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第二十四話 王都大学入学



 シイテル村の生き残りの子供や女性は、暫くは城下町で暮らす事となった。

 ゆっくりと心と体を癒してほしい。

 

 キャメロンさんは、結婚する幼馴染を説得してシイテル村に住むつもりだそうだ。亡くなった仲間を鎮魂し、家族を失った村の子供達の面倒を見ていきたいと言っていた。運動会で得た賞金も、その事に使うつもりだと。

 

 シイテル村が襲われた事件は、王国中が知る事となった。

 帝国からは大使を通しての謝罪があったのみ。

 王国の人々に以前にも増して、帝国への不満が募っている。

 

 二月から僕は王都大学に通う事になる。


 今日は王都への出発の日である。

 朝から僕の馬車に生活道具を積み込んでいる。

 兄ちゃ家族はゲラアリウス領に戻る事となり、入れ替わりに僕ら夫婦とアレックが王宮に移り住むことになる。

 

 僕らと一緒に王宮に住みたいと言っていたママンだが、運動会からゲラアリウス領に滞在しているジェームスを随分溺愛しているようで、王宮には時々来る事にすると言うようになった。

 時々うっとうしいママンではあるが、少し寂しくはある……。まあ、僕もジェームスが可愛くてしょうがないんだけどね。

 

 

−−−−



 馬車への積み込みも終わって、僕らは出発だ。

 

「チートちゃん。元気でね。手紙を書くのよ。……やっぱり(わたくし)も行くわ。ジェームスちゃんも連れていけばいいのよ」


「母上。何を言っているのです。ジェームスは私達と一緒にゲラアリウス領で暮らすのです。これは王国の決定事項ですよ」


「だって、ジョウちゃん……」


「ママン。僕もそろそろママンにばかり頼ってはいけないと思うんだ。もう結婚もしてるんだし、立派な大人にならなきゃね。姉ちゃも大学の講師として招かれたし、アレックもいるから心配しないで」


 ママンの手を握って言う。


 僕の足にだきついてるジェームスが問う。 


「チート、お別れなの?」


「お別れじゃないよ。ちょっと離れるだけだよ。僕達は家族なんだから」


 僕達家族はしっかり抱き合って、しばしの別れをした。

 

「みんな、ゲラアリウス家の者として、しっかりと励むのだぞ」

 

 パパンの言葉に、みんなで頷く。


「じゃ、行くよ」


 兄ちゃ夫婦と、アレック、ダレナ、姉ちゃ、そして共の者達が馬車に乗り込む。

 

 僕は手を振ってから、馬車を引き始める。

 ルールーも馬車に付いて来る。

 

 ママンは泣きながら手を振っている。

 僕も泣きながら馬車を引いている。

 さよなら、ママン……。

 


−−−−



 夕方。

 

「ただいまママン」


「あらっ、チートちゃん。もう帰ってきたの」


 兄ちゃ夫婦と共に、王宮に残していた必要な荷物を持ち帰ってきた。

 

「もう遅いから、城に泊まっていきなさいな」


「うん、そうする」

 

 …………。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 翌朝、もう一回、さよならをして僕は王都へ旅立った。

 


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 王都に移り住んで三日。

 兄ちゃ家族が暮らしていた、王宮の中のゲラアリウス家に与えられている区画の部屋々々が僕達の新しい新居となっている。

 

「おーほっほっほっほっほ!! チート殿、少しは落ち着きまして?」


 扇子を優雅にユラユラ揺らして、ジュリアが問いかける。

 僕とダレナの部屋へ訪れて、しばし歓談していたのだ。ダレナがいるので悪役令嬢なのかな。

 

「はい、ジュリア様。さすがに王宮ですね。部屋が大きい。部屋のお風呂も浴槽が大きくて僕でも足が伸ばせました」


「そうなんです。私もチートと一緒に浴槽に浸かれるんです。ゲラアリウスの城では浴槽にはチート一人でいっぱいだったんで。楽しくなって一日に何回もお風呂に入ってますわ。ねえチート」


「うん、二人で一緒にお風呂に入るのは楽しいね!」


 んっ、ジュリアのこめかみがピクッとしたような。


「おーほっほっほっほっほ!! それは仲の良い事ですわね。チート殿、ダレナさん、これにて(わたくし)は、おいとま致しますわ。王宮での生活を楽しんでくださいな。おーほっほっほっほっほ!!」


 従者が部屋の扉を開けて、ジュリアは扇子をユラユラさせながら去っていく。

 

「……現実が充実してる奴死ね。爆発しろ」


 ジュリアが、何やら呟いたが聞こえない。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 今日から大学が始まる。

 アリウス王都大学には学年という制度は無い。

 一定数の学科の単位を取れば卒業という事だ。単位が取れなければ、いつまでも卒業できない。

 

 王国中から集まった新入生千人と共に、僕とダレナとアレックは並んで大学学長の挨拶を聞いている。

 アレックは大学で教えるように要請されたのだが、大学を卒業していない者が教えるのは問題があるかもしれないと魔王様の判断で、取り合えず入学した。

 

 入学式が終わったと思ったら、すぐに試験だ。

 試験と言っても、前世の日本での試験とは様相が違う。各学科において、どの程度の知識があるかを質問と、論文のような形式で書いていくのだ。

 選択した座学の学科ごとに厚い試験問題集を渡される。持ち帰ってもよいのだ。この試験は何週間か掛りそうだな。

 

 サラサラサラッ。

 

 試験を配られた部屋にある机の上に、山のように試験問題集を積み上げたアレックが筆を走らせている。

 

「アレック、もう試験の答えを書いているの」


 サラサラサラッ。

 

「ああ、全科目を選択したら、問題集が沢山でかさばってな。ここで答えを書いて提出してしまう」


 サラサラサラッ。

 サラサラサラッ。

 サラサラサラッ…………。

 

「よし、出来た」


 …………僕とダレナは無言で互いに目を見合わせた。

 

 

−−−−



 座学の学科は試験の結果で、編入されるクラスが決まる。つまり、まだ決まっていない。

 実技の学科である剣、弓、魔法を僕とダレナは全て選択した。実技の試験は事前に行なわれ、すでにクラスは決まっているようで掲示板に発表されていた。

 う~ん。僕とダレナは全部が初級クラスに編入だ。この一ヶ月練習したのだが、初級クラスなんだな。

 アレックのクラスを探すが見つからない。


「アレック、クラスの記述がないね」


「俺は単位取得扱いとされた」


 剣では試験官に楽勝だったし、弓の試験官になっていた姉ちゃは弓を引かせもしなかった、魔法にいたっては試験官にアレックが魔法を教えていたくらいだったしな。

 

  

−−−−


 

 大学の始まりの日、一日の終わりは卒業式である。

 厳しい基準での単位習得者のみが卒業できるため、卒業者は少ない。

 そのため入学式と同じ日に卒業式を行なう。

 

 卒業者達が壇上に上る。

 

 生徒達も、観覧に来てい生徒の家族達からも大拍手である。

 王都大学を卒業するのは難しいのだ。

 入学してある程度学んだだけでも評価される大学なのだ。

 

 大学学長の言葉に続いて、卒業者の中で最も成績の良かった生徒の挨拶が続いている。

 

「……生徒であった期間は短かったのですが、この王都大学を卒業できた事を誇りに思います。一日間、本当にありがとうございました。明日からは王都大学の教授として生徒の指導に励みます」


 アレックである。

 

 今日一日で王都大学卒業である。

 

 …………。

 

 さあ、明日から大学生活。

 頑張っていこう。




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