#13 選考と多すぎる選択肢
――ここの風呂は素晴らしい。
だって24時間いつでも沸いている。
――なぜなら温泉なんだもん。
――帝王になった男、真崎悠斗のひとりごと――
□
「……で、何故八つもあるのかのう」
そう俺が言ったのは、王宮へ戻ってきてひとっ風呂浴びて来た後だった。
食堂兼会議室、つまり朝食の儀を行った部屋で風呂あがりのミルクを飲む。やっぱ風呂あがりはこれだよな。ちょっとぬるいけど。
毒の沼成分を徹底的に落とそうと、それはもう頑張って洗った。新品の固形石鹸が半分くらいに減る程度には、頑張って洗った。
ここは意外にも、普通に固形の石鹸が普及している。流石に真っ白の、ってわけじゃなくて、カフェオレ色をしてるけど。ちょっぴりフローラル感が足りない以外は、全く問題ないものだ。
体を流すたびに、繊維質をわずかに残す緑色のドロドロが流されていく。
積もりに積もったそれが排水口らしき箇所でボコボコいってて水の流れも悪くなったし、掃除すっげえ大変そうだと思った。
風呂の掃除もメイドさんの仕事だし、メイドさんは基本的に会議の話とか聞いてはいけない決まりだし、経緯なんて知らないだろうから、排水口のヘドロを見てどう思うのか少し気になった。
変な体液出してるとか思われたらやだなあ。
「これは帝王様の人徳のお陰様であるやも知れませぬ。本来ならば二つから四つが相場であるとされておりまするゆえ」
言ったのは草大福マンの衣装を脱いだ主大臣だ。“空へ逝け! 草大福マン!”は変身ものだったらしい。まあ脱いだら脱いだで緑じゃなくなっただけだから、それはプレーンな大福なのだけども。
「ふむ。複数であるのかのう?」
主大臣もミルクを飲む。他の席にも六大臣が揃っていた。
「左様でござりまする。一つは先日申し上げました通り、武具に取り付けまする。もう一つが御身に付けられる御守りのようなものにござりまする」
「なぬ? これを身につけるのかの?」
「純金の金具でこれを首から下げれば、神の力で守護を賜る、との言い伝えにござりまする。つまり鎖でござりまするな」
ペンダントトップにするわけだな。アクセサリーみたい。割りとオシャレかもしれん。パワーストーン首から下げるファッションみたいな。
「二つはそれで良いとして。残りの六つはどうすれば良いのだ」
「それは帝王様のご自由にござりまする。王宮の中からお供の者を選び秘石を分け与えるも良し、複数の武具を携えるも良し、ご自由になされて結構なのでござりまする」
なんだと!? 一人旅じゃなくてもいいのか! 絶対誰か連れてこう。何が悲しくて七つもガシャガシャいわせながら武器持ってかにゃならんのだ。重いだろ。扱えないし。
「すると最高3人のお供を連れて行けるわけなのじゃな?」
俺が旅立たなければならないという大前提は覆せないけども、随分と気が楽になったぞ。
当然ここは4人パーティーを希望する。なんだかRPGのようになってきたな。
「仰る通りにござりまする。彼の者も、神童となりあそばした帝王様の神力を分け与えられ、魔物と対峙することが出来るでしょう。ですが、帝王様が近くにあらざれば秘石の守護を賜ることは叶いませぬ」
いくらなんでも遊ばし過ぎぃ! 「おーい新藤! お前の隣に住んでる幼馴染さー、俺に惚れてるみたいなんだわ」「……なに!? バカを言うな! ヨネ子は俺と付き合ってるんだぞ!」「知ってるよ。お前のことは遊びだって言ってた」「くっ! きっさまああ! もう親友だなんて思わねえ!」「お? やるか? 弱っちいくせに」「うるせえ!」ドゴー。バキー。
