学院散歩 三
あの後眠ってしまい、焼き魚が出来上がって取り分けられたところで彼女に起こされた。
彼女は約束通り綺麗に半分で分けていたが、どういうつもりか背骨を両断して背中から腹のまで綺麗に分けていた。
これは、どういうつもりかも分からないがどうやったかもさっぱり分からない。まさか公平さの為だろうか?
「どうした黒ニャンコ?冷えるぞ早く食べたらどうだ。」
そこまで考えて彼女に焼き魚を勧められる。彼女は他に食事を持っていたらしくまだ弁当箱を取り出していたが、せっかくなので俺は先に頂くか。
うむ、味がやけにはっきりして美味しいが、腹と頭の大きなさんまに大きく鋭い牙をつけた見た目で少し厳つい。
少々魚の怖さが気になる。
雑念まじりに焼き魚にかぶりついていると、ようやく食べ始めるかという所で彼女が止まり、ふとこちらを向く。
「ところで黒ニャンコよー。無理なお願いとは分かっちゃいるが、あんたを召喚した錬金術師は誰なのか、このわたしに教えてはくれんかね?」
「ガツガツ……ニャーオ(無理言うな)」
少しだけ顔を向け、直ぐに食事に戻って意思表示してやる。
「モグモグ……まあ無理っぽいな。それはそうだろう猫だしな」
当たり前だ、猫に無理を言うなよ。それも飯食ってる時に。
「む?あっそうか、錬金術師科の生徒は少ないから名前だけ聞けば言いのか!」
「ガツガツ……ナーォ(飯が先だ)ガツガツ……」
「よーし、まず候補に思い付く奴から言うぞ?ローブに小道具まみれの頼りない優男風のマルコス・グレタフ……」
「ニャーッ!ニャア、ニャーオ(そいつだっ!というか、マルコス問題児だったのかよ)」
「なーんだやっぱりあいつか。どうせマルコスだろうと思ってたけどこれは拍子抜けだな。適当に一言くらい注意しとくか」
「ニャー?(なんだそんなに軽くて良いのか?)
ここのルールは知らないが、注意しないといけないくらい非常識ならまだ何かあるだろうと思うんだがな
「モグモグ……あぁ?気になるのか?あいつは良いんだよ。怖いお目付け役にはフリーダがいるし、それでそのフリーダには面倒臭い奴がくっついているんでね。教師程度が下手に首突っ込むと……そのまま物理的に首をはねられかねん」
「ニャオニャ。ニャーオ?(フリーダの方が問題なのか。それでその面倒臭い奴ってのは?)」
「モグモグ……そっちも教えとくか、そいつはやばいもやばいぞ。なんたってこの国の王子の一人なんだがな、本人のいない所で一番使われてる通称がクソ王子なんてついてる。しかも、通称通りこの学院の生徒でもとびきり頭がおかしい」
「ガツガツ、ニャー……(それはやばそうだな……)」
「あぁ、不安にさせたか黒ニャンコ。それでも分かっててもどうしようも無いタイプでな。生まれながらの覇道の者のような性格をしている。名前はラニザヴ・ブラウという」
「ニャーオ?(どんな見た目なんだ?)」
「どういう奴が気になるか。まぁ、見た目は金髪蒼眼で長身に筋肉質の男らしい体格で雰囲気は鋭く男として見るならかなり良い方かもしれんが、異常な素行が目立つ。普段から大股で歩きながら馬鹿でかい声でゲラゲラ笑い、道端だろうが気になった相手にしつこく絡む下品な王子様。これが一般の評価だな。」
「バリボリ…ニャー……(想像すると調子の良い酔っぱらいのおっさんが浮かんでくるんだが……)」
「どうやらろくでもない想像をしたみたいだな。だがそれでだいたいあってるはずだぞ。今まで一度足りと期待を裏切ったことはないと本人が言っていた。しかし黒ニャンコも不憫だな、クソ王子といずれ合う運命にあるなんて。せいぜい死なないように頑張りな」
「モゴモゴ……ニャーゴ……?(冗談にきこえないんだが……?)」
近い未来にかなり面倒なことになりそうな予感がする。
「そう怖がらなくても良いさ。他の噂によれば気に食わない奴は眼中にすら入らないらしいから、凡猫?の振りして知らん顔決めれば向こうから無視するさ」
「ニャオ(そうだと良いんだがな)」
「安心しろ安心しろ。本人の前で余程のことしなきゃただの猫の使い魔なんだから、ラニザヴも危害を加えるような軽率な真似はしないさ。てっ、いつの間にか骨まで食ってんな!?」
「ニャーオ、ニャー(調子が良くてな。それと中々美味かった)」
うむ、本当に美味かった。それに体が色々と強くになったおかげか固そうな頭も余さず食べれた。腹が満たされて大満足だ。
「どう考えても顎の小さな猫なんかが骨まで噛み砕くのはおかしいだろ!?間違ってもそんなのをラニザヴに見られたら目をつけられる。嫌なら普段から控えたほうが良いだろうな」
「ニャーゴ(ご忠告ありがとよ)」
さて、食事は終えたし、彼女との会話で多くのことを教えては貰った。そろそろ次の場所を探そうかな。
ゴーンゴーンゴーン……
次の行き先を思案していると再び鐘の鳴る音が聞こえた。
「ニャオ(おい)」
ラオフェンは姿勢を整えると扉に向かって彼女の方を見て声をかけると、彼女もこちらの意図に気づく。
「おう、もうお話は終わりかな。わりと楽しかったぜ」
「ニャ、ニャーオ(俺もだ。色々ありがとうな)」
そう言えば彼女の名前聞いてないな。
「そういや自己紹介してなかったな。それは今度にするか。マルコスを注意しに呼び出すから一緒に顔を出しに来いよ。その時にマルコスに通訳させながら改めて自己紹介でもしよう」
「ニャーゴ。ニャオ(そうかい。また今度)」
「あぁ、また今度な」
彼女は言葉は分からなくても俺と同じ返事をしてくれた。その事を嬉しく思いながら、出入口の扉を開けて出ていく。
通路の窓から見える空は、まだまだ強い陽の光が降り注いでいる。
次は外で確認ついでに腹ごなしの運動をしようかな