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第二十五話 悪役令嬢と授業


 王都大学に通い始めて二週間がたった。

 

 昨日までは、実技の学科である剣、弓、魔法の初級クラスで、ダレナと共に学んでいた。

 

 姉ちゃが弓の初級クラスの一つで教えていたので、最初の日は、その授業を受けた。

 ところが、二日目からは姉ちゃの授業は満席が続く。全員が男子生徒である。よほど朝早くから並ばないと姉ちゃの授業は受けられなくなってしまった。人気の美貌女性教授なのだ。

  

 入学式の後に配られた座学の試験結果で、編入されるクラスが決まった。

 

 うふふ。数学、地学、生物学すべてで上級クラスだ。これらの学科は前世の知識が活かせるのだ。アレックとの勉強の賜物でもある。嬉しい。

 ダレナは数学、魔法科学、生物学を選んでいたのだが、なんと数学では単位取得扱い、他の二つも上級クラスだった。う~ん、ダレナって優秀なんだな~。

 

 王都大学では、どのクラスでも基本的に個別指導である。前世の記憶にある、教師が教壇に立って授業するスタイルではないのだ。

 教授は三百人以上いて、どの教授の元で授業を受けようとも自由なのだ。どの教授に教わろうとも単位が取れればクラスが上がり、上級クラスで全ての単位を取れれば、その学科は単位取得とされる。

 

 実技の学科が最低一つ、座学の学科が最低三つの単位取得が出来れば王都大学を卒業できるのだ。かなりの難関で年間百人に満たない程度しか卒業者は出ないようだ。

 

 入学の時に行なった試験が、最初で最後の試験であって、後は授業が毎回試験のような物となる。授業は毎回真剣勝負なのだ。

 

 僕とダレナは、ルールーを連れて、掲示板で教授達がどの教室で、どのクラス、学科の授業をするのかを確かめている。

 

 今日、アレックは生物学の上級クラスの授業をすると言っていたので、僕とダレナはアレックの授業を受けられればと思っていたのだが……。

 

「やっぱりね。もう満席になっているよ」


 掲示板のアレックの欄には満席との表示。

 アレックの授業は朝から並ばないと受けられないようだ。熱心な上級クラスの生徒は、有名な天才であるアレックの授業をどうしても受けたいようなのだ。それに、アレックは美貌の天才少年教授!? でもある。女子生徒が放っておかない。

 

「そうね、アレックの教室はすぐ満席ね。座学の最初の授業はアレックから受けたかったわね」


「しかたないよ、アレックが推薦していた教授の授業を受けようか」


 そこへ、美しいドレスの一団がやって来た。

 

「おーほっほっほっほっほ!! そこにいらっしゃるのは、チート殿にダレナさんではありませんこと。いつも仲がおよろしい事で、何よりですわね~。おーほっほっほっほっほ!!」


 ジュリアは近づいてきて、自然にルールーを撫でて、扇子をユラユラ揺らせている。

 ルールーは、ジュリアのお陰で王都での自由行動の許可が下りている。人間と気持ちを通わせている馬牛と同じ扱いである。

 大学でも始めはルールーを怖がる者もいたのだが、二週間で大分馴れてきたように感じられる。

 

 ジュリアの後ろには、位の高そうな貴族の子女がずらりと並んでいる。 

 ジュリアが言う前世の物語の悪役令嬢と、その取り巻きと言った所かな。

 

「これはジュリア様。おはようございます」


 僕とダレナは目上の者に対するお辞儀をする。

 

「まあチート殿、ダレナさん。ここは王都大学。身分の差を持ち込まぬ場所。友のように接してくださな。おーほっほっほっほっほ!!」


「「「「「「「さすが、ジュリア様!」」」」」」」


 ジュリアの取り巻きと僕らは自己紹介しあった。

 

 ジュリアは掲示板を確認している。

 

