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猫又旅   作者: 老猫
23/32

コゴブとグァクバ 五

 マルコスの胴体に目掛け無造作に腕を振るうコゴブの足に向かって跳躍する。


「ブレイド」


 跳躍と共に伸ばしたブレイド踏みしめている太い足に振るった。


 気づいていたらしく寸でのところで後方に回転しながら避けたが、余裕の出来たマルコスが追加で弾丸を飛ばす。


 飛来した弾丸はドガドガと重たい音を立ててコゴブの全身を打ちつけるものの、その巨体でどっしりと腰を落として受けきっていた。


「おーいってぇっ。その玉っぽいやつ見え辛い上に矢とか石より痛いな」

 さっきの強襲同様にほぼ全ての弾丸が命中しているが、その体には微かな傷がついただけで堪えた様子は無い。


「効いてるようには見えないね。」

 しかし、マルコスはコゴブから目をそらして次の準備をしていて懐から宝石を一つ取り出した。


「そんなこと無いさ。見ての通りな」

 既に構えているマルコスも分かりきっているという顔をしており、コゴブがいう見ての通りならば効いていないだろう。


 コゴブも宝石を構えて前傾姿勢を取るマルコスに対応して足を出そうとしたが、マルコスは持っている宝石を飲み込んでから姿勢とは反対に下がった。


「さてさて、ワァーウ・ルムル、エカシー・オッチ」

 マルコスは詠唱をして、締め括りに地面を蹴るように踏む。

 すると、最後に踏む動作をした足から魔力が伝い、いま同じく戦闘をしているグレタさんとこちらを隔てて部屋の中心を境に大きく揺れながら壁が伸びる。


「おっと」

 片足を上げていたコゴブが転びかけて体勢を崩した。


 揺れるそこを狙って再び足を狙って切りつけ、今度は前転して逃げようとするが長いブレイドを避けきれない。


「があぁっ、邪魔くせえ」

 軽くも傷を負った足から血がにじみ、コゴブも傷よりも傷をつけられたことに苛立ちを見せた。


 避けようとはしたが太ももをかすらせた

 だが、そのせいでしっかりと標的に入れられたらしい。

 マルコスしか見ていなかったコゴブの眼光が俺にも突き刺さる。


「チョロチョロとなんだこの獣は。ああなんだよ、こいつもこいつで化けモンくせぇ。食い殺されそうな感触がビシビシぶっ飛んできておっそろしくてしゃあねぇなあ」


 一瞬厳しかったコゴブの視線が好奇を示したものに変わり、どこを見ていて言っているのか分からないような言葉をかけてくる。

 会話好きなのか戦いの最中なのに馴れ馴れしい。

 話しかけてくるコゴブは隙だらけに見えて飛びかかる為に伏せるが、視界の端にマルコスが背嚢を降ろして探っているのが見えたので止め、話したいようなので答えてやる。


「ケモノチガウ。ラオフェンダ」

 ボイスで声を出すが思っていたよりも驚かれない。


「しかも喋りやがる。並の化けモンじゃねぇよなあ。俺や長老側だ。」


「カッテヲイウナ。オレハツヨクナイ」


「そうだな、今は強くない。だが隠しきれてねぇんだよ魔物臭さが。一体どう動くか予測出来ない恐ろしさがある」


 魔物臭いという単語が引っ掛かり、意味を訪ねようとし出来なかった。


「よし、もういいよラオ。このまま捕まらないように戦ってて。何が起きても驚かないようにね」

 友好的な雰囲気さえ出し始めたコゴブを突き放して、やっとマルコスが装飾の多い腕輪を着けて前に出てきた。


「なんだ、お前らはさっきから時間を稼いでばっかりじゃねえかよ。しかし、ようやく本気を出せるなら待ったかいがある。もう待たないぜ」


 わざわざ何回も雑談しようと喋りっぱなしだったのは待っていたからか。


「安心すると良い。お前は手も足も出ないよ」

 マルコスは腕輪をつけた方の手でコゴブを指差し、目に見えるほど魔力を高め始める。


「ふんっ!」

 コゴブも宣言通り待つつもりは無く、全身を更に大きく隆起させ、膨れた体で地面を砕くように走り瞬く間に目の前に腕を掲げた姿で現れた。


「うおらっ!」

 たった数歩で急激に加速したコゴブの腕が前に立っているマルコスに対して弧を描いて降り下ろされ、衝突の爆音と瓦礫と土煙が上がり、それとなぜか強い光が発せられる。


「手応えがねぇ」


 石の床に刺さった腕を抜いているコゴブの周囲にマルコスの姿は無い。


「隠れたな。だったら獣の方から」

 姿の無いマルコスをすぐに諦めて俺に向かって走ってきた。


 急加速するのは分かったのでがむしゃらに横に飛ぶと、もう一度舞い上がった土煙と破壊音を聞き、さっきまでいた場所を探すとマルコスの作った壁に片足を埋めたコゴブがいた。


 懲りずに体を捕られているコゴブを狙いをつける。


「ガアァッ!オラッ!」


 怪力で壁から足を引き抜き、ブレイドをギリギリで避けたコゴブが倒れるままに肘鉄を落とすも、素早く身を翻してその場を逃げる。


 立ち上がれていないコゴブに追撃を加えようが、それよりも早くに真上から先端の尖った柱が降ってきた。

 コゴブはひねって避け、無理なものは怪力で反らしたり掴む。


 全ての柱をかわしたが、側に刺さる柱は互いに柵のように横の棒を伸ばしてコゴブの身動きを制限しており、囲んでいる柵をぶっ叩いて壊し、なんとか体を起こそうとするコゴブ前に像のぼんやりとしたマルコスが現れた。