メンテ開けたと思ったらまた負荷が重くなりそうだな。
「ふむ。固まって動く必要があるのじゃな。じゃが、魔物と戦っていれば散開せざるを得ない場合もあるのではないか? 有効範囲はいかほどなのかのう?」
「かなり広いはずでござりまする。……そうですな、20チャパラほどはあると思って結構にござりまする」
全然結構じゃねえよ。チャパラっつった? 何だよそれ。
その距離感を把握するためにどう質問したらいいのか全然わかんない。「それって何メートル?」って聞いてもメートルが通じないのは明白だし、「1チャパラは100パラパラでござりまする」「1パラパラは100パラリラでござりまする」くらい言われかねない。もういいや。すげえ広いって思っとけばいいや。
そんなことよりもメンバーを考えないと。
騎士団から前衛を一人選んで、後は魔法使いやら回復呪文使いやらで適当に固めて、俺は隅っこの方で「いのちをだいじにしようよ」とか「勝手にやれば?」とか言ってたら勝手に敵を倒してくれるといいな。
「あとは誰を連れていくかじゃのう……」
「ここには大臣が全て揃うておりますれば、意見などをお伺いになられてみては如何でござりましょう」
俺は周囲を見渡して、全員の顔を見た。各機関の長が集結しているのだから、候補者全員の名簿があるようなものだ。
「ここは当然、精鋭ぞろいの某の房からお選び下さると良いでしょうな。武鷹枝から三人とも選んで頂いて構いませんぞ?」
胸を張って言ったのは武大臣のスターリーだ。自信満々、といった顔をしている。
言われなくても選ぶつもりだ。一番強い奴を連れて来てくれたらそれでいいのだけど。
「いえ帝王様、是非私の房からもお供をお選び下さいませ。迂闊に近づくのは危険と存じますれば、私の房には戦術に長けた“策士”が大勢おりまする。豊富な知識で必ずや帝王様をお助けできると存じまする」
文大臣のキールも負けじとばかりに発言した。
確かに最小限の力で戦を制するのは大事だ。何連戦するのかもわからないし、体力の分配を考えなきゃならんだろう。
頭脳明晰なら戦闘時以外にも役に立つだろうしな。ダンジョンの奥の難しい石版を読まなきゃ先に進めない、みたいな事態に陥るかもしれないし。
「帝王様、私の房には医学に長けた者が大勢おりまする。万一旅先でお怪我などされた時のことを考えれば、私の房からお供をお選び頂ければと存じまする」
次に発言したのは水大臣のブロンクスだ。
なるほど。確かに一理あるな。医師が居るとか言ってたし。回復呪文までとは言わなくても、薬など調合してくれれば助かる。ぽんぽん痛くなるかもしれないし。
騎士一人学士一人医師一人。これで決定か?
「何を仰るか。もし食料が尽きた時のことをお考えくだされ。木になっている実や地面に生えている草や茸。これらのどれが食用でどれが毒なのか。これを十分に承知しているのは私の房にいる、“農士”に他ありません。帝王様、是非私の房より一人選出なさいませ」
食い下がるように地大臣のネビンズが言う。
確かに食うに困った時、あそこにある木の実は食えるのだろうか、と迷うこともあるだろう。いざという時に頼りになるのはそういったサバイバル知識を持っている人間なのかもしれない。
「あの……私の房には、音楽家や美術家が大勢おりまする」
「それはいらないだろう」
