エピローグ
《 エピローグ 》
梅雨も終わりを告げ、温かい陽射しが始まりの音を鳴らす。
紫陽花から向日葵の季節になり始めている。
百合がいなくなったのが、6月21日。
そして、6月24日。百合にサヨナラを贈った。
悲しくて、毎日泣いて泣いて、心は苦しかった。
でも、百合に言われた「 泣いた後は笑って 」の一言だけで、僕は以前より笑えるようになった。紫季にも「 立ち直ってくれてよかったよ。 」と言われた。
少しずつでも、変われればいい。
もうあの頃の、泣いてばかりの僕じゃない。
「 よかったです、かおるが元気になって。 」
そう言ったのは、あの天使の少女、ひまわり。
「 これからは、向日葵の季節だな。それをわかって百合は“ ひまわり ”にしたのかな。 」
心の中で言ったつもりだった。なのに、無意識に言葉を洩らしていた。
「 じゃぁ、これからは私を好きになってください。 」
一瞬、冗談かと思った。
彼女の顔は、本気とも冗談とも取れない顔で僕は少し戸惑った。
「 …はは。それは出来ないな。 」
少し笑ってそう言った。
「 何でですか! 」
彼女があまりにも必死に言うものだから、僕もちゃんと言わないと。
「 今はまだ、ゆり以上に好きになれる人がいないから。 」
ゆり以上に好きになれる人は、きっといないだろう。
もしこれから、好きな人が出来たとしても。
「 …じゃぁ、キスしてください。 」
「 何でそうなる。 」
「 私、最初に会ったときにも言いました! 」
最初?そんなこと言われていたら、普通覚えているはずなのに、全く記憶にない。
「 ヤドリギの花言葉、知ってますか? 」
「 あぁ、困難に打ち克つ、だったっけ。 」
「 それもですけど、もうひとつあります。 」
「 え? 」
「 “ 私にキスして ”ですよ。」
そんなのは初耳だ。
花言葉って、いくつも意味があるのか。
「 だから、してください。 」
「 …しょうがないなぁ。 」
彼女の前で、そっと身を屈める。
ぎゅっと目を閉じる彼女に、そっとキスをする。
「 …え?ほっぺ? 」
キョトンとする彼女は、確かに可愛かったけど、好きにはなれない。
「 これで満足?任務終了なら、帰った方がいいんじゃない? 」
「 えっ...あ!そうでした!帰らないと怒られます!! 」
慌ただしく出ていく彼女は、背中の羽根をパタパタと震わせ、
「 さようなら!お元気で!また会えたらいいですね!! 」
早口にそう言って、空へ向かって飛んでいってしまった。
やがて見えなくなった彼女に一言
「 ありがとう。 」
と言ったあと、ふと視線を下げた。
そこには、雨水に少しだけ濡れた1輪の百合の花が咲いていた。
「 なんで…死んじゃったんだよ… 」
そこで泣き崩れたのは、言うまでもない。
弱音なんか言いたくないのに、つい口から零れる言葉は、誰の耳にも届かずに消えた。
悲しみは、これから先も消えないのだろう。
百合に涙が落ちたとき「 泣かないで。 」と言った彼女を思い出した。
キスで涙を止めてくれた、あの時を。
馨はその花に軽くキスをして、涙を拭った。
泣いたあとは、笑うと決めたから。
笑わない僕は、いつしか笑うようになり、
泣かない花は、最期に笑顔で涙を落とした。
笑わない僕の心の中で、
泣かない花は幸せそうに笑うのだった。
Fin
読んでくださりありがとうございます!!
ついに、“ 笑わない僕と泣かない花。 ”完結しました。
本編はこれで終了なのですが、これから少し番外編を書きます。
最初は、笹原 紫季先生のお話です。
書きたいことがまだまだ書ききれないほど、この物語に愛着が湧いてしまったので、もう少しだけお付き合いくださいませ(*´ー`*)
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