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第十三話 大猟大宴会



 狩りに出てから十六日目。漸く開拓村に戻ってきた。

 次々運ばれてくる獲物の竜に、開拓村は沸きかえっている。

 竜が大猟という知らせを受けて、いち早く大型馬車で乗り付けた商人達でごった返していた。

 商人達は王都へ運んで売る事で利鞘を得ようとしているのだ。

 

 ブレッド連隊長はメイデンさんを連れて早速、多くの商人達と商談をしてほとんどの竜の肉を売り払った。

 竜の肉も生鮮食料なのである、とにかく早く消費者の元に届ける事が大切なのだ。前世の世界と同じだ。

 

 開拓村の人々も商人達も、僕が連れてきたルールーにびっくりしていた。

 普通の金色狼の倍はある大きさと、狼が牛さんのように懐いている事にびっくりしているのだ。

 

 竜の肉の商談がまとまった商人達は、竜の肉を積み込んで、すぐに王都へ旅立っていった。

 

「オッホッホッホ。ガッハッハッハ。ウヒッヒッヒ……」

「ウフフフフ。オホホホホ……」


 商人達との商談が済んでから、ブレッド連隊長の笑いが止まらない。きっちり十一分の一を開拓村の分け前に得たメイデンさんまで、笑いが止まらなくなっている。よほど儲かったのかな。

 

 竜の肉の売買に関与しなかった、小さな馬車の商人達は、馬車の前に生活雑貨や調理器具、調味料など開拓村がほしがりそうな物を並べて売ろうとしている。

 開拓村に狩りで得た獲物の分け前が入るという情報を掴んでいたのだろう。抜け目が無い。

 

 僕ら狩りに行った者達はシャワーを浴びてすっきりする。

 ルールーにもシャワーを浴びせてやったのだが、ことのほか気に入ったようで、ずいぶん気持ち良さそうに洗われた。簡易シャワー室の横の簡易乾燥室で乾かして、姉ちゃが櫛で毛を繕ってやった。

 ルールーは見違えるようにフワフワして美しい狼になった。

 

 僕らがシャワー室から出てくると、大宴会の準備が始まっていた。

 商人に売らなかった竜の肉を串焼きにしている。大鹿や象、牛氈鹿の肉も焼いている。大鍋を城に持ち帰っていたので、大人数の煮込み料理が出来ないのが残念だ。商人に持ってこさせていた酒類もテーブルに並んでいる。開拓の手伝いでは酒等は出なかったのだが、狩りの大成功で振舞われるのだろう。



−−−−


 

 タルタリムト導師から正式に任命されたというメイデンさんが、聖職者としてお祈りをして大宴会は始まった。

  

 まだ昼すぎなのに、開拓団の者も辺境連隊の兵達も酒を飲み始めている。

 歴史的な、狩りの大成功なのだ。

 攻め入って来た竜を倒した事はあっても、これほどの竜を狩れた事は、王国でも無いだろうとブレッド連隊長は言う。

 

 竜が大猟という噂を聞きつけたのか、周りの村からも沢山の人々が野菜を持って集まって来ている。大宴会が始まるだろう事を解かっているのだ。

 残っていた商人達も大宴会にちゃかり参加している。

 

 周りの村の長達がパパンに挨拶している。どの村も五百人以下の人口らしい。

 この開拓村を中心に大きな町に発展していくのかもしれない。

 

「ねえアレック、狩りが終わったら、いつもこんな大宴会をするの?」


「いや、拠点となった場所で、ある程度の食事会はするが、これほど酒を持ち込んでの大宴会はしない。特別な大猟の時だけだ。う~ん、良い気運すぎて急激に悪い気運にならないように色々な人々に良い思いをしてもらう……といった所かな。まあ、良い気運、悪い気運などと言う事など、存在しないけどね」


 なるほど。納得した。前世で言えば、ゴルフで一回打っただけで穴に入った時、皆に食事をおごったりする風習みたいな物かな。

 言うなれば厄払いだ。迷信みたいなことは、科学的じゃないとアレックは信じていないのだ。口には出さないが、アレックは神様も信じていないのかな。

 

 僕の傍らでルールーも肉に噛り付いている。焼いた肉は初めてなのだろう、竜の肉だけでなく他の肉もおいしいと思って食べている。ルールーがおいしいと思っている感情が僕に伝わるのだ。

 

 開拓村の人々も辺境連隊の兵達も、近所の村の人々も商人達も、本当に楽しそうに飲み食いしている。開拓村の人々は、竜の肉のような高級品は食べた事は無かったんじゃないかな。今日は大宴会だ。皆がお腹いっぱいになるまで食べるのだ。

 

 僕らと同じテーブルのメイデンさんが、大分きこしめしたようだ。声が大きくなっている。

 

「私は嬉しいのです。こんなに嬉しいのは、先の『王国帝国戦争』で亡くなった夫と結婚していた十年間以来なかったのです。……」


 メイデンさんが自分語りを始めた。

 

