誘拐犯と猫又 二
「ニャウ、ナウアーオゥ。ニァーウ?(それで、これから俺はどうしたらいいんだ。自由か?)」
「ラオ、伝えたい時は別に人っぽくしなくても伝わるよ?」
「フシャァー!(うるせぇ!!早く言えよ!)」
あの後、マルコスの気の抜けた返答に応えて吠えまくっていたらフリーダに殴られてやっと正気になり、一度マルコスの自室に戻った会話をしていた。
「ニャーウ、ナウァ(だからなぁ、使い魔の仕事はあるのかって聞いてんだよ)」
「ん?べつに無いけど」
「フシャァ!シャー!(じゃあ何で召喚なんざしたんだよ!迷惑だ!)」
全く迷惑だ。俺は自由に生きることが主義なのに。
「まぁまぁ、落ち着いて聞いてよラオ。僕にも事情があって。でもさ、ラオが悪い目にあうわけじゃないはずなんだよ。何でも昔からある魔術でね。かなり簡略化されてるんだけど条件付けの召喚が出来る優れもので野良で不満のある温厚な生物を条件にしたんだけど。それで、ラオは野良だったんでしょ?」
「ニャニャー。ウナーゥ(あぁ野良だったよ。それにそこらへんは多分知ってる。契約具とやらを付けられた時になんか流れてきたからな。そんなことよりも使い魔になって不自由を被るのが嫌なんだ)」
「うーん、確かに使い魔の扱いは人それぞれあるけど僕は何かを押し付けるつもりは無いし、使い魔はそんなに身勝手に扱うものじゃ無いんだよ?魔術師と使い魔は心を通わせてこそらしいから。それも人それぞれだけど。それとラオ、鳴き声が雑になってきたね。」
「ニャウ。ニャー(鳴き声は気にするな。じゃあ、つまり俺はだいたい自由にやって良いってことだな?)」
「うん。授業とかでどうしても用があるときは『喚ぶ』けど、基本は自由行動だよ。だけどご飯時とかは帰って来ないとラオだけ抜くからね」
「ニァッ?ニャーウ?ニャーアゥナー(飯は大丈夫だろ。あ?なんか変な意味で伝わったぞ?『喚ぶ』っていうのはどう言うことだ)」
「あぁ、使い魔と魔術師の間には特別な魔術があって……」
コンコンッ
マルコスが大事な気がすることを言いかけたところで部屋のドアがノックされる。
ノックから間を開けずにあの時いた女性フリーダの声が聞こえる。
「マルコス、いるか?そろそろ急がないと錬金術科の授業が始まるぞ。時間がかかるなら先に行くが?」
「あーっ、フリーダごめん。先行ってて。じゃあラオ学院の敷地から出ないなら自由にしてて良いよ。今日はこの後の始まりの鐘を合わせて四つの鐘がなると授業が終わりだから、その頃を見計らって散歩してね。後、明日のお昼が終わって直ぐにラオに用があるから昼食の時はこの部屋にいること。周りの様子で分かると思うから」
マルコスはフリーダのかけた言葉で予定か何かを思い出したらしく、さっきの間抜けた様子から変わって脱いでいた長い外套で身を包み、道具を入れているらしい茶色い革製で紐の長いカバンを肩にかける。
「ニャア、ニャウ。ニァウニャー(ん、よくわからんが慌ただしいな。今日は今から鐘が四つだな。分かったから早く行ってこい)」
「心配だなぁ……ほんとにちゃんと帰って来てね?もう僕は行くけど面倒事は起こさないって信じてるからね」
「ナーウ、ニャアー。ニャウニャアー(あぁあぁ、早く行け。急がないと間に合わないんだろ)」
「それと、ドアは鍵がかかるけど使い魔のラオならドアの下の方にある使い魔用の入り口から入れるから安心して出掛けて来ていいよ。最後に、後数分もすればこの『世界』で相手の言った言葉の意味が分かるようになると思うから。じゃあいってきます」
「ニャオ、ニャーウ(そうか、良いから早く行け)」
マルコスは最後にそう言うとようやく出掛けて行った。まったく、間抜けなのか慌ただしいのか分からないような奴だ。
しかし、猫が人の言葉も理解するようになるのか。変な気分だな。
これだとまるで化け猫みたいじゃないか、今も十分おかしいことになっているけど。
それはそうと、今から鐘が四つなるまでは自由行動らしいから猫は猫らしく散歩でもするかな。
ゴーンゴーンゴーン……
いざドアの下にある出入口から出ようとしたところで始まりの鐘といっていたものがなる。
おそらくマルコスは間に合わないな。
ラオフェンはぼんやりそんなことを考えながら、改めて使い魔用出入口の戸を首で押しくぐった。