もう一人の私、悪魔。
目の前にいたのは明らかに私だった。
髪型も髪色も体型も背丈もすべて同じ。
ひとつ違うのは服装。
私は黒や紫、青などの暗い色を着るのが好き。
だけど彼女は白やピンクなどの明るい女の子らしい服を着ていた。
まじまじと彼女を見てから思わず声が零れた。
「え…?私…?」
「そう!僕は君!」
「は…?」
「僕は君なんだよ!」
「ちょっとまって…」
まず。
何言ってんだこいつ、ってのが第一印象だった。
表情は変えていなかったつもりだが
実際その時の私の思考回路はあっちこっちにぐねぐねしてて拉致があかないほど混乱していた。
「そんなぐちゃぐちゃ考えて、どうかした?」
なぜ私の考えてることが分かるのか。
なにか悪い夢でも見てるんじゃないか。
怖くてたまらなかった。
「まぁまぁ、そんな怖がらなくても。
それに死神なんだからわかるにきまってるじゃないか!」
「し、死神…?」
「そうさ。」
「私が死神だっていうの?」
「違うよ。僕が死神なんだよ。」
「君は私なんでしょう?なら私が死神ってことじゃない!」
「うーん。なんて説明したらいいのかなぁ。」
手を顎に当て考える素振りをする彼女。
何が言いたいのか私にはさっぱり分からない。
「君はドッペルゲンガーって言葉を耳にしない?」
「ドッペルゲンガー?」
あぁ、自分と全く同じ姿をしていて
それを見ると死ぬ、とかいうあのドッペルゲンガーか。
「うん、知ってる。」
「あれって死神のことを指すんだ。そして君は僕と契約をした。」
「はっ?契約?そんなこといつ…。」
そう、私は彼女と初めて会ったわけでさっきまで自分の手首を切っていたからそんな契約など交わした記憶はない。
「あのノートに血を垂らしただろう。」
ノート…?
あぁ、あの行為のことを言っているのか。
少し薄ら笑いをしながら私に言ってくる。
「あれはいつもやってるの。そうすると落ち着くのよ。」
「それが契約の印なのさ。君は契約をしたんだからその契約を僕は果たして、それからその代償をもらう。」
契約、代償。
生々しい言葉が耳に入る。
私の頭の中はさらにごちゃごちゃになっていく。
頭がついていかない。
そんな私の気持ちになど目もくれず
彼女はこういった。
自分の顔だとはいえ無邪気に笑いながら話していた彼女の顔からは笑顔が消え、真剣な、なんとも言えぬ表情でこちらを見つめながら。
「いるんでしょう?消したい人が…。」
そう言って笑う彼女の笑顔は不気味なオーラを漂わせていた。