「終わりだね」

 少しずつ像がしっかりしてきたマルコスが又指差しをし、高速で飛んできた石によって頭がかき消える。


「終わらねえ」

 石の正体はコゴブが手首だけで投げた瓦礫の一つであった。


 コゴブの言葉はマルコスに対する否定かと思ったが頭を無くしたはずのマルコスは血も流さず、むしろ元気よくコゴブに向かって駆けており、頭の無いマルコスに不穏な気配を感じたコゴブが大急ぎで逃げようとじたばたともがく。


「バイバーイ」


 しかし、抵抗虚しくも間に合わず、マルコスのようなものがコゴブのすぐ側まで来ると、もう偽物だと騙すつもりもない口の無いはずのマルコスの声がどこからともなく聞こえてくる。

 コゴブは最後の抵抗にゆらゆらとちかづいてくるマルコスのようなものを殴り付け、その拳が触れた直後、マルコスのようなものはいとも容易く爆発を起こした。




「いやー、余裕だったね」

 マルコスのようなものの爆発に連鎖して爆発している柱を見つめていると、後ろからマルコスの声がかかった。


「シヌカトオモッタ」

 功労者だが馬鹿なことを言うマルコスへはこれが精一杯の文句であった。


 爆発する柱が無くなり、その中心で肌を黒く焦がして煙を立ち上らせる塊を見送ってマルコスは自身の作った壁に歩みを進める。


「確認をとってから、早いとこグレタさんのお手伝いにも行こうかな」


 壁に来たもののしっかりと確認することを思い出したマルコスはピクリともしない黒こげのコゴブに近づくが、歩く途中でマルコスの蹴った石ころがコゴブに当たったところで塊が蠢いた。


「生きてる!?グゥッ」


 黒こげの塊は更に大量の煙を上げながら驚愕に声を荒げたマルコスに飛び付き、マルコスの腕を掴んで力任せに壁に投げつけた。


 投げたのはコゴブが足を突っ込んで脆くなっていた場所丁度でマルコスは壁に深く埋まっている。


「さあ、これが本当におしまいだ派手に決めよう。ロケットォォォッ、パンチィッ!!」

 壁の中でうなだれるマルコスにゆっくりと語りかけたコゴブが、全身でばねのように大きく振りかぶって拳を叩きつける。


「ブースt……」

 マルコスの声はコゴブの一撃によって破壊された壁の音で途切れ、全体につながるほどのひびを作って大穴を開いたれた。


 マルコスがやられ、開いた大穴をコゴブが越えてからグレタさんのことに気づいて俺も穴をくぐると、そこには相対するグレタさんとコゴブ、それと部屋の端に雑に並べられているマルコスと老ゴブリンのグァクバがいた。


 二人は視線を交わしあっていたがグレタさんは俺に気づいて口を開く。


「よかったラオフェンさんは無事でしたか。マルコスさんは気を抜いた結果ですがラオフェンさんは心配したんですよ。怪我はしていませんか?」


 おかしい。

 グレタさんはグァクバとの戦闘をこなし、今からも手負いといっても怪力でしぶといコゴブを相手にしなければいけないのに緊張感が微塵も感じられない。


 これはコゴブも無視されたから怒ると思ったがコゴブもコゴブで動く気配が感じられない。

 しかし、それでも危険なのは変わらず、グレタさんの側に行くか離れるかで迷っているとコゴブが体を揺すって呟いた。


「お、おぉ……長老?まさか長老がそんな娘っ子にやられるとは」

 理由は分からないが、よぼよぼでとても強そうに見えないグァクバが負けたことに驚いている。


「信じられませんか?」


 冷静なグレタさんの声にコゴブはうつむいて震え、目を見開き、口をひきつらせて吠えた。


「当たり前だっ!長老が負けるなんざ信じられるかぁぁっ!!」

 コゴブは声を張り上げてグレタさんに殴りかかる。

 だが、マルコスとの戦いで全力は果たしたのか力が無い。


 グレタさんがふらつくコゴブの拳を避け、優しく背中に触れただけでコゴブは痙攣しながら前のめりに崩れ落ちた。


「あがっ……つ、つえぇ……よ、娘っ子。そうか、俺たちの敗けか」

 うつぶせのコゴブは痙攣で苦しみ喋りにくそうにしたが言い切り、何度か立ち上がろうとしたが腕が震え、ついにはばたりと力を抜いた。


「はいもう結構ですか。それではお話を聞かせて貰いたいのですが」


「おい、まさかよ、討伐じゃない……?」

 倒れ伏し、敗者としての絶望を漂わせていたコゴブが、次は痙攣では無いもので言葉を震えさせる。


「そうですが」


「……そうか」


 コゴブは気を奮い立たせて体を起き上がらせ、倒れて気絶しているグァクバを拳で叩き起こす。


「ガッ!頭が、死ぬ、お前コゴブじゃな。何故わしを殴る。ニンゲンはどうしたんじゃい!」


「うるせぇぼけ!お客さんだったじゃねえかよ。無駄骨だ無駄骨。ええっと、グレタさんとラオフェンだったよな。とりあえず下に降りようや」

 コゴブはマルコスとグァクバを抱えて大穴を抜けて先に進む。


「どうした。話しするにもここは嫌だろう。それに他にも仲間がいるらしいからな」


「私は構いませんが、下のみんなと合流してからにしましょうか」

 グレタさんも何を知っているのかコゴブと同じ意見になって穴を抜けていく。


 グレタさんとコゴブはどんどんと進んでしまうがまだ理解が追い付いていない。

 先に行ってしまう二人を追い、説明の付けれそうなグレタさんの話しかける。


「ナンナンダ?」


「勘違いですよ。優しい魔物達だったんですね」


 グレタさんの言葉でようやくコゴブが無駄骨と言った状況を理解した。

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