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第十二話 強すぎる金狼


 

 皆がいる森の中へ向かって竜が一頭やってくる。

 僕が逃げた方向は解かっているようだ。

 

 もうすこし近づけば狩れる。

 森に逃げていたメイデンさんと姉ちゃが弓に矢を(つが)えて、僕が竜に突っ込むのを待っている。

 

 もうすこし……。

 

 サッサッサッ。

 

 風の音がした。

 

 ガブッ! ボフッ!

 

 ものすごい勢いで何かが竜の首に飛びついた。マナが相殺された爆風音がする。

 竜の喉笛に噛み付いている動物が見える。獅子くらいの大きさだ。

 

「金色狼だな。普通の金色狼の倍は大きいけどね」


 いつの間にか僕の傍に来ていたアレックが言う。

 

 金色狼は自分より遥かに大きい竜を倒した。

 竜は息の根を止められているようだ。

 

「あの金色狼はおかしいぞ。俺は範囲を広げて探知していたんだ。竜の位置を全て把握していた。チート達を追いかけた竜に向かって、千杖以上離れていた所に居た竜が突っ込んできたと思ったら、あの金色狼だったんだ。竜のマナの流れで、竜と判断していたのだから、あの金色狼は竜のマナが使えている事になる。チートと同じ位速かったんだ。竜のマナが使える動物だなんて……竜を倒せるほど強い動物が大森林の中にいたとはね……おもしろい」


 あの金色狼は、竜を狩っていたんだ。竜の群れから離れる竜を待って。

 金色狼は竜を食べている。僕らを伺ってはいるようだが、堂々としたものだ。

 

 あっけに取られていた僕らは、しばらく金色狼の食事風景を眺めていた。

 

「狩りを終了する。速やかに森の中に、狩った竜を運び込め」


 ブレッド連隊長の命令が全員に伝わった。

 

 兵達はある程度解体して、僕は一頭まるごと森の中へ狩った竜を運ぶ。

 

 運ぶ竜が残り五頭位になった時に、牛氈鹿を食べ終わった竜の群れが、死んでいる仲間に気づいて集まってきた。

 

 僕らは静かに森の中へ。

 

 死んだ仲間の周りをウロウロと動き周る竜達。鳴き声を上げる。泣いているのか?

 

 竜達は暫く、死んだ仲間の所を巡った後、大森林の奥深く竜の地へ帰っていった。

 

 僕らは戻って、竜の解体を始めた。森の中に運んだ竜も解体する。

 あの金色狼も食べていた竜から離れていたが、また戻ってきて食事を続けている。

 

 僕は金色狼を眺めていた。

 

「金色狼は家族単位で群れるのだが、あいつは一匹だけだな」


 アレックも金色狼が気になるのだろう。僕と一緒に眺めている。

 

 僕は金色狼に親近感を持った。

 僕と同じ程速く走れるのだ。

 

 僕と金色狼の目が合った。じっと見つめ合う。

 野生動物特有の鋭い目なのだが、何ともかわいらしく感じてきた。

 前世で少年の頃に飼っていた犬を思い出す。この世界には犬を飼う習慣がない。犬がいないと言うか、犬と狼の区別が無く全て狼と言う。

 前世の僕は犬が好きで、散歩している犬がいれば、撫でさせてもらうくらいだった。

 あ~、あの犬……いや金色狼を撫でてやりたい。

 

 しばらく金色狼と見つめ合っていると、なんとも不思議な感覚になってきた。

 なんだろう? 家族に感じる感覚というか……アレックに感じる感覚が近いかな……。

 不思議な感覚になった所で、金色狼は食事に戻り、感覚は途切れた。

 

         

−−−−



「アッハッハッハ!! ウッフッフッフ!! エッヘッヘッヘ!!」

 

 ブレッド連隊長の笑いが止まらない。

 

「駝鳥竜を二十三頭。何と二十三頭。オッホッホッホ!」


 兵達も皆にこやかだ。メイデンさんら開拓村の人々に至っては、顔が上気してフワフワと歩いている雰囲気だ。

 

「ねえ、ブレッド連隊長。そんなに凄い事なの?」


「ホッホッホ!! そりゃあ凄い事です。これだけの竜を倒せたのは『千竜の戦い』以来ですぞ。百人規模以上の編隊を組んで大森林の奥深くへ来て、竜を一頭狩れれば良しとされているのですぞ」