消え入るような声で発言した風大臣のコザックは、他の4人に一斉に言われて悲しい顔をして肩をすぼめた。
確かに必要ない。
「魔物討伐に参られるのだから当然戦闘力が高い方がいいに決まっておろう」
「それ一辺倒、というわけにも行くまい。第一帝王様は武芸達者であらせられるぞ。その他の部分で補佐すべきであろう」
文大臣が言って、俺を見る。
そんなもん初耳だわい。確かに脱いだ時自分で見た体はマッチョだったけどさ。筋肉はあっても、ナンパの材料にするくらいしか使い道知らないし。
「怪我のひとつも負わずにおれるものか。必ず治療が必要になるだろう」
「それも空腹ではまかりならぬと言っておるのだ。腹が減っては戦はできぬと言うだろう」
「たまには音楽で心を和ごましたりした方がいいのでは……」
「それはいらないだろう」
風大臣が更に肩をすぼめる。ただでさえひょろっとしてるのに、これ以上すぼめたらプチュンと異次元の彼方へ消えてしまいそうだ。
なんだか可哀想になってきた。胃腸の調子が悪そうな顔してるし。
「相手は魔物であるぞ。力でねじ伏せなくてどうするのだ」
「魔物の中には知恵の回る者もいると聞いておるぞ。対抗するにはそれを上回る知力が必要だろう」
「ロクな治療もできなければ、かすり傷とて馬鹿には出来んのだ」
「餓えを侮っておらんか? 冷静な思考を欠いて、毒草に手をつけてしまわれたらどうする気だ」
「絵も描けるよ……」
一人を除いてすげえ力説し始めた。
世界を救う帝王様のお供になれば、そいつは英雄扱いなのだろうし、部下が選ばれれば自分の株も上がるから、ってとこかなあ。男だったら名誉が欲しいのだろうし。
とはいえ武大臣のスターリーとかすげえ強そうなのに、自分で行くとは言わないあたり、責任者だから不在にはできないのだろう。
帝王である俺が自ら行かなきゃならんのに、だ。まあほとんどメシ食ってるだけだから、べつに居なくても国は勝手に動きそうだけども。
「戦となれば武鷹枝の者と決まっておろう! 武鷹枝から3人選んで終わりなのだ!」
「武大臣殿は脳味噌まで筋肉でできているのか? 効率という言葉をご存知だろうか」
「文大臣! 某を侮辱するか!」
「すぐにそういった発想になるのだな。野蛮人が!」
「陶芸なんかもできるよ……」
段々と語気が荒くなってきて、穏やかでない空気になる。睨み合った武大臣と文大臣は表情を段々と険しくさせていった。かたっぽアフロだから全然サマになってない。
「貴様! やるか!? 表に出るがいい!」
「そう言って逃げ出すつもりではあるまいな?」
「なんだと!?」
ガタンと席を立って、今にも取っ組み合いが起こりそうなところで、パンパンと手を叩く音がする。
「ええい! やめんか! 帝王様の御前であるぞ!」
仲裁したのは主大臣だった。
二人はハッと我に返った様子で視線を落とし、着席する。でもまだ不満そうな顔をしているな。
「帝王様、申し訳ござりませぬ。お目汚しをご容赦下さりませ」
主大臣が頭を下げると、他の連中も連動して頭を下げた。
「構わぬ。皆が必死になってくれているのがよう分かった」
「時に帝王様。私めの直属の部下には政治に詳しい者がおりまする。様々な地方に訪れるのであれば、かの者の知識が十分に活かされるでしょう」
主大臣はそう言って、頭を垂れながらも上目遣いで反応を窺っている様子だ。
それ可愛い子しかやっちゃいけないポーズだろ。デコにすげえシワよってるぞ。紙とか挟めそうなくらい。
「そ、そうか……」