 メイデンさんが生まれたフラーノ領は元々豊かではなかったが、自然が美しく羊と共に生きているような、牧歌的な領地だそうだ。

 フラーノ男爵であった父親は『王国帝国戦争』で、武人だった夫と共に亡くなった。

 まだ成人前だった年の離れた弟が、フラーノ男爵を継ぐ事になる。

 母親は半年後に父親を追うように病で亡くなった。医療の進んだこの世界でも若死にする人はいるのだ。

 メイデンさんは必死に弟を支えてきた。

 武人だった夫は貴族では無かった為、平民となっていたメイデンさんは、貴族との再婚は出来ない。

 金のある商人からの申し出は、二人目や三人目の妻にというものばかりで断っていた。きっと、メイデンさんの美しさが目的の、金で買うような申し出だったのだろう。

 『王国帝国戦争』では沢山の兵を失って、その見舞金で多くの借金を抱えた。王国からは報償金は出たのだが、それでは賄いきれなかった。

 十数年経って、その借金も漸く返し終えた頃に、羊の伝染病である。

 また借金が嵩み、貧しい民の中には餓死寸前までなった者も出てきた。

 またぞろ、金のある商人からメイデンさんを妻にとの申し出が多くなった。弟のフラーノ男爵は頑として断った。

 そして、更に借金して開拓団を結成した。

 この開拓団は絶対に成功させねばならない決死隊なのだ。

 

「……嬉しいのです。過分な程の狩りの報酬を頂きました。弟がした借金も全額返せます。開拓村での生活に必要な物も揃えられます。開拓村が軌道に乗ったら、フラーノ領にまだまだいる生活の苦しい者達を呼び寄せられます。有難うございます。本当に有難うございます。ゲラアリウス伯爵様……いえ、お館様。本当に有難うございます」


 メイデンさんの美しい顔に涙が頬を伝う。五十歳くらいのはずなのに、随分若く見える。

 僕は貰い泣きしてしまう。周りの人を見ると、パパンと姉ちゃが泣いている。

 

 パパンが立ち上がった。

 

「良き話じゃ。弟思いの姉、姉思いの弟。儂はこの開拓村の成功を心底願うぞ! この村に名前を付け申す! この村をこれよりゲラフラーノとする! ゲラフラーノに神の恩寵のあらんことを!」


 パパンが剣を振り上げての大音声が響き渡った。拡声器のような物も無いのに、すごい大声だ。

 

 オ~!!! 

 

 剣を持つ者は剣を上げる。皆が歓声を上げる。

 

 パパンはやっぱり王国の大英雄だ。すごく格好いい。

 ルールーもそう思ったのかな。座ったパパンの顔をペロペロ舐めている。

 パパンがルールーの頭を撫でようとすると躱して、パパンの頭を甘噛みしているぞ。

 

「ねえ、ブレッド連隊長。結局、竜はいくらで売れたの?」


 僕は疑問だった事を質問してみた。

 

「ワッハッハッハ! チート様はお金に興味を持ったのでございますかな。驚くなかれ、何と駝鳥竜二十二頭分が三十五刻刻マーナでござるぞ。オッホッホッホ!」


「随分高く売れたんだね」


 予定より五割増しくらいで売れたようだ。

 

「商人達の話によると、狩ってから、これだけ素早く手に入ったのなら帝国の奴らばら共にも、売れるそうでな。セリで競わせたら、すごい金額になったのですぞ。あれを見てくだされ、全部十刻マーナ貨が入っておりますぞ。ウッフッフッフ!」


 ブレッド連隊長が指す方を見ると、一抱えくらいの木箱が山積みになっている。横にある三つの木箱と巾着袋はゲラフラーノ村の取り分かな。

 

 僕ら領主の家族には今回の狩りでの取り分は無い。領主は税をもらう側なのだ。

 王国の税制は面白い。ほとんど資産税のみなのだ。それもお金にしか掛からない。

 一年に一度、持っているお金に十脈(一パーセント)の税金を払うだけなのだ。お金持ちが多いほど、その領地は税収が多くなる訳だ。

 お金には(きん)が含まれていて、(きん)にはマナが吸着するので、マナ探知の魔法で、どれだけのお金を持っているのかは解かる。税金を誤魔化す者は、ほぼ居ないのだ。

 

 大宴会の参加者達は、たらふく飲んで食べたようで、ゆっくりくつろいでいる。

 僕も沢山食べた。前世の知識で、若い内からお酒を飲むのは良くないだろうと思い、あまり飲んでいない。

 パパンとブレッド連隊長は、他の兵達が酔いつぶれてしまう中、豪快に飲みながら肩を組んで歌っている。気分が良さそうだ。

 

「アレック様、ルールーちゃんを撫でてもいいですか?」


 酔っ払っている女性兵士達が、アレックに許可を取る。

 うんっ? なぜアレックにルールーを撫でていいかの許可を取るんだ? 僕が飼い主じゃないのか?

 

「ああ、いいよ。頭は嫌がるから、頭以外を撫でなさい」


 女性兵士達はルールーを撫でる。

 

「わ~! かわいい!」


「ほんと、毛がフサフサして綺麗ね~!」


 キャッキャッと盛り上がっている。ルールーも褒められてご機嫌のようだ。

 

 それを見ていた、ゲラフラーノ村や近隣の村の子供達がやって来た。

 

「アレック様~、チート様に触ってもいいですか~?」


「ああ、いいよ。どこでも好きなだけ触りなさい」


「わ~! 大きい!」


「チート様は竜を、素手で倒したんだって!」


「すご~い!」


 子供達は僕をペタペタ叩いている。

 

「…………」


 辺りが暗くなってきた。

 昼間から長く続いている大宴会も、そろそろ終わりだ。

 

 


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