消える本たち
私がそれに気がついたのは、アルバイト先の図書館の紛失目録を作っているときだった。
もっとも、紛失した本と言っているけど、今の時代、管理ミスにより行方不明になる本はほとんどなく、大半の本は図書館から盗まれたのだろう。
紛失したものは買い足すことが出来れば一番良いんだけど、古い本を再び入手するのは意外と難しい。
100万冊売れるようなベストセラー小説なら簡単なんだけど、社会学系の本となると出版数自身が少ないので実質不可能だと言って良い。
そのため、結局別の本を買うことになるだけど。
私が気がついたのは、本館だけではなく、分館でも、同じ本が盗まれていること。
時期はずれているけど、同じ本が盗まれていて、結果的に私の街からその本は消えていた。
よくよく見てみると、不思議なことに、一冊だけではなく、他の本でもどうようなことが起きていた。
人気のあるベストセラー小説ならまだしも、社会系・歴史系・経済系の本を何冊も盗んで、どうするんだろう。
よっぽど、中古の価値がある本なんだろうか。
私は気になり、ネットを調べてみると、確かに盗まれた本は高値で取引されていた。
欲しい本を要望する逆オークションのサイトでは、低下の値段の倍以上の値段が付いていた。
ネットで調べると、さらに別のことが分かった。
盗まれた本は、どうやら特定のイデオロギーの人たちに嫌われている本なのだ。
そして、新しく購入されることになる別の本は、特定のイデオロギーの人たちに支持されている本。
本としては代わりにはなっていても、内容的には、全然代わりになっていないのだ。
私は嫌な予感がした。
他の街で仕事をしている司書友達たちに尋ねてみた・・・一週間後、他の街でも同じようなことが起きているとの返答があった。
誰かが、街の図書館から特定のイデオロギーの本を図書館から盗み出しているのだ。
それだけではなく、ネットで高値を付けて集めている人間が居る。
これらの集められた本は、どうなるのだろうか?
たぶん、燃やされているのではないだろうか。
禁書や貸出禁止と言うことになれば、人々の注目を浴びるだろうけど。
人知れず盗まれ、ネットを通じて集められ、それらの本が社会から消えているとしたら、いったいどれだけの人がそれに気がつくのだろうか。
そして、この様なことはいったいいつ頃から行われているのだろうか。
私はこれ以上考えるのを辞めた。
<はだしのゲン>が松江市教委により貸し出し禁止要請され、実行されているとニューズにインスピレーションを得ました。