みんなの言いたいこともよくわかるんだけども。だが秘石は八つで俺の分を除けば六つ。それぞれが自身の首から下げる分と武具に取り付ける分で3セットだ。全員の分は無い。
くっそ。数に決まりがねえんだったら八つとかケチケチせずに、二万個くらいジャラジャラ降らせてもいいんじゃねえのかよ。そしたら一個師団くらい結成できるし、みんなこんなに喧嘩せずに優しい世界だ。
風大臣の言う通り、陶芸家を連れて行って戦闘中にロクロを回す余裕もあるし、オーケストラを組んで戦闘中音楽やらフィールド音楽やら町中音楽を演奏しわける余裕すらある。楽しそう。
魔法とかがあったら便利なんだろうが、やはりこの世界にはないのだろうか。誰もそんなことを言ってこない。
医師を連れて行くと仮定して、武具など扱えるのか疑問が残りもするが、護身用くらいは持っておかないといけないだろう。一人最低二つは必要だ。メスとか投げて戦うんだったら困るけど。
俺の中では既に一人目は決まっている。やはり騎士団だな。戦闘能力が無ければ話にならない。
残りの二枠だが……順当に考えると医師と策士もしくは農士か。
だがこれだと戦闘力に欠けるな……実質騎士一人で戦わなければならない。二人は欲しいところだ。
しかしまあ、一人は騎士団で決定なのだ。とりあえずは選んでみて、それから後の面子を考えよう。
「武鷹枝の者達を集められるかのう? この目で見てみたいのじゃ」
俺が言うと武大臣は、それみたことか、と言わんばかりに鼻を鳴らす。文大臣が睨めつけた。
□
武大臣に連れられて、王宮を出て左側の巨大な塔に向かう。王宮の周りを六つの塔が取り囲んでいて、それが各大臣の房なのだ。
進んでいくと、前方に三つの巨大な石造りの塔が見えた。主、武、文、の房らしい。同様に王宮から出て右側に行けば水、地、風、の房があると言う。
三つ並んだ中央は主房。武房は右手側だ。そこへ向かう。
王室から窓を開けて見た際に、この塔は見た覚えがあるのだが、実際間近で見ると存在感が半端ない。
王宮の5階部分にある王室よりも背は低いのだが、塔と言われてもピンとこないほど幅が広くて円形なのか疑うほどだ。
中に入ると、むせ返るような熱気が立ち込めていた。筋肉質の男達が額に汗しながら右へ左へ動き回っている。スポーツジムみたい。
格好は金属の鎧を纏っている男から、硬そうな革の鎧の男、はたまた土方のようなラフな格好な男まで様々だった。
室内を見渡すと左手側には上りの階段があって、右には下る階段が。
もちろんエスカレーターやエレベーターなんてものはあるはずもない。らせん状にぐるぐる回りながら上階をめざすわけだ。上には宝箱とか置いてありそう。そして直前に落とし穴があるわけだな。
部屋の中央には大人数でメシ食ったり出来そうな木のテーブルがあって、今も実際に何人か座り、まったりしているように見える。
その奥にはカウンターのようなものが見えるが内側には誰もいなかった。いつか何かで使うんだろうな。
武大臣は、まったり中の男達に歩み寄る。
それに気付いた連中は慌てたように席を立って、敬礼したかと思えば武大臣の後ろで立っていた俺の存在に気付いて今度は平伏する。忙しいな。
それが波紋のように広がって、室内の男達が次々に平伏する。
俺はすぐに平伏を解いた。この世界のしきたりなのだろうから口には出さないでおいてるけども、いちいちめんどくせえ。
武大臣は連中に手をかざして言う。
「白銀獅子隊の者を集めよ」
中二病患者かな?