「あ~今日もアレック殿の授業は満席ですわね。今度は私達(わたくしたち)が授業を受けれるように他の生徒には遠慮してもらおうかしらね」


「「「「「「「さすが、ジュリア様!」」」」」」」


 おいおい、身分の差は持ち込まないんじゃないの。

 

「さて、私達(わたくしたち)はメルビン教授の生物の授業を受ける事に致しましょう」


 んっ、メルビン教授ってアレックが推薦していた人だよな。

 悪役令嬢の時のジュリアと一日付き合うのは、しんどいな……。なんか変な取り巻きもいるし……。

 

「まあ。ジュリア様。私とチートも、メルビン教授の授業を受けるつもりだったんですよ」


「まあそれは奇遇ですはね! 今日は一日チート殿とダレナさんとご一緒ですわね。嬉しいですわ! おーほっほっほっほっほ!!」


「「「「「「「嬉しいですわ、ジュリア様!」」」」」」」


 う~む。

 

 

−−−−

 

 

 メルビン教授の教室で、授業を待っているのは、僕とダレナとジュリア一行だけだ。三十席で満室の教室の席は半分以上空いているる。随分人気の無い教授なんだな。

 

 ジュリアの取り巻きの一人が、ジュリアに目配せして僕らを見て気にしている。何かジュリアに話したそうだ。

 

「いいのよ。チート殿とダレナさんは大切な友達。秘密にする事は無いのよ。おーほっほっほっほっほ!!」


「……そうですか。実はまた見たんです。あの小娘がブリア様と手を繋いで歩いている所を。あの小娘、ジュリア様を差し置きブリア様に取り入ろうとは……ぬぐぐ……」


「「「「「「悔しいですわ、ジュリア様!」」」」」」


「まあ、いつも言っているでしょう。(わたくし)とブリアは唯の従兄妹。それにマリーさんは努力家の良い子ですわよ。嫌いにならないで下さいな」


「お優しいジュリア様は、そうおっしゃいますが……。あの小娘め、ジュリア様と同じくらい成績優秀で、きっと来年には卒業してしまいますわ。ジュリア様も来年には卒業できましょうけれど、あの小娘には負けてほしくありません。ぜひ卒業の最高成績者にはジュリア様がなってほしいですわ」


「まあまあ、学問は競走ではありません事よ。勝つの負けるのは関係ありませんわ。卒業の最高成績者と言っても、今年のように、入学してきたばかりのアレック殿が最高成績者になる事もありますのよ。よろしい事、成績を気にするのでは無く、ただただ勉学に励めばいいのですよ」


「「「「「「「はい! その通りですわ、ジュリア様!」」」」」」」


 う、う~む。

 

 ドヤドヤと男子生徒が入って来た。十数人いる。

 男子生徒の中にブリア様がいた。ははあ、隣に一緒にいる一人だけの女子生徒がマリーネッタさんという訳か。

 

「ああ、チート殿ではありませんか。入学早々上級クラスなのですか。素晴らしいですね」


「ブリア様、おはようございます。上級クラスから始められて嬉しい限りです」


 ブリア様はチラリとダレナを見る。

 

「初めてだったですね。こちらは僕の妻のダレナです」


「初めましてブリアリウス様。ダレナレリーナ・ゲラアリウスです。ダレナとお呼び下さい」


「ああ、初めまして。俺の事もブリアと呼んで下さい。いやあチート殿は、お若いのに、こんな綺麗な奥様がいらしてうらやましい」


「まあ」


 ダレナは照れて喜んでいる。

 

 ブリア様はマリーネッタさんと微笑みあっている。互いの顔からは愛情しか読み取れない。完全に相思相愛だな。


 男子連中は全てブリア様の取り巻きのようだ。

 う~ん。この教室はジュリアの一党と、ブリア様の一党で占められているのか? 王族二人の一党だけの教室には他の生徒は近づきたくないのかもしれないな。

 