「竜の肉はそんなに貴重なの?」


「ハッハ! チート様は物価をあまりご存知ないようですな。王都でなら、竜の肉は大鹿の肉の十倍の値は付きます。駝鳥竜は大鹿の五倍以上の重さはありまする。大鹿一頭は大体二十刻マーナです。さて、賢くなられたチート様、駝鳥竜二十三頭はいかほどの値が付くでしょうな?」


 駝鳥竜一頭、1刻刻マーナだな。

 

「えっと、二十三刻刻マーナ(二千三百万マーナ)以上だ。凄い!」


「ヒョ~ヒョッヒョッヒョッヒョッ!!」


 二十三刻刻マーナが、どの位の価値なのかがピンとこない。僕は買い物をしたことが無いのだ。前世の(きん)の価値で考えると、一刻マーナが(きん)十グラムだったはずだから、(きん)二百三十キログラムという事になる。(きん)って日本円で、どの位だったかな……。グラム五千円くらいだとしたら……お~十一億五千万円だ!

 

 ブレッド連隊長の笑いが止まらない訳が解かった。メイデンさんの開拓村も二十人連れて来てるから、二百二十分の二十で、十一分の一の分け前をもらえるはずだ。

 

「まあ、チート様の速さ。メイデン殿、アリア様の弓矢の正確さが必須の狩りでしたからな。皆様の功労大ですぞ。ん、狩り方を考えたのはアレック殿だから、アレック殿が第一の功労ですかな」


「ブレッド、儂はどうなのじゃ?」


「お館様は、まあまあですかな。三回の内、二頭の竜の首を両断したのは凄いのですが、アレック殿は三回の内、三頭とも両断しましたな。そろそろアレック殿の剣の方が上ですかな……」


「うぐぐっ。……最初は、わざと竜の首を両断せなんだのじゃ。兵達が槍で仕留めれるように計ったのじゃ! 辺境連隊の兵に、竜の一番首を取らせてやったのじゃ!」


 本当かな……でも、パパンの顔を見ると、上手な言い訳が出来たと思っているのが解かってしまった。

 

「ほう、そうでしたか。それはそれは、お館様に気を使わせて申し訳ございませぬな!」


 ブレッド連隊長も、パパンの言い訳だと解かっているようだ。やっぱり仲がいいんだな。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



帰途に就いて五日。もうすぐ開拓村に着く。開拓村と往復して獲物を運んでいる馬も、往復の間隔が短くなってきた。僕も獲物を運ぶのを手伝えたら、もっと速く開拓村に着くのだが……


「まだ付いて来ますな。やはり襲って来る気ですかな」


 僕とアレックは最後尾を歩いている。ブレッド連隊長が僕らの元にやって来て、後方に付いて来る金色狼を見ている。

 竜を一撃で倒した、あの金色狼である。

 僕らが帰途に就いた時には、竜を食べていた金色狼だが、暫くしたら僕らに付いて来た。それからずっと離れて付いて来ている。

 

 普通の金色狼ならば、辺境連隊の精鋭なら誰一人負けないそうなのだが、この金色狼は異常に強い。竜を倒すのだ。

 しかし、竜のマナを使って速く走ったり、強く噛んだり出来たとしても、はたしてマナで同じ事ができるかどうかは解らない。アレックは竜の群れが離れた時点で、竜のマナは探知出来なくなった言う。

 

 金色狼がマナを使えないならば脅威とはならないと、アレックは言う。


 しかし僕とアレックは、もしも金色狼が襲って来た時の為に、この五日間ずっと最後尾で歩いているのだ。


「僕はあの金色狼が襲って来るとは、とても思えないよ」


「ああ、俺も多分襲ってこないと思う。しかし開拓村に連れ込む訳にはいかない。決着を付けなければ」


「決着って? 殺してしまうって事?」


「さあ、どうなるか。とにかく二人で近寄ってみる。ブレッド連隊長、俺達が離れたら一応、防御の魔法を」


「解かり申した」


 僕とアレックは、金色狼に近寄っていく。

 僕らが近寄るだけ金色狼は下がっていく。

 辺境連隊の皆は僕らを見守っている。

 

 辺境連隊からは十分離れた。

 

「チート、俺達は孤立したから、あの金色狼が襲うつもりなら、そろそろ来るぞ」


 僕は首輪をはめる。全速力でぶつかるつもりで身構えた。

 

 金色狼が走り出した!

