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第三十三話 秘密の告白



「「ɤՎҲ」」


 僕とジュリアは手を繋いで魔法を唱えた。

 

 マナを感じなくなった。

 『滅びの魔法』は成功したのか。


「上手く行ったのか……あまり体に変化は無いようだが……」


 ゼットブ様が苦しそうに尋ねる。

 

「成功しました。マナは全て滅しました。マナが無いので今は壊れた細胞の修復が出来ない状態です。マナのある人里に戻れば魔法の治療で回復できます」


 ルールーが立ち上がった。どんどん元気になっていく気持ちが伝わってくる。

 それを眺めていたアレックが言う。

 

「ルールーは元々竜のマナが使えた。変異したマナが無くなった為、自然と竜のマナを使った回復の魔法が使えているのだろう。チートも竜のマナが使えるのだから回復するはずだ」


 うん、重かった足が軽くなってきた。

 感覚が無くなっていた手の指先にも痺れが戻ってきた。


「暗くなったな。城の家族が心配しているだろう。ルールーは夜目が利くから手紙を持って帰ってもらおう。俺達は今夜は野宿だな」


 ルールーも人を運べれば、苦しそうなゼットブ様を連れて帰れるんだけどな……。僕のように防御壁が大きく出来ないから、乗っている人に小さな石が当たっただけでも弾丸が当たったようになってしまう。

 


−−−−



 僕らは大木の上の方の枝に寝ている。大きな竜でもここまでは届かない。

 僕のお腹の上に、アレックとジュリアとゼットブ様を乗せている。


「僕は竜のマナで暖かいけど、みんなは寒くないかい?」


「大丈夫よ。チートのお腹は暖かいわ」


 ゼットブ様は苦しそうだ。

 

「ねえゼットブ様、大丈夫?」


「ハッハ。これくらい。たかが、体が動かなくて息が苦しいぐらいだ。何て事ない。手足を斬られて三日間、味方の死体の中に苦しんでいたんだぞ……俺は……。今は一人じゃない、お前らが居る……何て事はない」


 さすが王国の英雄! 不撓不屈のゼットブ様だ!

 僕は尊敬の念を新たにした。

 

「ただ残念なのは、マナが無くて義手を動かせん。せっかく……ジュリアお嬢ちゃんと並んで寝ているのに胸をモミモミできん……」


「……助平じじい」


 まだジュリアは解かっていないのか。

 こんな息も絶え絶えの状態でもゼットブ様は剣の奥義を求めて、義手でモミモミする訓練を行おうとしているのに。

 本物の求道者だというのに!

 

「でも、さっきのチートと手を繋いで『滅びの魔法』を唱えたの。あれって前世にあった物語の展開にそっくりだったわ。私の好きな……動く紙芝居」


 動く紙芝居……映画の事かな、マンガの事かな。

 

「そうなの。前世では動く紙芝居はあんまり見なかったから解からないけど」


「……おもしろそうじゃねえか。その物語ってのを聞かせてくれ……」


 ジュリアは嬉々として話し始める。

 僕やアレックはジュリアの物語の話には結構うんざりしているから、興味を持って聞いてくれる相手が嬉しいのだろう。

 

「なあチート、星を見てごらんよ」


 真冬で枝の葉が抜け落ちている間から、綺麗な星空が見える。

 

「チートの前世の世界では、あの星達の所まで行こうとしていたんだろ。行ってみたいな……。まあ、今のこの世界では無理だがな」


「アレックは宇宙へ行きたいの?」


「ああ、小さい頃から夜空を見るとね」


「何だか、アレックなら実現できそうな気がするな……」


「まあ、とにかく今の戦争に至りそうな事態を片付けないとな。神ならぬ身にとっては何事も一歩ずつさ。……いや神だとしても一歩、一歩進むさ」


 アレックが神の事について触れるのは珍しいな。

 

 

−−−−



「……それは竜なのか大きな虫なのか……」


「何と……そんな非道な戦略を取るのか……むごい事を……」


 ゼットブ様は苦しさも忘れてジュリアの話を夢中になって聞いている。 


 結構面白い物語だな。

 ジュリアの知っている物語は、魔王と勇者の戦いとか、魔法使いに生まれ変わって偉くなって沢山の女の人を奥さんとか愛人にしたりとか、悪役令嬢ってのに生まれ変わって良い人になるとか……そんなのばかりかと思っていた。

 

 僕はジュリアの話す物語を聞きながら、うつらうつらと眠りに就いた。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「ふ~ん、そうなの。でもチートはチートでしょ」


 ダレナが素っ気無く言う。

 

 城に戻って家族みんなと抱き合って喜び合った。

 食堂で信頼できる者達を集めて、前世の記憶の事を話している。

 家族以外ではブレッド連隊長とタルタリムト導師、そしてベタンコート卿の三人だけだ。ゼットブ様は治療を受けている。

 

