8.悪夢リターン
白玉さんに夢鬼を取り除いてもらって以降の生活は順調だった。悪夢を見てうなされることもなく、胸に感じていた痛みも日が経つごとに忘れてしまえた。
白玉さんとはあれ以来特に何もなかった。夢にあらわれたことに関して他に話があるかもしれないと、週明けに様子をうかがったりもしたが、いつも通り眠たそうな顔で本を読んだりしてるだけだ。元々、白玉さんの目的は僕の悪夢をとる(食べる?)ことだったから当然ともいえるかもしれない。彼女は特殊な人間だからもう関わることもないのかもしれない。そう割り切った。
それからおよそ2週間ほど過ぎたあたり、僕は昼の休み時間に白玉さんを視聴覚室に呼んだ。教室で白玉さんに声をかけたときに、何やらざわめきたった気がしたが無視した。大事の前の小事だ。他には誰もいない視聴覚室で、僕は彼女へ単刀直入に話を切り出した。
「また悪夢をみたんだけど」
僕の体にきのこが生えてくる夢だった。しかもそのきのこは人面をしていて悲痛にうめき声を発する。次々と体から生えてくるきのこの鳴田に養分をすいとられながら、にらみつけられるというものだ。僕は夢の内容を白玉さんに伝えた。
「そうなの」
「白玉さんがそのきのこを取っていって去ったんだけど」
干からびるほど養分を吸い取られていたところに、袋をもった白玉さんが以前に着ていた白と黒の着物姿で現れた。彼女は僕の体から生えていたきのこをちぎっては、きのこがあげる悲鳴も気にせず、そのまま袋につめていった。そして、あらかたとった彼女は何も言わずに出ていった。
「獏の護符はあるの?」
「獏の護符?」
「百合に渡したの」
「……ユリちゃんからもらったおふだなら持ってきてるけど」
僕は持ちこんでいたファイルにはさんでいたおふだ(護符というらしい)を見せた。墨で描かれた動物が白く光を放っている。朝起きたときにはこうなっており、彼女に見せるためにファイルに入れて持ってきていた。白玉さんが手を差しのべてきたので、そのまま渡した。
「明日新しい護符を持ってくるの」
「ちょっと待って、白玉さん」
護符の入ったファイルを持って部屋を出ようとした白玉さんを静止する。動きは止まったが扉を見つめたままだった。
「白玉さん、なんで僕ってまた悪夢を見たの?」
「知らないの」
「ならなんでおふだを持ってきてるか確認したのさ?多分、このおふだをが光ってるからと分かっていたように思うんだけど?」
「知らないの」
「……白玉さん、何か隠してない?」
「……言わないの」
「言わないってことは知ってるってことだよね!?」
僕は詰め寄るが、白玉さんはそっぽを向いたままだ。こっちを向け。こちとらもう悪夢に悩まされる心配はないんだと安心したところに、不意打ちできたものだから、大分いらいらが募っている。
「そこまで知りたいの?」
「そりゃ、知りたいよ」
こちらを向きなおして聞いてきたから食い気味に答えた。白玉さんは少し考えたように上を向くと、あっさりとした感じで言った。
「それなら部屋で話すの」
そこで話し合いが終わって、僕たちは教室に戻った。
「なあ、早川。白玉さんとはどういう関係なんだ?」
クラスメイトの1人が僕に顔を寄せるようにして聞いてきた。僕と白玉さんに関係などない。下手にとりつくろっては余計に勘ぐられるだろうし、そのあたりはきっちり言うべきだろうと思い、僕は毅然として言った。
「白玉さんとは特に何も無いよ。別に友達でもないし」
「マジ?じゃああんなに白昼堂々と呼び出して何を話してたんだ?」
「それは個人的なことだから内緒で。でも、今日白玉さんの家に行って彼女とはけりをつけるつもりだよ」
「ふーん、そうなのか……って、めちゃくちゃ関係進んでね!?」
あれ?何やら誤解させてしまったような気がする。
ここのベージに関して他よりも文字数が少ないのでもう少し進めようと思っていたのですが、次回以降展開をつくる予定なのでここまでにしておきます。
ちなみに作者はホラーが苦手なので、グロ描写や怖いと思うようなシーンはこれ以降は薄いとおもいま。どうぞ安心して閲覧ください。