一刻千秋-祈りのユートピア-
・漆・一刻千秋
あったかい光と音に包まれたキレイなお城。
静かなのに、心地よくてまるで「アナタは此処にいていいんだよ。」って言われてるよう。
─── わんっ!!
遠くから1匹の犬が走り寄ってきた。
長くてサラサラしてて、でもふわふわしてる尻尾を振って、愛嬌を振りまいている。
可愛いなぁ。ねぇ、触ってもいい?
─── わんっ!!!!
さっきよりも元気に返事をしてくれる犬の頭に手をおいて、なでなでしてあげた。
キミも、地上に未練があるの?
犬は答えなかった。代わりに私の隣に座ってくれた。
私も隣に座って、犬をぎゅっと抱きしめた。
あったかい。なんだかこのまま眠れそうだった。私はその波にのまれて静かに目を閉じた。
「 着きましたよ!ここに百合さんがいます! 」
10分…いや、もっとかかったのだろうか。
少女に案内されて来た場所は、お城の最上階。
階段を登りきって、最初に目にしたのは「とてつもなく美しい絵画」だった。
ひとりの女性が色とりどりの花を抱え、目を瞑っていた。見事な金髪に白くて滑らかな肌、シルクで出来たような布に身を包んで座っている女性の絵が、表せないほど大きかった。
「 この方が今の女王様。つまり、神様です。 」
ということは、此処は神様のお城?
「 そういうことです。 」
少し進むと、広くて太陽の光が1番差し込む場所があった。
そこに、1匹の犬と一緒に眠る百合がいた。
その姿は死んだ時のようで怖かった。でも、ゆっくり近づくと、彼女の小さい寝息が聞こえてホッとした。
「 ゆり、今までありがとう。」
そっと耳元で囁いた。此処で初めて声を出した。(声を出さなくても天使には心の声が全て聞こえていたのだ。)
彼女はゆっくりと起き上がった。
眠そうに目を擦りながら、小さく欠伸をする。
「 ゆり、僕のことわかる? 」
「 …え、もしかして、馨...くん……? 」
彼女は目を見開いて驚いた。
「 うん。 」
「 ...これ、夢なのかな? 」
「 夢じゃありませんよ! 」
後ろから天使が自慢げに声を張る。彼女は後ろにいた天使に今更気づいたようだった。
「 私は天使です!名前はありません! 」
「 そうなの?じゃぁ、名前を付けてもいい? 」
「 付けてくれるのですか!? 」
「 もちろん! 」
キラキラした瞳を向ける天使に、生きていた時と変わらない笑顔で彼女は言った。
ゆりは少し考えてから、何かを思いついたように顔を上げた。
「 明るくてあったかいから、ひまわりちゃんは? 」
「 ひまわり!!!気に入りました!これからはひまわりと名乗ります!! 」
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねてどこかに走ろうとした。
「 私、女王様に名前をお知らせしてきます! 」
背中にある白い羽でふわっと浮いたかと思うと、窓からどこかに消えてしまった。
「 可愛いね、ひまわりちゃん。 」
独り言のように彼女は呟いた。
「 ...ゆり。 」
その声に振り返る彼女を抱きしめた。
彼女の吐息が近くで聞こえる。
「 え!あ、あの、どうしたの...? 」
突然のことに驚いたのだろう。体がビクッと強ばったのがわかった。
「 ゆり、手紙ありがとう。」
手紙のことは、彼女に最初に言おうと決めていた。
「 ...読んでくれた? 」
「 うん。 」
心臓の音がうるさい。顔も見せられないくらい赤く染まっていた。
言いたいことが沢山あるのに、言葉が出てこない。
「 ……馨くん、好き。 」
不意に耳元で彼女は言った。耳まで赤くなっているのが自分でもわかる。
「 くん、はいらない。 」
「 えっ...か、おる? 」
「 ...うん。」
嬉しかった。これ以上ないくらい嬉しかった。
「 ...僕も、好き。 」
恥ずかしくて恥ずかしくて、顔は見れなかった。
「 ...うん、あのとき、聞こえたよ。」
あの時っていつだろう。好きなんて言葉にしたのは初めてなはずなのに。
「 私が死んじゃったとき、かおるく...かおる、言ったでしょ? 」
「 愛してる、って。」
思い出した。ゆりが小さな声で、でもはっきり愛してると言ってくれた。
聞こえてないと思っていた。もう息はしていなかったから。
「 嬉しかったなぁ。もう少し頑張りたかったんだけど、なんか宙に浮いちゃって、自分が真下にいるの。幽体離脱ってこんな感じなのかなって、ちょっと思ったんだぁ... 」
「 ...聞こえてないんだと思ってた。 」
彼女と向き合って顔をちゃんと見た。
彼女は少し泣いていた。
「 ...かおる、今笑ってる。初めて見た... 」
「 泣いてるゆりをちゃんと見るのも初めてだよ。 」
「 かおる、ありがとう。 」
そう言った彼女が光に包まれた。ふわっと彼女が宙に浮いたとき、彼女が言った。
「 ねぇ、最期にキスして。 」
そっと抱きしめて唇を重ねた。彼女とのキスは2回目。最初に話しかけたあの時は、僕の涙でしょっぱかったけど、最後のキスはゆりの涙の味がした。
「「 またね。 」」
僕たちは、声を揃えて言った。
微笑みながら。
読んでいただけましたでしょうか?
今回は2人のお別れのお話です( ;´꒳`;)
次のお話はエピローグになります。
ここまで書けてとても心がるんるんです!
最後まで読んでいただけると嬉しいです\( ˙-˙ )/♥︎
感想や投票、評価などいつでも受け付けてます!
待ってます!(●´ϖ`●)ノ
また、ほかの小説も同時進行で書いてます(๑ ˙˘˙)/☪︎
よろしければ、どうぞ!