聞いてみたら、騎士団には色々細分化されて固有名詞が付けられている部隊があって、大きく3からのそれぞれに6で、18に分かれているらしい。
その中でエリートの中のエリートしか入隊できない最上の部隊が、白銀獅子隊なんだってさ。
他には黒鉄とか赤銅とか大きく分かれた中に、虎とか狼とかアニマルな名前が強そうな順番に並んでる感じ。
だから、武大臣が集めろと言ったのは“最強の部隊を集めろ”ってことだ。
と、説明を受けている間に、次々に立派な体格の男達が集まってくる。
武大臣はそれらを横一文字に整列させると、歩み寄ってから振り返る。
「帝王様、こちらが獅子隊の大将軍である、アーバンダスク殿でございます。重剣が得意にございます」
「ふむ」
武大臣が紹介したのは、俺から見て一番左にいた、いかにも強そうで背の高い男だった。
「そして、こちらが次将軍のヘレス殿。得意は短槍で」
これも強そうな男だ。
「こちらが北将軍のイエーガー殿」
うん強そう。
「こちらは東将軍の――」
最初の人何て名前だっけ。
そんなに一気に見せられても「うん、みんな強そうだね」という感想しか湧かないのだと身にしみて分かった。素人目には違いがわからないし、フォースとか戦闘力とか見えないよ。
大将軍ってのが一番強いんだろうから、それを選んでおけば安牌なのだろうが、どこが終わりかもわからない、長い旅に同行するんだから、やっぱ軽い気持ちで選んじゃいけないような気がしてきたぞ。
なんというか、決定打に欠けるんだな。
考えあぐねていると、武大臣は微笑する。
「今すぐにお決めにならなくとも良いのでございます。まずは彼らの訓練の様子でも見学なさってはいかがでしょう」
武大臣の提案に従って、強そうな男達がカンカンキンキンやってるのを見たって、なんか凄そうなことしてるなあくらいの感想しか持てなくて、結局よく分からんことに変化はなかった。
テレビでボクシングとか見ても、どっちの方が強いとか全然わからんし。だからこそ手に汗握るんだろ。
それぞれが十分な戦闘能力を有しているのはなんとなく分かるのだが、どことなく似たりよったりというか、突出した個性がないというか。
こいつに決めた! と言えるだけの要素がないのだ。
いきなりなんかすごい漢字の羅列みたいな必殺技放って、全員一気にぶっ倒すような男がいたらそいつにするんだけども。「他愛もない……」とか言って立ち去ったら余計に確定だ。去った後に一陣の風が吹くやつ。
俺が見学してる間にも、武大臣はずっと何か言いたそうな顔をしてこっちを見ていて、先の言葉とは裏腹に「早く決めてください」と言わんばかりだった。それかガチホモだ。
無言の圧力に耐え兼ねても「じゃあこの人でいいです」と決めてしまえるような軽い問題じゃねえよなあ。
「ふむ。皆、筋が良いのう。心強いわい。しかし、それゆえ決めかねるぞえ。どれどれ、後は自室で考えることにしようかのう」
「はっ! かしこまりまして!」
逃げました。昼時だし腹減ったわ。
□
王室へ帰ると扉の前に見張りが三人いた。
いや、見張りの兵士が二人とメイドさんが一人だった。マイラだ。兵士と大差ない格好で仁王立ちしている。何やってんの。
「帝王様、お帰りなさいませ」
マイラは言って、起き上がり小法師をした。
「うむ。わしはちょいと腹が空いたぞえ。昼食を――」
「持って参ります。何をご所望で」
「……肉」
「かしこまりまして」
マイラは駆け出した。あっという間に姿が見えなくなる。
肉なら丸焼きでも危険がないだろう。牛一頭を両肩に担いで来る可能性も否めないが。
「お待たせ致しました」
「あっはっは!」
そしてしばらくして持ってきたのが亀の丸焼きだったらもう、どう対処していいのか全くわからなくもなるだろう。笑うしかねえよ。
マイラにどう言えばいいの。どう言ったら何が伝わるのか全然わかんないし、この状況でどう文句言っていいのかわかんないくらいのレベル。
そもそも話を最後まで聞かないしさあ。
どうすんの。一般的な成人男性の肩幅くらいある、図太い顔をした図太い甲羅のやつを、どうやって食えばいいの。
保護団体からクレーム来ねえだろうな。
すげえ速さでテーブルに置いたかと思えば目にも留まらぬ速さで壁際に待機して、ピクリとも動かないし。忍者かな?
全体的に焼き菓子みたいに茶色のそれを、しばし眺める。
とりあえず甲羅をつついてみようと思い、フォークを押しやると甲羅はホロリと崩れた。
すげえ脆くなってんな。まさに焼き菓子みたいに、パイ生地みたいにサクサクと崩れていく甲羅。
パイ包み焼きみたいに思えてきた、っていうかそう思い込みでもしないと食える気がしない。
自分で自分をごまかしながら、尻尾の辺りの甲羅付き肉をぱくりと食べてみた。
意外とうめえ……なんかムカつくな……。