第三十五話 王の間での告発
「なるほど。それでレイナを王都へ連れてきたのか」
アレックは事の次第を聞き、納得している。レイナは僕の部屋で寝ている。
パパンやゼットブ様も合流してアレックの部屋で作戦会議中だ。
「う~む、そのレイナがナイデン宰相の顔を覚えておれば明確な証拠なのだが……。『神の子』は嘘は吐けんからな」
ゼットブ様が残念がる。
「……でもレイナちゃんが前魔王様御夫婦の暗殺に使われた事が解かったら、レイナちゃんも共犯になってしまわないかしら」
姉ちゃはレイナを心配しているのだ。僕もその事は気になった。たとえナイデン宰相の悪事が露見できてもレイナも共犯になって死刑になってしまわないかと。
「大丈夫でしょう。結局、魔王様が法なのです。魔王様がナイデン宰相の悪事を納得されたなら、レイナは唯、利用されただけと思われます。レイナに罪が有るとは、魔王様はお思いになられないでしょう」
タルタリムト導師は魔王様の性格を良く知っているのだろう。
「そうね。お父様なら、そうするわね。ただナイデン宰相を本当に信頼しているから、しっかりした証拠が無いとね」
「アレックはどうだったの。ナイデン宰相に就いて、前魔王様御夫婦の暗殺と僕達への暗殺未遂事件を捜査してたんでしょ?」
「ああ、ナイデン宰相はこの二ヶ月の間に王宮の者が王都を出ていないかを調べたよ。そうすると二ヶ月の間に二回出入りした者が三人ほど居た。その三人が全員死んでいる事が解かった。それも皆三週間程前だ。レイナを連れて来て、送り届けた者達なら辻褄が合う」
「えっと、二ヶ月前だと僕がナイデン宰相がバーオブの話をしているのを聞く前だよね」
「ああそうだ。チートと俺は暗殺する予定じゃなかったはずだ。バーオブを倒した事で邪魔な存在とは思っていただろうがね。ナイデン宰相の狙いはゼットブ様だったのだろう。それがチートにバーオブの事を話しているのを聞かれて、一緒に暗殺する事にしたのだろう」
「ナイデン宰相がレイナを王国東部教会から連れ出した者達三人をすでに殺しているとすると、ナイデン宰相に繋がる者は出てこないのかもしれんな」
パパンがそう言う。
「そうです。しかし、レイナは残っています」
「レイナは人の顔を覚えられなくて、たとえナイデン宰相に会っておったとしても確認できんのじゃなかったのか? 証人にならんのじゃろう?」
「方法はあるかもしれません」
アレックは何か思いついたのだろうか。
「アレック、方法ってなんだい。ナイデン宰相がレイナに黒いマナとやらを作らせて僕らを暗殺しようとした事を証明できるの?」
「疑問に思う事がある。なぜナイデン宰相はレイナの能力を知っていたのか? レイナは誰かに似ていると思わないか」
レイナは羊顔の獣族の血が濃い美しい女性だ。
「似ているといえばメイデンさんかしら」
姉ちゃが言う。そういえば似ているかな。まあ羊顔で美しいメイデンさんだから似ていると言われれば似ているよな。
「ちょっと待って! メイデンさんってフラーノ領のナイデン宰相の親戚なんでしょう。ナイデン宰相も羊顔で獣族の血が濃いわよね」
メイデンさんから聞いたナイデン宰相が帝国に潜入していたと思われる時期は四十年程度前だ。ということは……。
「レイナちゃんがナイデン宰相の娘かもしれないって事ですか?」
ダレナが誰に問うでもなく聞いた。
「確かめる方法がある。ダレナ、レイナからほんの少し髪を切って持って来てくれないかな」
そう言うとアレックは書類を取り出した。
「これはナイデン宰相のサインがある捜査協力要請の書類だ。ナイデン宰相の手の皮脂が付着しているはずだ」
ダレナがレイナから切った髪を持って来た。
「アレック、何をするのだ?」
パパンが質問する。
「現在の王国では失われた魔法ですが、王都大学の図書館で読んだ沢山の本の情報の中から、人それぞれの特徴を調べる魔法を導き出しました。これで、親子であるかも鑑定できます。皮脂や髪の毛で鑑定できるのです」
前世で言うところのDNA鑑定だな。
アレックはナイデン宰相が触れた書類とレイナの髪を並べる。そして、両手でそれぞれを指差す。
「ҐՓҡʞҭ ʗɕґʅҝʖɳҲɳՂʄɕՓұʋɦʞɪʄɬɟɳҭՖɟԽՒɰ」
アレックは目の上の何も無い空間を見ている。
「間違いなく親子ですね。この魔法が親子を鑑定できる事は誰にでも確かめられますから、証拠になります」
「でもそれは、ナイデン宰相とレイナが親子であるという証拠で、ナイデン宰相がレイナを使って僕達の暗殺を仕組んだ証明にならないよね」
「ああチート。それはその通りだが、レイナが暗殺のマナの変異を起させたのは証明できるし、ナイデン宰相がそのレイナの父である事も証明できる。この事実を魔王様へ示せば、調査の間、ナイデン宰相の役職を解くぐらいは出来るだろう」
「宰相の役を解けば、帝国との戦争の陰謀は止めれるって訳ね」
ジュリアはアレックの考えが解かったようだ。
−−−−
ナイデン宰相が王の間にやって来た。
僕ら一同を見回す。
