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猫又旅   作者: 老猫
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学院散歩 二

俺は中央の通りを走り抜け、向かいの棟に着いていた。


 しかし、今思えばさっきまでの醜態は不覚だ。

 勿論、不覚といっても新たな出会いには何の悔いも無いが、問題は気を引き締めてと思った矢先に、撫でられることに夢中になって後から来た金髪のメイドの気配にも気づけないという状態になったことがだ。


 まだ散歩を始めてそんなに経ってはいないが、気合い入れたつもりだったし、色々と確認しなければと考えて動いていたつもりだっただけに、出会いは嬉しいが自分の醜態は悔しい。


 そんな複雑な気持ちを押し込む。

いや、まだ時間はたっぷりある。そもそも散歩はゆっくりやるもんだし、落ち着いて敵情視察だ。


 妙な気分のまま着いた校舎をキョロキョロしていると、右の通路のどこからか良い匂いが漂ってくる。


 いや、そう言えば寄り道も散歩の醍醐味だな。


 空腹感がだんだんと高まるのを感じ、右の通路に向かって走ると匂いのする場所を探しだした。

 今いる通路をキョロキョロしていると、右の方のどこからか良い臭いが漂ってくる。

 今まで嗅いだことの無い香りだが似ているとのは焼き魚っぽいなと思い当たり、向こうの朝ではまだご飯にありつけなかったと思い返すと不思議とお腹の空く気持ちがむくむくと出てきて、自然と歩幅も広くなっていた。




 廊下は長く広かったが目的の場所は直ぐに見つかった。

扉には上部あたりを直に削って何か文字が書かれているが読めず、少し思案した。


 当たり前だ。そもそも猫だしな。

言葉の意味はマルコスが何かしていたらしく分かるが、この場所に来てから知っている物は極端に少なくなった。

 要は考えるだけ無駄ということか。


 軽く頭を振って見上げると扉のノブを見るとへこみしか無く、扉は引き戸で僅かに隙間が開いており、室内はよく見えないがそこから匂いが漂っている。


 これなら簡単に開けれそうだ。匂いがする時点でどこかは開いてるに決まってたけどな。


 自問自答を意識切ると扉の隙間に頭を突っ込んでそのまま押し開けた。


ガラガラガラガラ


「うぉあっ!?すんません昼飯焼いてましたっ……って、黒猫かよ。宝石?ということ錬金術師科の生徒だな。変なやつもいるもんだ使い魔なんて放し飼いにしてる奴がいるなんて。びっくりさせやがって」


 こっちが驚いた。いくらなんでも言い訳に昼飯焼いてましたは無いだろう。




 声は若い女性の者だが、口調はかなり荒い。

 部屋の中には一人だけで、恐ろしくシンプルな布でシンプルな上下の服を着て、その上に前が開けられているが大きく体を覆い袖の長い白い服を羽織っただけの白髪の女性が匂いの元のあたりで屈んでいる。


 服の頓着の無さも凄いが、机や椅子、資料等の配置を見るに共同の部屋だろうということが分かる。

 更に、この女性や他に見てきた人物の格好、建物の形で場所の見当がついた。

 ここは学校に似た施設だろう。一度だけ迷いこんで、その時は死に物狂いでなんとか逃げ切った記憶がある。

 こっち側の棟は教師の棟で向こう側が学生の自室と教室の棟だな。


 そしてこの女性、その共同で使う部屋の中で、大きい植木鉢みたいなものに金網を被せたもの、つまり七輪で本格的な焼き魚をしているとは変わっている。

 しかし、そんな変な奴に変だと言われるマルコスはやっぱり変な奴だったか。


「ニャーオ(焼き魚があることはわかっているぞ)」

 状況は分からないが目的はただ一つ、それを一言で明確に要求を突きつける。

 言葉は分からなくても焼き魚を持っているんだから勝手に気づくだろうという予想からだ。


「なんだ黒いニャンコ、わたしの昼食に何か用かな。」


「ニャーオ?ニャ、シャー(教師?さんよぉ、その焼き魚を渡せば悪いようにはしないさ)」


「ふふんっ、わかっているぞ。黒ニャンコがこの焼き魚の香ばしい匂いに釣られてここに来たことはな。まぁ、やらないことは無い。だがな、わたしもただでというわけにはいかないかな」


 やはり言葉は伝わらずとも分かるか。しかし黒猫相手に交渉とは。やはりおかしな性格というのは間違い無いな。

 それでも交渉を持ちかけられたからには答えないわけにはいかない。ここは俺達猫の得意とするモフり一つで通るか?


 だが昼飯の為にはモフりにかけるしかない。口の中は既に焼き魚の味を思い出していた。


 しっかりと見据えて白衣の女性の目の前まで近づいた。



「ニャ、ニァーオ(さぁ、撫でろ)」


 俺からすると飯がかかった緊張の一瞬だ。

 そのせいか、彼女のほうも何故か緊張した様子で少し固まっていたが、一度ゴクリと生唾を飲むと決心してそろりと片手を出して撫でてきた。


「おぉ、細っこくてさらさらでふわふわしているのか。初対面で撫でさせるとは中々良い猫だなー。とても野生に生きれる動物とは思えない」


「ニャア(焼き魚の為だ)」

野生動物とは思えないとは心外だ。わざわざ交渉に応じたのに。


「なんだ?安心しろ。約束だからな、焼き魚ならくれてやる。全部は駄目だけど半分ならやろう」


「ニャーゴ。ニャッ(当然の報いだ。良い意味でな)」


 目的は達成した。これで昼食の確保ができた。

 それに、話し合いで知的に飯を得ることが出来て満足でそれなりに楽しめた。


 それにしても変な女性だが焼き魚はくれるし、撫でるのもわりと上手いしで、自由な身なりに自由な性格していて何だか気が合いそうだな。


 白衣の女性の撫でる手で心地良くなって伏せる。


 今日は連続して良い出会いが続く。最初は悪い日かとおもっていたが実は良い日だったか。


 ラオフェンは既に微睡み始めていた。



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