 ブリア様の取り巻きと自己紹介しあっていく。

 高位の貴族の子弟ばかりだ。マリーネッタさん以外は。


「初めましてチートリウス様。私はマキーノ男爵家の娘マリーネッタ・マキーノでございます。マリーとお呼び下さい」

 

 キラキラした瞳で僕に挨拶する、小柄でエルフ族の血が濃いマリーさん。

 

 僕はしっかりマリーさんの顔を見つめる。素晴らしい。顔も美しいけど心だよ。まさに天真爛漫というにふさわしい心根だ。

 ジュリアが言うような事だけど、本当に物語の中の女主人公のような性格ってあるんだな。


「チートと呼んで下さい」


 挨拶が終わると皆席に着く。

 

 ジュリアの取り巻き達は、冷ややかな目でマリーさんを睨んでいる。

 マリーさんはまったく気づいていない。大体、男子ばかりのブリア様の取り巻きに入っていても全然気にしていないようだ。いや、取り巻きの中にいると解かってないんじゃないだろうか。


 メルビン教授が入って来た。

 

「メルビンだ。授業を始める。今日の到達目標を決めた者から知らせなさい」


「はい! メルビン教授!」


 マリーさんが大きな声で、メルビン教授と今日教えてもらいたい内容を話し合っている。一生懸命だな。

 どうも、そんな姿にもジュリアの取り巻きはイライラしているみたいだけど……。

 

 僕は教室の隅でおとなしくしているルールーを見る。

 不思議と教室の皆は自然にルールーを撫でて誰も怖がらなかったな。



−−−−


 

 一日の授業が終わった。

 メルビン教授は教えるのがとても上手かった。

 それに高位貴族の子弟ばかりの教室であっても、気にもしていない。

 

 王宮に向かう帰り道。

 

「チート、今日の教室は疲れてしまったわ。メルビン教授はとても教え上手だったんだけど。マリーさんとジュリア様の周りの人達がピリピリしてるようなのよ。マリーさんはまったく気づいてないようだし」


「ああ僕も解かったよ。ダレナがいやなら、もうメルビン教授の教室は止めておこうか」


「何言ってんのチート。すごく楽しみなのよ。若き貴族達の恋の鞘当て。身分を越えた恋。美しき令嬢との恋の戦い。う~んいいわ。私は平民出身だから、貴族の恋物語に憧れがあるのよ。もちろんメルビン教授の教室に通うわよ」


 うん。ダレナが楽しそうでなによりだ。



−−−−


 

 僕はアレックの部屋にいる。

 

「ね、そういうわけでアレック、個人教授をお願い。マリーに負けたくないのよ。ブリアは取られちゃう、学業でも負けるでは私も立つ瀬がないわ。ね、勉強を教えてちょうだい」


「ちょっと、ジュリア。今日のメルビン教授の教室で言っていた事と随分違うじゃないか。成績を気にせず勉学に励みなさいって言ってたじゃないか」


 僕が指摘するとジュリアが逆切れした。

 

「何よ! ……前世の国でも有ったでしょ! 本音と建前よ! 私は負けたくないのよ! 絶対、最高成績で卒業するのよ!」


「わかった。教えてやるよ。俺の授業の無い日か、夜だけだぞ」


「やっふ~!! 良かったわ。よろしくねアレック」


 まったく、ジュリアも子供っぽい所があるな。随分と負けず嫌いなんだ。

 

「ああ、そうそうゼットブ殿が来週、剣の初級クラスで教えるわよ。まだ誰も知らないだろうから教えて上げるわ。チートはゼットブ殿が好きでしょ」


「えっ本当! やったー!」


 ブレッド連隊長が食事会の度にゼットブ様の英雄譚を話すものだから、僕はゼットブ様のファンになってしまっていた。

 う~ん、ゼットブ様に会えるのは本当に楽しみだ。

 あれ、僕も子供っぽい所があるな。




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