「いや、だから僕が賢くなったのは前世の記憶が出来たからなんだよ」


「チートちゃんが賢くなったのは、神様がそう望んだからよ」


「まさに神の思し召しですな」


「……タルタリムト導師は、僕に悪霊がついたとは思わないの?」


「悪霊? まさか。チート様と悪霊とは、あまりに離れすぎていますな。前世の記憶と言われましても、天使としか思えません」


「まさにそうじゃ。チートは天使なのじゃ。儂は生まれた時からそう思っていたぞ!」


「チートちゃんは天使よ!」


「そうねチートに、前世の記憶っていう天使が付いたのね」


「そうだな。チートが賢くなったと聞いた時は驚いたが、前世の記憶があると言われてもピンとこないな。天使が取り付いていると言うなら、生まれた時からそうだろうと思うな」


 姉ちゃや兄ちゃまで……。みんなまったく驚かない。

 

「いや驚きましたぞ……」


 おう、ブレッド連隊長は驚いてるぞ。

 

「……チート様が、そのような事を気にしておられたとは。たかが誰かの記憶が頭の中にあるくらい、どうしたと言うのです。チート様はチート様以外の何者でもないですぞ。ガッハッハッハ!」


 う~む。

 

「まあそういう事ですな。次の運動会ではいい宣伝材料になりますな。『天使の生まれ変わり勇者チート』どうですかな。儲かりますぞ」


 ベタンコート卿……。

 

「チートはね、ぼんやりしてたのが、しゃっきっとしたんだよ」


「チートさん、詳しい事は解かりませんが私の顔を覚えてくださって本当にうれしいのよ」


 ジェームスにお義姉さん。

 

 みんな。

 

 励ましているのか……単に僕を励ましているんだな。

 僕は涙が出てきた。うれしいんだ。

 

「チート、何を泣いてるの。チートはチートだし、みんな家族でみんな仲間よ」


 ダレナがぎゅっと僕に抱きつく。僕も抱きしめ返す。

 

 家族もみんな抱きついてくる。ブレッド連隊長も、タルタリムト導師も、ベタンコート卿も。

 無表情な顔で喜んでいるアレックも引っ張る。

 

「ちょっ……」


 ジュリアも引っ張る。 

 ルールーも僕の背中に抱き付いて来る。 

 

 そして仲間で抱き合う。


 僕が前世の記憶が出来てから、ほんの少し持っていた世界からの疎外感が消えて行く。

 

 ここは僕の世界。

 そして大切な仲間達。



−−−−



 アレックを連れてゲラフラーノ村に来ている。

 ルールーも付いて来た。僕もルールーも完璧な体に成っている。竜のマナで細胞が修復されたせいなのか力がみなぎっている気がする。

 

 メイデンさんの家でアレックが問いかけている。

 

「メイデンさん。折り入っての話と言うのはナイデン宰相の事なんだ。ナイデン宰相はフラーノ領の出身だろう。知っている事を教えてほしい」


「良い方です。フラーノ領が貧困に苦しんでいた時に王国からの食料の援助も手助けしていただいたし、ゲラアリウス領で開拓団を受け入れるかもしれないとジョウ様に紹介して下さったのもナイデン様です」


「そうだってね。詳しく聞きたいんだよ」


「ナイデン様は私の祖父の弟の子供に当たります。大変頭が良くて、若い時に今の魔王様のお側に使える事になったそうです。獣族の血が濃い者なのに大変魔法が上手いと言われていました。……」


 ナイデン宰相は、今の魔王様の側使えとして働きながらも、優秀さゆえに王国から重要な仕事をまかされるようになったそうだ。そんな任務の一つに帝国に潜りこんで情報を得ると言う物が有ったらしい。

 

「……ナイデン様から聞いた話ではないのですよ。フラーノ領と羊のチーズの取引のある商人が、祖父に、奴隷になっているナイデン様を帝国で見たと言ったそうです。その後、ナイデン様が帰郷した時には帝国を本当に憎んでいたと、祖父が言っていました」


 仮にも親戚だろうに、メイデンさんは、こんなにペラペラしゃべっていいのかな。

 

 メイデンさんは僕の顔を見て真剣に言う。

 

「この度のチート様達の病気の事。このゲラフラーノ村にまで伝わっていました。お治りに成られたご様子ですが、前魔王様御夫婦と同じ病気だったとか。……ナイデン様が関わっているのでしょう? 祖父はナイデン様の事をいつも褒めておりました。王国一の知恵者だと。アレック様とチート様がいらっしゃた時に解かりました。チート様やアレック様、ゼットブ様まで暗殺しようとしたのならナイデン様のような知恵者でなければ計画すら立てないだろうと……」


