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むかしむかし、あるところ......ではなくて、これは今のお話。
都内某所に私立御前ヶ原学園という学校がありました。
一昔前は名家の令嬢ご子息なんかが通っていた名門校でしたが、今ではちょっとリッチな家庭の人でも通える程度の学校です。といっても、昔からの名残でお嬢様お坊ちゃまが多いのも事実。
そんな学園の中でも、他の生徒とは一線を画したお嬢様が4人、この学校には存在していました。
容姿端麗、学業優秀、高貴な家柄。そして、それらを一切鼻にかけることのない、優れた人柄。
学園の誇る4人の才媛----人は彼女たちを、美しき4人、という意味を込めて「BeautifulⅣ(4)」略して「BIV」と呼びました。
学園の別館(特別教室や各部の部室が集まっている)最上階。そこに「BIV」の4人が集まる特別教室がありました。一般生徒とは異なり莫大な寄付金を納める彼女たちだからできた、通称「花園」
「花園」の中は高価なアンティークで彩られ、そこで彼女たちは日夜、優雅なお茶会をしている......と、思われています。
ですが、実際のところは誰にもわかりません。
今回は特別にその「花園」の中をちょっとのぞいてみましょう。
入り口の扉の取っ手からして、細かい細工の施された金縁と、他の部屋とは作りが違います。その取っ手を引いて入ると、そこは二十畳ほどの異世界。
真っ先に目に入るのは、天井からつるされた豪奢なシャンデリア。そして部屋の真ん中には側面に複雑な文様の掘られた、大きな円卓が置かれています。
その円卓を囲むように置かれた四脚の椅子に座る四人の女生徒。
最も入り口近くに座るのは、BIV随一の可愛さを持つ、神様に愛された生きる天使、阿澄ほのか。
その右手に座るのは、BIV唯一の海外勢にしてNo.1おっぱい、エルル・L・ルルゥ。
変わって左手に座るのは、BIVのロリ枠。見た目は子ども頭脳は大人、三条鈴。
そして、部屋の上座。窓を背に、入り口の正面に座るのは、BIVのリーダー、学園の誇る無敵の女王様、荒瀧凛香。
BIVの面々は、みな椅子に座り、円卓の前方に置かれた黒板とその前に立つ一人の人物を神妙な顔つきで見ていました。
本来、この教室にはこの四人以外いないはずですが、なぜかいるもう一人。
『彼』は黒板の前に立ち、なにかを書いていきます。いくつかの数字を書き終えると、彼は几帳面に角張った自身の書いた字を指し、言いました。
「さぁ、まずはこの問題を解いてくれ」
彼の言葉に、神妙な顔つきのままの少女らは、そのまま動かず。
「............」
黙ったまま黒板をにらみつけます。
「..............................」
カップラーメンにお湯を注いでちょうど良い食べ頃になるくらいの時間。無言で過ごすには少し長い、その時間。四人は黒板をじっと見つめ----
「あの......解ける、よな?」
一向に動く気配のない彼女らに、思わず『彼』が声を挙げると、それまで背筋を伸ばして黒板と相対していた四人は、糸の切れた人形のように、机に倒れ込みました。
「お、おい......」
彼の言葉に、ふぅぅぅ、と深く息を吐き、まっさきに顔を上げたのはほのか。
「うぅぅ、数字がいっぱいで、あたまいたくなってきちゃいましたぁ」
もうだめですぅ、と言って、両手を挙げて万歳のポーズ。
「ワタシ、ニホンゴわっかりっませ~んっ! アハ☆」
続いて、エルも両手を挙げて万歳をします。たわわに実った胸の果実が大きく揺れました。
「............」
黙ったままの鈴は、目には涙をいっぱいにためて、えぐえぐと嗚咽をこらえ震えています。
「ふふふ、どうしても、というなら教えてあげても良いわ。わからないけれど」
椅子にふんぞり返り頬杖をついたまま、凛香はくすりと微笑んでいます。
四者四様の態度を見せる少女たちに『彼』は頭を抱えました。
「なんで......」
黒板に書かれたのは、九九から、分数同士の足し算、かけ算、三桁×三桁のかけ算などなど、小学生レベルの四則計算が十問。
「なんでこれが解けないんだ!?」
そのぼやきに、四人はきょとんとしてから顔を見合わせて一斉に答えました。
「「「だって私たち、超甘やかされて育ったお嬢様だもの」」」
そう......学園の誇る4人の才媛は、実は見た目がいいだけのおばかさん!
偏差値の高いこの学園には入れたのは、多額の寄付金を積み上げての裏口入学だったのです!
そして......「花園」の正体は、彼女たちがボロを出さないよう、また、少しでも足りないおつむをなんとかさせよう、との保護者の意向から行われる補習授業のための特別教室なのでした。
このお話は、その「花園」の特別講師を押しつけ----もとい、任されることとなった、『彼』----青山秀一とBIVの4人のお話。