのか?」


 皆がアレックの顔を見る。

 

「だめです。俺やチート、ジュリアの存在。ゼットブ様の剣技。王国の戦力は格段に上がっています。帝国どころか世界中を武力で征服する事も出来るでしょう。しかし、帝国を滅ぼし奴隷を解放した後の事があります。解放された奴隷は必ず今まで虐げていた者達に復讐するでしょう。帝国は著しく不安定になります。整備されていた土地は荒れ、保たれていた秩序は乱れ貧困と荒廃を生むでしょう。そして、それを止める事が出来るのは王国の者だけ。王国の力は全て帝国の混乱を鎮める為に使わなければならなくなります。帝国は大きすぎるのです。帝国が混乱しない為にだけ何十年も王国の者は働かなければならなくなるのです。それも新たな支配者として憎まれながら。王国は世界一の国です。王国が世界を統一する事には問題はありません。しかし今帝国を攻めるのは愚作なのです」


 う~ん、そうなのか。アレックがメイデン宰相を説得していれば、陰謀など考えなかったかもしれないな……しかし、前魔王様御夫婦を暗殺してしまった後では、止まる事はできなかったかな。

 

「しかし、どうするのだ王国の国民の不満は? メイデン宰相の陰謀を知って、メイデン宰相に怒りは向かうかもしれんが、帝国を滅ぼそうと言う者も多くなりそうなのじゃが」


 パパンの心配にアレックは答える。

 

「案があります。……魔王様にご隠居して頂くのです」


 皆驚く。

 

「ちょっと待て、それは謀反と言う事か!?」


 兄ちゃがアレックに聞く。

 謀反って、ジュリアもゼットブ様も聞いているのに。まさかアレックがそんな事を言い出さないと思うのだが……。

 

「我々が謀反を起すというより、魔王様に謀反して頂きます」


 アレックは計画を話した。

 皆は感心しながら、その計画を聞いた。




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