 

「まて! チート!」


 ん! 何だ! そうか金色狼の速度はそんなに速くない。

 僕らに走って近寄ると速度を緩める。十杖も離れていない。

 

 じっと僕と見つめ合っている。動かない。

 どうしよう……そうだ。

 

「ルールールー」


 僕はしゃがんで両手を広げた。

 

「ルールールー」


 おおっ! 金色狼がさらに近寄って来たぞ。

 僕は手を金色狼の顔の下に持ってくる。

 

「ルールールー」


 ペロッ。 うはっ!

 ペロッペロ。 うひょひょ!

 

 僕が顔を近づけると、金色狼は僕の顔をペロペロ舐めだした。

 

「よ~しよしよし!」


 僕も金色狼の顔を舐めまくって、胸や顎を撫で回す。

 

「よ~しよしよし!」


 僕は金色狼との間に、牛使いのモースさんが言っていた特別な絆が出来るのを感じる。

 魔法なのだと思うのだが、意識はしていない。

 

 金色狼と転げまわってじゃれあう。

 一匹だった金色狼には僕という家族が出来た。

 多分僕らは死ぬまで離れる事は無いだろう。

 本当に特別な絆だ。ほんの一瞬で特別な絆というものは出来る物なんだなあ。

 

 もう大丈夫だ。金色狼を殺さずに済んだ。

 いくら僕が狩人となっても、動物が好きなのは変わらないみたいだ。

 前世の記憶が、金色狼と絆を結ぶのに役に立った。

 ありがとう北の国の人。

 

「マナの流れを探知した。チートから金色狼に流れたな。牛使いと牛との間のマナの流れに似ている。少なくとも、その金色狼が俺達を襲うことは無いな」


「良かった。そうだ、この金色狼に名前を付けなくっちゃ」


「もう呼んでいたじゃないか、ルールーと」


「いや、それは……ま、いいか。君の名前はルールーだよ!」


「オォウ」


「ルールー、挨拶しなよ。アレックだよ」


 ルールーは、アレックを見て頭を下げて近づく。アレックがその頭を撫でてやる。ルールーの尻尾が勢い良く振られる。

 ルールーの尻尾を振る様子がかわいくなって、僕も頭を撫でようとすると、ルールーは僕の肩に前足を乗せて僕の顔を舐めまくる。うふっ。

 僕はルールーのお腹あたりを撫でてやる。ん。ルールーを雄だとばかり思っていたが、雌じゃないか。まあ、ルールーという名前ならどちらでもいいか。

 

 僕とアレックは辺境連隊の皆の所へ戻った。ルールーも付いて来る。

 様子を見守っていた兵達には安堵の色が浮かんでいた。王国に住む人々は、馴れている動物は見慣れているのだ。僕とルールーのじゃれあっている姿を見れば、あきらかに心が通い合っている事が解かったのだろう。

 

 パパンと姉ちゃに挨拶させると、ルールーはやはり顔を舐めまくる。

 パパンは頭を甘噛みされて微妙な表情だ。姉ちゃはとても喜んでいる。

 ルールーは、ブレッド連隊長やメイデンさんの顔も舐めまくった。

 

 安全だと確信したのだろう、女性の兵達もルールーに近寄ってきた。獅子ほどもある狼だが、毛がふさふさして、どうしても撫でたくなって来るのだ。かわいらしさと言うのは、前世の世界も、この世界も共通という事か。

 

 皆に撫でられているルールーだが、頭を撫でさせない。頭を撫でようとすると躱して腕を甘噛みしている。皆もそれがわかると背中や胸を撫でている。

 

「ねえアレック、さっきアレックが頭を撫でた以外には、ルールーは誰にも頭を撫でさせないね」


「俺の事を、この人間の群れの中で一番偉いと思っているんだろう」


 にべもなくアレックは言う。う~ん、動物って鋭いのかな。パパンやブレッド連隊長は偉く見えなかったのか……。

 

 


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