「メイデンさんは、どう思う。なぜナイデン宰相は僕らを暗殺しようとしたと」


「戦争でしょう。帝国を滅ぼしたいのだと思います。奴隷制がゆるせないのだと思います。ナイデン様が、チート様達を暗殺しようとしたのならば、前魔王様御夫婦も同じ方法で暗殺されていたのでしょう。その時から計画が始まっていたのかもしれません」


 驚いた。アレックの推理とピタリと一致する。

 


−−−−



 僕らはゲラフラーノ村を後にした。

 

「メイデンさんは何も嘘を吐いてないよ。でも、メイデンさんに会う必要が有ったの?」


「ああ、可能性は潰しておかなければな」


 アレックの顔を見て、ぞっとした。メイデンさんを疑っていたのか? もしかしたナイデン宰相の協力者だと解かったら斬るつもりだったとか……。

 

「心配するなチート。メイデンさんをチートに黙って斬ったりしなかったさ」


 う~ん。僕の考えも丸解かりだな。心を読み合えるっていうのも困る時もある。

 

 僕らはまた城に急いで戻った。

 

 

−−−−



「で、アレック。儂らはどう行動すればいいのだ? ナイデン宰相を告発するのか?」


「いえ、ナイデン宰相が俺達を暗殺しようとした証拠がありません」


「斬ってしまおう。それでいいのではないか」


 ゼットブ様が言う。腕も足も完全に治っている。安心した。

 

「いえ、それでは俺達が王国への反逆者です」


「アレック、それじゃあ八方塞がりじゃないか。何とかならないのかい」


「兄さん、そうでもないですよ。ようは証拠が出てくれば良い訳です。ナイデン宰相自身に調べて頂きましょう……。まずは、僕達が王都に戻って元気な姿を見せるのです。お館様とタルタリムト導師も一緒に来て下さい」



−−−−



 王都まではチート車で九刻しか掛らなかった。速度が上がっている。

 

「何と! 治ったのか! それもこんなに早く! 全員一緒に治ったのか!」


 王宮では魔王様が喜んでいる。死ぬと思っていた僕らが快復したのだ。

 

「魔王様。実は重大な嫌疑がございます。王宮の主だった者を集めて人払いをお願いします」


 ゼットブ様の言葉に魔王様は目を大きく見開く。

 


−−−−



「……という訳でございます。俺達の体にあるマナに対して何者かが工作を施したのは間違いありませぬ」


 ゼットブ様は『滅びの魔法』の事は告げずに、ある特殊な魔法によって変異したマナを滅したとだけ言った。

 

「マナが変異する魔法などあるのか? マナは唱えた言葉を魔法にするのじゃぞ。魔法によってマナが変異するのは理屈に合わん気がするが……」


「その通りです。理屈に合わない恐ろしい魔法なのです。おそらくはゾロア様とサリー様もそれで……」


「うぬぬ! そうか兄上と義姉上も……その恐ろしい魔法を使った者を、どうやったら探しだせるのじゃ」


「ナイデン宰相にお任せするのが一番かと思います。ゾロア様夫婦が亡くなられた当時の事も良く知ってらっしゃるはずですし、今回の俺達への攻撃が起こったのも、ここ王都です。魔法についても明るく、王都の事を隅々まで知りつくされているナイデン宰相以外、この事件を解決できる者はいますまい」


 ゼットブ様は予定通り、ナイデン宰相に事件の解決を押し付ける。

 

「おう! それが良い! ナイデンになら安心して任せられる」


「魔王様。この私を評価して下さって嬉しい限りなのですが。この事件についてはアレック殿を推薦いたします。もしゼットブ殿が仰るように先の魔王様御夫婦が罹られた病気が、今回ゼットブ殿達を攻撃したとされるマナへの魔法と同じ物ならば、その魔法を撃退されたアレック殿こそが事件解決には適任かと存じます」


 アレックが図書館で沢山の本を読み、病気の治療法を探っていたことは王宮の皆が知っている。


「ナイデン宰相。何と言っても某は若輩者でございます。先の魔王様御夫婦崩御の時には生まれてもおりませんでした。当時の事も解からず、事件を解決出来るいわれもございません。ぜひ、ナイデン宰相、自ら御指揮をお取りになって事件の解決を、お図り下さりませ」


 そう言い終るとアレックは目上の者に対するお辞儀をした。

 

「そうじゃナイデン。其方が指揮せい。アレックも手伝ってやれ。よいなジョージ」


「はっ。アレックにナイデン宰相を手伝わせます」


 パパンはそう答える。


「はい。畏まりました。私が指揮を取って、事件を解決いたします」


 ナイデン宰相は落ち着いた表情で答える。いつものように心は読めない。

 

 アレックの計画通り事は運んだ。

 

 ナイデン宰相との戦いは今から始まる。




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