僕らはレイナを連れて全員揃っている。
レイナを目にしたはずだが、まったく表情を変えない。心も読めない。
「魔王様の緊急のお呼び。参上致しましたが、何事でございますかな」
「ナイデン。実は、兄上夫婦の暗殺と今回のゼットブらへの暗殺未遂で其方が告発されておるのだ。告発しておるのは、ここにおるジョージじゃ」
「なにゆえジョージ殿は私を告発してお出でなのですかな」
「儂はこのレイナを使ってナイデン殿が暗殺を行ったと掴んでおる。ナイデン殿! 観念して白状せい!」
パパンがレイナを指してナイデン宰相を問い詰める。
「さあ、そう言われましても、そこなる女性とは面識も有りません。レイナと仰いましたが、いったいどなたなのですかな」
「ナイデン宰相、あなた様が今日お調べになった死んでしまっていた三人の王宮の者が、このレイナを王国東部教会より連れて来て、あなた様のお屋敷にて鳥に黒いマナ……つまり変異させたマナを仕込み、俺達に食させて命を狙った事は明白でございます」
アレックもナイデン宰相を問い詰める。
「ハッハ。アレック殿、何を言うか。死んでしまった者がそう言うたのか? それともそこなレイナと申す女性が言うておるのか?」
「この女性は『神の子』でして、あまり記憶がはっきりしておりません。しかし鳥に変異させたマナを、あなた様が食べさせたのは明白な事実でありましょう」
「だからその『神の子』のレイナが私の顔を覚えているのか聞いているのだ!」
「あなた様しかいないのです。変異させたマナを扱えるような力のある魔法の達人は。変異させたマナは生き物の体の中でしか、その力を保っていられなかったのです。某でも数脈程度しか保持できませんでした。王国には某と同程度か以上に魔法を使える達人は、あなた様しかいないのです」
「いやいや私の魔法の実力を買いかぶっていますな。一日で大学を卒業されたアレック殿と比べるような魔法の力は持ち合わせていませんぞ」
「その他にも、あなた様はバーオブと言う者を帝国に潜り込ませ、ヤーキンという奴隷商人をそそのかせ王国へ奴隷狩りを敢行させました。百六十余名の者が犠牲となりました。某らが止めねば、もっと多くの者を犠牲にするつもりだった事は必定。王国の民が帝国への憎しみを募らせる事が目的だったと推察致します」
「バーオブなど知らん。……いやいやバーオブという知り合いは居りましたな。付き合いのある商人です。帝国の者ではありません。ましてや奴隷商人と奴隷狩りをするような知り合いはおりませんぞ」
ナイデン宰相は僕の方をチラリと見て言う。
「そのう~、ジョージ殿、アレック殿、先ほどからの告発は肝心な証拠が無いように思われるのですが、そこの『神の子』のレイナと申す女性も、ナイデン宰相が、鳥に変異させたマナとやらを食べさせたのかどうか証言できないようですし、バーオブと言う奴隷商人と行動を共にしておった者と会っていたという誰かの証言でもあるのですか」
呼ばれていたブリア様が口を挟む。ブリア様の言う通りなのだ。
「ありませぬな」
ナイデン宰相の目に喜びが浮かぶ。うん、少し心が読めたぞ。
「……ただ、レイナはナイデン宰相の娘でございます」
ナイデン宰相の目が見開かれた。驚いている。その時、ナイデン宰相の心が、また少し読めた。
「何を言っておりますのか……何故、そこの『神の子』が私の娘なのですかな。確かに獣族で羊顔ではありますがな。そのような者は王国には沢山居りますぞ」
「ナイデン殿は帝国に潜入していた事があったそうだな。その時にその娘が出来たのではないのか? 歳の頃もピタリと合うようだが……」
ゼットブ様が言う。ゼットブ様も子供の時の話だ。
「私の子供は領地にいる息子のみ。娘などは居りませぬ。帝国での潜入任務で子供などは出来ていません」
「ナイデンよ。そこなアレックが親子を鑑定する魔法を知っているそうなのだ」
「…………」
魔王様の言葉にナイデン宰相は絶句する。しっかりとナイデン宰相の心を読んだ。
「レイナは私の子です……。しかし私は前魔王様御夫婦の暗殺などはしていません。今回のゼットブ様達の暗殺もしていません。バーオブという者も知りません」
「ナイデン。宰相の任を解く。謹慎しておれ。ナイデンを部屋へ連れてゆけ! 見張りを立てて外に出すな!」
ナイデン宰相はゼットブ様と数人の騎士団に連れられて王の間から出て行った。
パパンは魔王様の肩に手を置いている。なぐさめているのだ。
「ナイデンなのかの……。まさかの……」
僕はアレックの近くに寄る。
「アレック、僕はナイデン宰相の心が読めたよ。どうもおかしいんだ。余裕があるんだ。追い詰められていないんだ。まるで計画通りに進んでいると思っているみたいだ」
「俺達の暗殺に失敗して、ジュリアやブリア様を暗殺する訳にも行かないだろう。戦争を始める事態では無いぞ……帝国側か。帝国から攻めさせるつもりか」
「もう一つ、はっきりとナイデン宰相の心にあった事があるんだ」
「チート、何だいそれは?」
「竜さ。沢山の竜を思い浮かべていたんだよ」




